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2026年3月23日
KNE株式会社(クリエイション・コア福岡入居)
九州の地元にFA本業の場を作り次世代の人にも事業を承継する拠点を目指す
急速に進化するAIを支えるのが半導体です。半導体製造は、ウエハー上に回路を形成する前工程と、半導体チップを製品として仕上げる後工程に大別されます。後工程はパッケージングや基材製造など多様なプロセスから構成され、独自技術による差別化が可能な領域です。KNE株式会社は、この後工程で求められる微小部品の高速・高精度ハンドリング装置をはじめ、塗布・硬化・表面処理など、各プロセスにおけるFA装置を開発しています。同社の取り組みと今後の展望を伺いました。(2026年2月取材)
インタビュー
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お話
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KNE株式会社
(クリエイション・コア福岡入居)
代表取締役社長 永尾 和英氏
起業、会社のおいたち
会社設立の経緯をお聞かせください
九州の地で育った私は大学の頃から、ロボットを作ることに興味があり、九州松下電器株式会社に就職しました。入社後は、FA(ファクトリーオートメーション)の事業に関わっておりました。その後松下電器グループでの事業統合もあり、パナソニックファクトリーソリューションズ株式会社にて、スマホやPCに入っている電子回路基板に、電子部品を高速かつ正確に実装するための装置である「チップマウンター」という商品の開発に30年ほど携わっておりました。
その後、独立という形でKNE株式会社の前身となる会社を設立しました。私自身、九州というこの土地に対して強いこだわりがあります。多様で優秀な人材が集積している魅力に加えて、韓国や中国、台湾に近接するビジネスロケーションもとても良いです。自分が開発した機械が世界中で使われる、そういう喜びを持てる仕事に没頭できるのが福岡という場所です。「半導体の製造装置を創る会社をこの地に残したい。福岡から世界へ技術を発信する」、そういった想いを持って2016年2月にKNE株式会社を設立しました。
半導体製造の後工程に着目されたのはなぜですか
パナソニックファクトリーソリューションズ株式会社では、世界最速クラスのチップマウンターの開発に携わっていました。そういった機械の技術インフラの経験値というのは誰よりも我々が持っているという自負がありました。一方で、半導体の設計には前工程と後工程があります。前工程は、設計から回路形成に至るまで高度に標準化が進んでいます。世界的メーカーの装置が圧倒的なシェアを占めており、大方の方法論が決まっています。膨大な資金力と実績のあるメーカーでなければ勝負ができません。
これに対して、後工程はパッケージングや実装など、製品の最終性能を左右する重要な工程でありながら、前工程ほど固定化されていない部分も多いです。世の中からはなかなか見えづらい分野ではあるけれども、創業間もない企業であっても参入できる余地があり、面白そうだなと思いました。そこに、自分たちが持っている高速ハンドリングの技術を応用できたら、新しい価値を生み出せるのではないか。そうした想いから開発に着手したのが、当社の電子部品移載装置、ハンドラーです。
事業の展開と現在
御社の技術を教えてください
当社では、半導体後工程向けに複数の装置を開発しております。具体的には、絶縁体液剤(レジスト)を高速かつ高精度に全面塗布する装置、真空環境下でUV粘着剤を確実に硬化させる真空UV硬化装置、接合阻害物を除去する真空小型プラズマクリーナーなどがあります。メインとなる製品は、高速・高精度ハンドラー装置「BITA1」「BITA2」「BITA2K」です。現在はさらに、高速高精度ダイボンダー「KDB01」の開発にも取り組んでおります。私たちは、半導体の後工程は大きく二つの領域に分けられると考えています。
一つは、電子部品を扱う工程です。MLCC(積層セラミックコンデンサ)に代表される電子部品は年々小型化が進み、0.1mm以下という、人の目では粉のようにしか見えないサイズの微小チップも増えています。こうした微小部品を効率良く後工程で処理するためには、高速かつ高精度で整列させる技術が不可欠です。当社は、ばらばらに配置された微小部品を高速で高精度に整列させる高速ハンドラーを開発しました。もう一つは、シリコンICチップの後工程です。ウエハーから切り出されたダイ(半導体チップ)を移載する際、従来はウエハー裏面からピンで突き上げ、上部ノズルで1対1に吸着する方式が一般的でした。しかしこの方法では、突き上げ時にクラック(微細なひび割れ)が生じたり、ダイシングシート(ウエハーを切断する際に半導体チップを保持するための粘着フィルム)の粘着膜がチップ側に転写される「糊残り」といった品質問題が発生するということがありました。
当社が開発した「剣山」技術は、多数の極細ピンでダイ全面を支えながら一括剥離を可能にする方式です。局所的な応力集中を避けることで、クラック発生を抑制できます。さらに、この剣山方式をハンドラーと組み合わせることで、ウエハー上のダイ(半導体チップ)を一括で剥離し、高速・高精度に移載・整列させるダイピッカー装置を開発しました。
なぜ、このような技術を開発できたのでしょうか
