「Muse細胞」を用いた再生医療等製品の実用化を目指すNALIC卒業企業

2020年 12月 1日

LSII

注目を集める多能性幹細胞で新たに発見された「Muse細胞」。再生医療への実用化を目指して起業した株式会社ClioはNALICに入居して研究開発を進め、M&Aにより株式会社生命科学インスティテュート(LSII)に事業承継され卒業しました。Muse細胞製剤CL2020(開発コード)を用いて、急性心筋梗塞や脳梗塞などの複数の疾患を対象に臨床試験を進める同事業の経緯、事業展開、今後の展望についてLSIIの取締役 常務執行役員 森本 聡 氏にお話を伺いました。(2020年10月取材)

インタビュー

お話
株式会社生命科学インスティテュート(2014年1月から2019年2月までNALICに入居)
取締役 常務執行役員 森本 聡 氏

起業、会社のおいたち

株式会社Clioは「Muse細胞」の知財管理から起業したそうですね

Muse細胞由来のクラスター
Muse細胞由来のクラスター

株式会社Clioは2010年に東北大学の出澤真理教授らのグループにより発見されたMuse細胞(Multilineage-differentiating stress enduring cells)の事業化を目指して創業しました。Muse細胞は、末梢血や骨髄、各臓器の結合組織中など、体内に元々存在し、体を構成する様々な細胞に分化できる多能性幹細胞です。

2013年に特許が成立しましたので本格的な事業化を目指すことにしました。ヒト幹細胞等を扱ううえで重要な施設がCPC(Cell Processing Center)と呼ばれる細胞加工施設です。簡単に言うと細胞を扱うための非常に清浄度の高いクリーンルームです。無塵服を着て作業するまでには、複数の部屋を経て清浄度を上げていく手間のかかるもので簡単には設置できません。

利用できるCPCを探していたところ、名古屋大学と共同研究を行いながらCPCを使わせてもらえることとなりました。僅か500mのところに名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)があり、空き室もあったので入居を決めました。

Muse細胞を使う強みについて教えてください

Muse細胞は細胞治療を行う上で実用性に優れています。Muse細胞製剤は静脈内に点滴で投与しますので、外科手術が不要で身体への負担がとても軽くなります。投与されたMuse細胞は血管内を遊走しながら傷害部位に集まり、必要な細胞に自ら分化していきます。

また、腫瘍化のリスクが低く、間葉系幹細胞の特徴として免疫応答が寛容なため、自分の幹細胞(自家)でなくともドナー由来の他家幹細胞を利用することが可能です。つまりMuse細胞製剤は凍結保存しておけば、必要な時に医薬品のように使用しやすい製剤です。

現在、急性心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症および脊髄損傷の4つの疾患を対象に臨床試験が進んでいますが、製造する立場からは同じ製剤を使っている点もメリットです。

Muse細胞はもともと体内にある細胞です。Muse細胞の役割は、日々の修復、メンテナンスに役立っているのではないかと推測されています。良い例えではありませんが、火事の消火に例えれば、バケツの水をかけて消せるボヤ程度のことは日々体内で起こっており、この修復にはもともと体内に存在するMuse細胞が働いているのでしょう。しかし、大量の細胞が損傷する心筋梗塞といった大火事には対応できない。だから消防隊としてMuse細胞を点滴静脈注射で体内に送り込むことで修復が行われると考えていただくと理解しやすいのではないでしょうか。

事業の展開と現在

(株)Clioと(株)生命科学インスティテュート(LSII)の出会いについて教えてください。

森本取締役

Clio社にBD(Business Development:事業開発担当者)がおりまして、当社(LSII)へ売り込みに来たことがきっかけです。LSIIは三菱ケミカルホールディングスの100%子会社ですが2014年に設立したばかりで、人々の健康に貢献することを目指すLSIIの事業領域にもマッチしていることもありMuse細胞は興味あるプロジェクト候補の一つでもありました。我々の会社の人員は100名強ですし、大会社ではありません。ベンチャースピリッツを持ってリスクテイクしていく、考えているより進むことを選択しようと、2015年6月にはClio社の全株式取得により子会社化し、2017年1月には吸収合併と、非常に早いスピードで Muse 細胞製剤の早期事業化に向けて事業基盤や体制の強化を図ってきました。大きい製薬企業ではなかなかないスピードだと思います。

NALICに入居して良かったことは何ですか

最初は2部屋でスタートしましたが、最終的には8部屋まで拡張しました。事業化といっても、製造を法律や規制等に従って行おうとすると多くのことが必要になります。細胞も人間の治療のために使用するものですので、製造方法や品質管理方法の確立、品質保証のためのデータチェック等、人員が増えスペースの拡張が必要になっていきました。人員増加に伴いGCTP組織体制を整えつつ、社員のマインドセットを変えていくことも大切でした。NALICは基本的な設備も整っており拡張性が高かったことと、何でも相談できるIMがいて助かりました。

