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2024年1月12日
シンバイオシス株式会社

長期保存可能なナノバブルで人の腸内のバランスを整える、新たな腸内細菌叢移植の治療法を開発

シンバイオシス株式会社-目に見えないものたちの力で新しい常識をつくる-

人の腸内には多くの細菌が住み着いており、そのバランスが崩れると様々な疾患をもたらします。健康な人の便から採取した腸内細菌叢(フローラ)を移植して治療しますが、これまでは抗菌薬投与などの負担をかけずに細菌を定着させる方法がありませんでした。HI-DECに入居するシンバイオシスは、長期保存可能な「NanoGAS」(ナノバブル)の技術でこれを解決します。
その技術の特徴と今後の応用展開について伺いました。(2023年10月取材)

インタビュー

お話
シンバイオシス株式会社(神戸健康産業開発センター(HI-DEC)入居)
代表取締役 田中 三紀子氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください

田中 代表取締役

私は2008年から販売促進会社を経営しており、清水真氏(現シンバイオシス上席研究員)は腸内細菌叢(フローラ)移植の専門クリニックを運営していました。2017年5月、そのクリニックのWebサイトのリニューアルを依頼されたのが、清水氏との出会いです。Webサイトを作る準備の中で、腸内細菌叢の移植が難病の治療に使われていることを知りました。

当時その治療法は、米国など海外ではどんどん研究が進んでいましたが、日本では一部の大学が難治性腸疾患の研究を開始した頃でした。国内の民間クリニックで腸内細菌叢の移植治療を行っているということを聞いて最初に見学に来られたのが、非営利団体(一般財団法人)の腸内フローラ移植臨床研究会の現代表理事に就任されている田中善氏でした。

その後、腸内フローラ移植臨床研究会の事務局業務を行う腸内フローラ移植臨床研究株式会社を立ち上げ、研究開発を担当するシンバイオシス合同会社を2017年12月に設立しました。

販売促進会社から畑違いの医療分野に参画しようと決意されたのはなぜでしょうか

医療は販売促進から遠い世界にあるように感じていました。しかし、販売促進会社を設立してちょうど10年の節目に医療に特化しようと決め、その3カ月後に清水氏に出会いました。難治性疾患は増える一方で、現行医療の限界を感じている中、腸内細菌叢の移植はまさに新しい治療法として、自分が取り組む対象になりました。

腸内細菌叢移植による治療は、あまり一般的ではないのでしょうか

再発性クロストリジウムディフィシル感染症(rCDI)という、抗菌薬の使い過ぎで腸内細菌叢のバランスを崩して発症する難治性腸炎には、米国食品医薬品局(FDA)が腸内細菌叢移植を第一優先の治療法として推奨し、2022年に医薬品として認可しています。

一方、日本では、順天堂大学が潰瘍性大腸炎を先進医療Bとして申請したほか、滋賀医科大学など一部の大学で研究はされていますが、海外に比べると規模が小さいようです。近年メディアでも「腸活」が取り上げられ、腸内細菌叢の話題が増えつつありますが、腸内細菌叢移植については、認知度が低いのが現状です。

事業の展開と現在

その腸内細菌叢の移植において、御社の「NanoGAS」水の技術が特徴的な役割を果たすわけですね

そうです。多くの場合は事前に抗菌薬投薬や腸管洗浄などの処置をし、生理食塩水で溶解した便を内視鏡を使って移植するという方法で行われています。これに対し、私たちは、生理食塩水の代わりに一部の工程で「NanoGAS」水を使うことによって、抗菌薬や腸管洗浄、内視鏡投与が不要な、患者さんにとって極めて負担の少ない腸内細菌叢の定着方法を開発しました。

なぜ、御社の方法は、抗菌薬や腸管洗浄などが必要ないのでしょうか

一般に行われている方法は、潰瘍性大腸炎であれば、腸内細菌叢のバランスが悪いので抗菌薬でリセットして新たに健康なドナーの腸内細菌叢を入れる、という方法です。

一方、弊社が独自で開発した方法では、ドナーの便を溶解する際に、「NanoGAS」水を使い、長期安定可能な微細なバブルが、菌同士の接触を阻害し、菌同士の絡合(らくごう)阻止する役割を果たしています。細菌の増殖する速度は、その種類によって異なるため、数時間でドナーの腸内細菌叢のバランスが崩れます。

「NanoGAS」水を溶媒とすることで、細菌のアンバランスな増殖を防ぎます。他人由来の腸内細菌が定着するメカニズムは、完全に解明されたとは言えませんが、移植前後に患者の腸内細菌叢を遺伝子解析すると、明らかに腸内細菌叢が再構築されていることが分かります。

そのナノバブルに着目されたのは清水氏ですね

清水氏は、大学時代に泡の研究をしていました。同氏はそれから大阪大学医学部附属病院に着任後、国立大阪病院(現大阪医療センター)の細菌検査室に出向し、様々な細菌を検査していました。当時、細菌同士が間隔を空けた状態で分散するコロイドを形成し、互いに関係し合う「絡合」を防ぐ方法はないかと考えました。細菌と細菌の間を微小な泡で遮ってしまえば良い、そのためには細菌の1/1000~1/10000ぐらいまで泡を小さくする必要がある、それがナノバブルだったのです。

そのナノバブルを製造するところで御社の技術が使われるのですね

回転しながらちぎっていく回転剪断方式で泡を作ります。ベースとなる方法は様々な分野で使われていますが、磁場を発生させて電気的な整列をさせたり、物理的に泡を砕くフィルターを通したりといった工夫を組み合わせており、製造装置も独自に開発しています。

