世界初の超臨界水熱合成技術+有機修飾技術で、これまでにない材料を開発

2022年 3月 31日

SuperNanoDesign

カーボンニュートラルをはじめとする環境問題の解決や緩和に寄与する新たな機能性材料への期待が高まっています。T-Bizに入居する株式会社スーパーナノデザインは、超臨界水熱合成と有機修飾ナノ粒子合成技術で高機能のナノ材料を開発する東北大発ベンチャーです。本合成技術を発明し同社を起業した阿尻雅文CTO(東北大学教授)、高尾研治テクニカルマネージャーに起業のきっかけ、ビジネスモデルの構築などについて伺いました。(2022年2月取材)

インタビュー

お話

株式会社スーパーナノデザイン
(T-Bizに入居)

CTO 阿尻 雅文 氏  (東北大学WPI-AIMR原子分子材料科学高等研究機構 教授)
テクニカルマネージャー 高尾 研治 氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください。

高尾テクニカルマネージャー
テクニカルマネージャー 高尾  研治 氏

高尾:当社は、東北大で発明された超臨界水熱合成(ナノ粒子連続合成)法、有機修飾ナノ粒子合成法を組み合わせて、新しいナノ材料を開発する企業です。

本合成法を発明した阿尻研究室では、2007年から6年間は大型の国プロジェクトで11社と共同で超ハイブリッド材料の技術開発を実施し、2012年から5年間、超臨界技術開発コンソーシアムを東北大学に設置して研究開発を続けてきました。

技術が成熟するにつれ、研究室に多くの企業からサンプルの製作依頼が増えてきました。ところが、それを合成できる企業や、合成から大量生産に結びつけ、実用化するプロセスを設計できる企業がありませんでした。そこで、粒子合成を行うアートビーム社や東北大学の支援を得て、阿尻教授が自ら社長となり2018年に当社を設立しました。同年に小笠原財団ベンチャー支援プロジェクトに採択され、東北ベンチャーパートナーズ等からの出資もいただき、研究開発と受注による試作を続けてきました。

阿尻:超臨界水熱合成法プラス有機修飾ナノ粒子合成法は、水と油のように本来混ざらないものを混ぜることでハイブリッドナノ粒子を合成する世界のどこにもない技術です。経済産業省の後押しもあり、コンソシアムには最高83社が集まったので、これはすぐにでも世の中に出るだろうと考えたのですが、ほしい材料は各社別々であり、オーダーメイドの材料や装置開発、生産システム設計の担い手がいない。また、企業にしても開発した材料を実用化できるかは未知数で、投資や開発に乗り出すのが難しい。このミッシングリンクを埋めるには我々が起業するしかない、ということになりました。

新規開発する材料を料理に例えると、当社の仕事はレシピや調理器具(=製造装置)を考案して、実際に料理を作ってお見せする役割です。そして、顧客やその先のユーザーに味見をしてもらい、話し合いながら、食材や調味料、調理道具を少し変えてベストの料理や調理法、調理器具を作って行きます。最近、大型の装置を製品として提供してくれるパートナー企業が見つかり、当社の事業が加速しました。

大学の研究と企業の要望を切り分けるよう工夫されていますね。

阿尻:私は、大学の本分はサイエンスで、企業の材料づくりを手伝うところではないと考えています。それで十数年前に研究室を2つに分け、第2阿尻研究室で企業支援を担うことにしました。研究を進めながら、産業のニーズもわかります。大学の企業連携の一つの形だと思います。

当初は、企業での経験もあり、超臨界水熱合成技術を発明し、客員教授として第2阿尻研究室を任せていた方と起業するつもりでした。ところが、その方が急逝され、私が一人でも約束通り起業しなければと、心の底にはそういう気持ちもあったと思います。

ただ、社長になってみて、会社経営は使う頭が違うことにすぐに気づきました。材料や自分のコミュニティーを見ているだけではダメで、社会を見ないと経営はできない。それで、20数年間、温泉に集まって朝まで討論会をしている異分野の友人達に相談し、起業や企業支援、社長の経験のある方達に来ていただきました。私はCTOとなりましたが、今となっては、経営を任せる判断を下した当時の自分を誉めたいくらいです(笑)。

meeting
CTO  阿尻  雅文 氏(中央奥左)、代表取締役社長  中田  成 氏(左から2人目)

