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Institution for a Global Society株式会社

AIを活用したテクノロジーサービスで教育と評価に変革を起こす

会社概要

事業内容

AIを活用した人材評価プラットフォームを企業や学校に提供

本社所在地

東京都渋谷区

設立

2010年5月

資本金

388百万円(2022年3月末時点)

売上高

720百万円(2022年3月期時点)

従業員数

45名(2022年3月末時点)

ファンド事業

起業支援ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

みやこ京大イノベーション投資事業有限責任組合
(みやこキャピタル株式会社)

事業概要

個人が持つ多面的な能力を科学的に評価するシステムで評価におけるバイアスを排除

Institution for a Global Society株式会社(以下、当社)は2010年5月、東京都渋谷区を本社に、福原正大氏(以下、福原社長)により設立された。『人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる』をビジョンに、AIやブロックチェーンなどのテクノロジーを応用したHR(Human Resourcesの略、人的資源と訳される)サービスや教育サービスを提供している。

これまでの日本における人材評価は面接や面談といった手段を用いて人対人によって行われてきた。そこには、評価者の主観的認知やバイアスが含まれており、判断のプロセスはブラックボックスになっている。2015年の国連サミットでSDGsが採択されて以来、日本社会でも多様性が声高に謳われる一方で、日本の人材評価は、公平性と一貫性が担保されていないという状況が今まで続いてきた。

当社が開発し提供しているGROWは、本人も認識できていない生まれ持った潜在的な性格である「気質」と、思考力や判断力、創造力や表現力など個人の行動特性である「コンピテンシー」を科学的に測定して能力を可視化することで評価の公平性が担保されたサービスである。

GROWはスマートフォン上の操作で人材評価を完結することができる。被評価者自身の自己評価にくわえて、他者による360度コンピテンシー評価を行う。人工知能によるアルゴリズムが評価のバイアスを除去し、多面的な能力を公平に評価することができる。当社は、このGROWというコンテンツを主軸として主にHR事業と教育事業を展開している。

公平な人材評価データを活用し、人材採用から人材育成まで幅広く支援

HR事業では企業の人材採用・育成・配置・組織開発を多岐にわたるサービスで支援している。2017年のGROW360開発当初は、主に新卒採用の場面で企業の人事部を中心にサービスを展開してきた。

その後、GROW360で取得したデータの分析によって発見された課題に対しての人事コンサル支援、人材育成のための研修の導入など、サービスの幅を広げてきた。これらの組織開発・人事戦略支援を一気貫通して提供できることを強みとしている。

学生の潜在能力の可視化、非認知能力の育成をサポート

教育事業で全国の学校を中心に導入しているサービスAi GROWはGROWをベースに学校・教育機関向けに開発された。学生を対象にAi GROWを受験してもらうことで、360度コンピテンシー評価と気質診断により様々な教育活動の教育効果を可視化する。カリキュラムデザインやクラス・マネジメント、就職までを見据えた進路指導等、多面的な活用が可能である。

文部科学省が2019年に発表した取り組みであるGIGAスクール構想(児童生徒1人1台端末の整備および校内通信ネットワークの整備を目指す取り組み)の実現も後押しとなり、Ai GROWは2022年3月末時点で既に小学校から高校まで、合わせて250校を超える学校へ導入を果たしている。

ファンドに出会うまでの経緯

フランスの経営大学院INSEADで受けた360度評価が起業の種に

福原社長は大学卒業後、キャリアを形成していくなかで、海外の経営大学院へ進んだ。留学先であるINSEADのプログラムから福原社長が最も衝撃を受けた経験が360度評価を受けたことであったという。

テストで高い点数を獲得すれば評価される日本の教育と異なり、INSEADでは、他者評価を含む360度評価によってソフトスキル(性格特性や行動特性と訳される。物事の進め方や周囲の人とのコミュニケーションの取り方のこと)までも評価の対象となる。

そして、この360度評価によってクラスメイトから受けたフィードバックは、ときには辛辣な言葉で表現されることもあったが、それを真摯に受け止めることで福原社長自身の成長に大きく繋がったという。

