関東本部
対象地域
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研修体験取材レポート 台東区開催 中小企業大学校研修 サテライト・ゼミ with 公益財団法人 台東区産業振興事業団
後継者や経営幹部候補が真の経営者になるために必要なこととは?基本的な心構えや、数字を活用した経営スキルなどを3日間かけて学ぶ講座が行われました。最終日には、参加者一人一人の状況に合わせた経営に関する実践的なアドバイスも行われました。
編集制作会社(株)REGION(リージョン)の編集顧問を務めるライターの井上理江さんにレポートしていただきます。
「次世代トップリーダー養成講座 会社の未来を創造する人材になるために」(2025年10月2・3・17日開催)
day1(10月2日)勝てる土俵を見つけ、 パーパスの重要性を学ぶ
「事業ドメインの設定」「コミュニケーションのポイント」「リーダーシップのあり方」
今回の受講者は男性9名女性2名の計11名で、開催地の台東区4名をはじめ長野、群馬や沖縄からも参加され、3班に分かれて講座が始まりました。
会社の未来の姿を示すビジョンについて「売上目標などではなく、イメージで示す方がやる気が出る」と講師の久保先生。「現状維持のために新規開拓は不可欠」という話に続き、上位2割の会社が市場の8割を占める「パレートの法則」が紹介され、勝てる土俵を見つけるための事業ドメイン設定ワークが行われました。
午後は「コミュニケーションで大事なのはテクニックではなく、相手への関心」という話に続き、経営理念をわかりやすく表現したパーパスについて学びました。
「部下がパーパスを自分ごとにできるよう、かみ砕いて伝えるのはリーダーの大事な役割」と久保先生。リーダーが雑務から解放されるには部下の「失敗する権利」を認め、仕事を任せることが大事など、リーダーシップに関する具体的なアドバイスも聞くことができました。
day2(10月3日)経営環境の変化を読み取り、業務フローを細分化して見直す
「企業経営と業績向上のヒント」「ファイブフォース分析」「ローカルベンチマークの活用」
1日目は主に心構えの話でしたが、2日目は経営に関する話が中心でした。「目先の経営数字を追うのではなく、パーパスと連動して考えることで、何にコストをかけ、カットすべきか見えてくる」と久保先生。
会社を取り巻く5つの脅威を考える「ファイブフォース分析」、業務フローを細分化して自社の強みを見つける「ローカルベンチマーク」について、午前、午後ともにグループワークが行われました。
どちらもまず個人の考えを付箋に書き、ホワイトボードに貼って違いや共通点をグループ内で共有しました。先生は「立って同じ方向を向き、付箋を貼りながら話すと距離感が近くなり、発言も出やすくなる。ぜひ自分の会社でも取り入れてみてほしい」とアドバイスしました。
最後に自社の強みと弱み、外部環境の機会と脅威を掛け合わせた「クロスSWOT分析」が紹介され、2週間後に行われる講座3日目までの宿題として、自社のクロスSWOT分析とアクションプランの作成が課せられました。
day3(10月17日)経営数字を学び、各社のアクションプランを発表
「賃借対照表と損益計算書の」「クロスSWOT分析」「アクションプラン」
最終日の午前は、経営数字の基本について学びました。短時間のワークをこまめに挟むことで、賃借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)の読み方について理解を深めることができました。
先生が強調されたのが「売上高を商品別、得意先別などに細分化すること」です。そこからどの分野を伸ばしたいか決めると、今後の経営計画が具体的になるとのことでした。「決算書は、未来の行動計画を生かすためのもの」という先生の言葉が印象に残りました。
午後は、宿題だった自社のクロスSWOT分析とアクションプランの発表が受講者全員により行われ、それぞれの発表に対して先生からフィードバックとアドバイスが行われました。例えば事業の多角化を目指す受講者には事業間のシナジー創出を促すなど、個別の課題解決に向け、コンサルティングのような実践的なコメントが伝えられました。
