全国のインキュベーション施設
2023年3月7日
株式会社Yanekara
クラウドソフトウェアの力で再生可能エネルギーの大量導入を支える「21世紀の黒部ダム」の構築に挑む
東大柏ベンチャープラザの駐車場では、株式会社Yanekaraの実証実験が行われています。「地球に住み続ける」ためのエネルギー問題の解決に向けて「行動を起こす」ことを選んだ2人の若き挑戦者は、モビリティを含めた再生可能エネルギーのエコシステム実現に向けて同社を立ち上げました。
EVを駐車場では太陽光発電の畜電池として活用するために、EVの走行計画、天候による発電量や電力市場の需給状況に応じて最適化するプラットフォームを開発しています。同社の代表取締役/COO/事業開発統括の吉岡大地氏に起業のいきさつ、事業の将来像を伺います。(2022年10月取材)
インタビュー
- お話
- 株式会社Yanekara(東大柏ベンチャープラザ入居)
代表取締役/COO/事業開発統括 吉岡 大地 氏
起業、会社のおいたち
まずYanekaraの事業をご紹介ください
事業所などの駐車場の屋根に設置した太陽光パネルで発電し、複数の電気自動車(EV)を蓄電池として、事業所内のエネルギー利用とモビリティが一気通貫となるプラットフォームを開発しています。
具体的なプロダクト・サービスとしては、当社製品をトータルで管理・制御するクラウドシステム「YanePort」、複数のEVの充電・放電が可能なスマート充放電器「YaneBox」、EVの充電コンセントに接続してピークカットなどの充電制御を行う「YaneCube」、そして、スマートフォンによる車両の予約、台帳管理を行い、GPSデータによる運用実績の分析によりEVへの最適な転換プランをサポートする「YaneBook」の4つです。
顧客にはEVと駐車場の屋根、汎用品の太陽光パネルを用意してもらい、それらを我々のプラットフォームとつなぐことを想定しています。
プラットフォーム全体の核となるYanePortでは、登録されたEV 1台ずつの電池の残量や走行予定、天気予報、電力の市場価格などの要素をリアルタイムで把握した上で、最適な充放電計画を計算してYaneBoxに通知、技術の軸であるYaneBoxでは複数のEVの充放電を群制御します。こうして顧客はピークカットと太陽光発電の自家消費率を上げることによりEVと建物内の電力コストを低減できます。
会社設立の経緯はどのようなものだったのでしょうか
2018年の春に、後に共同創業者となる松藤圭亮(代表取締役/CEO/製品開発統括)とオンライン上で出会ったのがきっかけです。当時、私はドイツのフライブルグ大学で環境問題、特にエネルギー政策について学んでいました。知人から「再生可能エネルギーの創出に関して、熱い思いで取り組んでいる人がいるよ」と松藤を紹介されました。Skypeで話して、2人でエネルギー問題について勉強しました。2019年の元旦に私から「何か行動を起こそう」と声をかけたら、「自分もそう思っていた」と。それで一念発起し、EVをエネルギーストレージ化する研究開発プロジェクトを始めました。
このプロジェクトが情報処理推進機構(IPA)の助成金を受けるなど評価をいただいたこともあり、起業することにしました。起業ありきというよりは課題解決のためのアクションとしての技術開発であり、社会実装の手段としての起業です。
この間、事業のアイデアに行きつくのに5ヶ月ぐらい、プロジェクトを始めてからは2、3日に1回くらいの頻度で話しました。松藤とリアルで初めて会ったのは2019年9月、私が大学を休学して帰国したときです。プロジェクト開始から半年以上経ったころでした。
EVと太陽光発電を組み合わせる形態を選んだ理由は何ですか
気候変動に対する有効な解決策として最もインパクトが大きいのは、エネルギー源を化石燃料から再生可能エネルギーに変えることです。大学時代には農業やゴミなどさまざまな環境問題を学びましたが、一番面白いと感じたテーマもエネルギー問題でした。
