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2025年11月20日
株式会社EX-Fusion

独自のレーザー技術で 「地上に太陽を作る」 エネルギー革命に挑む

EX-Fusionロゴ

核融合発電は、太陽が生成するエネルギーを人工で作り出す「地上に太陽を作る」革新的な技術として期待が高まっています。燃料にレーザーを照射して核融合反応を起こす方式で開発を進めるEX-Fusionが、独自のレーザー制御技術を駆使し人類の歴史を変えるようなエネルギー革命の実現に挑みます。創業者の一人である森 芳孝氏と浜松開発拠点長である我妻一博氏に、その意気込みを伺いました。(2025年10月取材)

インタビュー

  • お話
  • 株式会社EX-Fusion
    (浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)入居)
    取締役ファウンダー 森芳孝氏
    浜松開発拠点拠点長 我妻一博氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください

脱炭素化の流れに沿ってエネルギー問題を解決する旗頭として核融合エネルギーが脚光を浴びていますが、私たちはレーザー方式の核融合技術に注目しました。当時、日本ではレーザー核融合技術を進める大学拠点として、大阪大学と光産業創成大学院大学の二つがありましたが、いずれも学術研究の枠で進められており、それを社会実装のフェーズに移すにはスタートアップという器が必要でした。
そこで光産業創成大学院大学の森 芳孝准教授(現 取締役 ファウンダー)が、同じ研究領域で知り合いだった大阪大学の藤岡慎介教授にスタートアップの立ち上げを呼びかけました。その藤岡教授が、教え子であり米国に渡って研究員として働いていた松尾一輝(現 代表取締役社長)に声をかけ、その3人でEX-Fusionを2021年7月に立ち上げました。

森 芳孝 取締役 ファウンダー 

資金調達を早い段階で進められたのも良かったですね
志が高く理解のあるベンチャーキャピタル(VC)の投資家に巡り合えたのも幸運でした。通常、VCは短期でのリターンを見て投資を判断します。ところが核融合エネルギーは、10年後に成果が出るかどうか分かりません。その投資家は、人類のエネルギーの歴史を変えようとする私たちの挑戦に意気を感じ、新たにファンドを立ち上げた上で長期的な目線で投資を決めてくれました。

  • 我妻 一博 浜松開発拠点 拠点長

事業の展開と現在

レーザー核融合とはどのような技術でしょうか

核融合は、太陽で起きているエネルギー生成反応を人類の手で再現するものであり、1グラムの燃料から石油8トンに相当する膨大なエネルギーを得ることができます。燃料の水素同位体は海水中に豊富にあるだけでなく、二酸化炭素を排出せず、事故が起きても反応が止まるだけで暴走しないことから「夢のエネルギー」とも言われます。核融合反応を起こすには、燃料を高温下でプラズマ(電離)状態にしたまま高密度に閉じ込める必要があります。この閉じ込めに磁場を利用するか、慣性を利用するかによって大きく方式が二つに分かれます。
「磁場閉じ込め」の代表例がヘリカル型やトカマク型で、両方とも磁場を発生させるコイルを使用し、ドーナツ状にねじれた磁場でプラズマを閉じ込めます。ヘリカル型はプラズマの長時間の閉じ込めに優位性がありますが、コイル形状が複雑になり、装置が大がかりになるのが課題です。トカマク型はプラズマ自体に電流を流すことでシンプルなコイル形状でもプラズマを閉じ込める性能が高いという特徴がありますが、プラズマの長時間での安定性に課題があります。
一方で、「慣性閉じ込め」の代表例が、私たちが採用するレーザー方式です。強力なレーザーを燃料に照射し、表面を爆発的に蒸発させ、その中心向きの圧力で燃料を瞬時に圧縮させ、加熱することで核融合反応を起こします。一般的には、レーザーの効率向上や、大量の燃料(球状ペレット)に順次にレーザーを正確に照射し続ける制御技術の開発が課題です。
これらの方式は、電源として実用化した際に共存すると見ています。例えばトカマク型などの磁場閉じ込め方式は定常的にエネルギーが発生するため、ベースロード電源としての適用が想定されます。一方、レーザー方式は反応頻度を調整することで負荷変動に対応できることから、現在の火力発電が担うピーク電源の役割を代替できます。

米Lawrence Livermore国立研究所が、投入したエネルギー以上のエネルギーを生み出す「エネルギー純増」を核融合エネルギーで初めて実験的に証明したのも、レーザー方式ですね
核融合エネルギーが実用化するためには、最終的に大きく三つの実証が必要となります。(1)科学的実証、(2)工学的実証、(3)経済的実証です。Lawrence Livermoreが成し遂げたのは入力がレーザーエネルギー、出力が熱エネルギーなので(1)の科学的実証です。工学的実証は入出力とも電力エネルギーで比較する必要がありますが、入力に対して出力が1%未満とまだ低いのが現状です。
(1)の科学的実証はレーザー方式が先に実現しましたが、電気からレーザー光への変換効率がまだ低いことから、(2)の工学的実証については、電気から熱エネルギーへの変換技術で成熟している磁場閉じ込め方式が早く達成するかもしれません。(1)の科学的実証の達成までに約70年もかかったので、(3)の経済的実証まで普通にやったらこの先、数十年かかるかもしれません。私たちはスタートアップの器とその勢いを利用することでこれらの実証をできるだけ早く実現することを目指し、同時に自分たちの世代で達成したことを次の世代に良い形で渡す、そういう使命感を持って取り組んでいます。
2025年7月には、重要な開発成果を得たことも発表しました。Hi-Cube(浜松開発拠点)内に設置したレーザー照射システムには、燃料を模した直径1mmの鉄球を毎秒10回という高頻度で繰り返し自由落下させる装置が付いています。その鉄球の軌道をセンサーで追跡し、予測した落下位置とタイミングに合わせて照射位置を制御し、鉄球にレーザーを高精度に当て続けることに成功しました。レーザー核融合の商用炉で想定される「1秒間に複数回の燃料照射」の運転条件を実験的に示し、動きを可視化したという意味で大きな成果だと思います。

