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2023年3月31日
株式会社VC Cell Therapy

先端医療から生活支援まで眼科領域の課題にトータルで対応する神戸アイセンターで細胞治療開発を目指す理研ベンチャー

VC CELL THERAPY

2006年の発表以来、注目を集めるiPS細胞(人工多能性幹細胞)。幹細胞による網膜細胞の再生研究に取り組み、世界で初めてiPS細胞由来の細胞シートを移植した研究グループのリーダーである髙橋政代氏は、現在、神戸健康産業開発センター(HI-DEC)に入居する株式会社VC Cell Therapyの代表取締役として細胞治療開発を進めています。

髙橋氏に神戸アイセンター開設のきっかけや企業設立の背景と事業展開について伺いました。(2023年1月取材)

インタビュー

お話
株式会社VC Cell Therapy(神戸健康産業開発センター(HI-DEC)に入居)
代表取締役 髙橋 政代 氏 ((株)ビジョンケア、(株)VC Gene Therapy代表と兼務)
取締役 堀 清次 氏 (メール取材)

起業、会社のおいたち

VC Cell Therapy社と、同社設立の契機となった神戸アイセンターについて教えてください

髙橋 代表取締役

VC Cell Therapyはビジョンケアの100%子会社で、再生医療、特にiPS細胞由来の網膜細胞移植の研究開発を進め、一般治療として事業化するための会社として2021年に設立しました。

神戸アイセンターは、眼科領域の基礎研究、臨床応用、治療、リハビリ・ロービジョン支援まで、眼の問題全般にワンストップで対応する全国初の施設で、理化学研究所、神戸市立神戸アイセンター病院、公益社団法人NEXT VISION、そして株式会社ビジョンケアの4つの組織が連携して誕生しました。

公益社団法人NEXT VISIONは、ロービジョンケアやリハビリから社会実証まで一気通貫で対応する、病院外での患者ケアの役割をもちます。そして株式会社ビジョンケアは、研究やその成果の社会実装を目的とするソーシャルベンチャーで、全体のマネジメントも担っています。私は2019年にビジョンケアの代表取締役に就任し、子会社であるVC Cell Therapyと網膜変性疾患の遺伝子治療の研究を行うVC Gene Therapyの代表取締役も兼任しています。

神戸アイセンターのような研究、医療と福祉の連携は夢だったそうですね

はい。米国ソーク研究所で網膜の再生医療につながる神経幹細胞を研究して帰国し、京大病院眼科で難病外来を担当したとき、治療法がない病気で失明しそうな患者さん、失明した患者さんをたくさん診察して来ました。残念ながら治療法がなくなった患者さんは医療の手を離れることになり、仕事や家事、子育てはどうしていらっしゃるのだろうと生活の不便を想像しつつも、自ずと福祉につながっているものと10年間ほど勝手に思っていました。ところが、「失明して何年間も家からほとんど出ていなくて最近やっと福祉サービスを知って手続きに行きました」「生活訓練は行きにくいので行っていません」などの声を聞いて、本当に申し訳なく思いました。こちらから橋渡ししないと自治体が動くことはなく、自治体につないだとしても、すべての患者さんが手続きするとは限りません。一方で、患者さんはそれぞれに工夫して生活されていることを知り、これらは情報共有できないものかとも思いました。眼科病院と福祉、生活がつながった場を作りたい。ただ、病院だけではそれは難しい。

その後、臨床医から再生医療の研究に戻ったことで、医療と福祉を一体化することに加え、全く新しい分野の治療を実現すること、未来の新しい医療を作るための事業を行うことへと夢は広がっていったのです。

2006年に神戸の理化学研究所(理研)に移り、神戸医療産業都市構想と神戸市の驚くほど柔軟で前向きなサポートを理解するにつれ、ここなら理想の総合拠点ができるのではないかと考え、実現に向けて動き始めました。

