300℃以下の低温排熱を電気エネルギーに変換する大市場を拓くベンチャー企業

2022年 3月 2日

E-thermo

京大桂ベンチャープラザに入居中の株式会社Eサーモジェンテックは、大気中に莫大に放出されている低温排熱を、効率よく電気エネルギーに変換する熱電発電システムの開発・事業化を行っています。IoT普及の切り札となる自立電源用や省エネ用として大変注目されている熱電発電の普及を目指す同社の事業展開について、南部 修太郎代表取締役に伺いました。(2021年12月取材)

インタビュー

お話
株式会社Eサーモジェンテック(京大桂ベンチャープラザに入居)
代表取締役 南部 修太郎 氏

起業、会社のおいたち

もともとは技術者のキャリアや起業の支援をしたかったそうですね。

2001年56歳のとき、勤めていたパナソニック株式会社を退社し、2か月後に技術ベンチャーをプロデュースする株式会社アセット・ウィッツを創業しました。

パナソニック株式会社では、様々な半導体の研究開発とその事業化に携わりました。特に大きな実績は、世界で初めてガリウムヒ素(GaAs)半導体を携帯電話やテレビのチューナーに導入することに成功したことです。携帯電話は、このGaAs半導体の導入により消費電力が激減し、初めて現在のような超小型化が可能になりました。それで誰も言ってくれないからですが「携帯電話の父」と自称しています。詳しくは拙著「ベンチャー経営心得帳」をお読みください。

ただ、海外の企業やベンチャーと仕事をするうち、欧米に比べて日本では、技術者に対する評価が低く処遇もよくないように感じました。それで45歳頃から、日本にも米国のように、技術と事業のプロによるベンチャーが縦横に活躍できる仕組み創りが必要と考えるようになりました。そして残りの人生を、日本に新しい風を起こし若い人を育て、技術者が生き生きと活躍できる社会を作ることに貢献したいと思い、創業しました。

アセット・ウィッツ社での受託事業からEサーモジェンテック社を設立された経緯をお聞かせください。

2006年に、あるゴミ焼却炉メーカーから助成金の申請に伴う熱電発電の技術調査の依頼がありました。熱電発電の原理は理解していましたが、その研究開発に国家プロジェクト等で莫大な資金が投入されているにもかかわらず、未だ実用化されていないことを初めて知りました。それは研究開発の目標設定方針がおかしいことが原因ではないかと思いました。

南部 代表取締役

何故なら当時、半導体を使ったモジュールの最高耐熱温度は150℃で、特別仕様の自動車用でも175℃でした。そして最先端のパワー半導体用のモジュール実装技術として、最高250℃耐熱の高温接合技術の研究開発が活発に行われている最中でした。ところが熱電発電の国家プロジェクト等で対象としていた排熱温度は、600℃から800℃だったのです。これでは実用化できないのは当然だと思いました。熱電発電では、300℃程度以下の低温排熱を対象にすべきだと考えました。

一方で当時、半導体業界では、フレキシブル基板を使ったモジュールが、様々な用途で、高速実装技術を使って量産されていました。排熱源の多くがパイプであることから、フレキシブル基板と最先端の半導体モジュール高温接合技術を組み合わせた薄くて曲がる熱電発電モジュールを創れば、熱回収効率に優れた熱電発電が可能になるのではと考えました。

そこで、このアイデアを技術調査結果報告として、依頼元の助成金申請チームに提案しました。しかし残念ながら全く相手にされず、その後チームからも外されてしまいました。チームには熱電発電の専門家も複数含まれていましたが、おそらく当時は材料がご専門の方が多く、最先端の半導体事業の状況はあまりご存じなかったからと思われます。

ただ折角のユニークな技術シーズが、そのまま廃棄されてしまうのが残念でしたので、とりあえず特許だけは、自費で出願しました。

その後幸いにも、2007年に新エネルギー・産業技術総合開発機(NEDO)で「研究開発技術シーズ育成調査事業」の公募があり、この独自技術シーズを基に応募して採択されました。この助成金で、当時最先端のパワー半導体モジュール用高温接合技術の研究をされていた大阪大学産業科学研究所の菅沼克昭教授との共同研究が可能になり、フレキシブル熱電発電モジュール「フレキーナ®」の開発に成功することができました。

そして2013年、出願していた基本特許が成立したことで、この独自技術を核とする事業展開の見通しが得られたので、それを機会に株式会社Eサーモジェンテックを創業しました。

会社を成長させるために工夫された点は何でしょうか。

まず技術ベンチャーでは、事業の核となる基本特許を抑えることが不可欠ではないかと思います。権利が確保され、技術の差別化優位性が明確でないと、世界で勝負することはできません。

