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株式会社 櫻製油所

事業承継のための両者円満な優しいM&A

会社概要

事業内容

エンジンオイル、潤滑油の製造販売

本社所在地

大阪府大阪市平野区加美北7丁目7-37

ホームページ
創業

1936年

資本金

90百万円

ファンド事業

中小企業成長支援ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

日本協創1号投資事業有限責任組合
(日本協創投資株式会社)

事業概要

機械が動いていくうえでは欠かせない「潤滑油」を専業に85年

株式会社櫻製油所(以下、同社)は、大阪府大阪市に本社を置く潤滑油の製造会社である。創業以来、潤滑油の製造販売を中心に事業を成長させてきた。

同社は、自動車用潤滑油を中心に、産業用潤滑油などの製造販売を行っている。自社ブランドに加えて、相手先ブランドの商品企画からオイルだけではなくパッケージングまでの製造を請け負うOEM製品を得意としている。

品質面においては、エンジンオイルの国際規格「API」(アメリカ石油協会が定めた自動車のエンジンオイルに関する規格)を獲得している。安心・安全で高性能なエンジンオイルとして認知され、顧客やユーザーから製品に対する高い信頼と評価を獲得している。

こうしたことから、日本国内にとどまらず、海外からの引き合いも多く、中国を中心としたアジア諸国や中東にも製品を輸出販売している。

顧客からの細かな要望にも応える多品種小ロット生産が強み

同社は石油元売り会社から仕入れたベースオイルと添加剤メーカーから仕入れた添加剤を原材料に潤滑油を製造し、自動車パーツ等卸売業者や、ホームセンターなどの小売業者への販売を行っている。

同社が扱っている製品は、乗用車やハイブリッド車向けの高性能なエンジンオイルが中心である。多品種小ロット生産を可能とする生産体制が同社の強みであり、顧客からのエンジンオイル粘度の細かな調整の要求にも対応ができる「深さ」と、自動車用潤滑油以外にも、油圧作動油、コンプレッサオイル、切削油、など工業用潤滑油を合わせて100種類以上の潤滑油の製造に対応ができる「幅」を兼ね備えている。

こうした強みの源泉を支えているのは、同社が三四半世紀以上にわたって潤滑油専業で培ってきた高度な製造技術と、社長川口達夫氏の潤滑油に対する真摯な研究姿勢である。

  • 同社HP掲載の商品イメージ
    同社の商品(同社HPより)

中小企業成長支援ファンドに出会うまでの経緯

社会の公器としてこの先もずっと残っていく会社にしたい

1936年、創業者である川口達氏が廃油から再生した潤滑油を販売したのが同社の始まりである。2代目である長男の川口修氏は、新油を原料とした潤滑油の量産を始めた。そして、2011年に3代目となる孫の川口達夫氏(以下、川口氏)に事業が引き継がれた。

川口氏は社長になる以前から、“小さい会社であっても社会の公器でなければいけない”という強い想いを持っていた。そして、川口氏は、会社が社会の公器である以上は、経営者となった自分が株を多く持って会社への支配を強めていくのは間違いであり、将来のさらなる発展と成長を望める事業体に株式を所有してもらうことで、会社を永続的に存続させる「会社の所有と経営の分離」の考えを持っていた。

10年先、20年先の自社の在り方を見据えて、ファンドからの出資の受入れを決意

事業承継を考えた時に、家族経営の延長にあり社長個人へ依存した今の在り方ではなく、組織としての基盤を盤石にするべく、専門家に診てもらいたいという想いに至った。そして、川口氏はM&A仲介会社を訪ねた。

M&A仲介会社より紹介を得たのが日本協創投資株式会社(以下、日本協創投資)である。川口氏は、日本協創投資の会長(当時社長)である櫻田氏との議論を重ねた末、2017年7月、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資し日本協創投資が運営する日本協創1号投資事業有限責任組合より出資を受けた。

ファンドを活用して

はじめに事業基盤の整備に着手

ファンドによる支援を受けるにあたって同社は、取締役に櫻田氏と仁井氏の2名、外部監査役に吉田氏の1名を、日本協創投資から新たに迎え入れた。

日本協創投資は、事業規模の拡大に比べて事業基盤の整備が追いついていなかった同社に対して、まずは、労務管理の整備と、財務管理のアウトソーシング化を行った。前者では、従業員の労働時間を正確に把握することで、業務の安定化を図った。後者では、手書きで行われていた財務入力に対して、システムを導入して効率化を図った。

試験機械の導入による品質管理の強化

次に、設備投資における難しい局面の意思決定において、日本協創投資は川口氏にとって大きな力となった。

設備投資について、同社は潤滑油試験機械の追加と、ベースオイルを温めるサーキュレーションヒーターの導入に踏み切った。川口氏は、これらの設備投資は金額が大きいことから、採算の合う投資なのか、資金面での財務安全性は保たれるのか、などの不安を抱いていたが、櫻田氏と仁井氏の両氏から、財務数値算出などによるファイナンス面での適切なアドバイスをもらいながら進めることができた。

試験機械の導入により、大手企業から要求される基準をクリアできる品質管理体制が備わったことにくわえて、配合する添加剤の量を厳密に把握することができるようになり、原価率の低減にもつながった。

