全国のインキュベーション施設

2024年10月22日
ファーメランタ株式会社
微生物で植物成分を生産、 農業に依存しない次世代型サプライチェーンの構築へ

医療品やサプリメントの原料の多くは、これまで植物から抽出する成分を使用していたことから、農業での収穫量が天候に左右されて安定せず、廃棄量も多いことが環境負荷の原因となっていました。いしかわ大学連携インキュベータに入居するファーメランタは、世界をリードする微生物の改変技術を活用することで、植物と同じ成分の物質の安定的、効率的な生産体系の構築を目指します。その技術の特徴と将来展望について伺いました。(2024年9月取材)
インタビュー
お話 ファーメランタ株式会社 (いしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)入居)
代表取締役 柊﨑 庄吾氏
起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください
学生時代に国際協力のボランティア活動でアフリカのケニアに行ったのですが、そこで多くのマラリア患者がいるという社会課題を目の当たりにしました。当時もマラリアの特効薬はあったのですが植物から抽出した成分を原料にしていたため、ケニアのように農業にあまり向かない地域では十分な供給が難しいという問題がありました。そうした中、微生物発酵によって植物成分と同じ物質を生産する技術が商用化されたことを知り、農業に頼らずに同じ医薬品原料を微生物に作らせる合成生物学に大きな可能性を感じました。
大学を卒業後、しばらく金融機関に勤め、発酵技術を持つ食品業界と関わりを持つことになりましたが、米国に比べてまだ日本では合成生物学を応用した事業が浸透していませんでした。それだったら自分がこの分野で何かできるのではないかと思い、事業を創ることに興味もあったことから起業を決意しました。
事業の強みとなる研究シーズを探す中、農業・食品産業技術総合研究機構の生物系特定産業技術研究支援センターが行う「スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」において、研究者とビジネスパーソンをマッチングする支援がありました。そこで石川県立大学で世界をリードする微生物発酵技術を研究する南博道氏と中川明氏に出会い、この2人と共同で2022年10月に「ファーメランタ」を設立しました。
会社名の由来を教えてください
発酵を意味する英語の「ファーメンテイション」と、植物を意味するラテン語の「プランタ」を組み合わせた造語にしました。発酵技術で植物を置き換える、まさに自分たちがやろうとしていることを具現化する会社名です。
事業の展開と現在
御社の技術は、どのような特徴があるのでしょうか
植物が作る成分は、一般的にアルカロイド、フェノリクス、テルペノイドの3グループに分類されます。アルカロイドは抗がん剤や鎮痛薬などの原料となり、フェノリクスは主に機能性成分、テルペノイドは香料などに使われます。特にアルカロイドは化学構造が複雑であり、微生物に作らせようとすると、物質を段階的に変化させる遺伝子を数十個と多く入れる必要があります。その遺伝子をすべての段階でバランス良く機能を発現させないと目的とする物質にならないことから、技術的にはとても難しいのです。
共同創業者である南氏と中川氏は、その多段階の遺伝子導入・発現技術に着目し、長年の研究の末、世界で初めて微生物である大腸菌にアルカロイドを作らせることに成功しました。この技術を応用すれば、フェノリクスやテルペノイドなど、ほかの植物成分も微生物に作らせることができるようになります。しかも、目的とする物質に合わせた微生物を探索するのではなく、遺伝子操作によって微生物の機能を変えるという従来とは異なる発想のため、多様な物質の生産に対応できます。