HI-Cube内に設置したレーザー照射システムの実証機

世界中の核融合スタートアップが開発にしのぎを削っていますが、御社が先駆けて勝てる要因は何でしょうか

人類の歴史を変える挑戦なので、競合を気にするというよりは、自分たちがやるべきことに集中して開発を進めたいと思っています。新入社員の採用でも「人生で成し遂げたいことは何か」と聞き、それにきちんと答えられる志の高い人を入れるようにしています。
あえて私たちの強みを言うなら、多様なバックグラウンドを持った人材を受け入れる組織文化がある点です。例えば、天文学の研究を長年やっていた人がレーザー制御に望遠鏡の技術を応用するなど、技術開発の幅を広げることにつながっています。

そしてこれから

今後の展開について教えてください

まず、本物の燃料を使ってレーザー方式による核融合反応を連続で起こす実証試験です。2027年には実現したいですね。2030年以降には、レーザー核融合反応を起こした上で、プラズマを発生させ、電気に変換して回収するシステムを作りたいと思います。
核融合反応を起こすための基本的な技術は既にそろっていますが、投入エネルギー以上の核融合反応を起こすとなると、レーザーエネルギーの出力をさらに上げる必要があります。また、レーザー核融合に関する法令が定まっていないことからその整備も課題です。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ、入居してよかったこと

大学発のスタートアップだったことから、最初は大学の研究室を借りて実験をしていました。次のステップに進み、統合的な試験をするとなった時に困ったのが場所の問題でした。当時、企業の施設を使わせてもらうことも検討しましたが制約があり、浜松市内のインキュベーション施設を運営する信用金庫の紹介でHI-Cubeに空きスペースがあることを知りました。これだけスピード感を持って開発を進めることができるのも、自分たちが自由に利用できる施設があるからだと思います。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

インキュベーションマネージャーをはじめ、スタッフの方に親身になって相談に乗っていただけるのはありがたいですね。2階にはいろいろな人と出会えるサロンがあり、ほかの入居企業の人と挨拶したり、協力関係を築くことにつながったりします。こういった人と人との関係づくりがしやすい環境は、スタートアップにとってとても良いと思います。

会社情報

会社名

代表取締役社長

松尾 一輝

所在地

大阪府吹田市山田丘2-8大阪大学テクノアライアンスC棟C806(本社)
静岡県浜松市中央区和地山3-1-7浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)303号室

事業概要

レーザー核融合発電技術の開発、実用化による国産エネルギーの創出

会社略歴

2021年7月

株式会社EX-Fusionを設立

2023年7月

シードで総額18億円の資金調達を実施

2023年10月

大阪大学とレーザー照射システムの実証を行う研究拠点を設立

2023年10月

オーストラリアに子会社を設立、東京工業大学(当時)と研究拠点を設立

2024年4月

中小企業基盤整備機構が運営する「HI-Cube」に研究拠点を開設

2024年11月 プレシリーズAで総額11億円の資金調達を実施

プレシリーズAで総額11億円の資金調達を実施

2025年6月 シリーズAで総額26億円の資金調達を実施

シリーズAで総額26億円の資金調達を実施

2025年7月

世界初、1秒間に10回、模擬燃料に対するレーザーの連続照射実証を実施

担当マネージャーからのコメント

浜松イノベーションキューブ(HI-Cube) チーフインキュベーションマネージャー 和久田 忠寿

核融合発電では、燃料1グラムから石油8トンに相当するエネルギーが得られます。必要な燃料は重水素と三重水素であり、これらは海水から抽出できるので無尽蔵に取り出すことができます。資源を特定の国に依存せずにエネルギー自給率を高めることが可能となる、エネルギー安全保障において重要な役割を担う技術です。さらには二酸化炭素を排出しないことから、地球温暖化対策においても重要な役割を担っています。
EX-Fusionで研究開発を進めているのは、核融合の中でも「慣性閉じ込め」と呼ばれるレーザーを用いた方式です。核融合反応を強力なパルスレーザーで瞬間的に起こすため、反応頻度を調整することで、電力需要のピーク時の負荷変動に柔軟に対応できるメリットがあります。HI-Cubeのある浜松には光・電子関連技術の集積があり、大阪大学で蓄積したレーザーの知見と掛け合わせることで、大きな成果が得られると期待しております。

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