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2025年9月30日
楽天メディカル株式会社

がん細胞を選択的に狙う「光免疫療法」を開発、がん克服の世界の実現へ

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「光免疫療法」が、手術、放射線治療、化学療法、免疫療法に続く第5のがん治療法として期待されています。レーザー光の照射でがん細胞を選択的に狙い、壊死させる画期的な技術であり、その治療法を開発する楽天メディカルが、世界に先駆けて頭頸部に発生するがんに対する光免疫療法について日本で保険適用を果たしました。適用するがんの部位や国・地域を広げ、がんを克服する世界の実現を目指します。その技術の特徴と将来展望について伺いました。(2025年8月取材)

インタビュー

  • お話
  • 楽天メディカル株式会社
    (ベンチャープラザ船橋入居)
    代表取締役社長 小玉 裕之氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください

米Rakuten Medical社のチーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)である三木谷 浩史のお父様がすい臓がんになり、世界中の治療法を探している中、三木谷の友人のつながりで、「光免疫療法」と呼ばれる新たな治療法を開発していた米国国立衛生研究所(NIH)の小林久隆氏を紹介されました。光照射によってがん細胞を壊死させる画期的な治療法であることを知り、その実用化に向け、創薬の基礎研究を手掛けていた米Aspyrian Therapeutics社に三木谷が個人出資を決断、2013年9月には同社がNIHから、その光免疫療法に関する開発・商業化の独占的ライセンスを取得しました。そして、同療法をもとに、当社独自の技術基盤である「アルミノックス」プラットフォームを確立しました。2019年3月に米国法人、日本法人ともに「楽天メディカル」に社名変更しました。

小玉 裕之 代表取締役社長

私はもともと生物系の学位(Ph.D.)を取った後、米国で投資ファンドを組成し、医薬や医療機器の開発会社に投資する仕事をしていました。その中でこの光免疫療法の技術を見つけ、投資するより自分でやりたいと思い、2019年に入社しました。今は日本法人の代表に就任しています。

会社のミッションとして掲げていることは

国や貧富の差にかかわらず、どこでもより良いがん治療にアクセスできるようなエコシステムを構築し、がんを克服することをミッションとしています。日本から事業をスタートしましたが、それを海外にも広げ、先進国のみならずニーズのあるところすべてに私たちのがん治療技術を届け、一人でも多くの人が本当に生きたい人生を生きることができる社会の実現を目指します。

事業の展開と現在

光免疫治療法とはどのような方法でしょうか

(1)薬剤の投与、(2)医療機器を用いた光の照射の2段階で構成されます。薬剤は、特定の細胞に選択的に集積するキャリアと、光に反応する光感受性物質から成ります。薬剤を人体に投与すると、がん細胞の表面に多く存在するタンパク質にこの薬剤が結合し、集積します。そこへ医療機器を用い、特定の波長の光を照射すると光感受性物質が活性化し、がん細胞を壊死させ、あるいは排除します。がん細胞を選択的に狙い、正常な組織へのダメージを抑えるため、臓器や機能を温存しやすいという特徴があります。

まず、頭頸部がんの治療に着目し、2020年9月には「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」を効能・効果として、世界に先駆けて日本で医薬品、医療機器の製造販売承認を取得し、保険適用となりました。頭頸部がんは、頭から鎖骨までの範囲に含まれるがんの総称であり、鼻、口腔、咽頭、喉頭といった器官の発生部位により鼻腔がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がんなどの診断名がつきます。がんの中では全体の5%とそれほど多い方ではありません。しかし、頭頸部という部位には、食べる・話す・飲み込むなどの重要な機能が集中していています。そのためこういった機能を温存しつつ、がんを根治するといった治療法が必要とされており、患者さんや医療関係者からも新たな治療法に対するニーズが高いと言えます。

現在、アルミノックス治療(光免疫療法)の運営委員会が日本頭頸部外科学会と日本口腔腫瘍学会に設置されており、安全性に留意しながら日本国内での普及・発展にご協力いただいています。日本での実臨床における本治療の効果を評価した研究結果について、「第34回日本頭頸部外科学会」で発表され、局所制御を目的とした治療として有用であることが示唆されました。

2021年1月から国内の耳鼻咽喉科・頭頸部外科で保険診療下の治療が始まり、2023年12月には歯科口腔外科でも開始されました。2025年8月には、累計1000回以上の治療が提供され、治療拠点数は全国で180カ所以上まで拡大しました。2025年内にはこれを約200カ所まで増やす計画です。