この原体験をもとに、改めて日本の教育を相対的に振り返ると「日本の教育は単一的で多様性に欠けていて、結果として人が幸せになっていないんじゃないか」、福原社長はこう思うようになった。こうした想いを胸に、2010年5月、福原社長は教育事業を主たる目的として当社を起業した。

テクノロジーを使ってサービスを日本全体、世界全体に広げていきたい

当社は小中高生向けのグローバルリーダーを育成する学習塾として事業をスタートした。海外のトップスクールを目指す学生へ受験対策も含めた教室指導を行っていた。海外のトップスクールの受験では「Who Are You(自分は何者ですか)」という問いが必ず投げかけられる。こうした問いへの対策として360度評価に力を入れていた当社は合格する生徒を輩出し、着実に事業を伸ばしていった。

同時に、当時の日本はApple社のiPhoneが急速に普及し始めた頃であった。旧Facebook社が上場を果たし、スマートフォン端末の普及と併せて、日本人の間でもFacebookユーザーが増えていった。スマートフォン上のボタン一つで瞬く間に世界中のユーザーがネットワーク上で繋がっていく。福原社長は、こうしたシリコンバレーのIT企業が世界に与える大きなインパクトを目の当たりにして、テクノロジーが社会に与える力に大きな可能性を感じたという。

福原社長は、自社が提供している360度評価のノウハウもITテクノロジーと掛け合わせることで、塾の利用者たちだけでなく、日本全体、世界全体に向けて広げていきたいと思うようになったという。そして、当社はGROWの開発に取り掛かり始めた。

事業の飛躍的な成長を描いたときに、自社資源だけでは限界を感じた

GROWを開発してそれをさらに成長させていこうとしたときに、様々な壁にぶつかった。開発を内製化し技術チームを組成していく際には、どういった人材をどのように採用していくか、また、組織体制が大きくなっていったときにどうガバナンスを効かせていくか、わからないことばかりであった。

自社資源だけでこうした難題に立ち向かうには限界があると感じた福原社長は、外部からの知見、経験値、人脈に頼ることを考えた。福原社長は金融業界の出身ということもあり、ベンチャーキャピタルの活用がこうした事態を解決する最善の手段であることを知っていた。

そこで、当社は2016年と2017年にわたり2回の資金調達を実施した。株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズが運営するUTEC3号投資事業有限責任組合、東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社が運営するTUSキャピタル1号投資事業有限責任組合、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブが運営する慶應イノベーション・イニシアティブ1号投資事業有限責任組合、そして、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資をし、株式会社みやこキャピタル(以下、みやこキャピタル)が運営するみやこ京大イノベーション投資事業有限責任組合より、総額6億円の資金調達を行った。そして、みやこキャピタルの代表である岡橋寛明氏が当社への広範なハンズオン支援をスタートさせた。

ベンチャーファンドを活用して

人事戦略の助言と経営幹部の採用サポート

ベンチャーキャピタルに経営へ携わってもらうということは、外部の視点から、自社の内部的な強みや弱み、市場での立ち位置などを明確にして上場への道筋を決めていくことであり、すなわち、自社に対する360度評価を常に行ってもらうという状況を構築することであった。

当社が株式上場を目指していく上で、岡橋氏を始めとするキャピタリスト達からの助言はいずれも的確であったと福原社長は振り返る。これまでに投資先のベンチャー企業の株式公開を支援してきた経験のあるキャピタリスト達は、当社の優れている部分を再認識させてくれる一方で、当社にとって“足りないもの”についても教えてくれた。

「上場企業を目指す上では、社長の直下に金融に精通した人物を配置しなければいけない」、自身が金融関係の出身であるということもあり、福原社長にとっては社内体制にそうした自覚を強く持っていなかったが、岡橋氏からこの言葉をかけられたことが後の上場準備を成功させる上での大きなきっかけになったという。

もちろん、その時点では管理部門として金融を担う部署も社内に存在していたし、CFOとして財務を管理するリーダーもいた。しかし、福原社長がトップ営業として自ら新規顧客開拓に専念すると、証券会社の対応をする人材を欠いてしまう。そのため、金融に精通した人間がもう一人社長の元にいないと会社全体のバランスを欠いてしまうということであった。