そして、これから

今後の展開をお聞かせください

5年間の入居期間を経てNALICを卒業し、現在では承認取得後の商用生産にも利用できる規模のCPCを神奈川県川崎市のライフイノベーションセンターに設置し移転することができました。事業継続の観点からも将来的には国内に複数のCPCを設置し、海外にも展開しようと考えています。

こんなに魅力のあるMuse細胞ですが、製造は大変です。細胞は生きていますので、作業はクイックにやらないと、どんどん死んでしまいます。ある程度の寿命もあり、無限に増やせるわけでもありません。現在の規制では、原料確保も大変です。細胞には除菌・滅菌もできませんので、細菌等の混入を防ぐため、クリーンな環境で原料を取得、そして製造をしなければいけません。まだまだ課題は多いのですが、Muse細胞は様々な疾患に対する基礎的な研究が数多く行われており、非常に大きなポテンシャルを感じています。LSIIのミッションは困っている人を救うことですので、今後もMuse細胞製剤の適応疾患を広げていく予定です。

インキュベーションの利用

入居のきっかけ

本格的な事業化を進めるために不可欠なCPCを探す中で、名古屋大学のCPCが使用できることとなり、近隣にNALICがあったので入居を決めました。交通の便もよく、ほぼとなりに24h営業のスーパー等もあり、食事を含め周辺の環境が大変良かったこともポイントです。

入居しての変化

製造工程や品質管理法の確立といった製品面と、就業規則の整備や労働時間の適正な管理といった組織運営面で、研究室の延長から会社へとステップアップでき、従業員のマインドも大きく変化したと思います。

将来の入居者へのメッセージ

インキュベーション施設やIMは、入居企業の支援で経験値を積んでいますので、非常に頼りになります。アイデアを具体化していくのがインキュベーションであり、具体的な成果なくして事業に繋がりません。創業や事業展開で悩むくらいなら、インキュベーション施設に入居してPOC(Proof of Concept)を確立するなり、コンセプトをまとめるなり便利に使うのが良いと思います。

会社情報

会社名
株式会社生命科学インスティテュート 
代表取締役社長
木曽 誠一
所在地
東京都千代田区内神田一丁目13番4号 THE KAITEKI ビル
事業概要
ヘルスケアソリューション事業及び同事業を含む会社の株式保有等

会社略歴

2009年12月 株式会社Clio設立
2014年1月 NALICに入居
2014年4月 株式会社生命科学インスティテュート(LSII)発足
2015年6月 LSIIが株式会社Clioを買収し、連結子会社化
2018年各月 急性心筋梗塞(1月)、脳梗塞(9月)、表皮水疱症(12月)を対象疾患としたMuse 細胞製剤(CL2020)の探索的臨床試験開始
2018年10月 細胞加工施設(殿町CPC)竣工
2019年2月 NALICを卒業
2019年4月 LSIIで再生医療等製品製造販売業許可取得
2019年7月 脊髄損傷を対象疾患としたMuse 細胞製剤(CL2020)の臨床試験開始
2019年7月 LSII・殿町CPCで再生医療等製品製造業許可取得
2020年4月 急性心筋梗塞を対象疾患とした Muse 細胞製剤(CL2020)の探索的臨床試験で、投与後12週までの安全性に問題のなかったことを発表。また、脳梗塞を対象疾患とした臨床試験についても、投与後12週までの安全性に問題はなく、有効性について目標達成したことを発表
2020年7月 表皮水疱症を対象疾患としたMuse細胞製剤(CL2020)の臨床試験で、投与後52週までの安全性に問題はなく、有効性について当初目標を達成したことを発表

技術紹介

Muse細胞

Muse細胞は生体内に存在する非腫瘍性の多能性幹細胞です。様々な細胞に分化する能力を有し、静脈内投与により傷害部位に遊走して生着し、組織に応じた細胞に自発的に分化して組織・機能を修復します。

Muse細胞を脳梗塞に適用した場合の概略図 (156KB)

担当マネージャーからのコメント

CIM画像

(株)Clioとしてご入居いただいた当初は2室、常駐スタッフも3名からスタート。東京から名古屋への引っ越し先のアドバイスや、実験器具が足りないときは他の入居企業から借りるための仲介など、そんな些細なことからご支援も始まりました。

その後はNALICの特長である、大学との連携が容易な立地条件、居室の増床・減床のフレキシビリティ、無料でご利用いただける会議室、IMによるソフト支援などを十分にご活用いただきながら研究開発は進み、(株)生命科学インスティテュート様によるM&Aを経てさらに加速。最後は8室、40名近くまでになり、ご卒業されました。事業のご成長にNALICがお役に立てたのであれば光栄です。

益々のご発展を楽しみにしつつ、現在もときどき連絡を取らせていただいております。

名古屋医工連携インキュベータ(NALIC)
チーフインキュベーションマネージャー 石黒 裕康

インキュベーション施設

名古屋医工連携インキュベータ