中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル詳細版
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- 41 - Column#3(一般社団法人日本商事仲裁協会) 必ず起こる海外トラブル。その時の備えはありますか? 日本の中堅食品メーカーJ社は、アジアのX国において、X国企業のF社と食料品を製造し販売するための合弁会社を設立し、J社が70%を、F社が30%を出資することとなった。合弁会社の役員はJ社が2名、F社が1名を選出した。出資金は、合弁会社の設立日から30日以内に、それぞれの出資額の30%を支払い、その後90日以内に、各自の残額を一括して払い込むことが合意された。J社は合弁契約に基づき、払込期限までに、その出資金の全額を合弁会社に振り込んだが、F社は、その出資金の30%を払い込んだものの、90日以内に振り込むべき出資金残額を合弁会社に振り込まなかった。 J社は、F社に対し何度も出資金残額を振り込むように催告したが、F社は、J社選出の役員がF社選出役員の意見を無視して経営を行っているとして、出資金の振込みを行わなかった。そこでJ社は、合弁契約の終了の確認とF社の保有する合弁会社に対する出資持分全部をJ社に移転することを求めて、合弁契約に規定されていた仲裁条項に基づき、日本商事仲裁協会に仲裁の申立てを行った。 仲裁手続のなかで、F社は、赤字を重ねるJ社選出役員の経営を非難し、合弁会社の経営失敗を恐れ、出資金の払込みを留保したなどと主張した。しかし、仲裁人はF社の主張を認めず、合弁契約の終了を確認し、F社の保有する合弁会社に対する出資持分全部をJ社に移転することを命じる仲裁判断をした。仲裁判断は仲裁申立てから12か月でなされた。本件で仲裁条項が規定されていない場合、J社は訴訟による解決を求めることになるが、X国で訴訟をする場合、X国での裁判所の中立性や訴訟手続の長期化が懸念され、また日本で訴訟ができたとしても、日本の判決はX国で効力が認められておらず、本件の解決に訴訟という選択肢はなかった。合弁会社の設立においては、商慣習の違いや相手先との信頼関係の未構築などから生じる紛争に備え、あらかじめ契約中に日本を仲裁地とする仲裁条項を規定しておくことが重要である。 <仲裁とは> 当事者の合意に基づき、当事者が紛争解決を公正・中立の第三者(仲裁人)の判断(仲裁判断)に委ねる裁判外紛争解決手段であり、『仲裁法』上、仲裁判断は確定判決と同一の効力がある。仲裁判断は、150か国以上の国が参加している『外国仲裁判断の承認および執行に関する条約(ニューヨーク条約)』に基づき外国での執行も可能である。当事者の合意は、通常、あらかじめ契約書に仲裁条項として規定される。 <仲裁条項の例> “この契約からまたはこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。” “All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in Tokyo in accordance with the Commercial Arbitration Rules of the Japan Commercial Arbitration Association.”

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