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株式会社ビザスク

壁の向こうのイノベーションを目指して<IPOインタビュー>

2020年3月、株式会社ビザスクが東証マザーズへ上場した。

同社はビジネスの知見を持つ個人と、そうした知見を求める企業とをマッチングする日本最大級のナレッジプラットフォーム「ビザスク」を運営している。ビザスクは今や国内外13万人が登録する、ナレッジ(知見)シェアリングのプラットフォームだ。

メインのサービスである「ビザスクinterview」では、法人クライアントの依頼を受け、ビザスクが専門的な知見を有するアドバイザー候補の選定やインタビューの設定等の一連のマッチングプロセスを全面的にサポートし、1時間単位のスポットコンサルを提供する。

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    サービス画面
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    オンラインスポットコンサルシーンのイメージ

この他、オンラインアンケート形式で多数のアドバイザーの知見を収集できる「ビザスクexpert survey」や、1時間単位ではなくプロジェクト単位でコミットできる業務受託アドバイザーをマッチングする「ビザスク partner」等のサービスを展開している他、2020年には初の海外拠点(シンガポール共和国)を設置し、米国のテックカンパニーであるDeep Bench Inc.と資本業務提携を行う等、海外にも事業を拡大している。

上場前、同社は事業拡大にあたり2014年、2015年の2回、複数のファンドから合計約3億円を調達していた。創業の経緯と当時の資本政策について、同社代表取締役CEOの端羽英子氏に話を伺った。

会社概要

事業内容

ビジネス分野に特化したナレッジプラットフォーム「ビザスク」の運営

本社所在地

東京都目黒区青葉台4-7-7 9・10階

ホームページ
設立

2012年3月

資本金

385百万円(2020年11月現在)

売上高

983百万円(2020年2月期現在)

従業員数

139名(2020年11月現在)

ファンド事業

中小企業成長支援ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)
  • DACベンチャーユナイテッド・ファンド1号投資事業有限責任組合
    (ベンチャーユナイテッド株式会社)
  • CA Startups Internet Fund 1号投資事業有限責任組合
    (サイバーエージェント・キャピタル株式会社)
端羽代表取締役CEOの写真

代表者プロフィール

代表取締役CEO 端羽英子 氏

2001年に東京大学を卒業後、ゴールドマン・サックス証券で企業ファイナンスに従事。出産のため退職。米国公認会計士資格を取得し、日本ロレアル(株)で化粧品ブランドの予算立案・管理を経験。その後、2004年に渡米し、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてMBAを取得。帰国後、ユニゾン・キャピタル(株)でバイアウト投資を5年間担当し、2012年3月にビザスクを設立。2020年3月、マザーズ上場。

創業の経緯

ダメ出しを受けた貴重な1時間が、ビジネスモデルにつながる

MITに留学された時には、将来起業したいという思いがあったそうですが、ビジネスモデルを具体的に考えられたのはいつ頃ですか。

端羽氏:起業しようと思ったのが2011年です。ビジネスモデルを考え始め、いろんな本を読んだりして調べました。そこで出会ったのが『SHARE』という、2010年の終わりに出版された本です。初めてUberやAirbnbを知り、こういう個人が売り手になれるプラットフォームがあるんだ、面白そうだ、と思いました。

すぐに知見のシェアということに着目されたのですか。

端羽氏:当初は個人の経験に基づいた物を売るECプラットフォームの立ち上げを考えていました。どういうものなら売れるのか色々考えた中で、熊本出身の私が選ぶ名産品とか、金融出身の私が選ぶ電卓とか、人にモノをお薦めできるキュレーション型のECサイトにアイデアが行きついて。

会社にも辞めると伝え、楽しくビジネスモデルを磨いていたら、当時の同僚に「起業家に話を聞いた方が良いんじゃない?」と言われ、ECの立ち上げ経験がある起業家を紹介してもらいました。その人に会いに行った時、1時間にわたってコテンパンにダメ出しをされたんですね。でも私は「この1時間にお金を払える!」と思った。これが今のビジネスモデルを考えたきっかけです。

そのインタビューの後、アメリカには実務経験のある専門家と企業を繋ぐサービスがあることを知りました。なぜ日本で流行っていないんだろうと調べるうちに、これは行けるかも、と。

日本で流行っていなかった理由をどう分析されたのですか。

端羽氏:日本人の謙虚さ、あとは当時まだ働き方改革も進んでいなかったこともハードルになって、貴重な知見の出し手に全然登録してもらえていないんだと思いました。例えば半導体業界に20年務めている人がいても、自分はこれに詳しいという自己認識をしていないんですね。当時はクラウドソーシングが注目されていた時代だったので、知識の分野のクラウドソーシングという言葉で自分たちを表現して、考え方を広めてきました。