実は、EVを蓄電池にして放電する技術は、私が生まれたのと同じぐらいの1990年後半から米国などで研究され、実証実験も2010年代から始まっていますが、まだ商用化されていません。ヨーロッパのVehicle-to-Grid(V2G)の実証実験のレポートでは、EVからの放電にエネルギー量の制限があるため、チャージコントローラー(充放電コントローラー)が必要ですが、部品が高額で商用化するにはコストが合わないとのことでした。私たちは太陽光発電を用いること、複数のEVを効率よくつなげ、プラットフォーム化することで、そこを解決しようとしています。
駐車場の屋根の太陽光パネルで発電し、EVを蓄電池化し、その電気を車や家庭で使うと、モビリティ、電力、熱という3つのセクターはすべて脱炭素化できます。現状、電力セクターは再生可能エネルギーを得るために大きな電源を建設することで脱炭素化を進めていますが、モビリティセクターに直接波及させることができていません。
モビリティの電動化は社会全体の脱炭素化には絶対欠かせないピースであり、一方で、EVには電力需要の増減があるため、供給の安定性を確保する必要があります。例えばEVは昼間に電気を使い、夕方に充電のパターンが多くなります。これは社会の電力需要のピークと重なっており、電力インフラに大きな負荷がかかります。現在、電力会社は需要のピークに合わせてインフラを整備していますが、EVの普及によって、さらに需要が増加するため、不安定化要素が増えるのです。
YaneBoxの先に数万台数、十万台とEVがつながり、ピークに当たらないタイミングでEVを充電して、必要なときに使えるようにする、そして、YanePort から電気が足りないから放電せよ、電気が余っているから充電せよと指令を出すことで大きな発電所のように運用できます。EVの普及による電力リスクを、EVを使って解決するのです。EV基盤で大容量の発電所を作っている例はありません。自分たちが開発したハードウェアとサービスで、世界に先駆けて実現したいですね。
私たちは電力の調整にも使える「21世紀の黒部ダム」を作ろうというのを合い言葉にしています。黒部ダムは7年間かけて当時の最先端の技術を導入し、犠牲者も出しながら完成した大きな構造物ですが、21世紀に自然を破壊してまで作りたくはありません。「地球に住み続ける」がYanekaraのミッションです。地球に住み続けるためには、環境問題を解決するだけではなく、この惑星にいるすべての生物をステークホルダーとすべきです。他方で、当社製品の製造や販売も環境に悪影響を及ぼしているはずで、そこに対する責任をどうするかは考え続けていかなければなりません。
採用や人材育成についてはいかがですか
松藤も私も経営者としてはあらゆることがわからなくて、日々学びながら前に進んでいます。カリスマ経営者ではないので、フラットな組織にして、メンバー全員が会社の方向性を共有し、そこに向かって何が一番必要かを自分で考えて行動していくというのを大事にしていますし、そこが強みです。
年に1回、社内で創業者インタビューと称して、メンバーが松藤と私にインタビューします。そこで、メンバーはミッションや事業展開を共有し、私たち自身も起業以来の思いや当社のミッションが変わらないことを確認しています。
採用はホームページを見て応募してきてくださる人を面接します。もともとYanekaraの文化に共感している人ですし、その人がやりたいことがYanekaraで実現できそうであれば入ってもらって、その仕事をお願いします。やりたい仕事に高いモチベーションで取り組んでもらえれば、マネージメントに苦労はありません。入社時にスキルがなくても、パッションがあれば学べるはずだと思っています。とはいえ、組織が大きくなる中で即戦力として必要なポジションが出てくると、今の採用方法は変わるかもしれません。
事業の展開と現在
今、コンタクトしている、あるいは想定している顧客について教えてください
顧客はプロダクト・サービスによって異なりますが、大きく分けて、物流業の企業や自治体などです。今はまだEVを多く導入している企業はそれほどありません。EVの導入をプレスリリースで発表した企業などに1つ1つ連絡しています。当社にはまだ営業力がないので、顧客を大きくは増やせないのが現状です。
想定している利用のモデルはEV3台以上、太陽光は10キロワット以上です。一般家庭の屋根よりも大きい屋根が必要です。当社のプロダクト・サービスを導入した顧客が電気事業者として何年くらいで利益が出るかは実証実験で確認していきます。