特徴的なのは、気体分子を泡で閉じ込められることです。泡を小さくしていくと、分子の大きさまでにすることができます。

米ベックマン・コールター社による「ナノバブル」の計測

その泡(ナノバブル)を含む水はペットボトルで保存できます。泡が小さすぎて目視できず、大きさの計測も難しいのですが、2020年に米ベックマン・コールター社の協力で200ナノメートルの大きさまで計測することができました。

10年前に開封したペットボトルに残っているものを使ったにも関わらず、34%の泡が残っていたことから、200ナノメートルより小さい泡も存在していたことが分かります。泡を通過させる加速度の差で導いた理論値ですが、実際は800ピコメートルくらいだと思います。

「NanoGAS」水を人が飲むとどのような効果がありますか

神戸学院大学との共同研究では、動物実験により、ナノバブル水の安全性を検証しています。酸化ストレスを加えた状態でこの水を与えると、ミネラルウォーターに比べて細胞の損傷が少なかったという報告もあります。

腸内細菌叢移植の実績について教えてください

関東、関西、九州など様々な地域の15の医療機関で行っており、600症例を超える実績があります。疾患は様々ですが、最近、その関連で大きな進展がありました。

自閉スペクトラム症の子供31人を対象に、腸内細菌叢移植の効果を見る臨床研究が開始されました。自閉スペクトラム症の子供の腸内細菌叢のバランスを整えることで、かんしゃくが収まったり、コミュニケーションが取りやすくなったりするなど、一定の改善効果が出ることが分かってきました。そのメカニズムはまだ解明されていないのですが、脳の機能に関係する電気信号の出方に変化を与えるのではないかと言われています。

そして、これから

今後の応用展開として、どのようなものを考えていますか

医療以外の様々な産業への応用を考えています。まず、日本酒やワインなど酒類の品質保持用途です。「NanoGAS」水を使うことで酸化が抑制できたり、旨味をより引き出したりするといった効果が期待できます。ワインの瓶を開栓した後でも味が落ちにくいといった効果もあるようです。酒造メーカーと組んでそれらを検証する取り組みが始まっています。

また、化粧品があります。通常、化粧品は油成分と水分を乳化剤でなじませますが、「NanoGAS」水は乳化剤の役割を一部担うことができます。そのほか、醤油や味噌などの発酵食品、精密機器の洗浄、畜産農家の臭い対策などへの応用があります。

技術開発面での今後の取り組みとしては、どのようなものがありますか

用途に応じて、泡の大きさを変えたり、中の気体を変えたりするといった工夫があります。実際にそれを導入してどのような効果があるかの検証も含めて、自社だけでは限界があります。ターゲットごとに伴走してくれる企業や大学の協力の必要性を感じています。

中小機構インキュベーションとの関わり

入居のきっかけ、入居して良かったこと

もともと大阪に拠点があり、中小企業基盤整備機構(近畿本部)には補助金申請のサポートでお世話になり、その時に紹介してもらったのがきっかけです。決め手は、費用面です。神戸市と兵庫県から3年間、補助していただきました。近隣には連携してくれる組織や企業があり、1社ではできないことが、ここはで現実に進みやすいということも魅力でした。入居してよかった点は、色々な企業を紹介してくれるところです。展示会の出展や入居者同士の交流会などもあり、周囲とのネットワークができていきました。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

以前は貸ビルに入居していましたが、なかなか横の連携が取りにくい部分がありました。設備面でも、イノベーションラボはいろいろなタイプがありますが、自身の仕事に合わせたラボを選択できるというところがとても魅力的だと思います。自社で一から全部揃える必要はなく、共有されているものを使うことができます。ハード面とソフト面の両方においてメリットがあると思います。

会社情報

会社名
シンバイオシス株式会社 
代表取締役
田中 三紀子
所在地
兵庫県神戸市中央区港島南町6-7-4 神戸健康産業開発センター(HI-DEC)
本社:大阪府大阪市都島区片町2-1-40 エスト・ヌーヴォー401
事業概要
腸内細菌叢移植用製剤の研究・開発、高機能ナノバブル水の製造・販売

会社略歴

2017年12月 シンバイオシス合同会社を設立
2020年10月 シンバイオシス合同会社をシンバイオシス株式会社に組織変更
2022年11月 ナノバブル発生装置の特許で中小企業庁長官賞を受賞
2023年 9月 「NanoGAS」水を使った日本酒やワインの酸化抑制技術に対して新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金が採択
2023年11月 「NanoGAS」水を使った腸内細菌叢移植の特許で中小企業庁長官賞を受賞

担当マネージャーからのコメント

当施設に入居しているシンバイオシスの事業内容は大きく分けて2つ。1つは腸内細菌叢移植(以下FMT)で、既に600例を超える実績があります。2023年4月からは医師主導による「自閉スペクトラム症に対する新規糞便微生物移植法の有効性と安全性に関する臨床研究」がスタートしています。

もう1つは上記FMTを支える独自開発した「Nano GAS」水(1mlあたり60億個以上の泡)の利活用です。その用途は医薬品から化粧品さらには醸造までと大きく広がっています。

田中社長は、販促会社の経営から転職し、腸内フローラの移植研究会を臨床医らと設立、シンバイオシスの社長に就任しました。好奇心旺盛で患者第一主義の経営者です。FMTにおいて「Nano GAS」水を含む腸内細菌含有組成物を用いることにより、定着性を大きく向上させ、患者負担の少ない治療法を実現しました。そのバイタリティは驚愕そのものです。また、その親しみやすさから小児患者の母親からも多くの信頼を得ています。将来の医薬品としての可能性を含め、日々サポートさせていただいています。

神戸健康産業開発センター(HI-DEC)
チーフインキュベーションマネージャー 栗原 道明

インキュベーション施設

神戸健康産業開発センター

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