資金調達とIPO

フィジビリティ・スタディを経て応援団を得る

2012年に創業後、2014年に資金調達をされています。外部資金を入れるきっかけは何ですか。

端羽氏:エンジニアに手伝ってもらい、2012年の年末にはベータ版を出しました。これはクローズドで知人に使ってもらうつもりのものだったんですが、うっかりオープンになっていて、知らない人が使い始めていました。その頃、もっとサービスを大きくしていきたいと思うようになったのと、エンジニアがフルタイムで仲間になっても良いと言ってくれたこともあり、会社として外部資金が必要だと思い、2013年の春頃から資金調達を考えました。

ベンチャーキャピタル(以下、VC)に話をしに行きましたが、上手くいかなくて。いろいろと調べていると、経済産業省が『多様な人活支援サービス創出事業』という実証実験に参加する企業を募集しているのを発見しました。これだ、と思い、締切が2日後に迫っていたのですごい勢いで申請書を書きました。幸い採択され、いただいた2,000万円の事業費が、最初の外部資金です。

この経済産業省の事業では、成熟産業から成長産業にどう人を還流させるのか調査する目的で、出向をマッチングするような実証実験が行われていて、私たちは、経験とスキルを積んだミドル層の知見を、1時間のインタビュー形式で他社へシェアする可能性について、大企業等へのヒアリングを行いました。その調査目的自体、私たちのビジネスモデルを検証することにすごく近く、VCの方からも面白いねと言ってもらえるようになり、ベンチャーユナイテッドとサイバーエージェント・キャピタルから出資を受けることが出来ました。

ファンドから資金調達をすると、最終的にはEXITイベントを用意する必要があるわけですが、最初から上場を目指されていたのでしょうか。

端羽氏:残るビジネスを作りたいと思っていたので、当初は、上場じゃなくて、M&Aでも良いと思っていました。最初に資金調達に動いた時には、上場はコストが高いこともあり、むしろM&Aの方が良いと思っていたから上手く行かなかったのかもしれない、と思います。

2014年に出資を受ける頃には、シード期の投資をするVCの人たちの考え方として、ベンチャーは失敗率が高いから、大きなホームランを狙う事業に資金が集まるんだということがわかってきました。私たちはインターネットビジネスを作っていく上で絶対に外部資金が必要なことがわかっていたので、まじめにIPOを考えた方が良いんだな、と。IPOを目指す計画を立て、別のVCの人に資料をチェックしてもらったりしたうえで、当時出資を受けたVCへのプレゼンに臨み、何年にIPOを目指します、と言い切りました。

出資を受け、当時のVCからの支援で役に立ったと思われることは何ですか。

端羽氏:一番感謝しているのは、売上が全然立っていない頃に応援団でいてくれたことです。当然失敗はたくさんするし、わからない、検証できていないこともたくさんある中で、あなたを信じて投資した、あなたなら出来る、ということを、私に対してだけではなく、チームメンバーの前でもずっと言い続けてくれました。私がチームをリードすることを支えてくれたのが、シード期の一番苦しい時期に感謝していることです。

エクイティとデットの活用、事業成長のためのIPO

2015年に2回目の資金調達を行われていますが、この時はどういう目線で調達先を探されたのですか。

端羽氏:2回目の時は、自分たちの次の成長をサポートしてくれる人に出資してもらいたいと思っていて、当時から海外展開を考えていたので、グローバルに投資を行うVCにお願いしました。

また、当時、想定していたよりも多くの大手メーカーの方々にサービスを利用していただけるようになっていたのですが、そういう大企業の顧客からも納得が得られるような株主も必要と感じて、メガバンク系のVCにも出資をお願いしました。

投資を受けてからの変化があれば教えてください。

端羽氏:グローバルVCの方は、中国のベンチャーはもっとすごい勢いで成長しているよ、とか、こういう風に急成長しているスタートアップがあるよ、とか、とにかく目線をずっと引き上げてくれました。それはシード期の支援とは違う良さで、もっと早く成長しないと、というプレッシャーになりました。私とCTOとでVCの方との1時間の面談を終えると、いつも、一日分の仕事をした気がするね、と言い合っていました。

2020年の上場まで、ファンドからの資金調達は2回、計3.3億円ということで、額としては比較的大きくないと思いますが、どのような調達計画だったのでしょうか。

端羽氏:私自身は、エクイティであと1回調達しても良いと考えていました。当時、支援してくださっていたベンチャー企業CFOの方が私たちのデータを見て、借入ができるとアドバイスくださったので、それなら借入をしようと。しかも、日本政策金融公庫には5年間も返さなくて良い素敵なローンがあるらしい、と(挑戦支援資本強化特例制度)。そのローンが組めなかったら、エクイティで調達していましたね。

2020年3月、東証マザーズに上場を果たされましたが、上場のタイミングはVCからの要望があったのでしょうか。

端羽氏:いいえ。VCの方からは、もっと遅く、もっと成長してから、と言われていました。でも、私たちは新しいマーケットを作っているので、社会からの信頼が自分たちの成長ドライバーになる、と感じていました。社会からの信頼を得る一つの手段として、上場企業になることに意味がありました。

