現地企業とタイアップ

海外展開の話に移りたいと思います。国内市場が縮小していく中で、海外市場を獲得するために、それぞれどのような戦略をお考えでしょうか。

松本シンガポールに子会社をつくっており、そこを拠点として2つの視点で海外展開を考えています。一つは、コストの最適化のため、印刷データをチェックする拠点としてベトナムと中国に50人以上のスタッフがいます。最初は東京でチェックしていましたが、コストの問題と、アルバイトの採用が難しくなっていることに対応するためです。
もう一つは、印刷は非常にローカルな事業です。たとえ英語を話せたとしても、さまざまな言語に対応した印刷事業を進めることは無理です。そこで、ローカルな印刷事業を展開する企業に投資しています。すでにインドネシアでネット印刷を目指す企業に出資しました。今後はインド、タイ、マレーシア、中国などでも出資し、海外比率を高めていきたいと思っています。資本面でグローバル展開する一方で、国内では効率的なシステムをつくる、またはそのノウハウを他国で同じビジネスを展開する企業に提供し、その代わりに株式の一部を持たせてもらうという形です。マクロが伸びているところに、われわれが身に着けたサービスやノウハウ、システムでチャレンジしていきます。

尾畑日本酒は今、海外で大変な人気を呼んでいます。輸出はほぼ2桁の伸びを続けており、日本全体の輸出額は2014年で約115億円になります。当社の場合、輸出のスタートは03年、始まりは1枚の英語のホームページでした。ホームページをつくって気長に待とうと思っていたら、意外と早く反応があり、アメリカから商談が舞い込みました。輸出するには、かなり煩雑な作業が必要なのですが、ほぼ1年かけてそれをこなし、初出荷にこぎ着けました。現在は15カ国のうち、約半分の国に直接輸出していますが、成長を感じるのはアメリカのように直接輸出をしているところですね。
海外への売り方として考えたことは、当社のお酒の強みや個性、他社には真似ができないところは何かということです。その結果、生産地である佐渡島の米や水であり、佐渡島の魅力をどう伝えるかに尽きるな、という思いに至りました。そこで、お酒そのものの説明のほかに、佐渡島の物語を伝えていくと、とても好評で、パートナーだけでなく、ユーザーのレストラン関係者なども海外からわざわざ佐渡島を訪ねて来てくださるなど、手応えを感じるようになりました。
昨年1900万人に達したといわれる訪日外国人向けの需要にも期待しています。海外での日本酒人気を背景に、本場の日本でお酒を飲もうと思う人も増えているでしょうから、そういう人たちに向けて、ちゃんとしたマーケティングやおもてなしができれば、国内の日本酒需要もアップするでしょう。日本酒を提供するあるお店で、英語のメニューをつくったら客単価が倍増したというお話があります。酒蔵ツーリズムも少しずつ全国に広がっていますから、地方に長期滞在する訪日外国人も増えると思います。

マーケティングに注力を

インバウンドも含めた海外需要を取り込むためのマーケティングの重要性が指摘されましたね。

高田政府系機関の予測によると、日本の人口は現状のままなら2060年に約8700万人になるそうです。したがって、企業は自分の身を縮めるか、事業をやめるしかなくなります。国際比較をすれば明らかですが、日本のGDPは1990年代以降、ほとんど増えていませんが、世界全体のGDPは4、5倍に拡大しています。売り上げを増やすことは需要をつかむことですから、需要があるところに行くしかありません。幸い、日本の商品・サービスは海外から高く評価されており、それだけ海外展開をやりやすいと思います。
尾畑さんは宣伝を担当されていただけあって、消費者サイドに立った考え方ができますが、マーケティングというのは、実は、中小企業が一番苦手なところです。自動車の場合、例えば、トヨタ自動車がマーケティングをしてクルマを1台販売すると、そこで使われる部品もクルマと一緒に売れる。ですから、部品メーカーは自ら売り方を考える必要がなかったんですね。海外でも国内でも、これからの中小企業にはマーケティングが一番の課題になると思います。

田中マーケティングは売れ続ける仕組みをつくっていくことを目指し、企業の成長戦略とともにありますが、今はスピードの時代なので、ある地域で成功したモデルを日本全国に広げ、さらにアジアへ世界へと、順を追って出ていくような時代ではなくなっていると思います。何かをつくったら、 最初からグローバル市場で売るとか、大きなマーケティング展開を構想して始めるのが市場の要請ではないかと感じます。そのうえで、それぞれの市場の状況にふさわしい形で進める。自らやるか、ラクスルさんのようにフランチャイズにするか、現地に任せるといった展開です。
かつては成長戦略の中で商品が何個売れるかを想定して売り上げをつくる形で目標を立てましたが、今は何人の人にどういう感じで買ってもらうかということで、マーケティングがより人にフォーカスする時代にきています。顧客の顔が見えて、どんなところに顧客がいるかを発見できる。ITを使うことで、それがグローバルにできる。顧客の状況や市場のデータベースをより活かしながらマーケティング展開できる時期にきています。そこに早く気付いて着手しているところが成功しているのかなと思います。

松本マーケティングというと、どうしてもプロモーションのほうに目がいきがちですが、私はその商品・サービスがどれだけお客さまにとって価値があるか、問題を解決しているかが最も重要だと思います。商品そのものに価値がなければ、どれだけ莫大な広告予算を投下しても、ビジネスとしてはうまくいかない。インターネットの世界でも、リアルの店頭商売でも、メーカーでも、それは同じです。お客さまにとって価値のある商品・サービスをつくったうえで、どのようにお客さまとコミュニケーションをとっていくかですね。先ほど田中さんが「スピードの時代」と言われましたが、われわれは商品の価値をつくるフェーズでは、ゆっくりでいいから顧客にとって価値あるものをつくる。それをコミュニケーションによって広げていくフェーズではスピードを持って規模を一気に取りに行く。この2つのフェーズを分けて考えています。例えば、国内で事業を始めるにあたり、価値をつくる期間を3カ月見ます。価値ができた段階で、テレビCMをはじめウェブ、リアルの両方でプロモーションします。
われわれが海外でローカルなチームに投資をしているのは、現地の需要が分からないからです。肌感覚がありませんから。価値を感じるために重要なのはセンスだと思うのです。お客さまの立場になって、その商品・サービスが便利かどうか、価値があるかどうかを感じられるセンスです。水先案内人となる人のタイプは国ごとに違うので、その国々で経営者のネットワークに入り、ローカルの経営者と仲良くなって、人材情報を得るようにしています。人材を見つけるのも、マーケティングだと思います。

尾畑お酒づくりは1年以上みっちりかかるので、あまり「スピード」ということは意識しません。自分たちがほかにはない価値をどうやってつくれるかが重要だと思っています。まずは、かけがえのない、取り換え不可能なものをつくる。酒米は工業製品ではないので、供給量自体をどんどん増やせるという業種ではありません。いかに商品に付加価値をつけて適正な値段で安定的に提供できるかですね。国内でも海外でも、自分たちが何をしているかということをマーケットにはっきりと示すことがとても大事だと思います。また、私どもはブームを追ったり、大ヒットを打ったりするよりも、ロングセラーを作ることを目指しています。そのために、ファンというよりは一緒に私たちの成長を見守ってくれるような応援団をつくりたいと考えています。
海外のパートナーについては、当社のような規模だと、家族経営的なところがいいですね。そのパートナーの選び方としては、向こうから見つけてもらうというのが私の信条です。自分のほうから探すよりも相手に見つけてもらったほうがうまくいくからです。

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売上拡大、生産性も向上