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株式会社クリュートメディカルシステムズ

患者にも医療従事者にも優しい医療機器を通じて人々のクオリティ・オブ・ビジョンの向上を追求

会社概要

事業内容

医療機器の開発・製造・販売

本社所在地

東京都新宿区津久戸町3-11 TH1ビル飯田橋3階

設立年

2013年4月

資本金 (2017年3月31日現在)

43,868万円

売上高 (2017年3月31日現在)

非公開

従業員数 (2017年3月31日現在)

10名

ファンド事業

ベンチャーファンド出資事業

同社に投資を行った出資先ファンド名 (無限責任組合名)

UTEC2号投資事業有限責任組合(株式会社東京大学エッジキャピタル、UTEC Venture Partners株式会社)、DCIハイテク製造業成長支援投資事業有限責任組合(大和企業投資株式会社)

事業概要

光学技術から新たな価値の創造

2013年4月、同社の代表取締役社長である江口哲也氏(以下、江口社長)は、光学技術を医療の現場に応用することを目指して同社を設立した。

社名である「CREWT(クリュート)」は、「Creation(創造)」「Weave(織る)」「Technologies(技術)」の頭文字をとった造語であり、「すでに世の中にある優れた技術を織り上げ、隠れたニーズにマッチした『新たな価値』の創造を目指す」といった思いが込められている。社名の由来が示すように、同社は、コア技術である光学技術を用いて、医療に係るモノ・サービスの新たな価値を創造していくことを行動指針として事業を展開している。

現在、同社は、患者にも医療従事者にも優しい医療機器を通じて、生涯を通してよく見える眼を維持し、クオリティ・オブ・ライフならぬクオリティ・オブ・ビジョンの向上に貢献すべく、失明原因第1位の疾患である緑内障に対して、世界初のヘッドマウント型視野計「アイモ」の開発・製造・販売事業を展開している。

  • <ヘッドマウント型視野計「アイモ」>

緑内障の検査装置『アイモ』

同社が検査対象領域としている緑内障は、網膜神経節細胞が死滅する進行性の病気であり、一度喪失した視野は回復させることが困難なため、失明することもある。江口社長は、「緑内障は失明原因のうち全体の約24%を占め第一位となっている。また、日本緑内障学会で行った『多治見スタディ』と呼ばれる調査によれば、40歳以上の5%は緑内障とされており、20人に一人の割合で緑内障の患者さんがいる計算となる。そして、緑内障の診断を受けている患者数は60万人以上いるが、人口動態と照らし合わせると、まだ診断を受けていない緑内障の潜在患者数はおおよそ400万人もいる。緑内障は、視野が一部欠けたとしても、常に目は動いており、また両目で視野を補完しているので、自覚症状がほとんどなく、気づいた時には既に緑内障が大きく進行していて失明に至る可能性が高い。」と現状を語っている。
そこで、緑内障は早期発見と早期治療による進行阻止が重要となってくるが、既存の緑内障検査装置は、20年前から大きな変化はなく、大型な機器で、かつ暗室に設置する必要がある。患者はあごを突き出して、片目で中心部を見つめつつ周辺の光に対してボタンを押して検査を行うが、両目で合わせて10~15分程の時間を必要とする。例えば、検査中に眼を動かしてしまい測定が正しくなされなかった場合には、再検査が必要となる。さらに、検査中は、医療従事者が付きっきりとなるため、患者・医療従事者の双方に負担を強いることとなる。

このような負担を軽減すべく、同社は、光学技術をもとに、検査機器の軽量・小型化に成功、世界初となる頭に被るヘッドマウント型視野計「アイモ」を生み出した。「アイモ」は、頭部にのせて、バンドで後頭部を固定することで、安定した視野計測が可能となっている。「アイモ」は、暗室が不要で、機器の移動も手軽に行えることから、車いすやベッドの患者に対しても対応可能である。また、患者は姿勢を固定する必要が無く、瞳孔を追尾するシステムを搭載していることから誤測定を防ぐことができ、測定時間も従来の半分で済むため高齢者であったとしても集中力を維持した状態で測定が可能となっている。そして、検査機器自体も従来の製品よりも安価に販売を行っている。

