21世紀のエネルギー資源であるガスを多孔性材料MOFで制御する総合コンサルティング企業

2022年 3月 25日

SyncMOF

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)に入居する SyncMOF 株式会社は、来るべき「ガスエコロジーな社会」を見据えて、企業が課題とするガスの分離や回収、ガスを用いるデバイス開発の総合コンサルティング・エンジニアリングを行っています。設立後3年目にして海外からも注目される同社の起業の経緯や事業展開について、CEOの畠岡 潤一氏、CTOの堀 彰宏氏のお二人に伺いました。(2022年1月取材)

インタビュー

お話

SyncMOF株式会社(シンクモフ)
(名古屋医工連携インキュベータに入居)

代表取締役、CEO 畠岡 潤一 氏
取締役、CTO   堀  彰宏 氏

起業、会社の生い立ち

会社設立の経緯をお聞かせください。

畠岡 CEO

畠岡:我々は、15年ほど前に、JST(科学技術振興機構)の大型研究プロジェクトERATOの金属有機構造体(Metal Organic Framework:MOF)開発メンバーとして出会いました。

私はMOFの測定装置の開発や評価基準策定に従事しており、堀とともに当時から起業を考えていました。そこで技術面は堀に任せ、私は経営を学ぼうと外資系コンサルタント企業に転職しました。

会社を設立したのは2019年です。起業後すぐには我々の給料を出せないからと2年間は兼業するつもりでしたが、あまりにも多忙で、新会社の利益が上がったこともあり、SyncMOF社の経営に専念することにしました。

堀:私は博士課程の頃、日本学術振興会の特別研究員(DC1)として超伝導の研究を行っていましたが、学術誌で興味を持ったMOFを研究したいと考えるようになりました。研究室の教授は「物理がわかる化学者は少ないから、両分野を横断して研究を行えば第一人者になれる可能性がある」と勧めてくれました。博士の学位を取得する前に理化学研究所で働くことになりましたが、そこではERATOとの共同研究を通じて、物理の知識を活かしてMOFの性能評価法を研究しました。多くの研究者から分析を依頼されるようになり、様々な最先端のMOFの物性を真っ先に知ることができるようになりました。

振り返ると、二人とも研究テーマや職場を変えることで新しい世界に調和するサバイブ能力を身に付けましたね。また、MOFの合成ではなく、評価を専門としたことがよかった。合成だとどうしても新しい物質をいろいろ作りたいし、それで起業したらスケールアップや生産コストの削減に注力せざるを得なくなり、膨大な資金が必要になりますから。とはいえ、SyncMOFが正確に物性測定した結果、よい性能を持つと分かったMOFの量産化を望む企業は多く、MOFの生産量は、昨年度で14トンに達しています。その他のMOFの小売りをしている企業が追い付けない規模だと思っています。

畠岡:脱炭素やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)など環境やエネルギーに関心が集まっている時期であるのも事業化の追い風です。例えばエネルギー資源は石炭のような固体から液体である石油へ、そしてガスへと移っています。そのガスには回収や運搬などハンドリングに大きな課題があります。当社はMOFを中心に、ガスを自由に扱える「ガスエコロジーな社会」の実現を目指しています。

事業の展開と現在

MOFにはどんな特徴があるのでしょう。

畠岡:MOFは金属と有機物によって構成される多孔質の物質です。ジャングルジムを想像していただくと、ジョイントが金属、棒が有機物になります。中の空間はナノメートル(10億分の1メートル)サイズでありながら、MOF 1 gでサッカーコート1面分ほどの表面積があります。材料の種類、骨格の大きさなどの組み合わせによって性質を変えられるのが魅力で、ガスの吸着・分離、触媒などに応用します。例えば、発火性のあるガスの運搬、有害ガスの吸着などに使えるのです。現在、10万を超える種類のMOFがあります。

