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株式会社十勝野ポーク

家族に食べさせたい、毎日食べたい豚肉で日本の食卓に笑顔を

会社概要

事業内容

養豚業

本社所在地

北海道河西郡中札内村元札内東1線414番地2

設立

1994年9月

資本金

8百万円

売上高

非公開

従業員数

24人(2020年10月末時点)

ファンド事業

中小企業再生ファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

北海道オールスター2号投資事業有限責任組合(株式会社北洋キャピタル、 ロングブラックパートナーズ株式会社、REVICキャピタル株式会社)

事業概要

北海道十勝の気候と養豚

株式会社十勝野ポークは、北海道の中央南部、標高1,500~2,000メートル級の山々が連なる日高山脈の山裾に位置する中札内村で現在約5,000頭の豚を飼育している。中札内村には日高山脈の中心部を源とする清流札内川が流れ、恵まれた自然条件下で畑作や酪農、畜産が行われてきた。

  • 中札内村の風景画像
    中札内村の風景(同社ホームページより参照)

当社の銘柄豚「十勝野ポーク」は三元豚と言われる三種類の豚を掛け合わせた豚である。札内川からの良質な伏流水と安全性を考慮した栄養価の高い自家指定配合飼料を食べて育ち、肉質がきめ細かく、軟らかな赤肉、しっとりと甘みとコクのある脂身で、けもの臭がきわめて少ないのが特徴だ。

かつて中札内村には養豚団地と呼ばれたほど養豚農家がいたが、現在は当社を含め二社のみとなっている。しかし、お互いが離れて立地しているため周辺の農場から病気がうつるリスクが低いこと、また北海道には、東北以南で発生している豚熱(豚コレラ)の感染源となるイノシシが生息しないことは養豚業を行う上での利点となっている。

  • 十勝野ポークの品種イメージ画像
    三元豚「十勝野ポーク」(同社ホームページより参照)

養豚業について

豚飼養戸数は北海道に限らず全国的に減少しているが、近年は農場の大規模化が進展し、一戸当たり飼養頭数は増加し続けている。飼育頭数を増やすためには産子数を増やすこと、病気への感染を防ぐことが必要となる。

産子数を上げるためには、母豚をしっかり管理することが重要となる。母豚は生後200日で最初の種付けをした後4か月で出産、出産後3週間は授乳期間、授乳が終わった後5日で再度種付けという流れを繰り返すのだが、種付けのタイミングを逃すと次の発情周期まで21日空いてしまう。そのため、母豚の状態を管理することで、種付け後の受胎率を上げたり、産子数や出荷数を増やしたりすることができる。

  • 出産前の母豚の写真
    出産前の母豚(機構担当者撮影)
  • 母豚を管理する生産管理システムの写真
    生産管理システムを活用し母豚を管理(機構担当者撮影)

また、豚は病気にかかりやすく、治りにくい動物であるため、肥育前に病気にかかると発育が遅れ、出荷できなくなったり、死亡率が増加したりする。そこで、飼育環境を清浄にし、病気の原因となるものを一切持ち込まないような環境を整えることで、病気を持たない豚を生産できる。

衛生管理の行き届いた豚舎

同社では特定の慢性疾病を排除するための飼育を行うSPF養豚より、さらに菌数、ウイルス数がない状態を作り出すハイヘルス化への取り組みを行っている。ハイヘルス化を行っているGP農場は野生動物等の侵入を防ぐため金属の柵で囲まれており、飼料や燃料は柵の外の貯蔵タンクに供給された後、パイプラインを使い農場内に運んでいる。また、農場に持ち込む物品等は燻蒸処理を行う。人が農場内に出入りする際には、全身をシャワーで洗浄し、服や靴など身に着けるものは全て農場内のみで使用するものに着替える。海外渡航した後は2週間農場には入れない。農場に病気を入れない、そして持ち出さないことが大事なことである。

  • 飼料が通るパイプラインの写真
    飼料はパイプラインを通って農場内へ(機構担当者撮影)

豚舎は種付けをする交配舎、母豚が子豚を育てる分娩舎、離乳後集団生活を始める離乳舎、出荷まで飼育する育成舎に分かれている。交配舎では、豚は一頭ずつゲージに入っている。これは雄同士はけんかをしないよう、雌は種付け前後で休息できるようにするためである。

  • 人口受精を行うために精液を管理する様子の写真
    人工授精を行うための精液の管理も徹底(機構担当者撮影)

