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2024年11月12日
株式会社Photo electron Soul

50年ぶりの新方式による電子ビーム生成技術で検査、半導体の微細化に対応

株式会社Photo electron Soulロゴ

微細化や多層化が進む半導体の検査には、電子ビームを利用した手法に期待がかかりますが、検出する欠陥の極小化と検査の高速化の両立などが難しかったために量産工場への導入が進みませんでした。名古屋医工連携インキュベータに入居するPhoto electron Soulは、50年ぶりの新方式となった名古屋大学発の電子ビーム生成技術と様々な工夫でその課題を解決します。その技術の特徴と将来展望について伺いました。(2024年10月取材)

インタビュー

お話        株式会社Photo electron Soul (名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)入居)
          代表取締役 鈴木 孝征氏

起業、会社のおいたち

鈴木 孝征 代表取締役

会社設立の経緯をお聞かせください

私は以前、米国の大学でライフサイエンス分野の研究員をしていました。その研究室では日々のラボミーティングなどにベンチャーキャピタリストやスタートアップの社長なども参加して、事業化戦略も活発に議論していました。つまり、大学の研究者と学外のビジネス人材が当たり前のように融合しながら、研究成果の事業化を進めていたんですね。当時の日本の大学との大きな違いを感じ、日本の大学の研究成果を事業化につなげることに貢献したいという気持ちが強くなりました。

その後、名古屋大学の技術移転部門に在籍し、技術の発掘や育成、知的財産のライセンスアウト、スタートアップの立ち上げなど、大学発の技術の事業化を推進する仕事に就きました。そうした中、電子ビーム生成技術で革新と言える「半導体フォトカソード技術」を名古屋大学で研究していた西谷智博氏に出会いました。この技術を世に出すために何かできないか、そういった使命感のようなものを感じました。

その技術のインパクトがとても大きかったのですね

工業用途の電子ビームの生成源としては50年ぶりの新方式であり、これまで到底できないとされた課題を一気に解決する可能性があります。産業的な意義はもちろん、事業化した時の収益性もとてつもなく大きいポテンシャルがあると思いました。特許をほかの企業にライセンスするような選択肢もありましたが、事業化のイニシアチブをその企業に委ねたら、いつになっても日の目を見ないかもしれません。それなら自分たちでリスクを取って会社を作った方が早いということで私は大学を退職して、技術担当の西谷氏と、ファイナンス担当として旧知だった田村逸郎氏との共同で2015年7月に「Photo electron Soul」を設立しました。

事業の展開と現在

御社の技術は、どのような特徴があるのでしょうか

電子ビームの生成源は、これまで熱電子放出型と電界放出型の2種類しか工業的には使われていませんでした。熱電子放出型は、電子ビームの出力電流を大きくできますが照射サイズを小さく絞れません。一方で電界放出型は照射サイズをナノメートルレベルまで小さくできますが、出力電流を大きくできないという、それぞれ一長一短がありました。私たちの「半導体フォトカソード技術」を使う方式では、これら両方の長所を兼ね備えているという特徴があります。電子ビームを検査用に使う場合、照射サイズは分解能、出力電流は処理速度に影響しますので、私たちの新方式を使えば、高分解能で高速処理の検査が可能になります。例えば、同じ分解能でも従来の10倍の速度でできるのです。微細化が進む半導体デバイスの欠陥検査にうってつけというわけです。

電子ビーム生成システム

この新方式の工業的な利用がこれまで進まなかったのには、大きく二つの理由があります。まず、装置を小型化できませんでした。学術用としては、直径数キロメートルにもおよぶ円形加速器のような大型実験施設で使う事例はありましたが、見上げるほど巨大な装置であり、それを検査装置に組み込んで半導体工場に入れるのはとても現実的ではありませんでした。私たちは、工業用途として緻密に要件定義をした上で、構造を変えたり部品を集約したりするなど設計を見直し、デスクトップサイズまで小型化することに成功しました。

もう一つは、電子ビームを長時間、安定して出すことができなかったからです。従来の学術用にも使われた電子ビームは工業用途としては短時間、例えば数十時間ほどで出力が急減していました。新方式では光を半導体材料に照射し、その光エネルギーで電子が飛び出す効果を利用していますが、私たちはその半導体材料を従来のガリウムヒ素系から独自レシピの窒化ガリウム系に換えることで、数千時間を超える安定的な出力を達成しました。

それらの独自技術を生かした製品が、半導体検査装置向けの電子ビーム生成システム「PES-2020 e-BEAM System」です。すでに半導体製造装置メーカーへ納入し評価が進んでいます。