同社は、「アイモ」を通じて、患者・医療従事者の双方の負担を大きく減らし、潜在的な緑内障患者の掘り起こしを目指す。

創業からベンチャーキャピタルに出会うまでの経緯

前職で技術・営業・役員としてのマネジメント経験を積み重ねて創業

同社は、大手光学機器メーカーHOYA株式会社で27年間在籍していた江口社長が、2013年に設立した会社である。江口社長は、「かつてHOYAでは、レーザー部門を立ち上げようとしていた時期があり、私もレーザーの研究者として新卒採用された。そこでは、歯科用のレーザー機器開発のほか、機器の薬事承認といったドキュメントも扱った。また、HOYA内でレーザー研究が散在していたので、それを一つにまとめて関連会社として法人化した際には、そちらに移り、営業や取締役としてマネジメントにも携わった。その後、本社の企画部門に戻り、失明に至る恐れがあるにも関わらず自覚症状がないため埋もれている患者さんの多い緑内障に着目、緑内障に対する検査機器の事業構想を温めていた。当初こそ、社内で事業化を模索していたが、HOYAではメガネやコンタクトレンズといった消耗品を主軸としていたことから、上層部から会社を興してみてはどうかとのお言葉を貰った。会社を立ち上げることについて不安が無いわけではなかったが、私自身もHOYAに入社した経緯が新たにレーザー部門を立ち上げるということで飛び込んだといったように、ベンチャー志向がもともと強かった。また、企画部門で一緒に動いていたメンバーも一緒に会社を立ち上げてくれる流れになったので、自分の構想を世に出す機会を頂いた以上は、やれることをやりたいという気持ちで創業した。」と創業の経緯を振り返る。

また、江口社長は、ベンチャーキャピタル(新興企業等に投資を行う会社や組織、以下ベンチャーキャピタル。)との出会いについて、「新会社を設立した折には、必要な事業資金はHOYAが半分出資しても良いが、その代わり外部の目を通して事業プランを評価してもらい残りの半分の資金を自ら募ることが条件となった。事業資金を外部から調達する際に最初に声をかけたのが、HOYAにコンタクトをとっていたベンチャーキャピタルの(株)東京大学エッジキャピタルさんだった。」と語っている。

ファンドの活用について

会社のステージに沿った段階的な投資

同社は、(独)中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が出資し(株)東京大学エッジキャピタル及びUTEC Venture Partners(株)(以下、UTEC)が運営するUTEC2号投資事業有限責任組合、同じく中小機構が出資し大和企業投資(株)が運営するDCIハイテク製造業成長支援投資事業有限責任組合等から、現在に至るまで総額約10億円を調達してきた。
江口社長は、「事業は卓上の実験機からのスタートだったので、UTECさんの提案で会社のステージに合わせて、段階的に投資を行って頂いた。第一回目となる2013年7月の投資で得た資金は、知的財産権の譲渡や製品試作機の開発等に投じた。続けて、2014年5月に得た資金は、製品の外観や実際に緑内障の測定が可能かの臨床研究に、2015年6月に得た資金は、量産化のための樹脂金型の作成や知的財産権の出願、販売体制の構築等に、2016年12月に得た資金は、さらなる販売実績獲得のためのマーケティング費用に、それぞれ投じてきた。我々のようなモノづくりを行うベンチャー企業は大きな資金を要するが、ステージに合わせて段階的に投資して頂き、企画から製品開発、量産化、販売にまで辿り着くことができた。間接金融では、製品を開発していく段階においてまとまった資金を調達することが難しいこともあり、直接金融であるベンチャーキャピタル等からの投資は、我々のような企業にとって無くてはならない存在と感じている。」と振り返っている。また、投資を受けることができた成功要因について、江口社長は、「UTECさんには、我々が大きくなりそうだと判断してもらったこと以外に、社会貢献につながるところも高く評価してもらったのではなかろうか。また、製品化に至るまでに必要な予算を示し、結果を着実に出してきたところも、継続的に投資をして頂いた要因だと感じている。」と語っている。

