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株式会社イーディーピー

人工ダイヤモンドの長年の研究を経て、世界の製造業へ

会社概要

事業内容

単結晶ダイヤモンドとその関連素材の製造・販売・開発

本社所在地

大阪府豊中市

設立

2009年9月

売上高

27億円(2023年3月期)

従業員数

79名(2023年7月時点)

ファンド事業

中小企業成長支援ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

DCIハイテク製造業成長支援投資事業有限責任組合(大和企業投資株式会社)、名古屋大学東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合(日本ベンチャーキャピタル株式会社)

事業概要

ダイヤモンド種結晶を製造・販売している産総研発ベンチャー企業

株式会社イーディーピー(以下、当社)は大阪府豊中市を本社に、人工宝石としてのダイヤモンドを生成するための元となる素材「種結晶」を主要製品として製造・販売を行っている会社である。

当社は国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)のダイヤモンド研究センター室にて、2009年当時センター長を務めていた藤森直治氏(以下、藤森社長)が独立する形で設立された産総研発ベンチャー企業である。

気相合成法にて宝石が成長するための元となる「種結晶」を生成

種結晶とは、その名の通り人工宝石としてのダイヤモンドを生成するための“種”となる結晶体のことである。種結晶は気相合成法という技術を用いて成長させることで元となる結晶を覆うようにして単結晶が粒状に積みあがっていく。この積みあがった単結晶の塊を元の結晶体から切除し、カットと研磨を加えると我々が普段目にしている宝石としてのダイヤモンドに仕上がる。

  • 8×8ミリメートルから11×11ミリメートルサイズのダイヤモンド種結晶。このダイヤモンド種結晶へ気相合成法を用いて成長させると、単結晶が積みあがり成長していく。この成長した種結晶がダイヤモンドの原石である。この原石にカットを加えることで、宝石としてのダイヤモンドの姿となる。
    当社2023年3月期決算資料より

気相合成法とは、炭素を含む気体(ガス)からダイヤモンドを生成する方法である。原料となる炭素原子を高温高圧の特定の環境下に用いることで種結晶を成長させることができる。その成長の様子は、まるで窓ガラスに結露が発生するかのように種結晶に単結晶が積みあがっていくのだという。

当社の技術的な強みは、この種結晶(親結晶)とダイヤモンドの原石である種結晶が成長した部分(子結晶)を分離させる「イオン注入法」という技術にある。

産総研にて開発されたこの技術は、親結晶へあらかじめイオンを注入してから気相合成法にて子結晶を生成させることで、親結晶と子結晶の間に1μメートル程度の結晶の崩れた薄い層を生じさせるものである。

  • イオン注入法のイメージ図
    当社2023年3月期決算資料より

わずか数ミリしかない親結晶と子結晶を分離させる際に、電気化学的な手法を用いてこの薄層を除去することで、親結晶と子結晶の分離部分を板状に保った状態で切り離すことができる。

親結晶は分離作業をした後であっても、イオン注入前の形状を保てる一方で、子結晶はレーザー加工機によって切断を施され親結晶と同じサイズの種結晶へ成形される。このようにして、当社は種結晶を高品質な状態で量産することができる。

  • 種結晶を気相合成法を用いて成長させる前にイオンを注入させる。成長の元となる親結晶と成長した結晶である子結晶の間にイオンの層を作ることができる。このイオンの層をレーザー加工機によって切断を施すと、親結晶と子結晶の分離部分を傷つけずに板状の綺麗な状態で切り離すことができる。
    当社2023年3月期決算資料より

当社は、製造した種結晶を人工宝石製造会社へ供給している。人工宝石製造会社は気相合成法にて種結晶を粒状の結晶(原石)にまで成長させ、カット・研磨を施しルース(裸石)へ加工を施していく。その後、ルースは宝石店へ渡り、宝飾品として消費者の手元に届く。

当社は、厚さ0.3ミリメートルを基準とし、7ミリメートル×7ミリメートルから11ミリメートル×11ミリメートルまでのサイズの種結晶を主に供給している。最大サイズの種結晶は3カラット以上の宝石を製造することが可能であり、人工宝石が市場で普及しつつある現在、当社は様々な需要に対応していくことができる。

急成長を遂げる人工宝石市場にて主要プレイヤーとしてダイヤモンド種結晶を世界へ供給

当社は2023年3月期の売上において、種結晶の販売が全体売上の95.3%を占めている。上述してきた独自性の高い技術を背景に、当社は50%近い営業利益率を生み出している。

