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株式会社Photosynth

世の中の物理鍵とそれに伴う制約から人々を開放するキーレス社会の実現に向けて

会社概要

事業内容

「Akerun入退室管理システム」を含むIoT機器及びクラウドサービスの開発・提供

本社所在地

東京都港区

ホームページ
設立

2014年9月

売上高

19.1億円(2022年9月末時点、ARRとして)

従業員数

168名(2022年9月末時点)

ファンド事業

中小企業成長支援ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

グロービス5号ファンド投資事業有限責任組合(グロービス5号ファンド有限責任事業組合)、DCIハイテク製造業成長支援投資事業有限責任組合(大和企業投資株式会社)

事業概要

物理的な鍵による制約を無くす「Akerun」

株式会社Photosynth(以下、当社)は2014年9月東京都品川区を本社に河瀬航大氏(以下、河瀬社長)により設立された。「つながるモノづくりで感動体験を未来に組み込む」をミッションに掲げ、スマートロック等のIoT機器とクラウドサービスを開発・提供している。

  • Akerunは既存の扉に設置するだけで、スマートフォンやICカードで鍵を開け締めすることができる、クラウド型入退室管理システムです。ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたHESaaSとしてサービス提供しています。製品1のアケルンプロは、既存のドアに後付けするだけでクラウド管理を実現します。製品2のアケルンコントロールは、既存の電気錠(自動ドアなど)のクラウド管理を実現します。これら2つの製品の入退室ログの見える化とアクセス権限管理で、オフィスや施設を見守るWeb管理ツールがアケルンコネクトです。前述した2つの製品とアケルンコネクトを連携させることで、例えば、オフィスや施設のセキュリティ強化や、ICカード、アプリ、顔認証などの幅広い施錠・解錠を可能にします。
    サービス概要(当社IR資料)

現在、私たちはあらゆるコミュニティや空間ごとに鍵をかけることでセキュリティを保っている。一方で、それぞれの扉ごとに生成された鍵を使い分けるうちに混同したり紛失したりというリスクは付き物である。とりわけ複数人が出入りするオフィス等では、各人に物理的な鍵を貸与するか、鍵の開閉のために出社する従業員が必要になる。

当社が提供する「Akerun」は既存の扉に後付けで設置するだけで、スマートフォンやICカードを鍵として活用し、扉を開閉することができる。さらにソフトウェアと組み合わせることで、個人認証や遠隔操作、アクセス権限の管理なども可能になるため、勤怠管理やユーザー情報を把握するなどあらゆるシーンで活用される。鍵として使える1つのIDで様々な扉にアクセスできる「キーレス社会」の実現が当社の目指すところだ。

  • 扉と鍵がN:Nだった認証インフラから、扉と鍵がN:1の認証インフラを創造します。それが、私たちが創りたいキーレス社会の姿です。物理空間におけるSSO(シングルサインオン)を目指します。
    実現したい“キーレス社会”の世界観(当社IR資料)

ファンドに出会うまでの経緯

社会貢献のための手段の模索とビジネスとの出会い

学生時代から社会貢献に対して意欲的であった河瀬社長。大学への進学は、自分の得意分野であった化学を活かした環境問題の解決を志して、理系の進路を選択した。しかし、大学入学後、様々なものに触れて視野が広がっていく中で、ビジネスという切り口で環境問題を解決するという社会貢献のアプローチの在り方に気付く。所属したビジネス系インターカレッジサークルでは代表を務め、ビジネスへの知見を深めていった。

大学卒業後は株式会社ガイアックス(以下、ガイアックス)へ入社した。「事業を連続的に生み出すスタートアップスタジオ」を掲げるガイアックスは、自らビジネスを起こし、事業をつくっていくことを直接的に経験できる場であった。

入社3年目には、インターネットでの選挙運動が解禁されたことに伴い、河瀬社長は新規事業として立ち上がったネット選挙事業の責任者を任された。こうした経験から、実務を通して、事業を新しく作っていくことを身につけていった。

仲間内での雑談から生まれた起業のきっかけ

そうした傍ら、河瀬社長は土日の空き時間を使って、友人らと色々なサービスの企画・開発を行う週末兼業を行っていた。仲間内での些細な雑談から「今時の技術を駆使して鍵をもっと便利に改良できないか」こんな発想が生まれたという。そうして開発されたのがAkerunであった。

Akerunのプロトタイプが完成したころ、このプロジェクトが日本経済新聞に取り上げられた。「スマホを自宅の鍵に」というセンセーショナルな見出しは読者への反響が大きく、河瀬社長たちの元に出資や購入の問い合わせが殺到した。

この出来事をきっかけに河瀬社長は、Akerunの本格的な事業化に注力することを決意した。ガイアックス代表の上田祐司社長(以下、上田社長)からの後押しもあり、会社を辞めて当社を起業した。Akerunが世の中に知られるようになってから、フォトシンス設立に至るまで激動の3ヵ月であった。Akerunのプロトタイプが出来上がり、初めて鍵が開いた瞬間は今でも忘れられないという。