資金調達から株式公開までを振り返って、もっとこうしておけば良かった、と思われることはありますか。

端羽氏:そうですね……上場前に、当時の時価で、数年先の分のストックオプションを作っておけば良かったと思いますね。その時の実力値で、そこから先の成長を作った人の頑張りに報いることができるようなインセンティブを設計しておけば良かったです。上場後にもやるつもりですが、上場前にやっておけば、損益に影響せず、数年後のストックオプションのプールをある程度自由に設計できたので、成長材料の一つになったんじゃないかと思います。

今後の展望

組織、世代、地域の壁を越えて

2020年には、シンガポールに拠点を設立されたり、アメリカのベンチャー企業と資本業務提携を行われたりしていますが、今後は、海外展開を強化されるのでしょうか。

端羽氏:私たちは創業当時からグローバル展開を見据えていて、2020年以前から海外マッチング事業を展開しています。ベンチャー企業でも大企業の新規事業でも、イノベーションには知見が必要です。でも、海外進出の時にしか海外のことを調べないことがまだまだ多い。情報がもっと国境を越えて活用されるべきと思っています。例えば、私たちが日本でビジネスモデルを考えた時は、海外の上手くいっているサービスを参考に、どうしたら知見のマッチングが日本でうまくいくだろうと考えながらビジネスモデルを作ってきました。地域や言語の壁を越えて、必要な知見が手に入るグローバルなプラットフォームでありたいので、特に海外展開を推進しています。

国内では、働き方改革の流れで引き続き注目が集まっています。

端羽氏:創業当時から、「組織・世代・地域の壁を越えて知見をつなぐ」と言っています。組織の外から中が見えない状態や、副業の壁を越えたいし、定年や介護、子育てで離職すると見えなくなるといった、ライフステージや世代間の壁も越えたい。地域の壁は、地方と東京、日本と海外といった壁。この3つの壁を越えたいということを言い続けています。働き方改革の流れで、私たちがやりたいことはこれです、と認知されやすくなったと思います。

中小機構としては、中小企業の利活用促進に向けた今後の展望も伺いたいと思います。

端羽氏:ビザスクliteというサービスは、1時間平均2万円くらいでスポットコンサルを活用いただけるので、実際に、私たちのようなベンチャー企業や、北陸の美容院の方、北海道のサービスアパートメントの方など様々な方が使ってくださっています。プラットフォームとして多くの方に知見を提供していくことが使命なので、ビザスクliteももっと伸ばしていきたい。そのために、誰もが登録すれば使えるサービスですが、決済方法を個人ではなく請求書ベースで使えるようにする等、機能を拡充し、より多くの方に広げる取り組みを行っています。

地域金融機関との提携も進めています。何か問題を抱えた時に、全く会ったことのない人に相談できるような方はそう多くはありません。まずはそうした企業を支える地域の金融機関の方々に広め、相談したい企業がきちんと問題設定ができた時に、正しく、最適なアドバイザーがビザスクで見つかることが伝わる、そういう循環ができていくと良いなと思っています。

最後に、これから起業する方へのアドバイスをお願いします。

端羽氏:「ゼロよりプラス」。何か動いた分だけプラスになります。いきなり100点を目指さなくても良いんです。100点を目指して何も動けなかったらゼロのままだから。動いて、七転び八起きしながら、それでもゼロよりプラスの方が良いじゃないですか。いろんな人に話をきいて、いろんなトライをやってみて、動いた分だけゼロよりプラスなんだと思って、挑戦してほしいです。

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

投資時点では「働き方改革」や「オープンイノベーション」という言葉はなかったものの、企業を取り巻く経済や社会環境が複雑化していく中で、自社内の知見やノウハウだけでは解決できない課題が増えてきている他、新たな事業開発の必要性が高まる中では、外部の知見の活用は今後大きく増していくと見込んでいました。

こうした環境の中で様々な人の協力を得ながらビザスクをスタートさせていた端羽さんであれば、この事業の立ち上げに必要な、顧客とアドバイザーの双方をしっかり獲得することが期待でき、事業成長を実現できる数少ない起業家であると見込んで投資させていただきました。

ファンドの視点から見た、同社の成功要因

顧客企業を開拓するための体制整備を進めて受注を増やし、その上で顧客企業からの注文に応えるためのアドバイザー獲得を進め、アドバイザーが増えることで顧客企業の注文により一層応えられるようになるという、事業拡大の良い循環に入れたことが成功要因であると考えます。

また、事業を拡大していく上で必要となる優秀な人材を集めるために、ビザスクのVALUE等を定め、全社一丸となって採用活動に注力したことも成功要因であると考えます。

ベンチャーユナイテッド株式会社

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。
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