売上拡大、生産性も向上

海外展開、マーケティングのいずれもITを効果的に活用することが事業を拡大するうえで大事ですね。

高田お二人の会社は別にして、中小企業はホームページを開設していないところもあり、ITを活用しきれていないというのが現状です。それに、確かに、海外展開するうえでパートナー探しは大事なのですが、現実にはなかなか難しい。そこで、BtoB(企業対企業)について話しますと、今、中小機構が取り組んでいる施策の一つとして、マッチングサイト「J―GoodTech(ジェグテック)」があります。ものづくり系企業を中心に登録してもらい、国内の大手企業や海外企業と、国内の中小企業とをマッチングするというサービスです。現在、中小機構とMOU(連携覚書)を結んでいる海外の政府系機関に、現地の有望企業を選んでもらい、登録をしています。
それからBtoC(企業対個人)については、中小機構としては各種セミナーやオンライン講座などを通じてeコマースの活用を勧めています。マーケティングというのは市場との対話であり、市場と対話しながら自分の商品を磨き上げて、価値あるものにしていくという作業が大事になる。市場と対話する手法として、リスクが小さいのがeコマースだと思います。

松本中国では〝独身の日〟(11月11日)にアリババが1兆7000億円を売り上げました。売上高に占める海外製品は1割あり、その中で日本の製品は5%しかなかったそうです。中国で高い評価を受けている日本製品がどうしてこんなに低いのかといえば、商品数が少ないからです。日本の企業はもっと気軽に海外で売るべきです。出店できるプラットホームは各国で整備されていますので、独自に展開しようとせずに、既存のサイトを利用すればいいわけです。日本からつないでくれるサービスを利用すれば、もっと楽に海外展開できます。海外で商品を販売する場合、最初の一歩はハードルが高く感じると思いますが、実際はそれほど難しいことではありません。このようなIT活用は販路開拓につなげる展開ですが、IT活用をもっと広くとらえることも必要です。今、当社ではITを活用し、印刷所の空稼働を把握した印刷サービスや、輸送コストを低減させる仕組みの構築に力を入れています。中小企業のみなさんは、ネットで販売拡大を目指すのであれば、既存の枠組みを活用するのが無難です。さらに、生産面の改善を図る活用法をITで考えることが必要だと思います。製造に3カ月必要だった製品を1カ月でつくれるようになるとか、人員が半減できるなどがIT化で可能になります。時間、人に余裕ができれば違う分野を切り拓くこともできます。

尾畑IT活用で仕事のあり方が変わり、それにより生活のあり方も変わっていく。若者が地方に魅力を感じ始めているのは、このような変化があるからではないでしょうか。IT活用で酒づくりが将来どのように変わっていくのかは未知数ですが、地方と都市の関係は確実に変わっていくと思います。IT活用によってもたらされる自由時間を使い、都市部の人が地方と関わりを持つ機会が増えることに期待しています。ホームページの多言語化は少し頑張ればつくれます。費用負担も少なくできますので、存在を知ってもらう機会拡大のためには良いツールです。当社は現在、7カ国語に対応しています。日本酒が海外で人気だといっても、米国に行ってみると都市部だけです。地方都市のスーパーでプロモーションをすると、初めて日本酒を飲んだ、という人が多いのが実情です。海外の地方には未開拓の市場がまだたくさんあり、可能性も大きいのです。IT活用は地方の中小企業が世界と直接つながるチャンスを秘めていると思います。

高田お二人の発言は現場で取り組んでいる人にしか言えない重みがありますね。示唆される内容に具体性があっていい。お酒ですが、海外の消費者に直接販売することはできないのですか。

尾畑お酒の販売は基本的に免許制ですので、その国のパートナーを探す必要があります。しかも米国の場合は州ごとに対応が異なりますので、一元的に進めるのは難しい状況があります。各国の輸入代理店に存在をアピール、もしくは探してもらえるよう対応しています。

高田国境を越えたeコマース(越境EC)の市場規模は、国内EC市場に比べてまだまだ小さい。越境ECの決済や物流のインフラはできているのだから、あとは海外消費者をうまくつかむことだけです。中小企業が販路開拓し売上増につなげるためにも越境ECへのハードルを下げて取り組んでほしいですね。

田中尾畑さんはブログで魅力的な情報発信をしていますね。ホームページを作ろうとすれば自社の商品を見つめ直すことにもつながります。どのように表現すればいいのかを考えることで、商品の強みや魅力を社長だけでなく社員が考える機会になります。また、サイトを作ってアクセスしてもらうと、どのような人が買ってくれるのかが分かりますし、データを分析すればどこまで商品を見てくれていたか、買わないお客さまのことまで見えてきます。これがデータベースマーケティングです。どのようなお客さまに支えられているかを知り、それを持続していくことを重視すべきですね。ファンづくりという意味でも、長くお客さまと付き合うというきっかけづくりにもITはなるのだと思います。
現場でのIT活用ですが、営業分野でインサイドセールス的な利用があると思います。新規顧客開拓はインサイドで実施して、その後に経験豊富な営業マンが訪問するようなシステムなら、歳を重ねても仕事が続けられる営業マンが増えるのではないでしょうか。