また、種結晶の量産を他者に先駆けて実現し、高品質かつ大型の単結晶まで製造ができるという当社の特性は世界的にみても高い優位性を誇っている。当社の種結晶の供給はグローバルに展開しており、取引先のほとんどは海外企業である。

こうした当社の強みに加えて、人工宝石市場が成長途上にあるという事業機会も追い風となり、当社は2018年以降、年間売上高の平均成長率50%を連続して達成しており、高収益高成長企業として、今後もさらなる飛躍が期待されている。

株式会社イーディーピーの設立とファンドに出会うまでの経緯

大手非鉄金属メーカーを経て産総研のセンター長へ就任

藤森社長は大学院卒業後、住友電気工業株式会社(以下、住友電工)へ入社した。藤森社長は、住友電工では20年以上にわたりダイヤモンドの製造技術や製品開発に従事していた。

ダイヤモンドは硬度の高さをはじめ、電気絶縁体、熱伝導体など、様々な優れた物質特性を有している。住友電工では、こうしたダイヤモンドの特性を活かして工具用品などへの応用が試みられていた。次第に気相合成法による人工ダイヤモンドの実用化目途が立ち始めると、様々な製品への実用化が行われていった。

そして、2003年、ダイヤモンドを活用したある国家プロジェクトが立ち上がった。それはダイヤモンドを半導体のウエハとして活用を試みるものであった。経済産業省は産総研に新たにダイヤモンド研究センターを設けた。ダイヤモンドの実用化研究に長年携わり、この業界で多くの知見を持つ藤森社長がこの研究所のセンター長に抜擢された。

人工ダイヤモンドを半導体ウエハとして実用化する上での課題

ダイヤモンドは電気を通さず熱を伝えやすいという素材特性を有している。シリコンや炭化ケイ素など従来から使われている半導体素材よりも優れた、究極の半導体素材として期待されていた。しかし、実用化に向けては大きさの面での課題があった。

シリコンや炭化ケイ素などの従来の半導体材料は、小さな種結晶を大きく成長させることが可能である。例えば、シリコンウエハは1960年頃に1インチ(約25ミリメートル)程度の単結晶の生成に成功して以来、半世紀の間、生成の大型化を繰り返してきた。そして、現在では12インチ(約300ミリメートル)以上の直径を持つ半導体ウエハを生成することを可能にしている。

しかし、人工ダイヤモンドは気相合成法によって成長をさせても厚さが増すだけで、元の親結晶のサイズよりは大きく成長しないという物質特性がある。この物質特性が、人工ダイヤモンドを半導体ウエハとして実用化する上での大きな課題であった。この課題をクリアするには、親結晶として大型の単結晶を作製する必要があった。

産総研にて開発した技術を用いて株式会社イーディーピー設立へ

ダイヤモンドの半導体ウエハの実用化を目指し、この難題解決に向けたプロジェクト組織として始動したのが産総研のダイヤモンド研究センターであった。産総研では、この大型単結晶を生成するために2つの特殊技術を開発した。

一つは前述したイオンを注入して成長した子結晶を親結晶から分離させるイオン注入法である。そして、もう一つの特殊技術がモザイク結晶の製造である。

モザイク結晶の製造とは、大型の単結晶を生成するために、親結晶から生成された複数の子結晶を横に並べて、その結晶体を成長させることで複数個の連結した結晶を生成する方法である。

複数の子結晶を接合させて大きな種結晶を生成する。つまり、この技術は種結晶の大型化を実現するための生成技術である。

  • 大型の単結晶を生成するために、親結晶から生成された子結晶を横に並べて、それを気相合成法を用いて成長させることで、連結した複数個の結晶を生成させることができる。ダイヤモンド種結晶は気相合成法を用いて成長させてもインチの拡大をもたらすことはできないが、このモザイク結晶の製作技術を用いることで、実質的にインチの拡大を実現することができる。
    当社有価証券報告書より

藤森社長は、産総研にて開発したイオン注入法とモザイク結晶の製造法を用いることで、人工ダイヤモンドを半導体素材として実用化することに目途が立ったと判断した。そうして、産総研からのスピンアウト企業として独立を決意し、2009年に設立されたのが当社、株式会社イーディーピーであった。

設備投資のための資金調達に奔走

当社は設立当初から工具用素材など人工ダイヤモンド製品の取引はあったものの、半導体素材としてのさらなる普及を実現させるためには大きな規模の機械設備等を導入しなければならず、そのためには、資金調達が必要であった。