金属イオン、有機配位子、吸着分子
ジャングルジムのような構造

御社の強みはどんなところにあると考えますか。

畠岡:当社には化学、物理、工学、AI等の専門家が集まっています。顧客のニーズに合わせたMOFの選定、性能評価、MOFの大量合成に向けてのシステム開発など、MOFとガスに関して総合的なコンサルティングとエンジニアリングを行います。統計処理によるモデリング、フィールドでの適用評価などにAIも活用します。
また、MOFの吸着・分離能を測定評価する機器、MOFを用いるガスセンサー、複数のMOFを条件別に設定して活性化する装置、大気中にあるガスから二酸化炭素や水素を分離回収する機器などの開発も行っています。必要に応じて大型放射光施設SPring-8などでのX線構造解析、ガス分子の直接観察なども行います。

堀:お客様からは世の中にあふれるどのMOFをどう使うべきかがわからないとよく言われます。我々はまず“ガスのお医者さん”として、お客様の課題、つまりどこを、どう治したいかをじっくり聞きます。場合によってはMOFではない解決手段をアドバイスすることもあります。

畠岡:各企業がMOFのガスの吸着量などの測定やシミュレーションをしようとすると都度手間や時間がかかり、安全対策も必要です。それを当社がトータルで請け負い、さらに新しいデバイスづくりも支援します。こうした事業を通じて、当社にはさまざまなナレッジが蓄積されていきます。

知財戦略も独特ですね。

畠岡:物質特許を重視しないことは起業時から決めていました。MOFは構造を少し変えて同じような機能を持たせることができるため、特許で優位性を保つことが難しいからです。現に世界最大のMOF製造企業が特許権を譲渡すると発表しており、我々の戦略は正しいと確信しました。一方で、用途や機器開発では特許を取得しています。

堀:顧客が必要とするMOFや機械を一緒に開発し、権利も基本的には分けています。また買い取りを望まれることもあります。いずれにせよ相手に合わせるほうが日本では心地よい商売の仕方ではないでしょうか。

短期間に利益を上げ、来期は100億円の利益を目指しているとのことですが、会社の成長の鍵となっているのは何でしょうか。

堀 CTO

堀:私の両親は会社を経営し、畠岡の実家も個人事業主で、二人とも商売のイロハを身近で見てきました。そんな我々が大事にしているのは自己資金での経営です。ベンチャーキャピタルや株主、金融機関の出資に頼ると、どうしてもお客様ではなくて、出資者のほうを向いて仕事をしてしまいます。例えば、何億円の資金を調達したとして、そんな大きなお金を動かしている人を身近で見てきた人はほとんどいないと思います。急に入ってきた大金をうまく使えるとは思えません。ベンチャー企業は小舟で大海を渡るようなもので、外部資金を入れると舵取りが遅くなり、危険を避けるのが遅れます。むしろ世の中の変化が速いので、すぐに軌道修正できる経営体制が必要で、それには自己資金の経営が適しています。

畠岡:外部資金の獲得を通じてマネジメントスキルや販売ネットワークを得るなどのメリットもありますが、そこもお金の力ではなく、我々は助けてほしいときに助けてくださいと言えるような人間関係を大切にしたい。堀さんがやるんだったら、畠岡がやるんだったら手伝うよと言ってくれる方たちがいることで成長に勢いがついていると感じます。また、各メガバンクの成長戦略室が支援してくれていますので、会社の成長速度に見合った資金があればよいと考えています。

堀:実際、高い技術を持つ町工場、高名なデザイナーなど、我々の志を感じて支援してくださる方、転職を希望してくださる方など人が人を呼ぶ形になっています。それも「見積書の作成をお願いします」からではなく「すみませんなあ、お願いします」の信頼関係で進められるところは昔からの日本の商売のしかたで、地元に愛されてこその企業の形だと思います。

そして、これから

MOFにはどのような市場があるのでしょうか。

畠岡:電力やガスといったエネルギー事業では、安全で効率的な大量輸送、排ガスの分離回収、化学製品の生成などに使われています。自動車や船舶から出るガスの処理、大学・工場内のクリーンルーム、生体に関わるガスの分析による診断デバイスや検査薬、宇宙ステーションでの環境保全など、MOFには多岐に渡る用途があります。
当社は、設立以来2年強で200社を超える問い合わせに応えてきました。現在は自動車、重工業、測定機器、化学、電機、商社などの顧客と一緒に課題解決、事業開発を行っています。