投資を契機とした全面的なサポート

同社のように、資金需要が大きいベンチャー企業の場合、経営者は金策に追われ、結果として事業推進に注力することができないケースが見受けられる。しかし、江口社長は、UTECから対外的な資金調達について全面的にサポートしてもらっていることから、財務面の負担が大きく軽減されているという。

また、UTECの片田江氏の社外取締役をはじめ、同社に投資を行ったベンチャーキャピタルや事業会社は、社外役員あるいはオブザーバーとして毎月1回の役員会に参画しているが、江口社長は、「役員会に外の目が入るだけでも、我々としては、いい意味で気が引き締まる。役員会では販路開拓に際してどのようにアプローチした方がいいのか、どのような事業提携が可能か等の議論が交わされ、我々としてはいくつもの戦略のオプションを提案してもらっている。」と述べている。

また、UTECからは、実際に事業提携先の紹介や営業体制の構築に際して営業と技術を統括して見ることのできる人材の紹介等の支援を受けており、同社は投資を契機に全面的なサポートを受けながら事業を展開している様子が伺える。

今後の事業の展望について

潜在的な緑内障患者の掘り起こし、そして眼の疾患検査のプラットフォーム化

江口社長は、同社が目指すビジョンについて、「何よりも埋もれた緑内障の患者を掘り起こすことにある。そのため『アイモ』を眼科での確定診断、経過観察の用途から人間ドックや健康診断での早期診断に至るまで幅広く普及させることを目指している。また、徐々に緑内障患者が顕在化してくると、各患者さんは経過観察が必要となってくるため、既存の機器では眼科がパンクする。例えば、40歳の男性に緑内障が見つかった時に、経過観察として3か月おきに眼科に行くのは大きな負担となるだろう。さらに、経過観察を必要とする患者数が数百万人という単位になれば、眼科に行かずとも経過観察が可能なシステムが求められる。このような場合に、軽量・小型で暗室が不要な『アイモ』は、会社に常備されることで、多くの緑内障患者をケアできるのではと考えている。また、まずは国内を固める必要があるが、長期的ビジョンでは、いずれ海外展開も視野に入れていきたい。さらに、我々の光学技術は、緑内障に限らず、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、白内障といった他の眼の疾患に対しても、ソフトウェアや機器のモジュール化を通じて、対応できるものと考えている。現在、眼科では眼の各疾患に対応した機器が個別に必要な状況であるが、いずれは、眼の疾患検査におけるプラットフォームとして『アイモ』1台で様々な検査に対応できるようにしていきたい。」と語っており、同社はクオリティ・オブ・ビジョンの向上に向けて歩みを進める。

江口社長から起業家へのメッセージ

代表取締役社長 江口 哲也

やるべきことをやる。ついつい後回しになってしまうことも、なるべく早く、ある程度先を見据えて取り組む必要があります。例えば、資金調達も早めに手を打っていくことを自分に言い聞かせています。また、モノを作る際には、売る相手を深く深く追求していくことが必要で、そこで出てきた課題を、くじけずに着実に取り組んでいくことが大事だと考えています。

ファンドからの声

株式会社クリュートメディカルシステムズの事業の魅力

CREWTが開発するアイモは、眼科医療機器のプラットフォームという全く新しいコンセプトの医療機器であり、暗室不要かつポータブルという特徴から、潜在患者の発見や、今後の高齢化社会ニーズにも対応可能です。このように潜在マーケットが大きく、社会的意義が高い点に加えて、機器開発を具現化できる高い技術力をもった開発チームとの創業であったことから、将来成長性が期待できると判断し投資を実行いたしました。

早期から複数の眼科医師とのネットワークを構築し、医療従事者および患者の両方のニーズを常にフィードバックさせながら製品開発を展開し、また、高い技術力をもって大きな遅延もなく製品の上市まで至りました。今後は、開発から販売へと事業ステージが変わる中で、医療機器の新規参入にみられる様々な課題を克服しながら、「クオリティ・オブ・ビジョンの向上」というCREWTの目的を共に構築していきます。

株式会社東京大学エッジキャピタル

2017年度取材事例
掲載日:2018年2月2日

  • この事例は取材した当時の内容をもとにとりまとめを行っているものです。
    従いまして、現在の企業様の事業内容等と異なる場合がございますので、予めご了承くだいますようお願いいたします。
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