幹細胞関連技術を応用した細胞製品を提供するバイオベンチャー
2017年 12月 1日

幹細胞関連技術を応用した細胞製品の提供を通じ、効率的な創薬プロセスの実現を目指す株式会社幹細胞&デバイス研究所。今般、代表取締役 CEO加藤 謙介氏に、起業の経緯、事業内容、今後の展望についてお話をお伺いしました。(2017年12月取材)
インタビュー
お話:代表取締役CEO 加藤 謙介 氏
起業、会社のおいたち
起業のきっかけについて教えてください。

私は工学系の研究職からキャリアを開始し、大手メーカーでも設計開発や事業開発に携わってきました。世界初の技術や世界トップ性能といった技術開発も経験しましたが、技術開発で成功することと事業に貢献することは別の問題であることを幾度か経験しました。こうしたことを起点として、戦略策定やイノベーションマネジメントの重要性を強く感じるようになりました。
2008年に東工大発ベンチャーを立ち上げました。技術をベースとしたクライアントの事業を成功に導くための経営戦略/事業戦略を立案し、成功するためのあらゆる手段を実行するという事業です。第三者的な支援ではなく、まさに組織の中の一部として活動するというスタイルでした。こうした活動の一環として幹細胞関連技術に関与する機会があり、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)設立拠点長であった中辻憲夫京都大学名誉教授をはじめ、当分野を牽引しているメンバーと出会えたことがきっかけで2014年に幹細胞&デバイス研究所を設立しました。
事業の展開と現在
御社で取り組んでいる細胞デバイスについて教えてください。
我々は効率的な創薬のプロセスの実現に向けて幹細胞応用技術を提供しています。さらに、これらの技術を活用して再生医療技術の進展に貢献したいと考えています。創薬では非常に長い期間と多額の資金を要する仕事で、シーズ探索、スクリーニング、前臨床試験、臨床試験、承認申請、薬事承認というプロセスを経て初めて薬として販売が可能となります。薬の開発が中止となる最大の要因は「安全性が確認できない」ことであり、前臨床試験段階では82%、臨床試験段階でも62%に及ぶとする研究もなされています。中でも心毒性は前臨床段階、臨床段階いずれも上位を占めており、これらを解決することは非常に重要です。
我々の細胞製品は、スクリーニングと前臨床の二つの段階で、薬の候補物質の安全性を確認することを目的に開発しました。2つのコア技術を有しており、いずれも京都大学での研究成果をもとに社内で改良を図って参りました。一つ目が低分子化合物のみを用いた心筋分化誘導技術です。これまではiPS細胞を特定の臓器の細胞に変化させるために、天然由来のタンパク質を利用して指令を出しますが、天然であるが故にバラツキがありました。人工的に精密に合成する低分子化合物を利用することで、バラツキが極めて少ない安定的な分化誘導技術が実現しています。
二つ目がナノファイバーを用いた細胞培養技術です。制御された配向性を持つナノファイバー製の足場で培養することで、より実際の心筋に近い3次元の配向性を持つ心筋組織を開発することができました。実際の組織構造に近づけることで、遺伝子発現が向上するなど細胞は成熟し、2次元培養では見られない高い機能性を発揮します。この3次元組織片を、取扱いを容易にするフレームに装着し、細胞デバイスとしています。これらの技術により、安全性評価、毒性評価において、従来よりも安定的かつ適正な薬剤応答性が得られ、効率的な創薬プロセスの実現に貢献することが可能となります。
競合との差別化は出来ているのですか?
iPS細胞由来の細胞製品はすでに市販されています。しかしながら、2次元培養を前提とした細胞が主体であり、ユーザーからは成熟性、機能性に関して満足していない旨を伺う機会があります。我々の細胞製品で特に強調したいことは、3次元配向性を実現することによって、現実の心筋に近づけた挙動を再現できる点です。すでに比較評価も行っており、薬剤応答の適正性、収縮性などの評価項目で優位性を発揮します。また、細胞単体ではなくデバイス化することでユーザーでの取扱い性を改善し、負荷の軽減を図ることができました。
そして、これから
今後の展望をお聞かせください。