当社に限らず、設立当初のベンチャー企業は、開発した製品でさらなる事業発展を目指す段階において、事業進捗と並行して資金需要を満たしていく必要がある。それ故に、常に資金ショートの危機と隣り合わせにある。このことから、この事業化発展の関門は「死の谷」と呼ばれている。

当社にとっても、この「死の谷」の関門は例外ではなく、藤森社長は設立当初から資金調達に奔走した。藤森社長自身が会社の代表者として連帯保証人となっても、金融機関が融資してくれる資金量では設備投資の資金需要を満たすことができなかった。そのために、投資家からの出資を募った。

藤森社長は、ベンチャーキャピタルを何社も回り出資相談を繰り返した。それと並行して、自身が長年この業界で築いてきた人脈から資本提携を結んでくれる関係会社を探した。そうして、エンジェル投資家を含めた複数の投資家から断続的に資金調達を行っていった。

こうした中、2013年7月に開催された産総研主催のベンチャー企業のピッチイベントにて出会ったのが、大和企業投資株式会社が運営するDCIハイテク製造業成長支援投資事業有限責任組合(以下、DCIハイテク)の国内投資運用第二部担当部長の小林信男氏(以下、小林氏)であった。

小林氏曰く「株式会社イーディーピーへの投資に対しては、当時の当ファンドの投資額としては大きめな額を検討していた」という。それは、小林氏が当社が持つ技術や事業領域の成長性などに大きな可能性を感じていたと同時に、藤森社長もベンチャーファンドに対して大きな資金出資の期待があったからだ。DCIハイテクは慎重な投資検討を進め、藤森社長と事業計画の詳細、今後の事業展開について対話を重ねた末に投資実行という判断に至ったという。

こうして、当社は、2014年4月、東京都ベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合と、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資し、大和企業投資株式会社が運営するDCIハイテクの2ファンドより、総額1億5,000万円の資金調達を行った。

ベンチャーファンドを活用して

合成ダイヤモンド市場の台頭をきっかけとした事業の急成長

当社は人工ダイヤモンドの開発を応用して半導体素材へ活用させることを当初の目的として事業を進捗してきたが、2014年から2015年にかけて、当社にとって転機となる事業機会が訪れた。それは、人工宝石としての合成ダイヤモンド市場の急成長であった。

この市場機会に対して、上述してきたような当社の人工ダイヤモンドの種結晶を高品質な状態で量産をすることができる技術は世界的にも有数なものであった。このため、世界中の人工宝石製造会社から種結晶の引き合いがきた傍らで、当社からも販売代理店を経由させて積極的な営業活動を行っていった。

当社は2015年の決算期において、種結晶の販売が売上全体の過半数を占めた。そして、営業利益を黒字転換させることに成功し、事業が大きく軌道に乗り始めた。この勢いのままに、当社は2014年から2015年にかけて、複数回に渡たる調達に成功した。そして、この資金を原資として2015年4月に第2工場を設立・稼働させることで、さらなる事業成長の加速へアクセルを踏んでいった。

この一連の資金調達の成功について、上述したDCIハイテクからの出資も大きな貢献であったが、DCIハイテクの出資以後も、ハンズオン支援として小林氏は増資引受先の候補企業を何社も紹介をしたという。藤森社長は、「紹介会社の中から出資が成就した会社もあり、こうしたDCIハイテクからの支援も大変ありがたかった」と話す。

事業成長の途上で組織体制の課題に直面

当社は事業を軌道に乗せて成長させていく一方で、組織体制が追い付かないという課題を抱えていた。生産設備の増強に対しては、新たに人員の補強が必要であり、また従業員を管理するマネージャーが必要であった。言い換えると、藤森社長からの権限移譲を進めていくことで事業成長に合わせた組織体制の整備を施していく必要があった。

こうした当社の採用ニーズに対して、結果的に採用までには至らなかったものの、小林氏と投資後に担当として加わった熊谷正彦氏(大和企業投資株式会社 国内投資運用第二部 次長)とで、製造部長の候補者の紹介などを行い積極的なハンズオン支援を行っていった。並行して、当社も民間の人材会社へ人材紹介を依頼し、100人を超える応募者の中から採用者を選んでいったという。

2022年6月、当社は東証グロース市場へ上場を果たした。藤森社長は上場に至るまでの資本政策を振り返ってこう話す。「会社の状況を考えると、資金調達の選択肢は限られており、なんでもできる状態ではなかった。もちろん、大きい金額を一度に出してくれるところがあれば、その方が楽であったけれど、黒字会社でないと融資はダメということもあり、うちは会社をたくさん回ってその都度で出資をしてもらうしかなかった。僕としてはいつも困っていましたね。」

