ナノファイバーで産業革命を起こしたい。世界の企業との連携で多品種の製品開発・販売を目指すD-egg入居企業

2021年 3月 31日

M-TechX

同志社大学京田辺キャンパス内の同大学連携型起業家育成施設「D-egg」に入居するエム・テックス株式会社は、自社が開発したナノファイバーで地球規模の課題解決につなげようとしています。多くの大企業が試みてもうまくいかなかったナノファイバーの開発・大量生産に成功した理由、今後の展望などについて、同社の代表取締役社長 曽田 浩義 氏に伺いました。(2021年2月取材、2021年6月3日公開)

インタビュー

お話
エム・テックス株式会社(D-eggに入居中)
代表取締役社長 曽田 浩義 氏

起業、会社のおいたち

会社設立までの経緯をお聞かせください

曽田社長

私は大手電機メーカーのIT系エンジニアで、グループ内の別会社でワンセグ放送や電波放送の新規事業を担当した後、スピンアウトの放送事業会社に移籍していました。

2013年、仕事とは関係のない席でナノファイバーについて紹介されました。ナノファイバーは、地球環境問題の解決に有効なすばらしい素材で、多彩な製品に適応できることから市場が大きいこと、30年ほど前から開発が始まり、国内外で国家プロジェクトレベルでの研究開発がなされているものの、技術的な課題があり進んでいないことを知りました。そして大手企業へのアプローチを手伝ってほしいとの話があり、数社につないだのですが、うまくいきませんでした。それなら自分たちでやってみるかと。ナノファイバーの魅力に取りつかれたというか。まさか会社を辞めて、全く関係ない分野で起業するとは思ってもいませんでした。

⼯業製品の⽣産は初めてでしたが、⼤⼿電機メーカーに⼊社してから⼀貫してハードウェアの設計・開発を担当し、ものづくりの考え⽅を知っていたこと、エンジニアリングの基礎があったこと、また、電⼒会社、鉄道会社、産業⽤の特殊な業界など広くつき合わせていただいたことが役に⽴っています。

当時、ナノファイバーはプラントを作るのに億単位の設備投資が必要で、ベンチャー企業が入れる領域ではなく、起業は無謀だと言われました。しかし、7年ほど前、たまたま紹介された方に我々のナノファイバー事業に対する熱い思いを伝えたら、一緒にやろうと。本当にその後数年間、設備費や人件費を出してくださいました。冒頭にも話した通り、ナノファイバーは環境破壊や感染症などの社会問題を解決するために非常に有効な素材で、この事業には大義がある、そして私どもは成功することしか考えていなかった。そこを見てくださったのではないかと。すでに亡くなられましたが、その方がいなかったら、今日の我々は存在していないですね。今も我々の製造設備はその方の会社で作っていただいています。

ナノファイバーの大量生産に成功された理由は何でしょう

当時、ナノファイバーの業界では、材料に高電圧をかけて放電させるESD方式(Electrospray Deposition Method)が主流でした。しかしこれには爆発などの危険があり、しかもうまくいっていなかった。我々は素人で、そもそも高電圧なんてかける必要があるのかと素朴な疑問を持ちました。そこで、30年くらい遡って何万件という数の特許を調べました。そうすると、我々が想定する新しい方法でもうまくいかないかもしれない、逆にいえば、これはやってみる価値があると考えました。

ナノファイバー化学繊維

そして、ポリプロピレンの材料を熱で溶かして風に流すメルトフロー法に行き当たりました。これは不織布では成熟した製造法で、ミクロンオーダーの繊維を作れることは知られていましたが、条件を変えるとナノオーダーの繊維も作れることに誰も気がついていなかったのです。

当社はIT系のハードウェアやソフトウェアを開発していたメンバーが集まっていましたが、繊維業界の常識は知らなかったので、材料に加える熱の温度を常識以上に高くするとか、材料を上から下に押し出すときの風量を極端に強くするとか、試行錯誤していましたね。うまくいかなくても「たまたまこういうやり方をしたら、我々が狙っているところにたどりつかなかっただけだから、それも一つの成功だ。別のやり方をすればいい」と繰り返し伝えました。