事業の立上げと資金調達

創業直後、当社が最初に出資を受けたのはガイアックスであった。経済産業省所管の独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金も獲得したことで、当面の運転資金については確保することができた。他方、製品製造について量産化を図るためには、より多くのまとまった資金が必要であった。

Akerunが日本経済新聞を通じて世の中に知られることになった後、投資家からの出資検討の相談も河瀬社長の元へきたという。当時、ファンドに対しての知見を持ち合わせていなかった河瀬社長は、投資家達との話合いを重ねて出資約束への話を進める一方で、時には、ガイアックス代表の上田社長にも相談をすることで、初めての資金調達に対する不安を解消して進めていくことができた。

「我々の場合は最初の出資者がガイアックスだったのですが、もしも最初がベンチャー視点のない投資家であったら今のようになっていなかったかもしれない。起業前にどういった投資家と繋がっておくかはとても大事なのではないかと思います。」河瀬社長はこう振り返った。

当社は2015年にジャフコグループ株式会社を筆頭に複数のVCからの資金調達に成功し、事業成長を加速させていく。

法人向け製品への事業転換に資金ショートの危機

Akerunは当初、一般家庭をターゲットとした製品として売り出していた。販売早々、モバイル系の電子アイテムに強い関心のある人々を中心に売れ行きはよく、事業の出だしは良かった。

しかし、その後、利用者の利用頻度などをみていくうちに、一般家庭での継続的な利用率が低いことが判明したという。こうした中、顧客の利用状況のデータ分析を行っていくと継続利用率が伸びているのは、法人の販売先であったことがわかった。

家庭向けの市場では一過性のブームに終わってしまう懸念がある一方で、法人向けであれば、様々なセキュリティの課題解決や、個人情報保護など、確かなニーズが存在するのではないか。顧客データの分析や、実際にヒアリングを重ねていく中で、河瀬社長は事業転換の必要性を確信していった。

家庭向けから法人向けに事業転換を行うには、ハードウェアごと刷新して製品を作り直す必要があった。しかし、初回調達での資金が間もなく底をつきそうな中での事業転換は、既存の投資家を説得する必要があった上に新たな資金調達も進めなければいけなかった。

「一度事業に失敗している会社という風に見られてしまっている中で、Akerun Pro(※オフィス向けAkerun)の実績も立っていない、資金ショートも間もなく迫っているという状況で、新たな投資家達に出資を判断してもらわないといけない。ここは非常にハラハラした状況でした。」

河瀬社長はこの局面において、従業員へ自社の現状を説明した上で、全社員一丸となりセールスを行うことで、短期間の間に、Akerun Proの実績を出した。この実績をもって投資家達の説得に成功したという。

さらなる事業成長に向けての資金調達

前述した通り、当社が創業前に日本経済新聞へ取り上げられた際に、複数の投資家から出資検討の相談などのコンタクトがあった。その中の1人がグロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社(以下、GCP)の湯浅エムレ秀和氏(以下、湯浅氏)であったという。

GCPは、主に成長フェーズにあるベンチャー企業へ投資を行っており、河瀬社長が湯浅氏と出会ってすぐに設立したばかりの当社へ投資を実行するということには至らなかったが、河瀬社長は、時間をかけて湯浅氏と情報交換や、事業構想に関する相談・ディスカッションを重ねていった。

投資前からの長期に渡る信頼関係の構築とサポートはGCPの特徴でもあり、このようなコミュニケーションは当社の事業のブラッシュアップに大きな役割を果たした。

そして、法人向け製品Akerun Proの販売が軌道に乗り始め、当社の将来的な成長の蓋然性がより高くなってきた頃、当社は株式公開に向けて事業成長を加速させるためにさらなる資金調達を行った。

この調達機会をもって、当社は、2017年12月、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資し、GCPが運営するグロービス5号ファンド投資事業有限責任組合より投資を受けた。この投資をもって、湯浅氏を当社の取締役として迎え入れた。

ベンチャーファンドを活用して

事業拡大に伴う困難を乗り越える視座の持ち方

株式公開に向けて当社の事業ステージが上がっていくごとに、河瀬社長はこれまで以上に難しい意思決定の場面に直面したり、不足する内部リソースの調達に迫られたという。そうした中、これまでに多くの上場支援を行い豊富な知見を有する湯浅氏には様々な面で助けてもらったと振り返る。

例えば、定例の取締役会においては、湯浅氏に事業戦略・組織戦略において、中長期的な広い視点でのアドバイスをもらい、経営者としての目線を上げてもらったという。時には、GCPの投資先会社の好例を紹介してもらうことで、直面する課題に対する解決のヒントを見つけていった。

GCPによる支援と投資先企業の価値向上を目的とした専門チームGCPX

当社が2021年の上場に向けて佳境を迎える中、GCPは投資先企業の価値向上の専門チームGCPXによる支援を開始した。GCPXは、急成長を遂げる投資先企業を、経営面、組織・人材面、オペレーション面で、経営の上流から多面的な支援を実行していく専門性の高いメンバーで構成されたチームである。

