中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル詳細版
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- 81 - Column#12 新興国における警備事情 手さぐりでは後手になってしまう警備体制の構築! 海外では、日本とは治安の状況が異なるため、現地の実態に応じた警備体制の構築が必要となる。 タイに進出したある日系企業は、現地従業員の定着率が低いため、頻繁に入れ替わる現地従業員に対応した工場への出入管理に不安を抱えていた。日本では考えにくいが、IDカードの貸し借りや複製なども横行しており、十分なセキュリティが確保されているとはいえなかった。 同社は、警備会社の協力を得て、現地の治安実態や従業員の行動パターンに応じた、常駐警備と機械警備を組み合わせたセキュリティ・サービスに加えて、監視カメラシステムと出入管理システムを組み合わせた警備プランにより、従業員の勤怠管理も行えるようにした。出入管理については、日本で一般的に採用されているIDカード方式では、カードの紛失・偽造や他人への無断貸与などが起こる可能性が残るため、指紋認証を採用した。これにより、IDカード紛失時の例外対応等がなくなり、セキュリティの向上と併せて、効率化とコスト削減も実現できた。 また、従業員が業務時間中に不必要に長い休憩を取っていないか、原材料や工具の持出しがないかなどの確認も行っている。海外では、日本より犯罪の発生率が高い国・地域が少なくない。外部犯罪だけでなく、内部犯罪も想定した警備体制が求められる。日本では性善説に立ち、内部犯罪を想定したプランを立てることは少ないが、海外においてはそのままでは有効に機能しないことも肝に銘じておくべきだろう。 別の日系企業では、初めての海外進出に伴い現地に工場を建設する際、治安に関する対策を軽視し、日本国内と同じ警備体制で操業を開始した。しかし、悪意を持った外部者に加えて、内部者による窃盗を十分に防ぐことができず、完成した製品や原材料の被害が後を絶たなかった。被害を受けるたびに、監視カメラの増設など警備体制を段階的に強化することとなった。操業開始時に必要な警備体制をしっかり評価していれば、被害を軽減できただけでなく、五月雨式の対策強化による余分なコストも削減できただろう。 海外に進出した企業には、現地の治安状況の急速な変化に応じた柔軟な対応も求められる。例えば、2014年の南シナ海の西沙諸島をめぐる中国・ベトナムの対立では、ベトナム国内でデモに参加した一部市民が暴徒化し、中国系企業の施設を襲撃する事件が頻発した。漢字の社名看板を掲げる日系企業も中国系企業と誤認され、被害を受ける事態となった。 そこで、警備会社からの緊急の情報提供・アドバイスにしたがって、工場や事務所の正門など目につきやすい場所に日の丸を掲げるなど、日本の企業であることを明示する対策を講じた。この対策の効果は絶大であり、多くの企業が巻き添え被害を免れ、メディアでも報道された。 日系企業においても、地元警備会社と現地従業員が結託して、意図的に警備の隙を作って、賊を招き入れる例が発生している。地元警備会社と信頼関係を築くと同時に、オンライン遠隔監視システムにより日本本社からタイムリーに現地の状況を把握するなどの工夫も必要である。 一口に警備といっても、企業ごとにその対象は多岐に渡り、手法も多種多様である。どういった警備体制がその国・地域において最適か見極めることが大切であり、日本での経験だけを頼りにせず、現地事情に精通した専門家のアドバイスを受けることが有効である。 情報提供協力:綜合警備保障株式会社(ALSOK)

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