2015年、偶然に理想的なナノファイバーができました。後から見れば意図せずにやっていたことが非常に重要で、固定概念なくいろいろなことを試していたことがたまたま幸いしたのだということです。我々はこのナノファイバーを「マジックファイバー」と名付けました。現在、1時間に30kgの製造が可能となっています。

油の吸着材を最初に製品化されたのはなぜですか

開発当時、ナノファイバーの用途としてはエアフィルターや住宅用建材、水耕栽培などをイメージしていました。しかしサンプルを渡していた商社さんは飲食店や油の処理工場に配って評価を依頼していたのです。我々はそこに配られていることも油の吸着材に市場があることも知りませんでした。ところが、買いたいという連絡が来るようになり、ニーズがあることがわかりました。同様の機能を謳う他社の製品は、例えば、海や川に漏れ出た油を吸着しようとすると同時に水も吸ってしまいます。我々の製品は水を一切吸わずに、油だけを吸着します。

たまたま最初に吸着剤用途で商談した相手がシンガポールの油のブレンダーで、約40か国に輸出している上場企業だったというのも幸運でした。というのも、事業パートナーは即断即決ができるオーナー企業で、すでに成功していて資金に余裕があり、次の一手を探しているところにしようと決めていたからです。日本企業は高額の投資を決めるのに時間がかかりますから、このような企業は海外にしかないだろうと考え、2017年にシンガポールに事務所を作りました。

そして我々の事業に興味を持ってくれた5社のうち、最初にコンタクトのあった前述のシンガポールのオーナーと会い、そのまま2番目のベトナムの企業に行き、どちらも話が決まりました。それで残りの3社は断ってしまったのですが、今思えば全部契約しておけばよかったです。シンガポールのパートナー企業とは合弁会社を設立し、インドネシアに油吸着材の量産工場を作りました。そこから事業が加速し始めました。製品はインドネシアでつくったものを日本に逆輸入して販売しています。

2019年8月の九州北部豪雨により、佐賀県の大町で鉄工所からの油の流出事故が発生しました。当社社員が直ぐ現地に行き、緊急対策本部でマジックファイバー製油吸着材を提案しました。自衛隊が使ってくださり、結果的には9割ほどの油を吸着できました。その背景があり、2020年のモーリシャス沖での貨物船の座礁による重油流出事故では国際協力機構(JICA)から声がかかって、現地に持っていってもらいました。現在も石油の除去作業は続いていて、我々の製品がさらに使われることになりそうです。

油吸着能

一般用には、ホームセンターなどで商品名「ベルサイユのわた」で販売しています。我々には販売のアイデアがなく、カリスマ主婦と呼ばれている人たちのグループに相談しました。「コンシューマーにアピールするにはキャラクターがないと難しい」といわれ、化粧品で「ベルサイユのばら」シリーズが成功した話を聞いて、コラボレートをお願いしました。ベルサイユには「採油」をかけています。

事業の展開と現在

他の領域の製品開発はどのように進めていかれますか

製品カテゴリ別にパートナー企業を変えるのが我々のビジネスモデルです。自社製品を自社で売るとスピード感が出ないので、相性のいい企業と合弁事業を立ち上げ、ハンドリングはある程度先方に任せます。

一般的なベンチャー企業のモデルは、プレゼンして投資してもらう、あるいは大手企業に会社ごと買収してもらうというものですが、我々のように衣類や寝具、フィルターなど50を超えるアイテムを想定していると、一定のシェアを持つ企業と組む方が新参者としての圧力もかからず、事業が加速しやすいと考えています。

大手企業からの買収の話もありますが、すべてお断りしています。我々のミッションはナノファイバー事業で産業革命を起こすことです。日本で生まれた技術を世界に普及させて産業を興すことを重視して、このビジネスモデルを推進しています。

現在、自動車や列車の吸音材、住宅用の建材、エアフィルターなどのアイテムが契約寸前まできています。ほかにも去年後半から今年にかけて、海外の大型案件の引き合いが多数あります。これまでは現地で商談していたのが、web会議で効率よく時短ができ、事業拡大の追い風になっています。

そして、これから

課題だとお考えになっている点は何でしょうか

我々は今、先端技術を持っていると話していますが、いつ似た技術が出てくるかはわかりません。とにかく次から次へとスピーディーに製品を生み出すことが重要だと考えています。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

