ペプチド合成と創薬技術を生かした東京農工大学発(医薬品)ベンチャー
2017年 11月 1日

高品質、低価格のペプチド医薬品をグローバル市場へ提供し、社会へ貢献することを目指す東京農工大発の医薬品開発ベンチャーのJITSUBO株式会社。今般、代表取締役 CFO 塚本晃章氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話をお伺いしました。(2017年11月取材)
インタビュー
お話:代表取締役 CFO 塚本 晃章 氏
起業、会社のおいたち
起業の経緯についてお聞かせください。

JITSUBO株式会社は、東京農工大学農学府生物有機化学研究室(千葉一裕教授、現農工大副学長)において発明された「相溶性-多相有機溶媒システム」の実用化を目指して2005年に創業いたしました。この技術は当社技術のプロトタイプに相当し、社名は千葉教授の実家の家業(約500年前に創業した婦人用漢方薬・千葉実母散の製造販売)に由来しています。
創業当初は医薬品原薬の合成研究用試薬の製造販売を事業としていましたが、2008年には当社独自技術の利点を生かした受託合成サービス事業、さらにペプチド誘導体を対象に絞り込み研究開発やサービス提供を行うライセンス事業も開始しました。
ペプチド医薬品の重要性と御社の技術の優位性について教えてください。
低分子医薬品は化学合成により製造される分子量1,000以下の有機化合物で、これまで多くの病気が低分子医薬品で解決されてきました。今では低分子医薬品は既に出尽くしたと言われ、低分子医薬品で解決することが出来ない難しい癌や糖尿病などを治療するための医薬品が必要とされています。その一つが抗体に代表される高分子医薬品です。これは細胞培養により製造されるタンパク質で標的に高い選択性で作用することが出来ます。一方で、製造・品質管理が難しくコストが高くなるため患者の財政負担は大きくなります。ペプチド医薬品は中分子医薬品で、低分子医薬品と高分子医薬品の良いところを併せ持ち、様々なアミノ酸を化学合成することで製造できるのでコストを抑制することが可能です。
しかし、ペプチド医薬品にも課題はあります。低分子医薬品に比べればコストは高く、構造最適化の手段が限られています。また、投与方法がほぼ注射に限られていて、経口投与を可能にするためにはペプチドの物性の改良とさらなるコスト低減を推進しなければなりません。我々はこれらの課題を解決可能な二つの革新的技術を保有しています。一つが、Molecular Hiving法で、高純度のペプチド原薬を低コストで安定的に製造することが可能です。もう一つがPeptune法で、アミノ酸配列をほとんど変えずに付加価値の高い新規ペプチド医薬品を製造することが可能になります。
事業の展開と現在
これまでどのような御苦労がありましたか
バイオベンチャーに共通する課題として、事業が成立するまでに時間がかかるという点が挙げられます。当社も紆余曲折を経て今に至っております。これまでに様々な公的支援施策を活用して乗り切ってきました。科学技術振興機構(JST)の「独創モデル(2006年)」、「Astepシーズ顕在化(2006年、2009年)」、「産学共同シーズイノベーション化事業(2007年)」、「高度研究人材活用促進事業(2009年)」、「研究成果最適展開支援事業(2010年)」、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「研究開発型ベンチャー(2010年)」、「イノベーション実用化ベンチャー支援事業(2013年)」、経済産業省「地域中核企業創出・支援事業(2017年)」などです。
そーせいグループ株式会社(東証マザーズ4565)の一員ですね

2013年に医薬品開発中心の事業にビジネスモデルを転換しました。これは2020年前後からペプチド医薬品の特許が切れるため新たな事業機会と見据えてのことです。2014年には、そーせいグループ株式会社の一員となりました。成長市場に対して独自性・優位性が高い技術を保有していることが評価されました。これにより自社医薬品開発事業を加速すると同時に創薬事業を立ち上げました。
2017年6月末に事業拡大に伴う製造拠点を求めて、農工大・多摩小金井ベンチャーポートからライフサイエンス研究センターに拠点を移しました。現在の従業員は約20名です。
そして、これから
今後の展望をお聞かせください。
我々の企業理念は、ペプチド医薬品の提供を通じて幸福社会の実現に貢献するということです。我々が解決したい社会課題は高騰する医療費を抑制すること、未充足の医療ニーズを解決できるペプチド医薬品を提供することです。これまでは実験室レベルでの生産が中心でしたが、お陰様で引き合いも多くスケールアップして生産することが可能になりました。今後は様々な製薬メーカーと連携して純度が高く安価の注射剤に加え、経口投与が可能な後発のペプチド医薬品やこれまで解決されていない病気を治療するための新規のペプチド医薬品を世に出していきたいです。
インキュベーションの利用
入居のきっかけ
2005年に東京農工大学農学府生物有機化学研究室の千葉教授が発明した「相溶性-多相有機溶媒システム」の実用化を目的に創業して、2008年に農工大・多摩小金井ベンチャーポートが出来たと同時に入居しました。
入居しての変化
IM室の対応がとてもよく助かりました。専門的知識を有する専門家が様々な面でサポートしてくれました。
入居してよかったこと、将来の入居者へのメッセージ
大学キャンパス内にあり、実験が可能な事業化スペースという点が魅力です。ウェットラボ仕様で実験も可能な施設であることを考えると安価であると言えます。ベンチャーは資金が不足しているので、このような施設を活用できると非常に便利です。今後起業する方にお勧めです。
会社情報
- 会社名
- JITSUBO株式会社
- 代表取締役社長
- 金井 和昭
- 所在地
- 神奈川県横浜市鶴見区末広町1-1-43
ライフサイエンス研究センター4-1
- 事業概要
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- ペプチド医薬品の開発
- ペプチド原薬製造技術に関するライセンス
- ペプチド創薬に関する研究
会社略歴
2005年4月 | 東京農工大発のベンチャー企業として東京都小金井市に設立 |
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2007年4月 | 当社独自技術の利点を生かした受託合成サービス事業を開始 |
2008年12月 | 農工大・多摩小金井ベンチャーポート入居 |
2013年 | 自社製品開発事業中心のビジネスモデルに転換 |
2014年12月 | そーせいグループに参画 |
2017年7月 | 農工大・多摩小金井ベンチャーポート卒業 |
製品紹介
独自の「分離技術」を利用した、既存技術の利点を備えたペプチド合成方法 「Molecular Hiving」

当社は、高効率ペプチド製造技術である「Molecular Hiving」と新規ペプチド創薬技術である「Peptune」の2つの特徴的な基盤技術を保有しており、特に「Molecular Hiving」が基盤技術の基礎となっている。
「Molecular Hiving」は、ペプチドを合成するための化学反応が均一かつ自由度の高い溶液状態で行えるため、原薬を高品質で安価に製造できるという利点を有している。当社は原薬を高効率に開発・製造できる「Molecular Hiving」により、主に後発品医薬品開発事業で高い収益性を確保が可能となる。
担当マネージャーからのコメント

ペプチド医薬品は従来低分子医薬品に比べ、これまで治療が難しかった病気への効能が高く副作用が少ない点で非常に期待されています。当社は独自の合成技術でこのペプチド医薬品の大幅なコストダウンを実現し、より多くの患者さんへ薬を提供できるように日々健闘されています。事業拡大を成功させ、技術をベースに、より良い社会づくりに邁進していただきたいと願っています。
農工大・多摩小金井ベンチャーポート
チーフIM(インキュベーションマネージャー)菅野 佳弘