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2023年3月31日
旭テクノプラント株式会社アグリ事業部カンパニー

高機能野菜の市場を開拓する岡山大インキュベータ卒業企業

Asahi Techno Plant

人工光型植物工場で生産した非結球レタスや、高鉄分レタス・低カリウムレタスなど高機能野菜を販売する旭テクノプラント株式会社アグリ事業部カンパニー。植物工場のコンサルティングも手掛ける。

同カンパニー社長の三野裕紀氏に電気と水の事業に精通する企業の強みを活かした新規事業開発のいきさつ、現在力を入れている事業について伺いました。(2023年2月取材)

インタビュー

お話
旭テクノプラント株式会社(2015年3月から2017年5月まで岡山大インキュベータに入居)
アグリ事業部カンパニー 社長 三野 裕紀氏

起業、会社のおいたち

どのような経緯で植物工場の事業化に挑戦されたのでしょうか

三野様
三野 社長

当社では、自社ビル内で2016年から植物工場を運営し、倉敷れたすの愛称でフリルレタス等の野菜を地域のスーパーなどで販売しています。

もともと当社は1978年に創業した、受変電設備やプラント設備の設計から工事施工、診断・試験、保安管理までを手がける企業です。2012年に施行された再生可能エネルギー特別措置法をきっかけとして、太陽光発電所の設計・施工・保守保安に向けて舵を切りました。そのときにソーラーパネルの裏側の空きスペースや通路部分を有効活用できないかという話が出て、農業に取り組もうということになりました。

2014年、私はこの農業に関する新規事業を始めるにあたって採用されました。岡山大学農学部でトマトを自動で収穫できるロボットの研究をしていたとはいえ、農業がすぐにできるわけではありません。農家の方々の持つノウハウは形式知になっていないこともあって、企業が農業に参入するのは簡単ではないことはわかっていました。しかし、当社は長く電気と水を扱ってきたので、水耕栽培ならいけるかもしれないという話になりました。実験を開始し、ソーラーパネルと水耕栽培を組み合わせた栽培装置の特許も取得しましたが、やはり管理がしやすい屋内での栽培が良いという結論に達したのです。

そして、現在広まりつつある人工光型植物工場の栽培コストをどう下げるか、人工光型植物工場で高付加価値植物をどう育てるか、本格的な試験を始めるための場所が必要になり、2015年に岡山大インキュベータに入居しました。

岡山大インキュベータでは、スモールサイズでの栽培テストを目標としてまず3か月ほどでインキュベータの居室を改装し、室内栽培実験施設を整備しました。水耕栽培に最適な温度・湿度、二酸化炭素濃度、肥料などを研究しました。入居中に、栽培方法の基礎的な実験を行い、のちの高機能野菜にもつながる研究をすることができましたね。

事業の展開と現在

その後、事業はどのように発展しましたか

自社ビルに移ってから、まず非結球レタスの栽培方法を確立しました。“倉敷れたす”というブランド名を付け、主にスーパーで販売しています。農薬を使わず、洗う手間もなく袋を開けてすぐ調理できる、長持ちする、植物栽培用のLED照明を用いた栽培で栄養価が土耕栽培と変わらない、えぐみや苦みが少ないという特徴があり、おかげさまで好評です。季節や天候にも左右されないので安定した品質で、安定した生産をすることができています。

そして、レタスの品種を増やすとともに、高鉄分レタスや、低カリウムレタスといった高機能野菜ブランド“Dr. Commit”シリーズの生産販売に至りました。高鉄分レタスは、秋田県立大学が保有する特許をベースに、独自技術で植物工場での量産化が可能になったものです。鉄分不足の方に手軽に生の野菜から鉄分を摂っていただけます。低カリウムレタスは腎臓に不安のある方にも生で召し上がっていただけます。生育途上のある時期に与える栄養分からカリウムを抜くことで低カリウム野菜にすることが可能になるのです。

現在、他社が新規事業として植物工場を始める際のコンサルティング業務も始めていて、事業開始前の現地調査やヒアリング、設備設計、作業人材の育成、オペレーションの助言、商品開発まで一貫した支援を行っています。

コロナ禍の影響はいかがでしたか

当社の出荷の多くは外食産業向けではなく、スーパーの野菜コーナーや惣菜コーナーでの中食の販売が主力です。コロナ禍で家での食事の回数が増え、中食需要が高まったこともあり、幸いにも、コロナ禍の影響は比較的少なかったと考えています。

また、新しく植物工場の経営を検討する企業が増えたようで、プラントを導入したいというお問い合わせも増えました。ただ、現在、電気料金や設備や資材などの高騰で、野菜を値上げしなければならない状況で取引先と交渉しているところです。

