藻類の可能性を追求し、藻類製品があふれる社会を目指す東大発のバイオベンチャー
2021年 3月 31日

バイオ燃料、食糧源、健康食品や化粧品の機能性成分など、さまざまな分野での活用が再び期待されている藻類。東大発ベンチャーの株式会社アルガルバイオは、藻類バイオ事業に参入する企業への技術指導、藻類に関する受託研究、および新たな藻類の機能を見出し、その特性を活かした事業開発に取り組んでいます。起業の経緯や事業展開、今後の展望などについて、同社の代表取締役社長 竹下 毅 氏に伺いました。
(2020年11月取材、2021年4月24日公開)
インタビュー
- お話
- 株式会社アルガルバイオ(東大柏ベンチャープラザに入居中)
代表取締役社長 竹下 毅 氏
起業、会社のおいたち
会社設立までの経緯をお聞かせください

大学では応用化学を専攻していました。大学院への進学を前に、「藻類によるバイオ燃料の生産」というテーマを知り、私が幼少期にぜんそくで苦しんだ経験から、これは空気がキレイな環境づくりにきっと貢献出来ると考えました。東京大学大学院新領域創成科学研究科 植物生存システム分野の河野重行教授(当時)の門を叩き、専攻してきた化学と生物の知識を活かして研究を進めました。
研究は、藻類を用いてバイオ燃料の高生産株を育種するというものでした。重イオンビーム照射という先進技術を用いる育種法で新規株を作出し、高生産な生育条件も検討しました。また、オイルや機能性成分を蓄積するメカニズム研究の結果の一つとして、特異な脂肪酸を蓄積する株の発見にも携わりました。
研究の過程で、通常の緑色ではなく、黄色となるクロレラを見出しました。このクロレラには、有用物質であるカロテノイドが多量に含まれていることがわかり、藻類には様々な有用物質があるとの思いから、株と培養条件を検討し、七色クロレラ(写真)を発見しました。
更に、大量培養(スケールアップ)という課題に取り組むために、藻類の大量培養で先進的なチェコ国立科学アカデミー微生物学研究所に2013年と2014年に留学しました。
七色クロレラの発見で、藻類の可能性を確信しました。今、私たちの生活には石油化学製品由来のプラスチックや繊維などが溢れていますが、これらを藻類由来の製品に置き換えていくことができると考えています。陸上植物由来の製品は世の中に沢山ありますが、これからの世界的な人口増加を考えると農地の取り合いも予測されています。未活用地での藻類栽培は問題解決につながります。

更に大学での研究成果を特許出願する機会に恵まれたことが大きな転機となり、起業してこの特許を発展させ、研究成果を実用化して社会に役立てることができるのではと考えるようになりました。
起業については漠然としていましたが、先輩起業家や、東大の産学連携本部の先生の助言を受け、科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創発プログラム(START)へ応募を決意しました。河野教授の下で応募に全面的な協力をいただき、株式会社東京大学エッジキャピタル(現:株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ)(UTEC)のご支援により採択に至りました。UTECを事業プロモーターとして、2年間、研究開発と並行して事業化の構想を練りました。更に2017年4月から千葉県の事業化支援機関である東葛テクノプラザにスペースを借りて、クロレラの大量培養と市場調査などの起業準備を進め、2018年3月に会社を設立しました。
1か月ほどで株式会社を設立されたそうですね
起業の決断をしたものの、当時はどうやって会社を作ったらいいかわかりませんでした。そこで、以前から知り合いだった東大柏ベンチャープラザの原田博文さんに「1か月で会社を作るのを手伝ってください」とご相談したのです。早速、一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)や公認会計士などをご紹介いただき、実働2週間ほどで株式会社を設立し、その1か月後にはVCから出資を受けることができました。
世の中にある「起業支援」プログラムの多くは起業直後の支援で、それ以前の会社の具体的な作り方を教えてくれるような支援はほとんど無いことも、やってみて初めてわかりました。そんな中で原田さんの強力なアドバイスのおかげで何とか会社を設立でき、深く感謝しています。
事業の展開と現在
現在の事業はどのようなものですか
まず、藻類バイオ事業参入を検討している企業に、参入を支援する形での技術指導や受託研究開発等を行っています。また藻類が生産する物質の用途開発のためにサンプル供給したり、分析受託なども受け付けたりもしています。
当社は大学で得られた研究資産を受け継ぐ形で起業しており、クロレラをはじめとする、色、含有するオイルやカロテノイドなどの成分、機能性などが異なる藻類株を保有しています。藻類の大量培養方法や機能性の物質生産に関連する大学の特許について、ライセンス契約も締結しています。
また、これまで、食品や化粧品、環境エネルギー分野などの約200社から問い合わせを受けました。そのうち食用色素や抗酸化作用を持つ健康食品、化粧品などの分野で数社と開発契約を締結し、藻類を用いた新たな製品開発にもチャレンジしています。
拠点は、東葛テクノプラザと東大柏ベンチャープラザにあります。ただ、生産技術検討のためには、ラボだけでは難しくなってきましたので、2019年4月には培養技術センターを柏市内に開設しました。地元の商工会の方にも大変お世話になり、栽培をやめて農業資材置き場として利用されていた温室をお借りして藻類の大量培養装置を設置することができました。