御社やMOFの今後の展望はいかがでしょうか。

畠岡:MOFがありとあらゆるところに入っている世界を目指しています。我々が表に出るのではなく、気がついたら、自動車、船、携帯電話、家庭製品などにMOFが使われていたというような世界は、遠くないうちに訪れる未来です。本当にいいモノはそういったものだと思っています。

堀:MOFは薬と同じで、最適化なしには課題解決につながりません。「合わない薬」でMOFへの期待が下がることなく、技術としてうまく育ってほしい。MOFによってガスエコロジーな社会が実現できるはずです。2050年の実現を目標とするカーボンニュートラルは子どもたちの問題でありながら、彼らには解決できない。大人である我々が今取り組まなくてはならない課題です。
当社には世界に競合他社がありません。ガスのことで困ったら、SyncMOF に頼ろうと、世界から日本、名古屋に来てもらえる企業になりたいですね。

インキュベーションの利用

入居のきっかけや入居してよかったことを教えてください。

堀:もちろん私が名古屋大学の教員であることが大きいですが、名古屋は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康のゆかりの地で、ここから外に展開していく土地柄です。現在も、トヨタを通じて世界に発信する土壌があるので、素材メーカーにとってはある意味、目標の地なのです。自動車関連の町工場も多く、それも助かっています。

畠岡:MOFはまだ一般的でないので、“名古屋大学発ベンチャー”として名古屋大学内以外の場所に拠点を設けることで名古屋大学のみならず中小機構からも情報発信してもらえると考えて、入居しました。実験設備を作れるインキュベーション施設は名古屋にはそれほど多くありません。少し閉鎖的ではありますが、逆にいえばプライバシーも守られます。IM室からは情報をいただいたり、相談したりと支援を受けています。

堀:研究室の延長ではなく、ゼロから始めて外部に発信していく場所として、大学との適度な距離感があるのもいいですね。

今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

先日、名古屋大学で行われた中高校生向けアントレプレナーシップ研修に協賛参加しました。生徒たちに名刺を渡すと、家で見せたという声も聞きました。社長やCTOの名刺を初めてもらった子どもも多いはずで、これは人がつながる将来への投資なんです。多少の協賛金を払ってでも、ベンチャーならこういう機会をぜひ大切にしてほしいと思います。

会社情報

会社名
SyncMOF株式会社 
代表取締役
畠岡 潤一
所在地
愛知県名古屋市千種区千種2-22-8 名古屋医工連携インキュベータ
事業概要
新規多孔性材料の合成及び製造/性能評価/性能評価装置の開発および
新規デバイス開発/販売

会社略歴

2019年6月 SyncMOF株式会社を設立(同8月にNALIC入居)
2019年10月 名古屋大学発ベンチャーに認定
2021年1月 J-Startup CENTRALに認定

サービス・製品紹介

MOF/PCPの総合コンサルティング

10万種類以上のMOF/PCPから性能評価を行って顧客のニーズに合ったMOFを選定するほか、MOFの大量合成に向けたソリューション開発も行う。
また空気中のわずかな水分を一気に吸着する「DehumOF」など特徴ある機能を持つMOFの販売も行っている。

MOFの機能を引き出す革新的な製品
ガス精製装置や吸着分離塔などMOFの特性評価装置や評価施設も展開中

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

19世紀は石炭の時代、20世紀は石油の時代。そして、21世紀はガスの時代と言われていますが、ガスの保存・運搬・分離は難しく、その課題を解決しうるのが、同社が研究開発を行っている多孔性新素材のMOFです。同社の事業スケールはとても大きく、気さくでエネルギッシュで名コンビの代表取締役・畠岡氏とCTO・堀氏のおふたりから、いろいろなお話を伺いながらいつもワクワクしています。

NALIC入居当初は小さくスタートされましたが、見る見る間に大きく成長されており、MOFの総合コンサルティング・エンジニアリング企業である同社が世界のエネルギー勢力図を塗り替える日も、もしかすると近いかもしれません。IM室でも更なる成長を楽しみに、精一杯サポートし、応援させていただきます。

名古屋医工連携インキュベータ
チーフインキュベーションマネージャー 石黒 裕康

インキュベーション施設

名古屋医工連携インキュベータ