そして、岡橋氏と共にその適任者探しに奔走した。岡橋氏独自のネットワークから、監査法人の対応等もこなせる金融の知見を持つ一方で、“日本の教育を変えたい”という、福原社長と同じ志を持つ人物を紹介してもらい、社長室長として採用するに至った。

キャピタリストが持つネットワークを活用して、官との連携を図った

当社に出資をしているベンチャーキャピタルはいずれも大学系ベンチャーキャピタルである。大学系ベンチャーキャピタルを株主として迎えた理由は、教育という難しい領域で事業をスピードを持って成長させていくには、“産”、“官”、“学”、との連携はいずれも欠かせないと福原社長は考えていたからである。

みやこキャピタルの岡橋氏と同じく、東京大学エッジキャピタルパートナーズの担当キャピタリストであった取締役の坂本教晃氏も経済産業省の出身である。彼らキャピタリストは官庁から発信される公開情報の中で、IGSの事業に役立つ情報をタイムリーに福原社長へ伝えた。そして、経済産業省の様々なイベントにスピーカーとして福原社長を紹介するなど、当社と官庁との接点を作ることに奔走してくれた。

当社は、一つ一つの機会を全うしていくことで、官庁の方々からの信頼を得て実績を積み上げていった。その結果、当社は官が主導する教育改革のサービス提供者として一役買われ、現在に至るまでに産官学連携でスピードを持って事業成長を果たすことができた。

多くの人々の目にさらされることで、自分達が持っている価値を広げていきたい

2021年12月29日、当社は東証マザーズへの上場を果たした。この上場を振り返って、福原社長は「『人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる』このビジョンの実現に向けて、教育や人事の分野で当社が変革を起こすには、社会からの信用が絶対的に必要だと考えています。そういった意味でも公開企業となり金融市場へ参加することは必ず必要なプロセスだと考えていました」と話す。

3,000名以上の方々に当社の株式を持ってもらい、当社の発展に期待してもらっている状況をかんがみると、“社会の公器”であることを改めて強く認識したと言う福原社長はこう続けた。「日本は今、すごく厳しい状況に置かれているけれども、この現状を変えていくためには、人が変わらないとダメ。一方、国家100年の計は教育にありじゃないですけど、人が変わっていくというのはやはり容易ではないですよね。100年先を見据えてという発想を持って生きていかないといけない。そういうことに想いを持っていただいている株主が多くいらっしゃるというのは、自分達の存在意義にもつながります」。

改めて、株式上場の達成を振り返って、福原社長はベンチャーキャピタルからの支援について「非常に手厚いハンズオンをいただきました。4社のベンチャーキャピタルがそれぞれ多様な支援を必要なタイミングで施してくださいました。ときには厳しい言葉をかけられることもありましたが、その一方で、事業が困難にぶつかったときにはメンタリングサポートをしていただきました。総じて、支援のバランスが素晴らしかったです。キャピタリスト達の支援なくして、株式上場は果たせませんでした。」と明言する。

今後の事業の展望について

GROWをより多くの人に使ってもらい、一人ひとりの力を最大限発揮できる社会を目指したい。

当社は企業パーパスとして『分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する。』を掲げている。このような社会をどのように実現していくかが今後の事業の展望である。

HR事業では、人的資本の可視化がテーマである。当社は、企業が人にかけるお金は人件費ではなく、資本という視点で捉えていく。資本である以上は、それをどう大きくしていくか、どう最適にしていくかという考え方が大切である。

一人ひとりの能力も含めて人的資本をデータによって可視化することができれば、経営者が人的資本を増やすための意思決定を下す際の役に立つ。こうした人的資本をどうしていきたいかというときのパートナーになるために、当社は1社でも多くの企業にサービスを活用してもらいたいと考えている。