分娩舎では、親子ごとにゲージが分けられている。また、母豚が子豚を踏んで殺してしまわないよう母豚と子豚のスペースを分け、子豚は母乳が飲めるよう足元から出入りできるようにしている。子豚が成長し離乳舎へ、母豚が交配舎へ移ると、徹底した水洗・消毒を行ってから出産を終えた次の母豚と子豚を迎えるようにする。

  • 分娩舎で母豚の傍を出入りする子豚の写真
    分娩舎では母豚の傍を子豚が出入りする(機構担当者撮影)
  • 洗浄・消毒された分娩舎の写真
    洗浄・消毒された分娩舎(機構担当者撮影)

離乳舎・育成舎では、発育段階ごとに飼育スペースが分かれており、餌も調合を変えている。餌は筒状のベルトコンベヤーで天井から運び、糞尿も豚舎の床を全てすのこにして床下に落として大型のベルトコンベヤーで運んでいるため、非常に清潔に保たれている。また、離乳舎・育成舎は豚を一斉に導入、移動させ、空になった豚舎を徹底して洗浄・消毒することで衛生管理を行っている。

  • 離乳舎の子豚の写真
    離乳舎の子豚(機構担当者撮影)
  • 清掃の行き届いた豚舎の写真
    清掃の行き届いた豚舎(機構担当者撮影)
  • 洗浄・消毒された餌場の写真
    洗浄・消毒された餌場(機構担当者撮影)

このように、ハイヘルス化されたGP農場で飼育された豚は受胎率、産個数、出荷数も増加し、収益性を上げて安定して生産できるようになってきたという。

再生ファンドに出会うまでの経緯

同社の渡邉広大社長(後述、渡邉社長)は高校卒業後、6年間航空自衛隊で勤務していた。消防車から重機まで様々な車の整備を担い、航空救難隊と一緒に救助訓練をしたこともある。その後、2年間食肉ディーラーで営業を学び、当時実父が経営していた同社に入社。社長に就任したのは、同社が2012年に最初の再生計画を策定した際に金融機関からの要請を受けたときで、入社から5年後のことだった。当時を渡邉社長は、「事業承継が降ってきた」と振り返るが、それでも引き受けたのは、「養豚業は他の会社に任せてしまおうと思えばできる。でもそうするとリストラされる社員もいるかもしれない。」と思ったからだそうだ。

後に二人の弟も同社に入社しそれぞれ農場、施設管理のトップを担うようになり、母も常務として支えてくれた。「幸いなことに仲のいい兄弟であったし、家族だからこその信頼感は精神的にも良かった。」と渡邉社長は語る。

  • インタビューに応じる渡邉社長の写真
    渡邉広大社長(機構担当者撮影)

社長就任時にあった課題

社長就任時の同社は売上計画、再生計画を立てても厳しい状況で、最初は弁護士と一緒に売掛金や借金の回収から始めたという。農場経営をする上で困ったときには、取引関係者や地元の経営者に積極的に相談して技術指導等の支援をしてもらったり、資金が必要な時は計画を作って金融機関に説明に行ったりして、業績の改善に努めてきた。また、事業整理も行い、加工品の販売事業を譲渡し、農場事業に絞り、生産品種を変えてコストパフォーマンスを上げて、美味しい安全な豚を安定的に生産する方針に舵を切った。養豚業は生産量に波があることが多く、生産を安定化させていこうと農場HACCP認証も取得した。

また、社長就任時は良い人材が退職してしまい人が足りず、残った人数で農場をどう回していくか、新しい人をどう集めるかといった人材面でも課題があった。そこで、J-GAP認証を取り、従業員の労務管理や安全管理をしっかり取り組むようになった。従業員には、面談に加え、養豚業界の流れや豚舎、飼育ステージごとの話に加え、会社の方向性、会社がどんな考えを持っているかなど社員向けの勉強会も社長自ら行い、HACCP関係は農場コンサルとして獣医の先生を招いて勉強会を開いてもらっている。また、バーベキュー大会等の交流会の場を作ったり、基本的には8時間労働とし超過した際は残業代を支払うようにしたりして社員が楽しく仕事ができるよう雇用条件の改善等を進めてきた。その結果、定着率は上がり、最近では求人募集をしても採用ができるようになってきた。また、渡邉社長自身、大型重機の取り扱いができる資格を所有していること、力仕事に向いていること等自衛隊での経験が生かせたことから、自衛隊の定年退職者の合同説明会で募集をしたところ、2名が入社している。

  • 豚を個体管理する様子の写真
    出荷する豚は個体管理(機構担当者撮影)