また当社は、半導体産業で一般的な、自社で生産設備を持たないファブレス経営を目指していましたので、2012年に採択された経産省の「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」の助成金を活用して、工程ごとに生産を協力企業に委託するサプライチェーンを構築しました。

未だ技術開発途上で資金が不十分なアーリーステージでは、助成金の支援も受けながら、技術的な競争優位性をしっかり担保していくことが大切だと思います。

もちろんベンチャーにとって、いかにして資金確保するかは最大の課題です。当社も、2016年にNEDOの「シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS事業)」に採択され、その助成金によりようやく新しい人材の採用が可能になり、なんとか会社らしくなることができました。NEDOの方からは、何故こんなに時間がかかったのかと聞かれました。お金がなく採用もままならなかったからなのですが、私はこれこそ、我国低迷の根本原因なのではないかと思っています。

事業の展開と現在

現在、インキュベーション内で実施している新事業開発の内容や事業の強みを教えてください。

2021年2月に、先述のNEDOのSTS事業による助成と東京ガス株式会社との共同開発により、独自固有技術の「フレキーナ®」を使った、小型で高出力の熱電発電によるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)用自立電源S1シリーズを実用化し、その報道発表を行ってサンプル販売を開始しました。

IoTは、多数のセンサから無線でデータを収集して、工場の予兆管理や生産性向上などを行うもので、広い分野に導入が期待されています。現在、IoT用無線センサの電源には、有線による電力配線や電池が使われていますが、電力配線の敷設コストや電池交換の手間が問題で、普及の妨げになっています。そこで熱電発電による自立電源の導入が期待されていますが、これまで主に海外メーカから販売されている熱電発電による自立電源は、高価で出力電力も小さく、かつ形状も大きくて構造も複雑でした。

それに対し、当社の独自技術フレキシブル熱電発電モジュール「フレキーナ®」を使ったIoT用自立電源S1シリーズは、10mWと180mWという従来にない大きな出力で、圧力センサや流量センサなど、ほとんど全てのIoTセンサの駆動が可能です。また小型で簡単に熱源パイプに装着でき、量産すれば半導体と同様に大幅なコストダウンが可能といった従来にない強みを有しています。

「フレキーナ®」によるIoT用自立電源システム

当社のもう1つの強みは、お客様の様々な排熱源に対して、最適な熱電発電による自立電源を提案できる設計技術とノウハウです。熱電発電では、熱電素子(モジュール)の両端に温度差を付けることが必要ですが、当社は、様々な熱源に対し効果的に温度差を付ける様々なノウハウや多くの知見を有しています。それらのノウハウやフロー・シミュレータを駆使した設計技術により、様々なお客様の熱源に対して、最適なコストパフォーマンスの自立電源を提案しています。

現在、地球環境中への排熱量は、全一次エネルギー供給量の60%以上と莫大であり、またその排熱の75%が300°C以下の低温排熱だと言われています。ガスからの排熱だけでも日本の年間総発電量の約4分の1です。熱電発電には大きな可能性があり、当社の技術により、少しでも地球環境に貢献したいと考えています。

新事業開発の現在の状況はいかがですか。

ENEOSホールディングス株式会社との共同開発で、天然ガスを含む地下水の配管表面の熱を利用して発電する実証実験を行っています。配管の温度と外気温との温度差を利用して発電し、油業所内の夜間照明の一部に使用しています。この実証実験で技術的・ビジネス的な課題を抽出し、電力配線が難しい屋外環境下での熱電発電システムとしての実用化を目指しています。たとえば、温泉や地熱発電等の用途への展開が期待されています。

また、川崎重工業株式会社とコジェネ用発電タービンの余剰水蒸気を利用して40kWの熱電発電が可能なチューブ型熱交換器の開発も行っています。さらにその他、十数件の共同開発を現在実施中です。

そして、これから

現在の課題は何でしょうか。

まだ経営基盤は盤石ではありません。事業開発の効率を高めることと、優秀な人材の採用が最大の経営課題です。ただ優秀な人材の採用には資金が必要です。しかも現在共同開発中のプロジェクトは、概ね2023年頃から順次事業化開始の予定なので、できる限り早くこれらの課題を解決すべきと考えています。

一般にものづくりの事業化では、プロトタイプを作るまでのエネルギーを1とすると、それが製品に近い形になり事業化協力企業との協力体制を作るまでに10倍のエネルギーが、それを事業化するにはさらにその10倍のエネルギーが必要です。私がかつてパナソニック時代に体験した、1対10対100の法則です。当社は、様々の商品の事業化に向け、現在、そのタフな戦いの真っただ中にいると思っています。

