エンジニアリング視点のコンサルティングでDX実装をサポートする浜松イノベーションキューブ入居企業

2021年 3月 31日

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ハイテクベンチャーのスピンオフ起業が連鎖する浜松で2012年に起業した株式会社Arentは、様々な業界の課題に対しCADやAR、フィンテックなどの高い技術力とビジネスコンサルティング力を統合してDXの社会実装、収益化をサポートしています。同社の事業やその特徴、飛躍のきっかけなどを代表取締役社長 鴨林 広軌 氏と代表取締役副社長 佐海 文隆 氏にお話を伺いました。(2021年1月取材、2021年5月26日公開)

インタビュー

お話
株式会社Arent
(浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)に入居)

代表取締役社長 鴨林 広軌 氏
代表取締役副社長 佐海 文隆 氏

起業、会社のおいたち

会社設立の経緯をお聞かせください

佐海 副社長

佐海 文隆 氏(以下、佐海):株式会社Arentは、私も含めて浜松の株式会社アルモニコスにいたメンバーを主体に2012年に株式会社CFlatとして起業しました。アルモニコス社はCADを使う三次元プログラミングを専門としており、当時出始めたばかりの拡張現実(Augmented Reality =AR)の技術とスマートフォンとを組み合わせると将来伸びると考え起業しました。

鴨林 広軌 氏(以下、鴨林):私はアルモニコス社出身ではなく、佐海とは京都大学理学部の同級生です。大学卒業後にMUFGのMU投資顧問株式会社に入社し、アナリストやファンドマネージャー、企業調査などを経験しました。もともと起業を目指していて、まずどんな業種やどんな経営者が成功するのかを見たかったのです。そこで、明らかにIT系がよいとわかり、2012年にゲーム会社のGREEでシステムエンジニアとなりました。管理会計システム、BIシステム構築などに携わり、開発したゲームアプリの「CubicTour」 は宣伝なしで300万ダウンロードされました。そして、ITにもっとビジネスの感覚を入れた仕事がしたいと考えていたところ、佐海に誘われました。

佐海:大学に勉強ができる人はいっぱいいたのですが、鴨林は大きいビジョンを持っていて、それを具体的に実現可能にしていくプロセスをイメージできる人間でした。さらに卒業後の経験でビジネス感覚を鍛えた彼となら、技術があってもビジネスが思うように拡がらない状況にあったCFlat社を変えていける、そんな確信がありました。

経営などで苦労された点、転機について教えてください

佐海:一番苦労したのは、会社の売り上げを大きくすることです。CFlatの起業当初から三次元CAD関連の受託開発を続け、その資金を使って、誰でもARを投稿でき、世界中の人と共有できるARアプリ「Figmy」やゲームなどの自社製品をいくつか出しました。赤字にはなりませんでしたが、チャレンジしては失敗してというのを続けてきました。振り返ると、技術力はあるけれど、それをビジネスとして大きく生かせていなかったと思います。

2018年、プラント設計の大手企業である千代田化工建設株式会社との仕事が転換点でした。我々が得意としていた自動車業界に比べると、当時、プラント業界や建設業界のCADは遅れていて、一方で、設計の上流で発生した変更を下流工程につなぐ設計変更管理などに大きなニーズがあることがわかったのです。そこに我々の技術がマッチするし、業界の改革に伴う会社の成長も見込めると判断しました。

鴨林:千代田化工建設社とともに開発したのが、空間自動設計システム「PlantStream®」というプロダクトです。配管だけでも何万本もあるプラントの空間設計には、工数がかかります。1000本の配管を含む設計だと十数人で1.5か月ほど、つまり配管1本につき、4時間くらいです。手間はかかりますがあまり創造的な作業ではありません。我々はこれまで職人の暗黙知に頼っていたプラント設計業務を自動化し、配管で言えば1000本を1分、つまり1本を約0.66秒で設計できるようにしました。これによって空間設計工数を約80%削減し、また設計者はより創造的な作業に注力できるようになり、初期設計フェーズが6か月から4か月に短縮しました。

