核酸を効率的に合成する技術で核酸医薬品の創出を支援するMEDDEC入居企業
2022年 1月 24日

核酸医薬はアンメットメディカルニーズへの応用が期待されています。神戸医療機器開発センター(MEDDEC)に入居する株式会社ナティアス(旧:株式会社四国核酸化学)は、独自の核酸合成技術を武器に、核酸医薬品API(原薬)の合成法開発・製造支援事業のグローバルな展開を目指しています。同社の起業やMEDDEC入居のきっかけ、今後の事業展開などについて、片岡 正典代表取締役に伺いました。(2021年11月取材)
インタビュー
- お話
- 株式会社ナティアス(神戸医療機器開発センター(MEDDEC)に入居)
代表取締役 片岡 正典 氏
起業、会社のおいたち
会社設立の経緯をお聞かせください

高知大学の教員として核酸医薬品の原料となる独自の核酸モノマーやこれを用いる液相合成技術の研究を続ける間、自分の技術を実装して、社会に貢献したいと考えていました。ところが、成果が上がって来ると、教員のままではB to Bでスピード感を持って実装するのが難しいとわかりました。大学での研究活動で得られる資金では社会実装の規模には及びません。そこから起業を真剣に考えるようになりました。
2013年に科学技術振興機構(JST)の産学連携事業の一つである研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)で「医薬品利用を指向したリボヌクレオチド関連化合物の大量合成技術の開発」を委託されたことで、研究開発のスピードが上がりました。その事業には市場調査も含まれており、思い描いていた事業を取捨選択することができました。そして、2015年に株式会社四国核酸化学を起業しました。
起業時には、株式会社テクノネットワーク四国(四国TLO:四国の国立5大学と四国電力が出資して設立した起業支援機関)にもお世話になり、社長を派遣してもらいました。
その後、神戸に拠点を移されたのですね。
設立後、やはり資金繰りには苦労しました。このMEDDECや本社を置く神戸国際ビジネスセンターの賃料補助を神戸市から受けられるということで、2019年に高松市から移り、社名を株式会社ナティアスに変更しました。神戸市はポートアイランドに研究開発拠点を整備して医療関連企業の集積を図る「神戸医療産業都市」を推進しています。医薬品開発のトレンドを知るためには情報が集まる場所にいる方がいいと考えたのも移転の理由の一つです。
会社を成長させるために工夫された点は何でしょうか。
顧客開拓はベンチャー企業の大きな課題です。当社は2017年に長瀬産業株式会社と代理店契約を結び、製品紹介や販売に商社のグローバルなチャネルを活用させていただいています。
長瀬産業との出会いは、会社移転とともに前社長の尽力で私が神戸大学の客員教員となったことがきっかけでした。神戸大学や地元のアカデミアを含め学内外の顧客情報も得られています。CTOの森一郎も神戸大学から参画してもらいました。
一方で、経営のだいたいのことは理解できますが、財務は難しかったですね。多様な顧客ニーズに対応する為にも、事業戦略を立案して資金を獲得するためにもCFOが必要だと痛感しました。現CFOの鈴木陽介はMEDDECのチーフインキュベーションマネージャーからの紹介です。これまでに大阪大学発のバイオベンチャーを立ち上げた経験を持っており、会ってすぐに入社してもらうことを決めました。
事業の展開と現在
御社の強みはどんなところでしょう。
我々はBlockmerTMを使って、多様な核酸オリゴマーを少ないステップ数で高収率に合成できる技術を持ち、核酸API(原薬)を大量且つ安価に生産することを目指しています。核酸はAPIだけでなく、ワクチンアジュバント、PCR遺伝子検査用プライマー/プローブなど多様なニーズを有しています。
当社のようなベンチャー企業には大手企業などでは断られるような多様で難易度の高い合成案件が持ち込まれることが多いのですが、弊社がこれまで積み重ねてきたナレッジや弊社独自の技術的な強みを生かして、さまざまな課題を解決しています。このような多様で難易度の高い案件を受託することで自社の技術力を向上していけることも強みの一つですね。
より合成が難しいRNAからスタートして、DNAの合成技術も開発されたのですね。
さまざまなところから「核酸医薬品の時代が来るからRNAが有望」と聞かされていたこともあり、起業に際し短鎖RNAの液相合成技術が武器になると考えていました。それなのに起業しても全然注文が来ないのが不思議でしたね。顧客候補や投資家と面談を重ねるうちに、ユーザーはRNAではなくて安価なDNAを求めていることがわかりました。その後、核酸合成対象の主軸をRNAからDNAへ変更し現在へ至っています。
そして現在、コロナ禍でmRNAワクチンが各国で承認されるなど、RNAの新しい大きな市場が開かれ、RNAの存在感が増してきました。設立時から思い入れのあるRNAに脚光が当たっていることはとても嬉しく感じています。今後はナティアスとしても再度RNA合成にも注力し、急増する世界のRNA合成ニーズに貢献していきたいと思っています。
どのような顧客を想定していますか。
少し前までは核酸関連のリーディングカンパニーをターゲットにしていましたが、生まれたばかりのベンチャーのシーズを受託することによってビジネスが大きく花開くかもしれません。当社の技術によって、コストや品質の問題で核酸製品の開発を躊躇しているような中小企業を積極的に支援していくことも重要な活動だと現在は考えています。
長瀬産業の支援で海外の核酸関連の展示会に出展したり、中小機構の支援によるBioJapanほか国内の展示会に出展したりすることで、すでに多くの顧客候補との面談が進んでいます。
医薬品用APIはGMP基準が適用されるため、特にベンチャー企業にとっては品質、資金ともにハードルが高くなります。そこで、現時点ではヒトの体内に入れない検査薬や創薬研究における動物試験向けのようなGMPが必要でない顧客をターゲットとしています
また、研究資金の確保が難しい希少疾患に対する研究を進めているアカデミアの先生には、無償で核酸を提供しています。収益性の観点から大手製薬企業から顧みられない疾患に対する創薬研究を支援することで、希少疾患に苦しむ患者さんの希望となれれば、と考えています。
そして、これから
会社をどのように成長させていこうと考えていますか