当社は東京都大田区京浜島とD-egg中で研究開発をしております。もともと共同研究をさせていただいている同志社大学の呉魏准教授とのつながりで、生産システムの専門家である同大理工学部機械システム工学科の廣垣俊樹教授との共同研究が始まり、すぐ試作できるような環境が必要だろうということで、D-eggを紹介していただきました。

我々は、事業展開をする上で、ナノファイバーの性質や生産方法などについて理論的にきちんと説明できるようにしておきたいと考えていましたし、知名度もなかったので、同志社大学との共同研究で学会発表などの機会があればありがたいと思っていました。

廣垣先生のアドバイスによって、今年3月からD-eggで研究開発する社会人ドクターを増やす予定です。また、当社が協業する企業の国の大学の研究者に同志社大学に留学してもらうことも計画しています。このような教育に関連する取り組みも、発展途上国を含めて海外に産業を根づかせるという意味で、我々が目指している産業革命につながります。

入居して良かったこと、今後インキュベーション施設を利用する方へのメッセージ

ベンチャー企業単独での研究開発、商品化は非常にハードルが高いけれど、D-eggに入ると、IM室や同志社大学の先生方の支援を受けられるという大きなメリットがあります。

D-eggに在籍する社員は入居企業の交流会「D-eggカフェ」に参加することもありますし、これまでも新価値創造展への出展や京都の産業祭への参加を呼びかけていただいたり、同志社大学のリエゾンオフィスに事業紹介していただいたりしています。

我々と相性がよさそうな入居企業とも協業したいと考えています。また、我々と関係のある海外企業とのコラボにもつなげられればと思っています。

会社情報

会社名
エム・テックス株式会社 
代表取締役社長
曽田 浩義
所在地
東京都大田区京浜島3丁目3-12
事業概要
ナノファイバー化学繊維の研究開発、生産、販売
ナノファイバー繊維を応用した製品の開発、製造、販売

会社略歴

2015年12月 エム・テックス株式会社設立
2016年4月 同志社大学と共同研究開始
2018年4月 マジックファイバー油吸着材生産・販売開始

製品紹介

マジックファイバー油吸着材

特殊構造のナノファイバーシートで、「圧倒的な吸着量」と「油保持力」、「水を弾く能力」を持っている。

  • 1枚20gという軽量で、約1ℓ(自重の約50倍*)の油を吸着
  • 油を吸った後持上げてもMF油吸着材からは油が垂れずに保持したまま
  • 油だけを吸収して水は吸わない。水に沈まないので、吸着後のシートを回収しやすい
  • 水面の油膜まで吸着するため、油を取りきる事が可能である
  • 軽量かつ少量で大量の油を吸着できる

これらの能力は、災害時においても効果を発揮し、油の回収作業を大幅に効率化するのみでなく、油回収後のゴミ量の減量、二次災害(一度、吸着させた油吸着材からの油漏れ)の減少に貢献する。

* 自社調べ。使用環境や状況、油汚れなど各種条件によって異なる。

マジックファイバー油吸着材
業務用
ベルサイユのわた
一般用

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

同社は、2016年12月にD-eggに入居され、同志社大学と連携してナノファイバーの様々なアプリケーション及び機械装置の研究開発を実施されています。世界に先駆けてナノファイバー量産技術を確立しメーカーとして独自の技術を用いて課題解決や社会貢献を目指されています。

同社の「マジックファイバー油吸着材」が令和元年の九州北部豪雨の油流出被害に伴う救援物資や2020年のインド洋の島国モーリシャス沖での日本の貨物船の座礁により大量の重油が流出した事故の救援物資として社会貢献をされました。また、テレビ東京・WBSの「2019トレたま年間大賞」受賞などで高い評価を得られています。

同社は、設立間もないですが売上も大きく伸び、今後も大きな飛躍が期待できます。東京が本社ですが、京田辺市の産業祭に参加され、同志社大学の学生の見学会、地元の高校の見学会等にも協力をいただいています。

IM室として、今後とも本社と連絡を密にし、更なる成長への支援をさせていただきます。

D-egg
チーフインキュベーションマネージャー 上村 隆雄
(役職等は2021年2月のものです)

インキュベーション施設

D-egg