日本協創投資は川口氏の決断を後押ししてくれるパートナーとして伴走してくれた。

  • 導入された試験機械
    導入された試験機械(機構担当者撮影)

今後の事業の展望について

2021年、ヤシマホールディングス株式会社と資本業務提携へ

2021年5月、同社は日本協創投資による約5年間の支援の末に、ヤシマホールディングス株式会社(以下、ヤシマホールディングス)と新たに業務資本提携を締結するに至った。日本協創投資の櫻田氏は、支援ファンドとして今回のM&Aの相手先としてヤシマホールディングスを選定した。決め手は「同じ大阪で同じ自動車関連の会社ということもあり、櫻製油所が持っているノウハウは大きな相乗効果が見込めると思った。また、事業を大きくしていこうとしているヤシマホールディングス山本社長の明確なビジョンは櫻製油所にも合っており、この2社が一緒になれることはとても良いことだと思った。」という。

同社は、元々ヤシマホールディングスと取引のあった仲であり、川口氏としても相手のことをよく分かっていた。この一連のM&Aについて、川口氏は「櫻田さんが入らなければ起こりえなかったことであり、とても喜ばしいこと。」と振り返る。

事業環境の変化も見据えた新分野への展開

石油元売り会社の技術進展によるベースオイルの性能向上や、自動車業界の環境へ配慮したエコロジーなクルマの開発など、同社を取り巻くエンジンオイル業界の事業環境は常に激しい変化にさらされている。

そうしたなか、2021年6月、同社は、川口氏が同志社大学とかねてより共同研究で進めていた磁性流体のCPU冷却装置(化学合成オイルを磁化し磁場の中で電磁誘導することによって、CPUを無動力で局所冷却させることができる装置)の開発に成功した。同志社大学と川口氏が5年以上をかけて行ってきた研究の成果がようやく花を開いた。

本装置は動力やエネルギーを用いずにCPUを冷却できることから、大手電機メーカーからも強い興味を示されている。既に技術特許も申請済みであり、同社にとって、新分野展開への足掛かりとなっている。ヤシマホールディングスの元、同社はさらなる成長に向かって走っている。

川口社長から事業承継に悩む経営者の方へのメッセージ

事業承継について悩む経営者はたくさんおられる。M&Aは事業承継の有効な手段の一つであり、怖がる必要はありません。ただし、買い手が信頼できる人であることが大前提です。ファンドを含めて、相手先企業としっかりと話し合いを進めていくことで、両者が円満で幸せなM&Aにもなる。

私は社長に就任した当初からずっと、長い時間をかけて従業員に向かって会社をよくするための話をしてきました。会社の所有と経営の分離の必要性についての話もしてきました。そのため、日本協創投資との資本提携や、今回のヤシマホールディングスとの資本提携の際にも、スムーズな組織移行が図れました。丁寧な話し合いを行っていくことで、良いかたちの事業承継に取り組んでいただきたいと思います。

  • 川口達夫社長の顔写真
    川口達夫社長

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

櫻製油所は、エンジンオイルを中心とする潤滑油の製造・充填・配送を一貫して営む大阪の会社で、少量多品種のPB(プライベートブランド)・OEM対応と新興国輸出に強みを持っています。「他社の手掛けないことをやる」というキラリと光る強みと、地域に於ける残存者利益を取るという明確な戦略に強い関心を持ちました。そしてそれを可能にする営業力とノウハウが、川口社長のリーダーシップの下、役職員全員にしっかり根付いていることを確認し、それに私たち日本協創投資が提供できる付加価値を組み合わせれば、同社のさらなる発展が実現できるという確信から投資実行に至りました。

成長支援ファンドの視点からみた同社の成功要因

日本協創投資の櫻製油所に対する支援コンセプトは「柔軟な打ち手の展開を可能にする経営情報のデータ化・趨勢分析と、個人が有する経験に基づく知識・ノウハウの形式知化」並びに「営業・管理・製造・配送部門が情報を共有し、データに基づく判断と意思決定ができる組織経営への移行」の2点でした。

前者に関してはアウトソーシングも活用しつつ、伝票・見積・在庫情報等を手書きからデータ化し管理・蓄積することで、顧客/製品別粗利を月次で把握できる体制を構築し、顧客動向を見える化した上で営業戦略が策定できるようになりました。また、後者に於いては、月々の財務原価と管理原価との原価差異率を徹底して分析して低下させた上で、そのような過程とデータを全社員で共有することで、利益率が安定していきました。中小企業は、大企業に比べ、どうしても為替・原油価格の急変やコロナ禍などのマクロ経済の波に業績が左右されがちですが、このような基本的な経営手法を全員で構築・活用することで、逆境でも利益を出し、次を見据えた施策が打てる企業体質を実現できたと考えます。

私たちのエグジットに関しても、ヤシマホールディングスという、同じ大阪で自動車周辺化学品を手掛け、次代を創る若い世代の経営者が引っ張っていらっしゃる会社に、志高い企業理念と企画・営業力をお持ちの川口社長率いる櫻製油所をお引き受けいただきました。親族間ではありませんが、発展的な「事業承継」を実現できたのではないかと嬉しく思っています。お二人と両社のコンビネーションが、さらなる事業の成長と従業員の皆様の幸せを実現されることを確信しています。

日本協創投資株式会社

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
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