これまでに2回の資金調達を終えて実用化技術の開発と製品化までたどり着きました。今後は海外展開の他、優位性を発揮する細胞デバイスを活用した受託アッセイなども含めて、効率的な創薬プロセスの実現に貢献していきたいと考えています。また、心筋細胞以外の分野への挑戦も開始しており、いくつかの開発案件を受託しています。さらには再生医療分野でも貢献することを視野に、メンバーと共に着実かつ加速して事業を前進させて参ります。
インキュベーションの利用
入居のきっかけ
立地的にiCeMSから近かったということが初期的な動機ですが、クリエイションコア京都御車をはじめて訪問した際、山戸CIMからの「最大限サポートします」との言葉が決定打となり、即決しました。
入居しての変化
ベンチャーは設立以降、成長のフェーズに応じてメンバーや研究機材が増加し、ヤドカリのように大きな器が逐次必要となります。実験室の拡張や施設内の転居にも柔軟に対応していただき感謝しています。引越しの搬入までもサポートしていただきました。
さらには、色々な場面でプレゼンの機会や人脈をご紹介いただき、事業の立ち上げ期にもかかわらず急速にネットワークの幅を広げることができました。これは入居しなければ受けられないサポートであり、現在ではいくつもの公的機関から多くの支援を受けられるようになりました。特に新規参入者にとって単独での生存、成長は困難であり、ネットワークの形成は貴重な経営資産となっています。
入居してよかったこと、将来の入居者へのメッセージ
入居者の経営状況を把握して、入居者の立場に立って需要に合ったサポートをタイムリーに提供してくれる常駐のIMがいることが大きな魅力です。鴨川に面した景色は素晴らしく、研究開発環境としても最適です。毎年8月16日には五山の送り火鑑賞会が開催され、入居者間の交流が図られます。さらには、施設内に限らず必要となる外部とのネットワーク形成までサポートが期待できる事業化拠点です。
会社情報
- 会社名
- 株式会社幹細胞&デバイス研究所
- 代表取締役CEO
- 加藤 謙介
- 所在地
- 京都市上京区河原町今出川下梶井町448-5
クリエイション・コア京都御車209・309・310
- 事業概要
-
- 微細加工技術等を用いた立体細胞培養技術の開発
- 細胞デバイス等創薬リサーチツール応用製品の開発製造販売
会社略歴
2014年5月 | 株式会社幹細胞&デバイス研究所を京都市に設立 2014年7月 京都大学と共同研究を開始 |
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2014年8月 | クリエイション・コア京都御車入居 |
2015年2月 | 大手素材メーカーと共同開発開始 |
2015年5月 | 細胞培養足場材料の特許出願 |
2016年6月 | シリーズA第三者割当増資を実施 |
2017年1月 | 国内製薬メーカーへサンプル出荷 |
2017年3月 | 大手化学メーカーから細胞デバイスの開発受託 |
2017年7~9月 | 京都市目利き委員会 Aランク企業認定 シリーズB第三者割当増資を実施 |
製品紹介
ナノファイバーを用いた細胞培養技術

ナノファイバーでの培養技術により、既存心筋製品と比較して高い成熟性と安定した機能性を持つ三次元組織を実現。より実際の心筋挙動に近づけた創薬安全性評価向けの細胞デバイスを開発した。
担当マネージャーからのコメント

クリエイション・コア京都御車では、人との出会いを入居企業支援の重きに置いております。このステージに必要な人、この分野に必要な人など、研究開発型バイオベンチャー企業が置かれている状況を汲み取り、応援団となり得る支援者との出会いをサポートし、加藤社長も上手にご活用頂いたかと思います。
クリエイション・コア京都御車
チーフIM 山戸 俊幸