当社の株式上場にいたるまでの資本政策は、ベンチャーキャピタルからの出資に加えて、関係会社からの資本業務提携によるものが中心となった。当社が事業成長の過程において行った取引関係のある販売代理店や人工宝石製造会社との資本業務提携は、資金調達という側面以外にも、事業上での多くのシナジー効果が生み出された。これは、藤森社長がこの業界で長年築きあげてきたキャリアの功績の結実であった。

今後の事業の展望について

ダイヤモンド半導体ウエハへの挑戦と基準作り

当社は現在、人工宝石用製品、半導体用製品、ヒートシンク等の応用製品、切削工具用製品と、大きく分けて4つの分野の製品を扱っている。このうち、売上高の90%以上を占めている人工宝石用製品の種結晶については、引き続き市場の動きに合わせて生産体制を整えていくという。

  • 4分野の製品のイメージ図
    当社HPより

一方で、人工宝石用製品以外の分野にどれだけリソースを注げるかが大事という藤森社長。特に、他の半導体素材と比べて絶縁耐圧や熱伝導率といった物質特性に優れ究極の半導体と呼び声高いダイヤモンド半導体の実用化に向けて、ダイヤモンドウエハの2インチへの大型化へ向けて開発を進めている。

当社は世界で初めて2インチサイズのダイヤモンドウエハを開発していく企業として、標準を作って各国の企業をリードしていく存在でなければならないと藤森社長は話す。国際間でのスムーズな取引を実現するには、様々な基準をクリアして標準を定めたISO作りに向けて、各社とも協力を進めていく。

社長から起業家を志す方へのメッセージ

藤森直治社長の顔写真
藤森直治社長

製造業であれば独立心をもって世界で戦っていく心持ち、アイデンティティが起業家には必要だと思います。私の場合は、とにかく大企業の大樹の陰や補助金をもらって生き延びようという気持ちはありませんでした。世界を相手にしてやっていく、そういう気持ちを最初から持って始めることが大切だと思います。

そのためにはお金が大事なので、ビジネスプランをきちんと立てる必要があります。そうしたアドバイスをしてくれる人が近くにいれば良いですが、最初は必ずしもそうした状況に恵まれるとも限りません。自分でビジネスプランを考えて作っていくことが大事です。

また、研究者であり実用化できる技術をやりたいと考えている人は、実際に世の中の動きを把握していることがすごく大事だと思います。一方で、実用化を目指す上で、どのテーマが良いかの選択や、会社が軌道に乗り始めた時は特に業務量が増えるので、そうした会社の側面的な支援、こうしたニーズは顕在化していると思います。社会全体として、こうしたニーズに応えてくれる事業環境が整っていくことを願います。

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

数多あるベンチャー投資案件の中でも同社は設備投資が多大な上、収益化までより時間が必要とされる非常に難易度の高い素材製造業の案件でしたが、藤森社長の30年以上に亘る人工ダイヤモンドの研究開発で培われた経験知、高品質かつ大型の単結晶を作製するための気相合成法(CVD)成長条件を最適化する多数のパラメータを差別化要因としてブラックボックス化している点が高い参入障壁となり長期的に収益性の高い素材ビジネスを展開できると判断しました。また、産総研との強い連携体制、半導体デバイス用途や人工宝石用種結晶の新市場創出への期待、長期に亘り産総研で開発されてきたダイヤモンド合成技術の実用化と新市場創出が国内素材産業の育成に繋がるとの観点からも評価に値すると考え投資に至りました。

中小企業成長支援ファンドの視点からみた同社の成功要因

創業時より藤森社長の強いリーダーシップと高品質の単結晶製品を供給するという方針のもと、品質重視の製品戦略を愚直に継続してきたことが信頼性の証となり、価格主導権を保持しながら海外顧客との長期契約を拡大できたこと、加えて製品ターゲットを小型品から利益率の高い中・大型品へのシフトを首尾よく進めることができたことが、高収益体質を生む結果に繫がったものと考えております。また、同社の事業は設備投資先行型でもあることから投資家から敬遠されがちな業態でもありましたが、精緻な需要予測に基づき設備投資のタイミングをよく見極め、藤森社長の粘り強い交渉力によりマイルストーンによる複数回のエクイティ調達と銀行借入をうまく取り合わせ進めてきたことが成功要因であったと考えます。

大和企業投資株式会社

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
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