GCPXは特に組織面の戦略と実行のサポートに強みを有する。当社に対して、経営階層の強化支援を軸に、大きく2つ、人材採用の支援と河瀬社長の心理面のサポートを実行していった。

人材採用は、ベンチャー企業が事業を急成長させていく時に、多くの起業家が直面する課題である。GCPは、当社も含め、経営の中心を担う人材を求めている投資先企業を多く抱えている。GCPXは人材エージェントから集まってくる経営人材とこれらのポストを引き合わせ、優秀な人材の採用を後押しする。当社もGCPXの力を借りることで優秀な人材を迎え入れることができた。

また、GCPXのヘッドである小野壮彦氏は河瀬社長の相談役となり、精神面でも支援を行った。河瀬社長の強みや弱みを掘り下げる自己分析、メンタル診断による数値解析などを通して、河瀬社長自身に俯瞰的視点をもたらしたことは、経営上の難しい意思決定において大きな助けになった。

株式公開によって変わった意識の持ち方

2021年11月、当社は東証マザーズ(現グロース)へ上場を果たした。この年に上場した125社の設立年数の平均がおよそ19年であったことを踏まえると、当社の創業から8年での上場は非常に短期間であったといえる。

投資家から資金を集めて短期間での上場を達成するためには、スピードをもった経営判断と効率的な投資による“事業成長が大前提の軸”であった、と河瀬社長はこれまでを振り返る。一方で、上場後の意識の変化については「ステークホルダーも増えたことで、これからはより利益を出すための経営を行い、成果を出していかないといけない。」と話す。そして、「これまで以上に利益を出すということは、お客様により大きな価値を提供していくということ。利益を出す会社として成長していく意識は強く実感している。」と続けた。

今後の事業の展望について

物理鍵に伴う制約から人々を解放するキーレス社会の実現

「起業してから、物理的な鍵をなくしてひとつのIDで様々な場所に出入りできる世界を創っていきたいなと、ずっと思っています。」と言う河瀬社長。物理的な鍵による制約を無くし、1つのICカードや個人を特定する物理的なIDであらゆる扉やゲートにスムーズにアクセスできる “キーレス社会”を当社は目指している。2022年9月時点では、4,848社の法人と契約を結んでいる。オフィス領域では、都内の8.5%のビジネスパーソンがすでに“キーレス”を体験している。

そして、当社は2021年1月、建築用錠前の提供で国内最大手の美和ロック株式会社との合併会社となる株式会社MIWA Akerun Technologiesを設立した。スマートロックとアクセス認証基盤にこれまで蓄積してきたビッグデータを強みとした住宅領域への挑戦である。

スマートロックを起点に、当社が構築するアクセス認証基盤がセキュリティの担保となり、住宅領域で展開される家事代行や宅配、見守りなどの様々なサービス提供事業者と提携することができれば、ユーザーが多くのサービスを、効率よく、よりシームレスに享受することができる世界が広がる。

当社が目指すキーレス社会は、これまでに様々な空間を分断してきた壁を取り除き、あらゆるものごとがシェアされ、よりスムーズに、より安全に繋がっていく未来を実現する。

社長から起業家を志す方へのメッセージ

自分の未来をどこまで信じられるか、そしてそれがどれだけ確信として強いものであるか、が起業家にとって最も重要です。どんなに苦しい状況になったとしても、組織がガタガタになったとしても、資金調達ができなかったとしても、その信念が自分の気持ちの拠り所になり、組織を崩壊させない、キャッシュアウトさせない馬力に転換していくことができるのです。未来を信じる力を持って、頑張っていただきたいです。

私には、せっかく世の中に生まれてきたのであれば、自分の爪痕を残したいという思いがあります。河瀬航大が死んでもフォトシンスは存在し続けるので、子育てをしている感覚に近いですね。私にとって事業を立ち上げることは、世界を変えること。将来の世代でもいろいろな方に貢献し続けられることは非常に面白いと感じます。それができるように、自分自身に永遠に挑戦し続けたいです。

  • 河瀬航大社長の顔写真
    河瀬航大社長

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

投資判断のポイントは、キーレス社会の実現という壮大なビジョンと潜在的な市場規模、顧客のペイン(課題)を解決し確かなメリットを提供する強いプロダクト、河瀬社長をはじめとする優秀なメンバーの3点です。また、創業当初から初回投資まで約3年間かけて関係構築するなかで、事業や組織の着実な進捗とその背景にあるPDCA力や推進力を高く評価し、今後の更なる成長ポテンシャルに期待して投資しました。

中小企業成長支援ファンドの視点からみた同社の成功要因

事業フェーズに合わせて会社を進化させ続けた経営力が大きいと考えます。創業当初は強いビジョンと仲間集め、その後はプロダクト作り、さらには拡販のためのマーケティングや営業体制構築、そして事業複層化のための他社連携や新規事業、と上場までの8年間のなかでも変わりゆくテーマに取り組みながら大きな変化を遂げてきました。キーレス社会の実現に向けて、今後の更なる進化を応援しています。

グロービス・キャピタル・パートナーズ 湯浅エムレ秀和

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
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