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2023年1月20日
株式会社グランドライン

木造建築のメンテナンスで新規工法を開発し国宝や重要文化財も施工、FCでの事業拡大を目指す

株式会社グランドライン

立命館大学BKCインキュベータに入居する株式会社グランドラインは、清掃業からスタートして、神社仏閣や旅館など古い木造建築のメンテナンス事業に特化することで業績を伸ばし、フランチャイズ事業を展開しています。「営業もプレゼンもわからない職人だった」と自らを語る代表取締役の早川悟氏に同社の起業の経緯や事業展開について伺います。(2022年8月取材)

インタビュー

お話
株式会社グランドライン(立命館大学BKCインキュベータ2022年11月卒業)
代表取締役 早川 悟 氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください

早川 代表取締役

高校を卒業後、さまざまな職業を経て、1995年に高所ビルの窓ガラス清掃の会社に入りました。翌年、独立して個人として清掃を請け負うようになり、拠点を大阪市内から滋賀県大津市に移しました。2007年にとあるスーパー銭湯から年間を通じての施設衛生管理を委託されたことを機に総合清掃業として株式会社グランドラインを設立しました。

清掃業は、業界の慣習から1平米あたりの単価で料金を計算します。仕事が増えれば雇用が必要になり、コストもかかります。強豪ひしめく業界で生き残るには独自性が必要でした。そこで、「1つの分野をとことん追求する事業を展開しよう」と思い至り、着目したのが木造建築です。滋賀や隣の京都には木造の神社仏閣が多いのですが、社寺仏閣の木材を専門的にメンテナンスする企業は少なかったのです。古い木造建築のメンテナンスは建築業界の「掃除」「リフォーム」「建て直し」の3分野のどれにも当てはまらない隙間産業でした。そこで清掃から木造建築のメンテナンスに大きく舵を切りました。

その木造建築のメンテナンスが文化財の修復につながっていきますね。その技術はどのように開発し、身につけられたのでしょうか

木造建築のメンテナンスは、「灰汁洗い」と呼ばれる、苛性ソーダなどで濡らして汚れを取り、酸性薬品で中和させる湿式工法が主流です。

一方で、湿式工法では汚れが思うように取れず、木が傷むトラブルも起こります。そこで、2012年に全く逆の乾式工法を開発しようと構想を始めました。現場で不要になった古木や端材をもらい受け、どうすれば傷めずに洗浄できるのか、木肌を顕微鏡で確認しながら実験を繰り返しました。

エアー鉋で使用する植物性の粉体(粗目、細目)

研究が煮詰まったときに、ダイヤモンドはダイヤモンドで磨く、墓石の銘は砂で彫る、油性ペンの汚れは石油成分で落とすと気づき、それならば、木は木の粉で磨けるのではないかと思いついたのです。

おがくずや種子殻などを精製した植物性粉体、粉体を吹き付ける噴射機やそのノズルを改良しました。そうして生まれたのが「特許取得のエアー鉋(かんな)」です。エアー鉋は金属や石材、樹脂などにも対応できます。ただ、当社は、建物を丁寧に観察し、メンテナンスや修復の方針を決めることを最も大切にしているため、修復時、必ずエアー鉋を使うわけではありません。「洗う」という言わば内科的治療と「削る」というエアー鉋の外科的治療をどう組み合わせるか、また、床下にシロアリの対策は必要かといった判断には、建物を総合的に診断することが不可欠なのです。

清掃でも建替えでもなく劣化診断と補修から成る新しい維持管理に、建物を「常に若々しく」という意味を込めて「常若(とこわか)施工」と名付け商標登録を取りました。

事業の展開と現在

神社仏閣となるとハードルが高そうですが、最初のお仕事とその後の実績をお聞かせください。

最初の仕事は、和歌山県の高野山別格本山 總持院です。知人からの紹介で、宿坊の入り口をきれいにしてほしいという依頼でした。エアー鉋を使った初めての施工です。

それから、国宝や国の重要文化財の修復も手がけるようになり、これまでに京都の二条城の東大手門の鉄錆除去、知恩院・御影堂の金箔洗浄工事、岐阜県の朝倉山真禅院の塗膜剥離などを受託しました。

施工例(左:施行前、右:施工後)

どの現場でも、職人さんたちの当時の最先端の技術の高さに驚かされ、昔の大工、鍛冶屋、瓦屋の息づかい、魂を感じます。間近で見る建物の迫力に震えることもありますが、「私たちも最先端の知識と技術で応えますよ」と心の中で会話しながらメンテナンスに取り組みます。

仕事を受けるのは毎回怖いですね。私たちは伝統ある建築物を長持ちさせることが使命ですので、失敗しないように慎重に事を運びます。まず依頼主と一緒に細かく現場の全体を見て、どのようなメンテナンスが必要かを確認します。そして、メンテナンスの方針を決め、依頼主を含めた関係者の前で同じ材質や目立たないところで何度も試行し、全員が承諾した場合にのみ実施します。

矢印部から右側が施工済、作業中の左側が施行前

御社は展示会に出たことがなく、いわゆる宣伝広告をされていません。営業はどのようにされていますか

私自身は職人で、営業の方法も価格設定もわかりません。そこで、私は滋賀銀行のビジネスマッチングモデルを利用しました。お付き合いする銀行は滋賀銀行だけに絞り、私が受注したい将来の顧客、あるいは実際の依頼主の経営状況も審査してもらうのです。うまく繋がるとWin-Winです。