教育事業についても、偏差値一辺倒の従来の評価基準ではなく、学生たちの様々な能力が可視化されて、評価の多様性をもたらしたいと考えている。この評価の多様性とその多様性に応じた教育を提供できることが当社の最大の強みであり、日本中の小学校から高校までの約3.5万校に当社のサービスを導入していきたいと考えている。

ブロックチェーンを活用した履歴プラットフォームの実証

このように可視化した個人の能力をキャリアアップに活かし、さらに学んで力を伸ばす好循環を生み出すサービス「STAR」が、新規事業として発足している。慶應義塾大学経済学部FinTEKセンターと共同で実証しているこの事業は、ブロックチェーン技術を活用することで、個人が主体的に自分の個人情報をコントロールできる仕組みを提供している。

具体的には、学生自身が成績や証書、授業やサークル等での活動、GROW360の結果などを専用のアプリケーションへ記録していく。その際、学生は企業へ自分のプロフィール情報を自分の意思で提供範囲や開示期限などを選択することができる。(以下、数値は2022年6月末現在)

STARを用いて、個人の能力や学習歴をデータによって可視化することができれば、学生側は学歴に偏重された就職試験を回避できる一方で、企業側もエントリーシートや面接では評価できなかった学生の多様な能力を発見し、自社にあった多様な人材を採用することができるようになる。

誰にとっても幼少期からAi GROWやGROW360が当たり前に身近にあり、生涯に渡って自分の履歴をSTARで自在に管理することができる。そして、評価者の主観的認知やバイアスによらない公平平等な評価・判断が下されることで、個々人の能力を最大限に発揮ができる。そんな社会の実現を当社は目指していく。

社長から起業家を志す方へのメッセージ

福原正大の顔写真
福原正大社長

社会のあるべきビジョンを描いて、 “世界を創っていく側に回れる”というのは起業家にとっての大きな醍醐味だと思います。世界を創る側に回った瞬間に自分が未だ知らない大きな世界が広がります。

私の場合は、起業をする以前は金融というひとつの業種の中で、ごく限られた人との出会いしかありませんでした。しかし、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる」をビジョンに掲げ、その世界を創っていくなかで、社会に生きる子供から大人、民間や官庁の方々、非常に多くの人と関係性を持つことができました。こうした経験を経ることで、自分の知見が広がり人生も豊かになっていきました。

世界を創るということは、既存のものを壊しにいくことですから、当然、その途中には大きな困難もあります。

私も想像していた以上の猛烈な逆風に出会いました。しかし、斎藤一人さんという実業家の方の本で「飛行機が離陸するときに向かい風がないと飛行機はテイクオフできない。だけど、逆風があるからその風を使って、それを超えるエンジンを上げていった瞬間に機体が上がる」という一説を読み、この逆風は大きく上がっていくための自分にとってのチャンスなんだと思えるようになりました。想いさえ正しくて、ちゃんとそこに技術があれば結果はついてきます。

自分が掲げたビジョンのもと、周りを巻き込んで、仲間を作って、世界を創っていくことが、私は起業の一番おもしろいところだと思います。

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

AI搭載エンジンにより人間の気質・コンピテンシー・スキルを科学的に測定し能力を可視化しうる技術をベースとしている点が、「人的資本」をより重視していく潮流にある現下の経済社会において時宜にかなっていると判断いたしました。官公庁や自治体、公教育の学校含む教育機関へサービスを提供するなど社会的かつ政策意義の観点でも評価に値すると考え投資の機会をいただきました。

成長支援ファンドの視点からみた同社の成功要因

創業初期、成長フェーズのスタートアップ企業における新事業立ち上げの成否は、創業者の並々ならぬ情熱・コミットメントが極めて重要な要素と考えております。その点において福原さんは申し分なく、全身全霊で粉骨砕身、会社の発展に尽くしてこられました。その強いリーダーシップをいかんなく効果的に発揮されたことにより、チームメンバーの能力・活力を最大限に引き出すことが奏功し、コロナ禍などを背景とした厳しい環境においても結果として株式上場を果たすことができたのでしょう。素晴らしい成果です。同社の益々の発展を祈念いたします。

みやこキャピタル 岡橋 寛明

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
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