中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル詳細版
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- 31 - 海外拠点操業段階 海外進出手続段階 海外進出計画段階 【海外における事業再編を考えよう】 中小企業庁より公表されている「中小企業の海外事業再編事例集(事業の安定継続のために)」には実際に事業再編を経験した28の個別事例が掲載されています。事例集によれば、海外事業再編の選択肢は縮小・撤退、移転など多様なものであることがわかります。事業再編を経験しながら、現在も成長している企業も多く存在しています。「撤退」というとネガティブなイメージで捉えがちですが、撤退は必ずしも失敗ではありません。本当の失敗は撤退という選択すらできないことです。このような企業は日本本社からの支援なしでは、事業を継続できない状況にあり、いずれは日本本社への悪影響を与える可能性もあります。 以下に、海外から株式譲渡(M&A)という形で撤退しながら、海外企業との取引を継続し、事業拡大している企業の例を紹介します。 海外において株式譲渡(M&A)した企業の例 製造業を営むA社は、1980年代後半にアジアに進出していた。商慣習や国民性などの課題に直面しながらも、安価で豊富な労働力に魅力を感じ事業を継続していた。しかし、2008年のリーマン・ショックを契機に海外需要が減少し、日本本社からの支援を受け事業を継続していたものの、近年、現地における人件費の上昇が利益を圧迫するようになった。 A社は現地子会社の清算を考えていたところ、日系の支援機関より、株式譲渡の選択肢を提案された。支援機関の仲介により、A社の技術力に魅力を感じた現地企業B社に株式譲渡することで、現地従業員の雇用を守り、取引先にも影響を与えずに撤退することに成功した。海外事業の清算は、時間と予期せぬコストがかかる場合があるが、株式譲渡は、のれん(営業権)を評価してもらえる場合があり、撤退コスト面でのメリットも大きい。現在は、日本国内での生産への切り替えと現地企業B社への一部生産委託により、安定した経営を取り戻している。また海外拠点を持つことによるリスクを回避しつつ、海外需要を継続して取り込めている。 事業再編を経験した企業の強みを活かし、さらなる事業拡大へ ココにも注目 出典)日本政策金融公庫総合研究所 「中小企業の海外撤退の実態~『中小企業の海外事業再編に関する アンケート』から~」 図 海外拠点で撤退経験を活用した事項(複数回答) 海外から撤退した企業の中には、撤退経験をその後の事業展開に活かしているところもあります。たとえば、日本本社への財務諸表の提出を義務付けする、日本本社から定期的に現地企業を訪問するなどの取組みが挙げられます。海外での事業を安定させ、さらなる事業展開を目指すためには、その対処法を事前に検討しておくリスクマネジメントが重要となります。 そのような対応のできる企業こそ、海外需要を取り込み持続的に成長できる企業であることは間違いないでしょう。

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