事業の展開と現在

御社のコア技術、超臨界水熱合成と有機修飾はどんな材料開発に使われるのですか。

高尾:超臨界水とは、374℃、22.1MPa以上の高密度水蒸気状態を指します。この状態では、通常は混じり合わない水と油が均一相を形成するようになり、有機修飾剤を用いることで修飾反応も生じます。無機物のナノ粒子に有機物を修飾した新しい機能性材料を作ることができるのです。

100℃でオクタン酸とCe (OH)4に分かれていたが、330℃で均一相形成
超臨界水で混じり合わない相が均一相を形成
有機修飾したナノ粒子のイメージ
有機修飾したナノ粒子のイメージ

企業からの要望が最も高いのが熱伝導材料です。パソコンや自動車などに使われるパワーデバイスはサイズが小さくなる一方、出力は増大しているため、放熱量が増え、それがデバイスの性能にも大きく関わっています。ところが放熱を除去する高熱伝導素材としてよく使われる窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(シリコンナイトライト、SiN)は低流動性で分散しづらく、ボイド(空隙)を形成して低電圧で絶縁破壊しやすいという弱点があります。そこで高熱伝導素材に超臨界水有機修飾を行い、樹脂との親和性を高めることにより、成型加工性に優れ、デバイスとの密着性が高く、絶縁破壊に強い、高熱伝導部材を生みだしました。パワーデバイスだけでなくタービン発電機のような高熱の除去が求められる機械にも有効です。

A社粒子配合(絶縁性・低熱伝導)やB社配向炭素繊維(非絶縁性・高熱伝導)と比べてSND有機修飾BNは絶縁性が高く、熱伝導率が30W向上。
有機修飾したBNは従来品に比べ熱伝導性、絶縁性ともに向上

サンプルの製造状況はいかがですか。

高尾:新しい材料のサンプルを連続的に製造できる設備を揃え、1日に数10グラムからキログラムレベルで合成できます。年間10〜30トンの製造が視野に入ってきました。

阿尻:高付加価値の製品でトン単位の需要であれば、当社で製造できます。スケールアップするなら、我々がサンプルと装置を作って、その技術を企業に引き渡し、技術指導も行います。濃度や流量を数倍に上げ、生産性を高める技術を開発中です。また、装置が詰まる、性状が整わないなどのトラブルにも対応しています。

コロナ禍で計画していたスケールアップがほぼ全面的にストップしたため、材料開発に切り替えて、材料が実用化されたり装置が売れたりしたらロイヤリティーを受け取るビジネスモデルをつくりました。今のところは、顧客からはさらに川下のユーザーさんの反応を見てからのやりとりになることも多く、サンプルの生産量もスピードもまちまちですね。

シート製品:スーパーハイブリッド・ボロンナイトライドSH-BN開発品(高熱伝導率)
シート加工した有機修飾BN:樹脂との親和性が高く成型性、密着性に優れている

そして、これから

今後はどのような方向を目指すのですか。

阿尻:現在、二酸化炭素やフロンのように規制対象となっている物質の代替材料や光触媒などの引き合いが来ています。とはいえ、私たちもナノ粒子やそこに付ける有機分子を自由に設計できるわけではありません。コンビナートなどで石油産業が成り立っているのは、石油の粘性、熱伝導性、水と油の相分離などを推算できる熱力学が確立しているからです。他方、ナノ材料では産業化に必要な化学工学熱力学が欠けているのでプロセッシングできないのです。

ナノ素材の社会実装の基盤づくりに産学を挙げて取り組むべく、2019年から文部科学省で「材料の社会実装に向けたプロセスサイエンス構築事業(Materealize)」を立ち上げました。東北大学を中心にケミカルエンジニアリングに関連する研究者に加わっていただき、担当を分けて研究を進めています。また、企業と学会が連動してものづくりをするためのシステム設計においては、当社がサンプルと装置を提供する予定です。