被災からハイヘルス化への挑戦

渡邉社長の下同社は業績改善に取り組んできたものの計画どおりの再生を妨げたものとして同社が度重なる災害によって被害に見舞われたことが挙げられる。台風被害による農場の水没、豪雪による豚舎の倒壊、雷による停電で換気扇が止まり窒息死する等、毎年のように被害を受けてしまったのだ。そこで、災害に負けない体制を作ること、現在GP農場のみで行っているハイヘルス化をCM農場にも行うことで業績改善の起爆剤とすべく、取引先金融機関から紹介を受け、2020年3月、独立行政法人中小企業基盤整備機構が出資し、株式会社北洋キャピタル、ロングブラックパートナーズ株式会社、REVICキャピタル株式会社が運営する、北海道オールスター2号投資事業有限責任組合より投資を受けた。

再生ファンドの活用について

投資後のハンズオン

現在ファンドからの投資を受け、CM農場でハイヘルス化の工事が行われており、完成すれば1万頭の豚を飼育でき、GP農場と合わせて1万5千頭の豚を飼育が可能になるという。また、GP農場も取引先から指導を受けながら、飼育頭数を増やす努力を続けている。

ファンドからは投資と同時に社外取締役も受け入れた。現在は取締役が月2,3回は札幌から同社を訪問し、経営管理体制のサポートを行っている。そのうちの一人である株式会社北洋キャピタルの担当者は同社について、「社長を含め会社の雰囲気が抜群に良かった。家族経営で風通しがよく、コミュニケーション力が高い。」と語る。ただし、会社がさらに大きくなっていく可能性が十分にあるため、家族間の会話で経営に係る判断が終わらないよう、取締役会や取引先との会議の体制整備や議題への適切な対応ができるよう支援を継続していく。また、動態管理、農場や財務、ガバナンス強化をセクションごとに確実に行っていけば、頭数を増やしつつ波を作らずに安定した生産を行っていけるようになっていくと見込んでいる。

今後の事業の展望について

日本の自給率に貢献できる安定した生産を

渡邉社長は就任後すぐに基本理念と会社方針を立てている。会社方針の中にある、「会社の発展と共に日本の自給率に貢献する。」という言葉には、国内の生産者がしっかりと生産をし、安定的な供給をすることで日本の食卓を守ることが、引いては日本の外交交渉や防衛力の強化に繋がるという思いがある。また「コストパフォーマンスの良い豚を生産する」ことで、利益を上げ現在行っている再生計画を達成することができれば、働き方改革を一層進め社員に還元していきたいと考えている。「雰囲気のいい会社にして社員に地場で長く働いてもらうことで地元に貢献できる企業を目指したい。また、農場をより大きくして自分が引退するときには、事業承継をできる会社になるよう安定した農場にしたい。」と渡邉社長は語った。

社長になってからやりたいことの何合目にいるかと尋ねたところ、「やっていくうちにやりたいことが増えてきたのでゴールが遠くなっている。養豚において日本は米国や欧州に比べ後進国であるし、発展途上の産業であるためまだまだ利益が伸ばせるし、面白い、飽きない商売だ。」と語った。ファンドの支援は継続中ではあるが、CM農場の稼働とさらなる経営体制強化により、同社が飛躍できるよう期待している。

渡邉社長から経営者へのメッセージ

渡邉社長の顔写真
渡邉広大社長

社長に就任してから地元の養豚業界の経営者の方々に色々なことを教えてもらいました。また、資金面に悩みがあってもやりたいことがあるときには、事業計画を作り銀行に行って説明することで道が開けるかもしれない。自分自身が周りの方々に助けられてきたので、いろんな人に相談してほしいと思います。

ファンド運営者の声

同社に投資をするに至った判断のポイント

同社は三兄弟が協力して頑張ってきた企業であり、渡邉社長を飼料会社や仕入先など取引先を含め周りの協力者が多くサポートしてくれていたため、再生の芽があると感じました。また、事業としても事故が起きて思うように計画が進んでいない状況でしたが、ハイヘルス化が実現できればチャンスがあるかもしれないと投資をすることに決めました。

現在の支援状況について

同社の経営に係るほとんどの会議に参加しており、テレビ会議を利用することもありますが、投資当初は週一、現在も月二、三回は片道2時間半かけてでも伺って直接話をするようにしています。株式会社北洋キャピタルから養豚業の投資先へ投資をするのは初めてでしたが、専門の方から助言を受け、かなり勉強した上で支援を行っているところです。同社への支援をすることでGP側としてもノウハウが残れば、また北海道のどこかで第二の十勝野ポークに投資機会があった際に生かせると期待しています。

株式会社北洋キャピタル

※この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くださいますようお願いいたします。

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