光ファイバー正面からレーザー光を照射している様子

御社の技術開発上の優位性はどういった点にあるのでしょうか

上述の光免疫療法の独占的ライセンスを受けているほかに、二つあります。一つは、光に反応する色素に関するコア技術を持ち、製造もすべてわれわれができることです。もう一つは、医療機器(デバイス)を内製化している点です。治療に携わってくださる医師などのニーズを反映して医療機器(デバイス)の開発に生かすスピードは、外注して製造するのとは比較にならないほど速いと言えます。

例えば、光ファイバーの側面からレーザー光を出す新規のディフューザーをわれわれは開発しました。それまでは光ファイバーの端面からしか光が出なかったため、がんの部位によっては狭い空間の中で光を斜めからしか当てられず治療が難しかったのですが、側面から垂直方向に光を出すことで、狭い中でもより適正な光の照射が可能になりました。このディフューザーも日本のメンバーがプロトタイプを作り、米Rakuten Medical社の子会社であるスイスMedlight社が量産品に仕上げました。

そしてこれから

今後の展開について教えてください

大きく三つあります。第1に、頭頸部がんの治療に関し、病気と診断されたら最初に実施される1次治療としてグローバルで承認取得を目指します。

第2に、これも頭頸部がん治療に関してですが、国や地域によっては日本など先進国で承認を取得しているとそのまま承認するという制度を設けているところがあります。そうした国や地域に、フェーズ3(第III相)の臨床試験の完了を待たずに承認の取得を広げていきます。

第3に、頭頸部がん以外のがん領域への適用です。現在、国立がん研究センター東病院や北海道大学病院で、医師主導治験として頭頸部がん以外に対する試験が行われています。また、企業主導治験としては、日本医療研究開発機構(AMED)の支援をいただき、ほかのがん腫に対する試験を実施中もしくは計画中です。最初に手掛けた頭頸部がんはとても複雑な臓器のがんで難易度も高かったことから、それ以外のがん領域へは基本的にこれまで培ってきた要素技術の横展開で実現できると考えています。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ、入居してよかったこと

光照射で使うレーザーシステムや、光ファイバーとそれを患部に誘導するニードルなどのデバイスを設計したり、検品、保管したりするための施設を探していました。本社のある東京からそれほど遠くない場所に、この広さでこの金額で利用させてもらえるのは素晴らしいと思い、入居を決めました。

ほかの施設では入居の際に床など追加の工事が必要となることが多いのですが、この施設はほとんど何もせずにすぐ利用できました。会議室などミーティングのスペースも充実していてとても使いやすいですね。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

コンフィデンシャルな開発品や資料がある中、セキュリティーがしっかりしていながら利便性もある施設は、あまりないと思います。会社によってその重要性は異なるかもしれませんが、スタートアップの活動拠点としてぜひ検討していただければと思います。

会社情報

会社名

代表取締役会長

三木谷 浩史(米Rakuten Medical社 CEO)

代表取締役社長

小玉 裕之

所在地

東京都世田谷区玉川2-21-1 二子玉川ライズ・オフィス(本社)
ベンチャープラザ船橋

事業概要

医療用医薬品および医療機器の研究開発・製造販売

会社略歴

2010年4月

米国カリフォルニア州で米Aspyrian Therapeutics社(現:米Rakuten Medical社)を設立

2013年9月

小林久隆氏らが開発した光免疫療法に関する独占的ライセンスを米国 国立衛生研究所(NIH)より取得

2017年3月

日本法人(現:楽天メディカル)を設立

2019年3月

米Rakuten Medical社、楽天メディカルに社名変更

2020年8月

スイスの医療機器メーカーMedlight社を買収

2020年9月

日本で「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」を効能・効果として医薬品、医療機器の製造販売承認を取得

2025年5月

約180カ所の耳鼻咽喉科・頭頸部外科、歯科口腔外科で治療提供が可能に

担当マネージャーからのコメント

ベンチャープラザ船橋チーフインキュベーションマネージャー 米田 雄二

楽天メディカルは、革新的ながん治療「光免疫療法」の実用化を進めるグローバルバイオテクノロジー企業です。光免疫療法はがん細胞だけを狙って破壊し、副作用を最小限に抑え、従来治療が困難だった患者に新たな可能性を提供します。日本では一部承認済みで、今後は適用疾患の拡大と世界展開が期待されています。

設立の背景には、父をすい臓がんで亡くした同社会長の三木谷浩史氏の体験があります。当時研究段階だった光免疫療法に将来性を見いだし、「一人でも多くの患者に一日でも早く届けたい」と事業化を推進、これが同社誕生の原点です。現在は「がん克服。」を掲げ、米国や日本など世界で臨床試験と事業展開を進め、先端医療の普及と患者負担軽減に挑戦しています。同社のグローバル展開に貢献できるよう日々サポートさせていただきます。

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