受講者にとって非常に価値ある体験となっただろうと、聞いていて強く感じました。
3日間の受講を終えて
講師の久保先生は公認会計士の資格も持たれているため、講座では数字の大切さを強調されるのかと思いましたが「大事なのはパーパスやビジョンであり、数字はそれを補うツール」という言葉が心に残りました。
最終日の受講者全員の発表に対するフィードバックにとどまらず、グループワーク中も各班を回り、例えば受講者同士の事業コラボを勧めるなど、具体的にアドバイスされていました。1社1社の経営改善に寄り添いたいという姿勢がとても印象的でした。
講師紹介(敬称略)
久保 道晴(くぼ みちはる)
2006 年公認会計士試験に合格。あずさ監査法人(現・有限責任あずさ監査法人)に入所し、2011年に独立。中小企業の事業承継、後継者育成に特化した支援を行う。
公認会計士・税理士・中小企業診断士・1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
講師コメント
台東区で行うのは今回が初めてですが、私は2018年から全国各地で年間約60日、中小機構の研修を実施しています。常に受講者に求めているのは、話を聞いて終わらせず「貪欲に行動する」ことです。普段出会えない異業種の方達と交流できる貴重な機会なので、名刺交換や私への質問など、すぐできる行動を一つでも多く行ってもらえたらと思います。この場を活用して学びを最大化し、最終的には収益につなげてほしいと願っています。
連携先支援機関インタビュー
公益財団法人 台東区産業振興事業団
経営支援課 商工相談担当
神田優さん
中小機構との連携による研修開催は今回で3年目になります。台東区の課題の一つが事業承継で、次世代トップリーダーの育成研修について我々から相談したのが開催のきっかけでした。1、2年目は心構えに主眼を置きましたが、今年度は久保先生の強みを活かして決算数字の読み方など、より実践的な内容へシフトしました。受講生の募集は地元金融機関の朝日信用金庫にも後援いただいています。区内だけでなく幅広い地域から参加いただき、嬉しく思っています。
受講者インタビュー
業種や年代の様々な今回の受講者3名の方に、研修について感想を伺いました。
・ゴーワイズ株式会社(不動産賃貸仲介)
代表取締役 鬼塚涼子さん
台東区で2024年8月に創業し、こうした研修は初めてです。印象に残ったのが「業界の2割に入れ」という言葉で、市場の中での差別化が重要と改めて感じました。経営理念を明文化していないので、今後はパーパスとして言語化し、従業員と共有しようと思いました。他業種の方と話して人材不足は共通課題と感じ、早めの対策を考えていきたいです。今回のように外部の視点を取り入れ、大局的に物事を捉える機会を持つことは大事だと思いました。
・株式会社篠ノ井環境サービス(廃棄物リサイクル)
課長 K.Kさん
今回、こうした研修に初めて参加しました。業務を細分化して見直し、経営状態を把握するローカルベンチマークが印象的で、パーパスの重要性も改めて認識しました。すぐに実践すべきは仕事の任せ方の見直しで、適材適所に役割を与えることが人材不足対策にもつながると感じています。年間の事業計画を達成するため、今回作成したアクションプランをそのまま生かしたいです。先生の幅広い知見からのアドバイスには、大変感銘を受けました。
・東洋スタット株式会社(鉄骨・橋梁等のスタッド溶接工事)
東京営業所 所長 逸見文洋さん
M&Aで会社の体制が変更したのを機に、昨年から研修を数回受講しています。今までP/Lに注目しがちでしたが、B/Sの見方のお話がわかりやすく非常に勉強になりました。研修冒頭の、人は周囲を巻き込む「自燃性」と巻き込まれる「他燃性」のタイプがあるという話も印象的でした。自分は後者でしたが今後は「自燃性」へシフトし、会社全体を俯瞰し、積極的なコミュニケーションで風通しの良い社風を率先して作っていきたいです。