熱電発電システムの将来や御社の将来をどのように捉えていますか。

熱電発電は「排熱のあるところに電源あり」で、太陽光発電とは異なり、夜や冬といった時間帯や季節に関係なく発電できるのがメリットです。そのため応用可能な分野は非常に広く、これまでも既に250社以上のお客様から、様々な問い合わせを頂いています。

ただ現在は、まだ経営基盤が盤石ではないので、工場排熱による熱電発電を中心に、コストパフォーマンスが高く事業化の可能性が高いテーマから、様々な企業との共同開発により重点的に取り組んでいます。

将来は、様々な企業と共同開発した様々な熱電発電や蓄電システムと、太陽光発電や風力発電等様々なエネルギーを統合・制御し、地域の電力需給を賄える分散型電源システム(VPP:Virtual Power Plant)に発展させたいと考えています。

今、世界は「脱炭素」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」「IoT」が合い言葉になり、環境に優しい熱電発電等の自立電源の開発・実用化に注目が集まっています。この追い風を事業の展開に活かしたいと思っています。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

2018年に、第54回京都市ベンチャー企業目利き委員会のAランク認定企業に選定され、これによって京大桂ベンチャープラザの入居費用を京都市が補助してくれることになりました。開発拠点を増やしたかったので、スペースが広い京大桂ベンチャープラザに入居できることになり、助かりました。

入居して良かったこと

チーフインキュベーションマネージャーから、京都大学の研究者のほかさまざまな方を紹介してもらっています。また施設が研究開発用に配慮されていますし、研究環境として社員の満足度は高いと思います。入居企業同士の連携ができるのもいいですね。

今後の入居者へのメッセージ

起業してすぐには施設にお金をかけられません。そういうときにインキュベーション施設に入所して、さまざまなサポートを受けられるとよいと思います。

会社情報

会社名
株式会社Eサーモジェンテック 
代表取締役
南部 修太郎
所在地
京都市南区東九条下殿田町13
九条CIDビル 102
事業概要
熱電デバイスおよび熱電システムの研究/開発/製造/販売、
コンサルティング

会社略歴

2002年2月 有限会社アセット・ウィッツ(現:株式会社)設立
2013年2月 株式会社Eサーモジェンテック創業
2013年10月 大阪大学産研企業リサーチパークに開発拠点創設
2016年11月 NEDO STS事業採択に伴い、第三者割当増資
2018年3月 京都市ベンチャー企業目利き委員会 Aランク認定
2020年2月 京大桂ベンチャープラザに開発拠点創設

製品紹介

熱電発電モジュール「フレキーナ®」

温度差のある接合点で生じる電位差を利用する熱電発電モジュール。従来のリジッドで肉厚なセラミック基板に換えて極薄の耐熱フレキシブル基盤上に熱電素子を高密度実装した配管構造を持ち、熱回収率、熱電変換効率が高い湾曲自在なモジュールとなっている。

半導体量産技術の活用により、低コストで信頼性の高い量産が可能で、低熱排熱を利用して給電する自立電源システムの構築が可能である。

熱電発電モジュールの構造比較
「フレキーナ®」標準サンプル

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

Eサーモジェンテック社の熱電発電技術は工場等から出る廃熱を省エネルギーの観点で別の場所で電気エネルギーとして活用することができ、また工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)で必須のセンサー等への給電が行えるなど多くの利用シーンが想定されています。

特に後者の用途に関して、これまでにAI/IoT技術を駆使した工場や各種現場でのDXは目覚ましい進展が見られています。私は数年前まで電機メーカーで工場等の作業現場でのDX推進の事業に携わっていましたが、工場や現場に設置された数多くのセンサーに対する給電はいつも課題として解決を迫られていた記憶があります。

上記の課題に対して多くの技術やソリューションが各社から提供されていますが、熱源について廃熱を利用できることは敢えて特別なエネルギーの源を用意する必要がないという点で大きなメリットがあり、同社の技術はその中核を占めるものと考えられます。

現在同社の熱電発電技術は多くの企業で共同研究等が進めてられており、近い将来数多くの工場等で活躍することが期待されます。

また南部社長は広い見識、様々な経験、更には数多くの人脈を持たれており、同社の技術及び事業を発展させるものと確信しています。

京大桂ベンチャープラザ
チーフインキュベーションマネージャー 阿部 弘光

インキュベーション施設

京大桂ベンチャープラザ