高田リアルな活動とバーチャルな活動をうまく融合させていくことが重要ではないかと思います。お酒の場合は制約が多いというお話でしたが、例えばリアルには試飲などの機会を持ちながらブランドの確立を目指す。その努力で構築した価値ある商品をネットで手軽に買えるとなれば、eコマース市場はさらに大きくなると思います。もうひとつ、化粧品の資生堂は中国でブランドとして定着していますが、インバウンドで日本を訪れる中国旅行者は、資生堂の商品を爆買いしていきます。中国国内での売り上げが下がっても、日本に来て買うのですから、中国人向けは低下しない重要な市場になっています。リアルな面でブランド構築がいかに大切か、そこにITを活用することで、さらに飛躍していくことになると考えています。

変化を恐れず挑戦

今年の抱負をお聞きしたいと思います。とくに、新たにチャレンジしてみたいこともあればお聞かせください。

松本現在、展開するサービスを、より本質的な面で、中小企業が抱える課題解決に近づけるようにしていきたいと考えています。小ロットの需要や、人が介在しなければマッチングしないことが現状では多くあると思います。しかし、インターネットならば、どのような小刻みの需要や供給でも滑らかにマッチングさせることができます。インターネットの力は、大企業ではなく、小企業を強くするツールとなります。この特性を生かして、われわれが新しいインフラを構築して中小企業の課題解消につなげていくのが今年の抱負です。個人的には、海外展開を本格化させたいと考えています。これまでは種を撒いてきた段階です。海外でも、前述したような中小企業の課題解決に資する展開をしていこうと思っています。むしろ、ビジネスの世界では、国境という概念がなくなってきています。TPP協定もあって、さらにそれが進むと思います。もちろん、言語、文化、政治体制の違いはありますが、それに縛られないグローバルなビジネス展開を、今年は個人的にも会社としてもチャレンジしていきたいと考えています。

尾畑海外展開では、輸出国を増やす方向で考えており、輸出額は10年後に5倍まで増やす計画です。お酒を輸出するだけでなく、各国のパートナーと強固な関係を構築していきたいと考えています。
一方で、地元で取り組んでいる学校蔵プロジェクトの交流事業が昨年末に書籍化(『学校蔵の特別授業~佐渡から考える島国ニッポンの未来』)され、私自身、地方のあり方を見直すきっかけにもなりました。このワークショップは、今年3回目を行いますが、テーマを「世界と直接つながる」「地方で起業」を候補に考えています。老舗の酒蔵の私が起業などというのは変かもしれませんが、地方にこそ起業が求められているように感じます。酒づくりは地域づくりに通じます。当社は佐渡で酒をつくり、123年になります。100年後も酒づくりを続けていたいと望めば、地域の繁栄が不可欠です。だからこそ、地域での活動や世界とのつながりを視野に展開をしていきたいと考えています。

最後に、新しい年に向けて新たなチャレンジを考えている中小企業のみなさんに向けて、田中副社長からメッセージをお願いします。

田中全国に385万ある中小企業が持続的な成長を遂げていくことこそが、日本経済の活力源です。もちろん、起業も大事ですが、既存事業が成長していくことで経済が循環します。そのためには、中身が変わらないといけません。イノベーションが必要だと思います。それに着手するにはマーケティングを味方にすることです。お客さまを見て、ニーズを把握し、対応することが基本であり、特別なことではありません。効率を重視し、データベースマーケティングに注力すれば、これまでは経営者が直感力で把握してきたことを社員とも共有し、理解することができ、しかも通常業務と同時進行でできます。コミュニケーションは世の中との対話で成り立ち、情報を発信すれば、お客さまの考えが返ってきて、答えが見つけやすくなります。商品開発に悩むことも減るかもしれません。もっとマーケティングを潤滑油として活用していくべきです。 先ほど、若者が地域への関心を高めているという話がありましたが、地域を支える中小企業に目を向けてもらうには、中小機構の広告コピーに「気後れが、出遅れになる。」とあるように、気後れせずに、まず行動に出ることだと思います。規模の大小ではなく、頑張る中小企業は多様なお客さまとつながることとなり、ネットワークが広がります。一歩、踏み出すだけで、社員も新たな経験が積め、新たな世界を知ることができます。ぜひチャレンジしてほしいですね。

高田理事長からはいかがですか。

高田日本経済を取り巻く環境が急速に変化しています。経済構造が変わってきたのですから、従来のやり方を踏襲していては縮小均衡しか手がなくなります。中小企業は、こうした環境変化に対応して、自らが変わろうと決断することが重要となります。変わらないでいることのリスクの方が、はるかに高いのです。また、将来に向けて夢を持ってほしいと思っています。自分の理想を描き、現実のものとするため、まずは第一歩を踏み出してほしいですね。中小機構としても、時代に適応した支援をしっかりとやっていきたいと思います。

本日はご多忙の中、ご出席いただき、ありがとうございました。

今年新たに中小機構からWEBメディアが誕生します
サービス公開までご期待ください。