自社製品をどのようにして売り込んでいるのでしょうか

私たちの製品は、半導体の製造装置に組み込むシステムであるため、直接の顧客は製造装置メーカーですが、むしろ問題意識が高いのは、その先のユーザーであるデバイスメーカーです。半導体デバイスは今後、高性能化に向けて微細化や多層化がさらに進むことが予想され、半導体の製造現場で私たちの技術がどうしても必要になってくるからです。

例えば、間口が狭くて深い溝を検査しようとしても、従来技術では溝の入口で電子が散乱し、穴の奥が見えない状態になってしまいます。私たちの技術では電子ビームをパルス状にして強弱をつけられるため、この散乱を抑えて穴の底まで見ることができます。こうした深い穴の底にある欠陥のせいで製造歩留まりが上がらずに困るのは、デバイスメーカーなのです。私たちは、デバイスメーカーとの対話を通じて、当社の技術・製品が現場で利用されるメリットを追求しながら、ビジネスを進めています。

そしてこれから

今後の展望について、どのようにお考えですか

まず、半導体以外の検査用途を狙います。例えば2次電池です。すでに普及しているリチウムイオン電池でも実は成熟しておらず、材料の解析が進めば充電速度上げたり、寿命を延ばしたりする余地がまだあります。ただ、従来技術の電子ビームでは、材料にダメージを与えてしまうことから精度の高い解析ができませんでした。これを私たちの技術に置き換えれば、電子ビームの強弱を制御できるため、高精度な解析が可能になります。

まだ研究段階ですが、金属3Dプリンターへの応用もありえます。私たちの技術を適用することで、より高精度、高速で造形できるようになるかもしれません。また、小惑星探査機「はやぶさ」でも使われていますが、宇宙機の推進力源であるイオンエンジンでも、帯電を中和する電子ビームの安定した出力が求められ、将来的にはそこで私たちの技術を生かせるかもしれません。こうした様々な分野への事業展開を進めていきます。

中小機構インキュベーションとの関わり

入居のきっかけ、入居してよかったこと

インキュベーションマネージャーとは大学にいたころから情報交換をしており、施設の存在や機能も知っていたのですが、当初はそこまで立派な設備は必要なく、別の施設を利用していました。その後、事業が進み量産化が見えてきたことから、これまでの施設では手狭になったこともあり、ぜひ施設を使わせてほしいと申請し、入居しました。
実際にものづくりができる設備が整っており、顧客やステークホルダーにとってもアクセスしやすい立地にもかかわらず、私たちの手が届く料金で利用できるため、とても助かっています。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

設備利用に関することだけでなく、労働安全衛生や薬品の保管など、法的な安全管理についても指導していただき、ものづくりに必要なことの多くを習得できる環境にあります。ものづくり系のスタートアップには、ぜひ利用してほしいと思います。

会社情報

会社名

代表取締役

鈴木 孝征

所在地

愛知県名古屋市千種区千種2-22-8
名古屋医工連携インキュベータ 206号室

事業概要

電子ビーム発生装置及び素子の研究、開発、製造及び販売

会社略歴

2015年 7月

株式会社Photo electron Soulを設立

2016年 5月

工業用途コンセプト実証モデルの開発に成功

2020年 6月

半導体検査装置向けモデル「PeS 2020 e-Beam System」を発表

2021年 5月

世界初、選択的電子ビーム照射技術「DSeB」の開発に成功

2022年12月

世界有数チップメーカー/検査装置メーカーとの三者共同評価を順次開始

2024年 2月

世界初、「DSeB」によるMOSトランジスタの非接触動作テストを実現

担当マネージャーからのコメント

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)チーフインキュベーションマネージャー 伊藤 順治

Photo electron Soulは、半導体製造装置のキーパーツを製造する技術移転型の大学発スタートアップとして2015年に設立、名古屋大学インキュベーション施設にて7年間の研究開発と事業開発の後、事業拡大を目指して2022年に名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)に移転されました。2023年には大型の資金調達を果たし、NALICでの増床を経て2024年も事業成長を続けています。

「J-Startup」にも認定され、社員が昼夜を越えてクライアントからの検証試験を繰り返す姿を見ながらあっという間にNALICでのこの2年が経過しました。どこまで進化するのか、次の事業をいつ始めるのか、二の矢・三の矢を持つ、将来が楽しみな企業です。大学発スタートアップとしての苦労や「アフターインキュ」の課題など、多くのことを学ばせていただくことでマネージャーとして成長できました。今後の同社の発展を期待します。

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