ベンチャー企業は一般の大手企業などとは異なり生き物と言っても良く、毎年めまぐるしくフェーズが変わります。変わっていくのであれば、組織はなるべく小さいほうが小回りが利いて有利なはずです。変化に応じて戦略を立て、柔軟で機動性のある組織を編成していくつもりです。
基本的な核酸合成技術開発にも一定の目途が付きつつあるので、今後はGMP製造施設整備へ向けた本格的な準備段階へと入っていく予定です。
顧客は海外の企業が多いのですが、日本を核酸医薬品開発の中心地にしたいという夢があり、国内アカデミアを積極的にサポートして行きたいと考えています。これまでNEDOやJST、AMED、神戸市などから支援をいただき、いわば税金によって我々は創業できました。当社が成長して税金を納めること以外にどういう形で社会に還元できるのかを考えています。昨今のコロナウィルス用mRNAワクチンの供給問題を鑑みても、医薬品の国内製造は国の安全保障に直結しています。我々の核酸合成技術で国内の核酸医薬品の供給問題を解決し、少しでも貢献できれば嬉しい限りです。
インキュベーションの利用
MEDDECへの入居は偶然の出会いが契機になったそうですね。
ある展示会に出展したとき、ブースが近かった企業との立ち話で「MEDDECから近々退去するが、GMP仕様を引き継げないものか」と聞いたことがきっかけです。将来的なGMP施設整備の重要性も認識していましたし、GMPの査察経験がある施設を、そこに設置されていた核磁気共鳴装置(NMR)と質量分析計(MASS)も含めて、そのまま引き継ぐことができたのは幸運でした。

入居して良かったこと
GMP準拠施設に核酸の製造装置を置いて研究開発を進めていることは、大きなPRポイントです。顧客の反応が変わったと感じています。もちろん試験も実施しやすくなっています。
チーフインキュベーションマネージャーの橋本さんには、事業会社の紹介、展示会への出展のサポートなど、さまざまな支援をしていただいています。なんと言っても先に述べたように、1年半探し続けていたCFOに鈴木を紹介してもらったのはありがたかった。鈴木にはいずれ訪れるIPOで中心的な役割を担ってもらいたいと考えています。
今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ
インキュベーションマネージャーがいるなど、大学のインキュベーション施設にはない支援が受けられるのが大きいですね。賃料は自治体の補助金を活用できる場合があります。
MEDDECは出張するにも顧客に来てもらうのにも便利です。神戸空港から非常に近く出発便の30分前に会社を出れば間に合います。関空にも高速船が出ていて30分で行けます。神戸市はポートアイランド内に医療産業の様々な交流拠点を設けています。官民で医療産業を盛り上げていけるのが面白いですね。

会社情報
- 会社名
- 株式会社ナティアス
- 代表取締役
- 片岡 正典
- 所在地
- 兵庫県神戸市中央区港島南町 5-5-2
神戸国際ビジネスセンタービル3階 353
- 事業概要
- 核酸受託製造、核酸中間体製造、
その他、核酸に関連する事業
会社略歴
2015年10月 | 株式会社四国核酸化学設立 |
---|---|
2016年3月 | 神戸市にR&Dラボを開設 |
2017年1月 | 長瀬産業株式会社と総代理店契約締結 |
2019年12月 | 社名を株式会社ナティアスに変更、本社を神戸市に移転 |
2020年2月 | MEDDECにGMP製造/品質管理ラボを開設 |
技術紹介
BlockmerTMによる核酸オリゴマー合成技術
核酸医薬品の原料となる核酸オリゴマーは、従来、安価、高収率、大量に合成できなかった。同社では核酸の構成単位であるヌクレオチドを複数個つなげて各種の修飾を施した“かたまり(ブロック)”であるBlockmerTMを開発。これを用いて目的とする核酸オリゴマーを効率的に合成する。特に同社はBlockmerTMを液相で合成する独自技術を有しており、その合成工程は既存法より大幅に短く、かつ短鎖不純物もほとんど生成しないことから、同社は核酸医薬品を開発する製薬会社や研究機関の強力なパートナーとなっている。
担当マネージャーからのコメント

株式会社ナティアスは2020年2月にMEDDECに入居されました。入居前の打ち合わせや入居後の面談を通じて、片岡社長の人柄、幅広い知見、そして豊富な創造力に感動を覚え、また創薬の新たなモダリティとして核酸医薬品の期待が高まっているなかで、同社の研究開発の進展が、まだ薬のない患者様のためになると確信いたしました。
入居当時は従業員7名で、片岡社長が経営・研究開発の全てを見られていましたが、現在は経営体制も整いつつあり、従業員も倍以上になりました。今後は片岡社長の新たな開発アイデアも動いていくものと楽しみにしております。
同社の更なる成長、今後のIPOに向けて、引き続き事業運営・経営上の課題に対して微力ながらサポートしてまいります。
神戸医療機器開発センター(MEDDEC)
チーフインキュベーションマネージャー 橋本 邦久