そして、これから
今後の課題は何でしょうか
1つは、EVが普及するスピードがYanekaraのプロダクトが広がるスピードに大きく影響することです。また、現段階では、電力会社の電力系統に接続する条件上の規制があり、EVから放電される電気はその建物内での電力需要に対しては使うことができますが、建物外の電線に流すことができません。これは国や電力会社を相手とする高く厚い壁です。
会社をどのように成長させていかれますか
起業からの2年間は、顧客が抱えている課題を知り、それを解決できるプロダクトとソフトウェアを作ることに集中してきました。実証実験を開始する段階まできましたが、重要な問題が見つかるとローンチが遅れる可能性があるので、並行して、顧客となる企業の方達と話しています。実証実験の結果が良ければ、必要な認証を取得し、量産の準備をして商用化していきます。
「地球に住み続ける」がミッションですので、将来は世界に進出したいですね。特にアフリカ、東南アジアといった人口増加が見込まれ、経済的発展が著しいところではCO2の排出も増えるはずです。ビジネスモデルは現地の文化やエネルギー供給の仕組みに合わせて、ある程度ローカライゼーションが必要でしょう。
インキュベーションの利用
入居のきっかけ、入居して良かったこと
東京大学から、連携しているインキュベーション施設として紹介され、面接等を経て入居が決まりました。2002年から敷地内で実証実験を始めさせてもらっています。施設の駐車場に屋根と太陽光パネルを設置して、購入したEV3台にYaneBoxをつなぎ、居室内のYanePortで運用しています。中小機構関東本部には柔軟に対応していただいて、IM室からは実装を具体的にサポートしてもらい、助かっています。
会社情報
- 会社名
- 株式会社Yanekara
- 代表取締役
- 松藤 圭亮
吉岡 大地
- 所在地
- 千葉県柏市柏の葉五丁目4番19号
東大柏ベンチャープラザ
- 事業概要
- 次世代型V2Xプラットフォームの開発と販売
会社略歴
2020年6月 | 株式会社Yanekara設立 |
---|---|
2021年3月 | 第4回「東大IPC 1st Round」に採択 |
2021年4月 | 2021年度 NEDO NEP 交付決定 |
2022年7月 | 東京センチュリーグループとEVリース等のモビリティサービスにおける連携開始 |
2022年10月 | 北九州市と連携協定を締結 |
2022年11月 | VCから1.6億円の資金調達 |
担当マネージャーからのコメント
気候変動というグローバルな課題を本気で解決するため立ち上げられたYanekara。世界的に環境問題や地球温暖化への関心が高まる中、エネルギー自給社会の構築を目指すYanekaraの事業は、世界に誇れる独創的な事業となりうる可能性を大いに秘めています。
2021年6月の入居当時、代表取締役である松藤CEO・吉岡COOは、ともに学生で、学業とビジネスの両立をされていました。大変だったと思いますが、それが出来たのも、お2人には明確な目的意識があったから。「自分たちの世代、そしてその先の世代が地球に住み続けられるように、自然エネルギー100%の日本をつくりたい」この高い志をもって、チーム一丸となり再生可能エネルギー供給最適化をはかるシステムの開発に日々取り組まれています。
入居されて1年半が経過しました。Yanekaraの理念に共感するメンバーも多く集まってきています。さらに、2022年12月東大柏ベンチャープラザに本社を移転し、別の拠点で活動していたメンバーも、東大柏ベンチャープラザに集結しています。
東大柏ベンチャープラザがある柏の葉エリアは「柏の葉スマートシティ」として知られ、日本の社会課題である低炭素社会や高齢社会対策に対応すべく、産学公民連携により様々な実証実験が行われています。Yanekaraの取り組む事業は、まさにこのスマートシティ構想に合致するテーマであり、地元からも活躍が大いに期待されています。
松藤CEO・吉岡COOはまだ20代半ば。20年後でも40代で現役バリバリ。今後お2人が牽引するYanekaraにぜひご注目を!
東大柏ベンチャープラザ
チーフインキュベーションマネージャー 原田 憲一