山口県周南地域で社会実装を見据えた研究をされているそうですね。

阿尻:石油でのものづくりは最終段階で必ず二酸化炭素が出ます。2050年にカーボンニュートラルを目指すには、これまでにない技術が必要となります。対策としては、廃棄物となったプラスチックをナフサとする、石油の代替としてバイオマスを使う、二酸化炭素と水素でプラスチックを作るといった方法が考えられます。1社でできることには限界がありますので、時空間を広げて、山口県の周南地域で大学、企業や自治体の連携で「コンビナート変革構想」として動いています。当社では、若手研究者にナノ触媒の研究を進めてもらっています。

御社の今の課題は何でしょうか。

阿尻:参考になるビジネスモデルがないため、試行錯誤しています。今後、人員が足りなくなることは予想していますが、採用も難しい。この分野の研究の経験と企業経験の両方を持つ人がいればありがたいのですが、なかなか見つかりません。一方で、超臨界水熱合成技術や有機修飾を世に出すという志に共感して、自分がキーパーソンになると考える若い人材も求めています。そういう人にバトンタッチできるよう、我々ががんばらないといけません。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ、入居してよかったこと

ナノ材料の研究開発には大学や学会との連動がマストです。起業するときに仙台市の中心部や東京に拠点を置くことも考えましたが、東北大学発ベンチャーであることを強くアピールでき、キャンパス内の設備もすぐに使えるというメリットを考えてT-Bizに決めました。キャンパス内にあることで実験装置を借りることができ、展示会で名刺交換しても東北大学出身の人たちに関心を持ってもらえます。一方で、T-Biz以外の場所にも実験装置があるため、私を含め、社員が常駐できるわけではありません。そういうときにもIM室の方々には部屋の管理なども含めて、いろいろと面倒を見ていただいており、安心感がありますね。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

インキュベーション施設に入居すると、経営や人材に関するアドバイスや展示会の情報提供などの支援を受けられます。学内に、大学ではない母体が運営するインキュベーション施設があるのはいいシステムだと思います。ベンチャー企業はゼロスタートです。当社のように研究開発型のベンチャー企業には、このようなインキュベーション施設はおすすめです。

会社情報

会社名
株式会社スーパーナノデザイン 
代表取締役
中田 成
所在地
仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-40
東北大学連携ビジネスインキュベータ(T-Biz)
事業概要
顧客ニーズに応じたナノ材料の設計、ナノ材料合成装置の基本設計、
ナノ材料製造・販売

会社略歴

1991年 超臨界水熱合成(ナノ粒子連続合成)法の発明(東北大学)
2004年 有機修飾ナノ粒子合成法の発明(同上)
2018年1月 株式会社スーパーナノデザイン発足(T-Biz入居)

担当マネージャーからのコメント

株式会社スーパーナノデザインは、“未来を創るオーダーメイドナノ粒子開発”を企業ビジョンとしている東北大学発スタートアップ企業です。

CIM画像

保有する超臨界技術とナノ材料開発技術により、従来の技術では克服できなかった企業の事業課題を解決する新素材を開発するだけでなく、製品化を行う際に発生する、経済性(適正価格化)、制御性、材料設計等の種々の障壁に対応する同社のビジネスモデルの先鋭性は、ケミカルサイエンス市場において大きなブレークスルーにつながるものと大きな期待感を持っております。

今ほど地球環境に優しい優れた新たな素材が求められている時代はありません。

素材の均一分散、高濃度分散、低粘度化を実現する同社の中核技術は、ヨーロッパ企業や北米企業からの協働研究開発や商談などのオファーも多く、ぜひ東北の地から世界で活躍できる化学素材企業になっていただきたいと思います。

IM室では優れた要素技術を保有し社会課題の解決に向けて邁進する同社を引き続き支援してまいります。

T-Biz(東北大学連携ビジネスインキュベータ)
チーフインキュベーションマネージャー 工藤 裕之

インキュベーション施設

東北大学連携ビジネスインキュベータ