現在もビジョンケアの取締役である奥田氏の強力なプロジェクトマネジメント力も得て設立した神戸アイセンターは、眼に特化した全国初の公立病院、研究機関・企業・公益社団法人を包括するユニークな施設となりました。2階メインフロアに医療と福祉の溝を埋めるためのビジョンパークがあり、患者さんは受付や会計の合間でもケアや相談に立ち寄ることができます。アイセンターには患者さんの声、アカデミアや企業からのいろんな情報、シーズが集まって来ます。ニーズを見ながらシーズを拾えるエコシステムができています。

ビジョンケアグループからみた現在の神戸アイセンター構想(令和4年11月)(神戸アイセンター5周年記念誌より引用)

事業の展開と現在

VC Cell Therapy の事業はどのように進んでいますか

ビジョンケアグループのミッション「10年ですべての網膜外層疾患に治療法を」の実現を目指し、iPS細胞由来の網膜細胞移植の製造方法、輸送・移植、臨床プロトコルの最適化の研究を進めています。

2022年に先端医療センター内に設置した細胞培養加工施設 Facility for iPS derived retinal stem cell therapy(FiRst)は、PMDA許可(特定細胞加工物製造許可証、施設番号: FA5220002)を取得できました。現在、稼働に向けて準備中です。ここでは同種iPS細胞由来と自家iPS細胞由来の網膜細胞を含め、細胞加工物の製造、保管、輸送などの受託業務が可能です。神戸健康産業開発センター(HI-DEC)内には品質管理の施設を設置しています。

2014年にはiPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞シート(自家)を患者さんの網膜下に移植しました。iPS細胞を患者さんに導入する臨床研究は世界で初めてでしたが、安全性を確認できました。2021年に開始した視細胞移植の臨床研究もまもなく終わります。また、移植する細胞の形態も細胞シート、細胞が入った懸濁液、細胞が連なった紐状と臨床研究を重ね、昨秋に開始した紐状のiPS細胞由来網膜色素上皮細胞移植の経過を見ているところです。

今回の臨床研究では細胞調製作業の一部に汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」を使用しました。「まほろ」は細胞培養における熟練者の手技や判断といった匠の技をAIに取り込み、ヒト型ロボットに継承させたもので、ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社と共同開発しています。今後もFiRst内で「まほろ」を進化させていく予定です。

医師、研究者であることに加え、さらに株式会社の代表取締役になったのはどんな理由からでしょうか

京都大学病院での診療、大学病院、理化学研究所での再生医療の研究に取り組む中で、公的機関の人員やお金の流れなどの縛りを経験して来たからです。

例えば、大学病院では新しいことをしようとすると他科のパイを取らないとできませんが、総合病院では内科外科など全身が中心で、眼科の自由度は下がります。一方で、理研といえども、研究の出口としての臨床応用を自律的に進めることは難しい。さらにここ神戸市で理研と市民病院が連携できたところで、社会実装を進めるには公的機関としての制約を超えていく必要がありました。それで私自身が治療開発を行う会社を設立しようと決めたのです。

医師、研究者が起業する強みはどんな点でしょうか

最先端科学の発見や革新的な技術で社会問題に取り組むディープテックのスタートアップはサイエンスを深く知っていないと成功しません。ビジョンケアグループは20年かけて細胞を使う再生医療を研究してきた土台の上に成り立っています。

一方で、私たちは患者さんの希望する治療、臨床現場といった出口の側からも再生医療を見ています。スタートアップが陥ると言われる死の谷や魔の川、ダーウィンの海をどうすれば乗り越えられるのか、基礎研究から見ているだけだと谷や川や海で溺れてしまいます。例えば、眼科領域では患者数ではなくて、手術数が律速で、全国での手術の実施数を把握してないと事業規模を読み違えます。実際、企業の代表取締役となってビジネスを3年間勉強し、私の頭はすっかりビジネスパーソンになりました。