PlantStream®による配管自動設計の例

この仕事に至るまで当社では、それぞれのクライアントごとに、個々のプロダクトのオーダーを受けていました。規模は小さく受注効率も悪い。当社には、技術力が高く、ものづくりができ、ビジネスも理解でき、エンジニアリングもコミュニケーションもできるメンバーが揃っているのだから、業界レベルで設計の機械化をすすめようと。そうして、コンサルティングのような上流の段階から企業の課題解決に入るビジネスになっていきました。

事業の展開と現在

現在の事業はどのようなものですか

鴨林:クライアントのデジタルトランスフォーメーション(DX)をゼロから最後まで、つまり課題を見つけるコンサルティングからチームビルドや開発、評価、改善案の立案や実行、投資判断や資本ハンズオンまで全行程を支援します。

デジタルビジネスには、ゼロからイチを作る=未知の世界に勝ち筋を創り出す段階と、イチを10にする=勝ち筋を効率化し、ビジネスを拡大するという2つの段階があります。前者はコンサルから開発、ファンディングなどをすべて1つの企業やチームで行う垂直統合形式が向いているのに対し、後者は分業して効率性を重視する水平分業形式が向いています。

当社は垂直統合型での支援を行います。一般的なコンサルティングではコンセプトや事業計画の作成のみを担当して、事業化そのものはクライアント任せにしますし、ファンドマネージャーは投資判断や資本注入にしか関わりません。しかし、実際はIT側とビジネス側を分断すると断絶が生まれて、意思決定や実施のフローがうまくいきません。

鴨林 社長

クライアント企業の中で垂直統合をスムーズに行う秘訣は何でしょうか

鴨林:我々は、エンジニアリングにどう落とすかという視点からヒヤリングや情報分析を行い、業界の状況、クライアントの課題を深く把握します。また、数学的センスで課題をモデル化し、クライアントに最もフィットする仕組みを創り出します。それを実行に移すためのファンディングを通じた社会実装までを行い、事業の成功を目指します。そしてここまでをエンジニアリングをベースとする技術の専門家と財務の専門家がチームを組んで行っていきます。

新規事業の立ち上げをスタートアップの目線でサポートできるのも強みです。予算の承認をする上長、謂わば企業における投資家が納得できるプロダクトと資料を、新規事業開発の担当者、スタートアップでいえばCEOが提示できるように、プロトタイプの開発や提供、利益やコストの算出などをサポート・教育します。つまり、企業の事業開発チームをスタートアップ化するのです。その後は、より上の決裁が必要になるフェーズもサポートしていきます。

これまでの主な実績をご紹介ください

鴨林:前述の「PlantStream®」は、プロジェクトのスタートから2年で千代田化工建設社とプロダクトを会社名とする合弁会社を立ち上げ、Arentの取締役が代表取締役に就任しました。2021年4月には、プロダクトを世界に正式リリースすることとなっております(2021年5月現在リリース済)。

2019年には、アミューズメント施設を運営する株式会社イオンファンタジーとスマートフォン上のクレーンゲーム「MOLLY. ONLINE」を開発しました。ゲームセンターなどに設置されているクレーンゲームはとても人気がありますが、その場所に行けないと遊べません。また、かつてゲームセンターに通っていた人も今はスマートフォンに可処分時間を取られている。そこで、クレーンゲームのプレイ環境をスマートフォン上に用意しました。

清水建設株式会社とは、大規模ショッピングセンターのルート検索と空席状況がわかるシステムを作りました。建物内に埋め込んだBluetooth®によって来館者がスマートフォンで自分が今いる位置を知ることができ、空いているトイレなどへの最短ルートを検索できます。

どのように人材を確保されているのでしょうか

鴨林:現在、社員は30数名で、東京と浜松に事務所があり、主に在宅勤務をしながら、連絡を取り合っています。フィリピンや米国の社員もいます。

人からの紹介によるリファラル採用を実施してきましたが、社員を増やす必要があり、だんだん募集広告を出して採用する形になりつつあります。オンラインのみで採用することもあり、私が対面したことのない社員もいます。

