入居企業の経営戦略を可視化し、社会実装機会を提供することで真の「ベンチャー」たる成長力を支援するインキュベーション施設
2021年 3月 31日

東京から20km圏内という抜群の立地条件を備えるベンチャープラザ船橋には、通信、電子デバイス、医療機器、自然エネルギー開発、福祉、人材派遣などさまざまな業種のベンチャーが集まっています。総合的な経営支援のメニューをベースにベンチャー企業が自らのビジネスモデルを明確化・先鋭化するサポートをし、また社会実装機会も提供することでベンチャー企業の成長を加速度的に支援するインキュベーション施設です。(2021年3月取材、6月15日公開)
インキュベータ概要
ベンチャープラザ船橋の概要
ベンチャープラザ船橋は、千葉県と船橋市からの事業要請により、中小機構が「船橋新事業創出型事業施設」として開所し、千葉県、船橋市、および公益財団法人千葉県産業振興センターと連携して運営している。入居者の創業地は千葉市が最も多く、近隣の習志野市や柏市からの入居者もいるが、東京都港区、中央区、神奈川県まで首都圏に広くわたるのが特徴である。
東京駅からJRで25分、近隣の駅から徒歩圏内という抜群の立地にあり、ラボタイプが25室、オフィスタイプが10室で、入居率は9割程度を維持している。新規事業の創出、地域経済への貢献を目指して、入居者ができるだけ早く目標を達成して卒業できるよう支援している。現在、入居期間は5年未満が8割強で、半数以上の入居企業が黒字化を達成している。
自動化やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)といった“省人省力”を目指す通信デバイス、電子デバイス、システム開発、ロボットSIer(Robot System Integrator、ロボット導入のサポート)にかかわる企業を中心に、医療機器、自然由来エネルギーの開発、人材派遣など入居者の業種は多彩である。
特徴的な支援活動内容
"事業疎明力"を付けてもらうことが最大の支援
ベンチャープラザ船橋では、常駐するIM(インキュベーションマネージャー)が、入居企業の起業から第二創業、株式公開まで、新事業の創出と成功をサポートしている。岡﨑 聡CIM(チーフインキュベーションマネージャー)が最も大切にしているのは、入居者に「“事業疎明力”をつけていただくこと」。“どういうニーズに対してどういうシーズ(=プロダクトやサービス)をあてがうことができるのか”“マーケットにおける自社の強み・差別化要素”“マーケットでのポジション獲得に向けてどういった経営施策(=経営戦略)を持っているのか”といった、ビジネスモデル仮説を可視化・先鋭化することを支援する。このサポートは、“ベンチャー”の趣旨に合致する事業者を招致するべく、入居前の相談段階から始まっていると話す。
入居予定者や入居者に対しては、企業の経営実態を多く見ている立場から、組織(ヒト)、戦略(方向性・ポジショニング)、財務(カネ・定量分析)の経営3要素を軸に、1つの意見を示唆するのがIMの役割だとしている。すなわち、企業の潜在的な強みや課題を定性・定量両面から可視化していく思考・思索の相手役として、“添え木”のような立場でアシストし、入居者自身が考え、判断することで、ベンチャーとしてのビジネスモデルを先鋭化し、実践してもらいたいとしている。
ベンチャー企業に社会実装機会を提供
入居者が自ら作ったビジネスモデル仮説を具現化していくための社会実装の場や機会につなげるための支援も行う。「シーズ企業(=ベンチャー企業)が芽吹き、大きく成長するためには十分なニーズ探求を前提にビジネスモデル仮説を実践する土壌(=社会実装基盤・社会実証機会)が必要であり、そこでの仮説・検証の繰り返しによる類型化と、類型化事例の他・多展開の思考と過程が必要と考えている。そういう土壌を提供することが我々の役割」(岡﨑CIM)。その社会実装基盤・社会実証機会をうまく活用できるかは企業の力量であり、事業の伸長に伴い資金調達などの新たな経営課題が生じれば、それに対応していく。
主な入居企業の概要
- 株式会社Wins Works Japan
さまざまな分野でIoT化が進み、ITエンジニアへの引き合いが増す一方で、彼らの能力・技能と彼らがアサインされる仕事の内容・報酬のミスマッチが原因でアサイン先企業での定着率が低く、報酬は上がらず、使い捨てられている一面もある。自らもITエンジニアである創業者らがITエンジニアの能力・技能を適切に評価し、それに応じた報酬を還元する社内制度や、職人気質の高いエンジニアの独立心を尊重しながら、組織に所属することによるインセンティブも享受できる仕組みなどを構築することでITエンジニアを広く集積し、成長する事業仮説を立てている。
人口減少やインフラ老朽化などの様々な課題を抱える地方都市での取り組み事例として、ベンチャープラザ船橋の支援のもと、自治体や通信インフラ大手と連携しながら、ITエンジニアを対象にデジタルトランスフォーメーション(DX)による多拠点生活スタイルをベースとした新しい働き方を提唱することで関係人口増加を狙う自治体ニーズに応えながら、エンジニアへのインセンティブも充足することで彼らを集積し、人材プラットフォーム化することで事業拡大を模索している。
- 株式会社ニチオン
1911(明治44)年創立の医療機械器具製造・販売企業。鉗子、ニードルなど、内視鏡化外科手術のための医療機械器具を中心に、患者負担を軽減する低侵襲な手術器具の開発を長年に亘り手掛けてきた。
これをベースに、複雑化かつ高額化する医療機械器具の再生・再処理の仕組みと技術を構築する新規プロジェクトチームの立ち上げをベンチャープラザ船橋がサポートし(新規事業のビジネスモデル仮説について社長や事業部とIMがディスカッションを繰り返すことでこれを具現化し、先鋭化していくなど)、入居。病院等医療現場での実装を見据えた医療機械器具の洗浄システムの標準化とコンサルティング事業の確立を目指す。国立大学などのアカデミアや先端医療機関との連携による医療機器開発の他、広く医療人材育成を行い、医療業界に貢献する企業として経産省の地域未来けん引企業の認定を受けている。
これからのインキュベータ

入居者は創業間もない企業も多いため、これまで同様、基礎的な経営基盤の確立をサポートするとともに、企業成長に必要な"事業疎明力"の向上を支援する。また専門的知見が求められるファイナンスの局面についても企業成長のレベルと資金使途に応じた選択肢の多様化や調達のサポートを行っていく。
上述の支援施策などによってベンチャー企業の成長プラットフォームとしての機能を高め、施設認知度を上げることで、地域に潜在するベンチャー企業の最初の受け口となり、それらを顕在化する役割を担っていく。
そのため、金融機関や他の起業支援機関とも連携し、有望なベンチャーの発掘と入居促進にも取り組んでいきたい。