そして、実際に臨床研究を実施して、谷や川や海を渡っていく私たちの姿を見た人たちからiPS細胞以外の分野のシーズに関しても声をかけていただけるようになりました。今後、全く違う新事業を展開することができそうです。

そして、これから

今後、取り組みたい課題があればお聞かせください

再生医療の研究開発に関する日本の法律は世界最先端です。海外に比べると日本の再生医療は医師が主導してベンチャー企業を興し、研究開発しているのも強みです。ただ、どうしてもコストが高くなるため、皆保険制度の中では実装が難しい。皆保険制度は素晴らしいものですが、再生医療のような高額な医療を入れると破綻します。

悩ましいこの課題は、民間の医療保険における先進医療の仕組みを広げることで解決できないか、と2020年に思いつきました。学会にはエビデンスのある再生医療であることを認証してもらう、保険会社には再生医療特約を設定してもらう、高度な医療を行う病院はエビデンスのある再生医療を公的保険外の診療として実施して利益を得て余裕を持ち、研究と教育にも力を入れるという形です。これを10年くらいの間に実現しようと、官庁や政治家、保険業界と話しているところです。患者さんにとって良いことであればルールを変える、ルールを変えられなければ変えないでも済むようビジネスでの解決を考えたい。ルールを守るのが目的ではありませんから。

米国など海外での治験も準備しています。また、網膜の再生医療に関しては海外からのお問い合わせも多く、ビジョンケアやVC Cell Therapyの英語のホームページを準備中です。2025年の大阪万博までにはオンライン診療も整え、海外からの患者さんを受け入れられる体制を構築したいです。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ、入居して良かったこと

(回答:取締役 堀 清次 氏)

入居にはどんなきっかけがあったのでしょうか

自社細胞加工施設の検査室として適当なラボを探しており、神戸医療産業都市推進機構に相談したところ、ご紹介いただきました。

インキュベーション施設に入居して良かったと感じる出来事はありますか

設備投資を必要最小限に抑えることで、治療開発に向けた投資に重点を置くことができました。また、インキュベーション施設の会議室が活用できる点も大変ありがたいです。

最後に、今後インキュベーション施設を利用する方へ、メッセージをお願いします。

少しわがままかな、と思ってもIM室にいろいろとご相談されることをおすすめします。

会社情報

会社名
株式会社VC Cell Therapy 
代表取締役
髙橋 政代
所在地
兵庫県神戸市中央区港島南町二丁目1番8
神戸アイセンター5階
事業概要
再生医療等に関する技術の研究及び開発、物品の製造、販売等

会社略歴

2021年3月 株式会社VC Cell Therapy設立
理化学研究所より「理研ベンチャー」に認定
2021年12月 HI-DECに入居
2022年2月 汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」を用いた網膜色素上皮不全症に対する臨床研究に神戸アイセンター病院の協力機関として参画
2022年10月 再生医療等安全性確保法に基づく製造施設として「特定細胞加工物製造許可証」を取得

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

今回は、HI-DECに入居されている株式会社VC Cell Therapy(株式会社ビジョンケアの100%子会社)の代表取締役髙橋政代先生にインタビューさせていただきました。

ご承知の通り、髙橋先生は自己由来のiPS細胞を患者へ移植する臨床研究を世界で初めて実施した著名な研究者であり、また株式会社ビジョンケアの代表取締役社長という経営者でもあります。ざっくばらんな雰囲気の中、神戸アイセンターの誕生からはじまり、株式会社VC Cell Therapyの事業内容、更には医師・研究者が起業する強みや、現在の日本の医療保障制度における様々な規制や課題認識と、これらを踏まえた上での日本のヘルスケアのあるべき方向性についての貴重なお話は大変興味深いものでした。

神戸健康産業開発センター(HI-DEC)
チーフインキュベーションマネージャー 栗原 道明

インキュベーション施設

神戸健康産業開発センター

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