一つひとつの工程に用いられている技術を紐解いていくと、決して特別に難解な技術を使っているわけではありません。それぞれの技術をどのように組み合わせるかという設計思想です。物理現象や原理原則の範囲の中で、「これ以上は難しいが、ここまではできる」という限界に近い領域を見極め、その水準を積み重ねていく、そうした積み重ねの結果が当社の技術です。その基盤となっているのが、長年培ってきた高速ハンドリング技術と豊富な経験値です。お客さまから「こういうものが欲しい」という要望をいただいた際には、自分たちの引き出しの中にある技術を組み合わせ、最適な形で提案していきます。多様な技術に関心を持ち、それらを統合しながら設計へ落とし込んでいく。そのプロセスを経て生まれたのが、現在の製品です。
高速かつ高精度に対象物を動かす技術経験値はどこにも負けないものを自分たちは持っている、という自負があります。その強みを最大限に生かした結果が、当社の装置開発につながっています。目的のために一つひとつの技術を集積させてブラッシュアップしていく、そしてお客さまからの要求に応える、それがエンジニアリングの喜びだと考えています。
そしてこれから
今後の展開について教えてください
当社はこれまで培ってきた高速・高精度ハンドリング技術を武器に、まずはパワーデバイスメーカーへの導入を図ってきました。現在は、急速に拡大する人工知能(AI)市場への参入を構想しています。半導体製造の後工程には、ウエハーから切り出されたダイ(半導体チップ)を基板へ移載する工程があります。この装置がダイボンダーです。半導体の組立工程としてチップレットや3D実装があり、これを実現するプロセスとして、C4プロセスとTCプロセス(Thermal Compression)と呼ばれる二つの方式が主流となりつつあり、チップを裏返して、はんだバンプで基板に直接接続します。数ミクロン単位の位置精度が求められるため、移載速度はどうしても制約を受けます。私たちは、ここに高速・高精度移載技術を融合させることで、新たな製品を投入できるのではないかと考え、開発を進めています。
開発にあたっては、お客さまと話し合いを繰り返していく中で、どういうことに困っていて、どういうものが欲しいかというニーズを理解し、その要求に応えるために、自分たちの技術を組み合わせて提案を行っています。協議と試作を重ねながら装置をブラッシュアップしていき、実機による評価を通じて市場性を検証していくプロセスを積み上げています。もっとも、独自技術を形にしたからといって、ただちに市場に浸透するわけではありません。現在は実証と評価を重ねている段階で、その成果がリピート注文につながるかどうかが、今後の成長を左右する重要な局面となっています。
半導体市場は極めて競争が激しく、世界中に強力なメーカーがしのぎを削っています。例えるなら、オリンピックの100メートル走でメダルを争うような厳しい世界です。その中で戦い続ける覚悟が求められます。それでも私は、福岡という地で半導体製造装置メーカーを根付かせたいと考えています。地元の若者が大学を卒業し、エンジニアとしてものづくりに挑み、自らが開発した装置を世界へ届ける。そうした環境をこの地に残したい。その想いを胸に、今後も挑戦を続けていきます。
インキュベーションの利用
入居のきっかけ、入居してよかったこと
本インキュベーション施設は、自分たちが事業に集中できる環境が整っている点がすごく良いと思います。最初に事業を始めようと考えた時に、大きな設備投資を必要とせず、必要な共用施設も充実しているので、余計なことを考えずに開発に専念できる点は大きな魅力です。入居されている他の企業の人とも仲良くさせてもらっております。プライベートで釣った魚を持ってきてくれるような個人的なつながりから、向かいの部屋の入居企業からシリコンウエハーを仕入れるといった実務的な協力まで、さまざまな形でお付き合いさせてもらっています。大学の研究室とは違う、社会的な意味での「昔の母屋」に近い感覚があり、とても良い環境です。
今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ
大きな設備投資を必要とせずに事業をスタートさせられる点では、インキュベーション施設を利用するのは非常に面白いと思います。事業を成功させるにはチャレンジが欠かせません。もちろん事業環境の影響や、さらに言えば運の要素もあります。成功と失敗の両方を常に対比させて事業を進めていく必要があります。そうした中で、インキュベーション施設に入居して取り組む方が、外で単独で挑戦するよりもやりやすさがあると思います。
会社情報
会社名 |
|
|---|---|
代表取締役社長 |
永尾 和英 |
所在地 |
福岡県福岡市博多区店屋町6-17ランダムスクウェアⅡ5階 |
事業概要 |
半導体製造装置の開発、製造、販売、サービス |
会社略歴
2016年2月 |
KNE株式会社設立 |
|---|---|
2018年9月 |
クリエイション・コア福岡へ技術本部展開 |
2020年4月 |
電子部品移載機の販売開始 |
2020年9月 |
高速塗布装置の販売開始 |
2023年5月 |
剣山方式ウエハーチップ移載機の販売開始 |
担当マネージャーからのコメント
永尾社長は常に他者ができない新たな技術を探求し、一方で社員の幸せを第一に考える人間味あふれる経営者です。社名KNEに込めた「Kyushu Next Engineering」 には九州の地に根を下ろし、九州から世界へ技術を発信するという強い想いがあり、グローバル市場へ最高レベルの技術を発信し続ける成長性の高い企業として評価されています。同社は極微細部品の高速ハンドリングや、高精度な電子材料塗布など、先端製造現場の課題に直接応える独自技術と、企画・開発・製造・販売まで一貫して対応できる開発体制が大きな強みです。
急速に進化・成長する半導体業界において、最先端製造現場の課題に寄り添い解決に妥協を許さない同社の半導体後工程の製造装置は、今後ますます無くてはならない存在となるでしょう。近い将来、KNE社が世界へ大きく羽ばたく姿が想像できます。私たちはこれからも同社の事業成長のため、強力なサポートを続けていきたいと思っています。