デザイン経営の理解とその実践に向けたソーシャルメディア活用による支援 成果事例集
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Collection of design management results|19 世界中のデザイナーがいつかは出展してみたいと考える、世界最高峰のイタリアの家具見本市で、大手家具メーカーに混じって、小さく質素でありながらも時代のエッジが効いたデザインで大きな存在感を示していたブースがありました。驚いたのは、その家具メーカーは家族経営の小さな工場で、社長もただの気さくなおじさんのように見えました。しかし、そこには海外からの若いデザイナーたちがひっきりなしに訪れ、社長は、これはいい、これはいまひとつと言いながら、新たなパートナーを見つけていいました。小さな家族経営の工場であっても、ショーでは大変立派なブランドに見える。イタリア人はすごいなと感じたものでした。 アップルといえば今や世界一の評価額を持った大企業ですが、私が学生の頃は、すぐに爆弾マークが出てハングアップしてしまう小さなコンピューターを作っている会社でした。しかし面白いことに当時のアップルユーザーは、そんな不具合も含めて、その製品を愛していたことです。しょうがない奴だなあ、という気持ちにさせる。それはプロダクトデザインやソフトウェアのデザイン、使い心地がとても魅力的で、業務用コンピューターとは全く違う自分の可能性を広げてくれる新しい概念の体験をもたらすパーソナルコンピュータ呼ばれるものだったのです。 2つに共通することは、目に見えるデザインも最高のレベルであっただけでなく、それを作っている人たちのマインドが活気や情熱に溢れているということです。プロダクトからはそれが伝わってくるし、応援したくなるような魅力に溢れ、道を切り開くようなチャレンジ精神で満たされた仕事がされていました。「ブランド」や「イノベーション」は、そのような中に生まれたのではないでしょうか。多くの人々の共感を得て支持される製品やサービスは、共感を持てる姿勢から生まれてくるものではないでしょうか。 デザイン経営の幹となる最も大切なことは、「世界を変える」「世界をより良くする」といった大風呂敷な理想と、自由で情熱に溢れ失敗を恐れないポジティブな「やってみよう精神」です。デザイン経営のゴールは、そのようなチームを作ることであり、経営者やチームの全員がその精神を持って前に進めば、ガレージから出発したような小さな会社が世界を変える事ができるでしょう。 Gマーク(グッドデザイン賞)が制定されたのは1957年のことでした。日本企業による海外製品からのデザイン盗用が大きな問題となり、模倣をやめ、オリジナルのデザインを奨励しようという目的で始まったものです。半世紀が過ぎ、目に見えるデザインの模倣は少なくなりましたが、ビジネスの世界では、海外で流行っている〇〇を日本で初めて提供しました、というように相変わらず猿真似だらけです。 デザインのプロセスは観察の中から発見し、実験により証明を行う自然科学のプロセスと同じです。デザイン経営とはオリジナルのビジネスを生み出し、顧客を得ていく経営の姿勢のこと、と言い換えても良いかもしれません。そのアウトプットのわかりやすい例として「ブランド」や「イノベーション」があるのです。 皆さんは今、デザイン経営とは一体何だろう、というところから出発し、暗中模索の中、自分たちのビジョンを視覚化したビジョンマップを作成する、というところにたどり着いたのではないかと思います。デザイン経営ってモヤッとしてまだわからない、本当にデザイン経営って役に立つの?と感じているかもしれません。子供の頃からこれまで、どんなことでも時間をかけて理解してきたように、これもしかりです。ずっとやり続けて、そうだったのかと腑に落ちる日が来るでしょう。 ブランド構築には最低5年間はかかると言われています。人々に認知されるまでには時間がかかるものです。ブランドは自分の視点ではなく、人からどう見える・感じるか、というものだからです。そこにはわかりやすく明快なビジョンが必要です。 イノベーションを生み出すのは、組織のあり方ともいえます。失敗を許容し学びとする文化、とにかく作って試してみようという精神、フラットでフランクな互いに自由に意見が言い合える環境、チャレンジをリスクではなく誇りと思える雰囲気等々、そのような組織に生まれ変わるのには時間がかかるものです。 デザイン経営には想像力が必要です。なぜなら想像できることは創造できるからです。自分たちの事業が人々のためにどのような夢を提供できるだろうか、人々をどう助け、喜ばせ、幸せにできるだろうか、そのような夢を描けるのであれば、それはいつか必ず実現する事ができるでしょう。 “raise the bar”という言葉を米国で論文の先生から何度も聞かされました。自分の到達点を高く上げる、という意味です。高く上がったバーはどんな景色なのでしょう、それを絶えず想像して、さらに高くバーを上げ続けてください。期待しています。「中小企業のデザイン経営」にとって大切なことデザイン経営に取り組もうとする皆さんに向けておわりに金沢美術工芸大学卒。北岡デザイン事務所、ナカミチを経て1998年THINGS設立。プロダクト、空間、IT、映像の分野で、企業との先行開発の経験を持つ。現在、金沢美術工芸大学製品デザイン専攻教授。デザインによる企業再生の経験から、デザインによる社会課題の解決の研究を行っている。プロフィール金沢美術工芸大学 製品デザイン専攻 教授 安島 諭おわりに、経営におけるデザインの役割やデザイン経営の研究に取り組まれ、本事業の実施に当たってもアドバイスをいただいた金沢美術工芸大学安島教授からのコメントをご紹介いたします。

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