もう一つ、力になったのが、税理士、公認会計士のネットワークです。常若施工であれば建具を入れ替えずにメンテナンスで済む、経費節減や節税になるといったメリットを広めてもらい、実際、例えば引き戸1枚がきれいになるのをお見せすることで新しい受注先を見つけることができました。

フランチャイズ制度を設けられたそうですね

おかげさまで仕事が増え、当社だけでは引き受けられなくなりそうだと考えていたときに、私のSNSの投稿を見た方々がエアー鉋を使いたい、弟子入りしたいと訪ねて来られるようになりました。

来られた方には、「私たちの仕事は足場を登るところから始まるし、何より依頼物件の評価が大事であり、道具箱を開けるとエアー鉋があるのであって、エアー鉋屋さんではない」と話します。それでもどうしてもやりたいという人たちに少しずつ現場を経験してもらうところから始め、フランチャイズ制度を設けました。

営業面もサポートしています。フランチャイジーには、まずエアー鉋のパンフレットで営業して顧客を見つけてもらい、補助金や借り入れについても指南して、助走を付けてから開店してもらいます。

私一人でできることには限界があり、みんなで文化財を守らないといけないですし、何より、私自身がさらに上の技術を目指すには今の技術を出していかないとと思っています。フランチャイジーには地元での信用づくりを大事にしてもらいたいので、施工時には私も応援に行きます。

そして、これから

今後、どのように会社を成長させていかれますか。取り組みたい課題があればお聞かせください

現在フランチャイズ契約をしている国内35社と韓国の企業とともに、常若施工の技術集団を作るのが夢です。

とはいえ、技術の継承は難しいことを実感してもいます。当社やエアー鉋の信用を失わないよう、フランチャイジーにどう技術を伝えるかが課題です。それを乗り越えて、エアー鉋が常若施工の当たり前の道具として世界的に認知されるように育てていきたいと考えています。

また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックでストップした、エアー鉋と洗浄剤の世界進出を再開するのも目標です。国内では、旅館のメンテナンスの需要が落ち込みましたが、新しい特許申請などに注力しました。その成果を活かしたいです。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ、入居して良かったこと

「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選定されました

2014年に技術開発に向けた資金調達のために日本政策金融公庫に行ったとき、私が事務所を探していると知った担当者から「立命館大学にベンチャー企業向けの事務所がある」と紹介されました。しかし、大学なんて敷居が高すぎると感じたため、最初は断りました。その後、面談だけでも、と強く薦められ、断るつもりでIM室を訪ねたのですが、温かい雰囲気に衝撃を受け、入居を決めました。

IMには「“清掃業”ではなく、“再生事業”と紹介することで単価を上げられる」とアドバイスを受けました。これは「常若施工」というコンセプトを思いつくきっかけにもなりました。

また、特許取得の新事業などで、さまざまな人材を紹介していただいています。2021年には中小企業庁の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」にも推薦をいただき生産性向上部門に選定されました。

「はばたく中小企業・小規模事業者300社」2021 株式会社グランドライン (473KB)

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

起業してから、実績がない中で、開発した製品を売り込むのは厳しいものがありましたが、中小機構のインキュベーション施設に入居することで得られる信用は非常に大きかったです。「立命館大学」という住所が名刺を渡した方との会話が弾むきっかけになったことが何度もあります。私自身、会社の格が上がったように感じましたし、それに釣り合うように成長しようと思いました。

また、IM室の方々に人材や取引先の紹介などのサポートを受けることにより、業務に集中できました。家族のように周りの人が親身に相談を受けてくれるため、安心して外で戦えたのです。仕事に対する充実感も高まって、新しい領域にもチャレンジしやすくなりました。それによって自分が職人からだんだん経営者にシフトしていけたのだと思います。

本当に楽しいことをずっと維持していくには、こういう環境が必要だと思います。 「お帰り」と声をかけてくれるインキュベーション施設では、ベンチャー企業にとって、単に情報を取れるといったことだけではなく、もっと大事なものが得られます。

会社情報

会社名
株式会社グランドライン 
代表取締役
早川 悟
所在地
滋賀県草津市野路東1-1-1
立命館大学BKCインキュベータ内
事業概要
建物衛生管理、建物全般の日常清掃管理、特別清掃、環境美化用品のレンタルなど

会社略歴

1996年 高所窓ガラス清掃専門の早川美研を創業
1999年 総合清掃業を地元滋賀県で開始
2007年 株式会社グランドライン設立
2014年 立命館大学内に研究所兼事務所移転
2015年 「エアー鉋」の商標登録取得
2022年11月 立命館大学BKCインキュベータ卒業

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

株式会社グランドラインは、「エアー鉋(かんな)」という工法で神社仏閣や木造建築物を常に若々しくすることにチャレンジしている企業です。

当施設に入居後に「エアー鉋」工法を開発して、現在、国内35社と韓国企業とのフランチャイズ契約を締結して事業成長されている企業です。早川社長は情熱的&技術探求心旺盛で、関係パートナや地域社会に貢献することを軸に事業展開されており、早川社長の技術力と魅力で事業展開されています。

2022年11月当施設を卒業されましたが、「エアー鉋」工法が幅広く世の中の課題解決に使われ同社が成長されるように、継続して支援・応援していきます。

立命館大学BKCインキュベータ
チーフインキュベーションマネージャー 奥村 義知

インキュベーション施設

立命館大学BKCインキュベータ

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