その技術が、どのような社会課題を解決するのでしょうか
これまで、医薬品や化粧品、サプリメントは、植物から抽出した成分が多く使われてきましたが、植物栽培では年単位での収穫となる上に天候にも左右され、生産量が不安定です。抽出量もわずかなので、抽出後の大量廃棄も環境負荷の原因となります。これを微生物による生産に置き換えることで、数日単位で効率的、安定的に生産できるようになり、廃棄物も大幅に削減できます。農業のように土地や水を大量に使う必要もなく、使用するエネルギーも圧倒的に少なくなり、環境に優しいサステナブルなサプライチェーンを構築できるというわけです。
事業モデルをどのようにお考えでしょうか
まずは、社内で構築したラボレベルの生産プロセスを活用し、企業から研究開発受託を得ていきます。そこから生産量をスケールアップさせ、ライセンス契約による長期的なロイヤルティ収入につなげていきたいと考えています。この研究開発におけるスケールアップに向けて、生産性を高めることに取り組んでいます。
そしてこれから
今後の展望について、どのようにお考えですか
先ほどのライセンスモデルに加えて、自社で製造し販売する事業モデルの2本立てを目指します。どの物質を製品化するかということが重要であり、植物からの抽出より微生物で作った方が優位性を発揮できるもの、しかも市場規模が大きく、ニーズの高いものにまずは絞りたいと考えています。生産体制もラボレベルから工場レベルに代わるため、その体制の構築を担う人材や資金も必要になってきます。
将来的には、微生物で自在に何でも作れるような世界を作りたいと思っています。目的とする物質の化学構造が分かれば、同じ技術プラットフォームを使うことで植物だけでなく、動物や魚からの抽出物でも天然由来の様々な医療品、化粧品、サプリメントの原料を微生物で作ることが可能です。例えば、化石燃料を使わずにプラスチックを作ることもできます。ただ、実際にビジネスとして成立させるためには、単価が高く、コスト面で大きなマージンが取れる製品を選んでいく必要があります。
中小機構インキュベーションとの関わり
入居のきっかけ、入居してよかったこと
共同創業者である石川県立大学の南博道氏と中川明氏が、大学の教員をしながらインキュベーション施設内のラボを使用していた時期があり、南氏が継続して借り続けていたことから、名義を変更する形で会社設立と同時に入居しました。
大学の設備は共同研究が途切れると継続的には使えないので、インキュベーション施設がなかったら路頭に迷うところでした。人もどんどん増えていく中、活動できる拠点として受け入れてもらえたのでとても助かっています。
今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ
研究開発型のスタートアップにとっては、事業上の差別化要因となる技術開発をいかに満足できる状態で続けられるかということが最も大事なことと言えます。そういう意味でこのインキュベーション施設は居室が十分に広く、賃料の面でも良心的です。スタートアップの活動拠点として第一の選択肢としてぜひ検討してほしいと思います。
会社情報
会社名 |
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代表取締役 |
柊﨑 庄吾 |
所在地 |
石川県野々市市末松3-570 |
事業概要 |
合成生物学による植物希少成分の製造・販売、菌株構築サービス |
会社略歴
2022年10月 |
ファーメランタ株式会社を設立 |
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2023年 5月 |
第三者割当増資により資金調達 |
2023年 9月 |
「週刊東洋経済 2023年9月16日・23日合併特大号」『すごいベンチャー100』に選出 |
2023年10月 |
「石川県産業創出支援機構 スタートアップ創出支援事業」に採択 |
2023年11月 |
「石川県産業創出支援機構 成長戦略ファンド研究開発支援事業」に採択 |
2023年12月 |
「農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3基金)」に採択 |
2023年12月 |
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)」に採択 |
担当マネージャーからのコメント

ファーメランタは、植物から生成するアルカロイドの生産を、大腸菌の遺伝子を組み換えることにより、1年から2週間に短縮することに成功した企業です。約20年にわたる長期間の研究成果が実りました。石川県立大学で研究を継続できたことがその成果につながっています。その後、隣接するいしかわ大学連携インキュベータ(i-BIRD)に入居したことが、スムーズに生産規模を拡大できた要因だと思います。そしてさらなるスケールアップの実証を目的に、石川県立大学内にパイロットプラントを建設するための準備に入っています。
製品を選定する上で、価格と市場規模、難易度、競合の動向などを総合的に考慮しており、戦略も練られていると感じます。同社がIPO(新規株式公開)を果たし、医薬品、サプリメント、化粧品などの原料を安定的に供給できるようになると、業界構造を一変させることになります。ぜひ社会実装に成功してほしいと願っています。