入社前に1日~2日、長い場合は5日くらい、業務体験をしてもらうのも特徴だと思います。きちんと報酬もお支払いします。一緒に働いてもらうことで、お互いに合うか合わないかが大体わかります。

そして、これから

会社をどのように成長させていこうと考えていますか

鴨林:当面集中するのはプラント建設など建設業界で、業務改善や新規事業立ち上げのニーズもマーケットもたくさんある中、我々の強みであるCAD周りでいろいろ新しいことができそうです。

強化したいのは採用です。そのためにもブランディングを重要視しています。クライアントと共同設立した会社の社長や子会社の社長を経験できる、そういう魅力がある会社であることを押し出していきたいですね。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

佐海:アルモニコス社を退職して起業された先輩の会社が浜松イノベーションキューブに入居されていて、紹介を受けました。当社にはアルモニコス社にいたメンバーが多く、浜松に拠点を持っています。

インキュベーション施設に入居して良かったこと

佐海:JFEエンジニアリング株式会社を紹介していただいて、最終的に当社に出資していただけるところにまで持っていけました。事業を他社に紹介してもらえ、大企業ともつないでいただいて感謝しています。補助金申請書の添削などでも細かくお世話になっています。入居から9年目ですが、軌道に乗るまでもうちょっと居させていただきたいと思っています。

すごく親身になってくださるので、これから入居される方には、何かあれば、小さなことでもIM室の方にお願いするのがおすすめです。

会社情報

会社名
株式会社Arent 
代表取締役
鴨林 広軌、佐海 文隆
所在地
東京都中央区八丁堀 3-17-12 小松ビル 4F
事業概要
ソフトウェア開発、DXコンサルティング

会社略歴

2012年7月 佐海文隆氏(現共同代表)が株式会社CFlatを創業
2015年7月 鴨林広軌氏が取締役として参画
2019年4月 株式会社ASTROTECH SOFTWARE DESIGN STUDIOSと合併
2020年6月 社名を株式会社Arentに変更
2020年7月 株式会社千代田化工建設と折半出資でプラントの空間自動設計システムを提案する株式会社 PlantStreamを設立し共同経営を開始
2020年11月 投融資合わせて約10億円の資金調達を実施
2021年4月 株式会社 PlantStreamより空間自動設計システム「PlantStream®」を正式リリース

製品紹介

PlantStream®

PlantStream

PlantStream®は、革新的な設計性能を誇る「自律型」CADシステムです。プラント設計の中核を担ってきた熟練エンジニアたちの膨大なノウハウをアルゴリズム化し、精度と速度を兼ね備えた、世界初の驚異的な自動設計を実現しました。Feasibility Study (FS)から詳細設計まで、エンジニアリングの全工程で活用可能です。

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

昨年4月HI-Cubeに着任し、入居企業の事業を学ぶ中で、目に留まった企業の中の一つです。競争力の高いプロダクトと大企業とも同じ立場で連携し事業を推進ができる経営力(戦略・資金力・馬力・スピード感)。Arentの事業活動を近くで見ていると、私自身、日々大きな刺激を受けています。

Arentは組織面でも日々進化しており、IM室が支援しなくとも前進を止めませんが、支援をするに際は「いかに企業価値を上げるか」と言うことを念頭に置いています。例えば、補助金相談の場合「この補助金は採択しても企業価値向上とはならないので、狙うならこちら。」とアドバイスをしています。またマッチング案件では、中長期的な視点(今ならば“SDGs”に沿った取組となっているかなど)で連携した場合の仮説を立てています。

これからArentがどのように成長するのかが楽しみでなりません。その成長に少しでも役立てるように、私自身も日々学び、支援者として進化ができたらと思います。

浜松イノベーションキューブ(HI-Cube)
チーフインキュベーションマネージャー 小澤 昭彦

インキュベーション施設

浜松イノベーションキューブ