全国のインキュベーション施設
2023年12月14日
立命館大学BKCインキュベータ
立命館大学を中心にした大学発スタートアップや地域のテック系スタートアップ企業の創業と成長を支援するインキュベータ
滋賀県の南部エリアに文化・教育・研究・福祉などの施設を集約した「びわこ文化公園都市ゾーン」があり、その中に立命館大学びわこ・くさつ・キャンパス(BKC)がある。立命館大学BKCインキュベータは、大学キャンパス内にあり、大学発スタートアップや地域のテック系スタートアップが多く入居するインキュベーション施設である。
インキュベータ概要
大学連携型の起業家育成施設として設置
立命館大学BKCインキュベータは、中小企業基盤整備機構(中小機構)が滋賀県および草津市から要請を受け、2004年6月に立命館大学びわこ・くさつキャンパス内に開設した大学連携型起業家育成施設(インキュベータ)である。
開設以来19年間で累計97の企業が入居し起業にチャレンジ、累計77の企業が退去・卒業し、地域社会の産業発展に貢献している。代表的な大学発スタートアップの卒業企業は、Kyoto Roboticsや人機一体である。
施設の特徴
立命館大学BKCキャンパスには理工学部、情報理工学部、生命科学部などの7学部があり、滋賀県内では最大規模の大学である。当施設は大学キャンパス内にあり、大学との共同研究や産学連携を行いやすく、大学図書館や生協やレストランなど学内施設も使用できる。
施設は、共用の応接室・会議室と(1)オフィス、(2)試作開発室、(3)実験・研究室の3タイプのレンタルオフィスがある。滋賀県内では、実験・研究室タイプ(ウェットラボ)のニーズが高く、2023年に8のオフィスの居室を実験・研究室に改修した。当施設は、滋賀県内で研究開発型スタートアップ企業創出のための重要な施設になっている。
特徴的な支援活動
立命館大学・滋賀県・草津市と連携し、オール滋賀による創業支援
創業前のプレインキュベーションから始まり、インキュベーション~ポストインキュベーションと創業全般にわたり、立命館大学・草津市・滋賀県と連携して支援している。プレインキュベーションにおいては、大学の技術シーズの社会実装のための創業相談や、地域課題解決に向けた大学シーズとのマッチング支援などをしている。また、施設退去時のポストインキュベーションは、滋賀県・草津市と連携して退去先の立地支援をしている。
インキュベーションのソフト支援
インキュベーションマネージャー(IM)が伴走することにより、資金調達・技術支援・販路開拓などの支援をしている。また、支援の質を高めるために、中小機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、滋賀県産業支援プラザ(県財団)のスタートアップ支援を有効活用している。
中小機構が運営しているスタートアップアクセラレーションプログラム「FASTAR」には、第7期にAir Business Club、第8期にアプデエナジー、第9期にPatentixと3期連続して採択、事業計画をブラッシュアップするとともに資金調達やパートナー企業との連携が始まっている。また、資金調達では日本政策金融公庫への融資相談、NEDOの補助金・助成金などの申請支援、立命館大学との産学連携支援を実施している。
主な入居企業の概要
入居企業のうち、ディープテック系スタートアップを中心に紹介する。
- 株式会社tiwaki
tiwakiは、画像認識エッジAIのコアアルゴリズムの開発・社会実装をしている会社である。画像認識AIは、スマートフォンなどに搭載されている「エッジAI」とクラウドに送られる大量のデータを高速処理する「クラウドAI」に大別される。エッジAIはクラウドAIと比較して価格が安く、クラウドが必要ないため、プライバシー面の問題がないという特徴がある。tiwakiのエッジAIは「コンパクトで高速」という特徴があり、世界トップクラスの技術力を誇る。物流、介護、防犯、MaaS(Mobility as a Service)で使われており、国内外のパートナ企業との技術提携を強化している。
パソコン業界の「Intel Inside」のように、世界中の監視カメラにtiwakiのアルゴリズムが入っている「tiwaki Inside」が実現する世界を目指している。
- Patentix株式会社
Patentixは、パワー半導体向けの原材料である二酸化ゲルマニウム(GeO2)の開発・社会実装をしている会社である。半導体には様々な種類があるが、パワー半導体は電力の制御や変換を担う電子部品に使われる。電気自動車、データセンター、太陽光発電、電力系統など、電力変換を必要とする幅広い場所で利用され、需要が急速に高まっている。
GeO2は、立命館大学の金子健太郎教授 RARAフェロー(Patentix取締役CTO)が開発した材料で、半導体の低損失化・小型化・高耐圧化といった高性能化を実現する。発電所から電気が伝送される過程では多くの電力変換があり、大きな電力ロスが発生している。低損失なパワー半導体が実現できれば電力変換のロスが少なくなり、脱炭素化(CO2の削減)にも大きく貢献できる。
- 株式会社ベホマル
ベホマルは、バイオマスCO2吸収材の開発・社会実装をしている会社である。CO2吸収材は樹脂用添加剤としてプラスチック等に混ぜて使うことにより、身近なプラスチック製品を大気中からのCO2吸収プラスチック「DACプラ(Direct Air Capture-Plastic)」製品に変えることができる夢のような材料である。
目指すのは、DACプラを使った製品がありとあらゆるところで大気中からCO2を回収し、それらを家庭・店舗・企業内に持ち込み、回収装置でCO2ガスを回収利用する社会である。製品は繰り返し使えることから、繰り返して集めたCO2を様々な形で再利用できる。生活や社会活動の中で、少しずつでも大気中からCO2回収すれば、膨大な量になる。このようなDACプラを使ってCO2の循環型社会の実現にチャレンジしている企業である。
これからのインキュベータ
現在は、IM室の5名のスタッフ(立命館大学・草津市・中小機構)で入居者支援を行っている。
立命館大学は、経済産業省令和4年度「地域の中核大学等のインキュベーション・産学融合拠点の整備」に採択され、新たに研究成果の社会実装を支援する施設を設立する。新施設の設立により加速度的に研究成果スタートアップが輩出されることが期待されており、中小機構も立ち上げに全面的に協力し、持続的にスタートアップ企業が生まれるように貢献していく。さらに、卒業企業が地域社会に定着し、雇用拡大や産業発展に貢献するような流れ(スタートアップエコシステム)を作っていく。