2019年11月にはシリーズAとして4億円の資金を調達することができました。また、2020年7月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「研究開発型スタートアップ支援事業/シード期の研究開発型スタートアップに対する事業化支援」にも採択され、1年半の間に最大7000万円までの支援を受けられることになっています。大量培養などの事業化に必要な技術開発や用途開発などの加速に活用させていただいております。
そして、これから
会社をどのように成長させていこうと考えていますか
現時点では、藻類の用途は健康食品など限定的ですので、市場のニーズを取り入れるマーケット・インの考え方で開発を進め、各分野の企業に用途を評価いただけるようなサンプル供給を拡大していきます。
将来的には、植物工場のような藻類の大量培養が展開できるのではと考えています。大量生産でコストが下がると、プラスチックや燃料も藻類から生産する未来があり、市場がますます広がると期待されます。生産性を高めるには、ゲノム編集等の最新技術が活用されるものと考えており、その動向も視野に、技術開発の広がりも探っています。
藻類を扱うほかの企業などとも連携して業界全体で利用技術を拡大していく事を考えています。藻類を使った製品が石油化学製品に代わって世の中にあふれるような社会にするのが目標で、2018年から、JST産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)の「低CO2と低環境負荷を実現する微細藻バイオリファイナリーの創出」にも参画していて、様々な大学の研究者や企業の方とも連携しながら、地球規模の課題解決にも挑戦しています。
また個人的には、会社を成長させて、後に続く研究者発のベンチャー起業家たちのロールモデルになることを目指したいですね。
インキュベーションの利用
入居のきっかけ
研究者時代に恩師から原田マネージャーを紹介していただいたことが始まりです。前述のように会社設立や入居の際に大変お世話になりました。
入居して良かったこと
当社は実験室で培養を行うため、床や壁の材料、空調などが重要です。東大柏ベンチャープラザは全室が実験室(ウエットラボ)仕様で、24時間空調が使えることも魅力でした。藻類の培養は照明や温度管理が必要なので、東大柏ベンチャープラザにお願いして、停電時の自動復旧と連絡体制を整えていただきました。
今年は新型コロナウイルスの影響で開催できなかったのですが、ここには多くのバイオ系ベンチャーが入居しているので、忘年会などで交流して刺激を受けています。IM室の仲立ちで、インキュベーション施設内で受委託研究に発展したり、不要になった什器などをやりとりした例もあります。
将来の入居者へのメッセージ
大学発ベンチャーは研究者が会社勤務の経験がないまま起業しているケースがほとんどです。入居できるだけでなく、販路や技術提携、資本調達のネットワークをつないでもらったり、財務について教えてもらったり、採用面談に同席いただいたりと“頼れる大人”にサポートを受けられるのはすごいことです。入居者の方々にはいろいろな専門家が集まっているIM室に頻繁に通うことをお勧めします。
会社情報
- 会社名
- 株式会社アルガルバイオ
- 代表取締役社長
- 竹下 毅
- 所在地
- 千葉県柏市柏の葉5-4-19 東大柏ベンチャープラザ 306A
- 事業概要
- 藻類バイオおよび関連事業の技術指導、コンサルティング
機能性バイオによる新市場開拓
会社略歴
2018年3月 | 株式会社アルガルバイオ設立 |
---|---|
2018年10月 | 東大柏ベンチャープラザに入居、研究所開設 |
2019年4月 | 柏市船戸に培養技術センター開所 |
技術紹介
藻類バイオおよび関連事業の技術指導、コンサルティング
クロレラなどの藻類は、太陽光の下でCO2 とH2O から、脂質、タンパク質、デンプンなど良質な栄養源やエネルギー源だけでなく、各種カロテノイド、希少脂肪酸などの機能性成分を生産できる独立栄養生物だが、数十万種のうち産業利用はわずか30種ほどにすぎない。
アルガルバイオ社では、クロレラを中心とした物質生産に資する藻類株の育種・培養技術および生産物供給により、食品、健康食品、化学・薬品・化粧品、環境・エネルギー分野などから藻類バイオ事業に参入を検討する企業に対して技術の指導、受託研究等を行っている。将来的には自社開発により特徴的な機能性を示す藻類株を製品として世に出していくことを目指している。
担当マネージャーからのコメント

(株)アルガルバイオは、東京大学柏キャンパス発のベンチャー企業です。地元企業と柏キャンパスとの交流イベントで研究室を訪れて以来、入居される前から、会社設立のご相談や大企業との商談を設定するなど、サポートさせていただいています。ご入居後も、竹下社長のエネルギッシュなリーダーシップのもと、驚異的なスピードで経営体制整備や事業展開が進んでいます。
IM室では、“食料”、“健康”、“環境”、“エネルギー”等、地球規模の課題を解決するイノベーションとして、速やかな事業化に貢献すべく、引き続き最大限のサポートをしてまいります。
東大柏ベンチャープラザ
チーフインキュベーションマネージャー 原田 博文