エディブルフラワーも人気が高いそうですね

工場内
エディブルフラワーの水耕栽培をする室内

エディブルフラワーは、観賞用の花と同じ品種を、農薬を使わず育てることで食べられるようにしたものです。ハウス栽培も可能ですが、やはり虫が入ってくるなどで管理が難しく、室内での水耕栽培が向いています。

最近はお菓子や料理でのニーズが上がっているように思います。当社の製品は日持ちがするので、まとめて注文してくださる菓子店などの顧客も多いです。Instagramで発信していることもあって、バレンタインデー前には個人のお客様の購入が増えました。じわりじわりと広がっている印象はありますね。

2022年からは“トライスルみらい農園 倉敷”の運営を始めたそうですね

建物外観
トライスルみらい農園 倉敷

2021年にジョブサポートパワー株式会社と提携し、2022年から屋内型農園を活用した“トライスルみらい農園 倉敷”で障がい者雇用をサポートしています。ジョブサポートパワー社が採用と定着の支援を行い、当社が植物工場の場所を提供し、業務支援を行っています。

“トライスルみらい農園 倉敷”のある土地は、もともとは大型書店があった場所で、建物を改築し、水耕栽培の植物工場に変えました。今はエディブルフラワーやハーブの工場となっています。エディブルフラワーの出荷は、花びらを1枚1枚取って台紙に貼り、そこに包装フィルムをかけて梱包材で巻くという手間のかかる作業です。ハーブも繊細な取り扱いが欠かせません。こういった作業をハンディキャップがある方に担って頂き、仕事を通じて社会参画するお手伝いの役割を当社が担っています。

そして、これから

今後は事業をどのように発展させていかれますか

鉄分の多いほうれん草、亜鉛含有量の高い野菜といった別の高付加価値植物を開発・販売していきたいですね。野菜は鮮度を保ちながら輸送するのが難しいので、東京、大阪、福岡といった大都市近郊にフランチャイズの協力加盟企業を設け、生産と配送をしてもらう方式を計画中です。

中小機構インキュベーションとの関わり

入居のきっかけ、入居して良かったこと

当社には以前、岡山市内に営業所があったのですが、岡山大学内に岡山市の支援も受けられるインキュベーション施設があるという情報が入ってきました。ちょうど水耕栽培の試験プラントを組み立てられる施設を探している最中だったので、応募して入居しました。その後、植物工場を自社ビル内に設けることができて、岡山大インキュベータを卒業しました。

2年ほどでしたが、その間、電気と水を使う事業にいろいろと便宜を図っていただけて、使い勝手がとても良かったです。また、クライアント候補の企業さんや弁理士さんを紹介してもらいました。弁理士さんには商標の相談などもさせていただき、今は当社の顧問になっていただいています。入居企業の集まりも楽しかったですね。

入居を検討している企業・入居予定の企業の方には、「IM室にはしょっちゅう顔を出して、困りごとだけでなく、アイディアもどんどん相談するといい」とアドバイスしたいと思います。

会社情報

会社名
旭テクノプラント株式会社 
代表取締役
藤森 健
所在地
岡山県倉敷市新田2403番地の1
事業概要
各種プラントの電気・計装・通信設備の設計施工並びに試験調整・保安管理など

会社略歴

1978年3月 創業
2015年4月 岡山大インキュベータに入居
2016年3月 自社植物工場 竣工
2016年10月 倉敷れたす販売開始
2017年5月 岡山大インキュベータ卒業
2022年5月 トライスルみらい農園開設
2022年7月 人工光型植物工場での「高鉄分レタス」の量産化技術を確立

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

人工光型植物工場は、水・電気設備の建設や維持管理、保安業務を主たる事業とする旭テクノプラント(株)が新規事業開発として取り組まれた事業。

入居当時の主担当だった三野社長が、岡山大学農学部と連携し、(1)温度・湿度、二酸化炭素濃度、肥料など葉物野菜の栽培ノウハウ習得と高品質化、(2)環境制御や水処理など設備の最適化と栽培コストの低減、(3)医療品や化粧品向けなど、高付加価値植物の栽培の研究に取り組まれ、人工光型植物工場事業の基礎固めをされました。

岡山大学の研究室でレクチャーを受け、すぐにラボで試験・研究できるのは、キャンパス内への立地ならではのメリットのひとつだと思います。

これからも、人工光型植物工場での植物の機能性向上、植物種の拡大とともに、植物工場の設計・運営の標準モデル化とコンサルティングによる人工光型植物工場の普及・拡大に期待するとともにエールを送りたいと思います。

岡山大インキュベータ
チーフインキュベーションマネージャー 深井 康光

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岡山大インキュベータ

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