新春座談会

小さくとも
偉大な価値創出を

いざ発信!Great Small
~生産性革命、グローバル化への挑戦~

2019年が明けた。戦後最長を更新する勢いの景気拡大局面のなか、中小企業は人手不足や事業承継に苦慮している。だが、規模が小さくても大きな価値を生み出せるのが中小企業の特長でもある。倒産寸前の老舗旅館をIT活用で建て直した宮﨑知子陣屋代表取締役女将と、ミニ盆栽のネット販売で海外需要を獲得した島本壮樹フラワーハウスおむろ(京都花室おむろ)代表取締役を招き、中小機構の高田坦史理事長と課題克服策を話し合った。司会は中小機構広報課。

座談会出席者

  • tomoko miyazaki
    (株)陣屋 代表取締役 女将
    宮﨑 知子 氏
    tomoko miyazaki

    2009年、夫の富夫氏とともに神奈川県鶴巻温泉の旅館「元湯陣屋」を承継。4代目女将として経営に参画し、同社の黒字化に成功。10年クラウドアプリケーション「陣屋コネクト」を開発し、12年「株式会社陣屋コネクト」を設立し外販に着手。18年から現職。

  • souki shimamoto
    (有)フラワーハウスおむろ 代表取締役
    島本 壮樹 氏
    soki shimamoto

    立命館大卒。2008年P&Gジャパン入社。営業統括本部を経てマーケティング本部で商品開発・プロモーションに従事。11年、実父、実兄の死去に伴い、実家の京都の老舗花店を承継。4代目社長としてミニ盆栽の国内外ネット販売を伸ばしている。

  • hiroshi takada
    中小企業基盤整備機構 理事長
    高田 坦史
    hiroshi takada

減り続ける
生産年齢人口

司会本日は「いざ発進!Great Small ~生産性革命、そしてグローバル化への挑戦~」をテーマに、陣屋 代表取締役 女将の宮﨑 知子様、フラワーハウスおむろ代表取締役の島本壮樹様をお招きし、中小機構の高田坦史理事長とともに、お話を進めていきたいと思います。高田理事長、中小企業の現状はいかがでしょうか。

高田景気は上向きになっており、企業の景況感が上がって景気拡大局面は戦後最長になる見通しです。昨年7月~9月期は豪雨や地震が響いて少し落ち込みましたが、おそらく一時的なものだろうと思います。一方で、日本は構造的な問題を抱えています。15歳から64歳まで生産年齢人口が90年代の後半をピークに約20年下がり続けていて、総人口も2008年をピークに減っています。今は女性の社会進出や定年延長で何とか対応できていますが、少子高齢化はこれからずっと続いていく。働き手はここ20年間で約1000万人減ったのですが、20年後の2040年にはさらに約1700万人減る見通しです。人手が少ない中、どう売り上げを維持・拡大していくのかが大きな課題です。また、経営の後継者不足の問題もあります。事業承継がうまくいかず、廃業してしまうリスクが極めて高くなっています。日本の中小企業の数は1986年の533万社から減り続けて、いまや358万社です。廃業に直面する企業の中には、従業員をたくさん雇用したり、良い技術や商品を持っているなど、無くなっては困る企業も当然あります。必要な支援をして、ぜひ残ってもらいたいと思っています。

司会人手不足のなか、売り上げを維持・拡大する生産性向上が課題ということですが、宮﨑社長、陣屋の事業内容と、生産性向上に向けた取組みの経緯や概要を伺えますか。

宮﨑陣屋グループとして5つの事業を展開しております。宿泊事業、レストランをお使いいただくお客様の日帰り事業、婚礼事業もあります。旅館の管理システムを自分たちで構築して同業他社に販売する「陣屋コネクト」事業もしております。さらに「陣屋エキスポ」という新しい事業も立ち上がって参りました。エクスチェンジ・ポータルサービスと、展示会のエキスポをかけた造語なのですが、平たく申し上げると同業者同士の助け合いネットワーク、リソース(資源)交換です。

司会生産性向上では効率的に売上や利益を増加させることが重要です。ネット販売を活用して越境ECに取り組まれている島本社長、フラワーハウスおむろの事業概要と、ネット販売に取り組まれた経緯をお聞かせください。

島本4つの事業をしております。ひとつは花卉事業で、胡蝶蘭を中心に国内向けはインターネット販売、海外向けは輸出をしております。もう1点が盆栽事業で、世界遺産の仁和寺や御所など京都の観光名所の桜をミニチュアにして国内外に販売しております。三つ目が飲食事業で、社屋のなかにカフェを併設して京都の地ビールと桜をセットで売り文化を体感してもらっています。カフェの中で花見をしながら、お酒やお茶を飲んで京都の良さを感じていただく事業です。4番目が花卉再生事業。胡蝶蘭は花が終わると99%ぐらいが廃棄されているのですが、実は50年ぐらい長持ちするんです。値段も安くないし、非常にもったいないと。顧客から回収して、弊社の温室でもう1回咲かせて児童福祉施設などに届けることを京都府の認定事業として取り組んでいます。ビジネスにも多少なりますが、どちらかというと命を大事にしたいと社会貢献的な事業です。

同業者同士で
助け合い 

高田宮﨑社長のところは、御社のリソースを必要なところに動かすことをやっておられるのですね。

宮﨑 江戸時代の長屋ではお醤油がちょっと足りない時にお隣さんからお借りしたり、お礼に出来上がった煮物を「召し上がってね」という関係があったようです。そういう仕組みがあれば持ちつ持たれつで頑張れるシーンが出てくるのではないでしょうか。誰も我慢せずみんながウィンウィンで立っていられる仕組みがつくれれば持続していくと思います。陣屋エキスポの構築は、陣屋コネクトのユーザーさんから「厨房の調理人が皆辞めてしまった。でも明日からずっとご予約が入っていてお食事が出せないとは言えない」と電話があって、うちから料理人をすぐに身支度させて翌日出発させたのがきっかけです。いま和食の調理人が足りないし、調理学校で和食コースを志望する学生さんも少ない。いまいる調理人の数でお客様に満足していただける仕組みをつくっていかなければいけません。旅館の数はこの10年間で25%も減り斜陽産業になってしまっています。救済措置には、M&A(合併・買収)という手法がありますが、それで雇用が守れたとしても、創業200年、300年の宿も多いですし文化まで守れるかといったら難しいですよね。旅館のバックヤード業務は、どこもあまり変わらないので、そこをパッケージ化して合理化し生産性を上げていくために陣屋コネクトというシステムを使っていただきたい。私たちは陣屋流の運営をほかのお宿さんにやっていただきたいとは、ちっとも考えておりません。システムはただの道具なので、その道具を使ってご自身のお宿さん流に、使っていただければいい。

海外の
成長スピード早い

高田島本社長のネット販売は越境EC(電子商取引)も多いということですが、調子はどうですか。

島本日本の花卉業界も年々縮小していまして、花屋さんがどんどん閉店しています。国内のマーケット自体がどんどん縮小しているので、伸びている海外のところに行くほうがいいだろうなという思いもありまして今後生き残っていくためにECを選択しました。進出して1年半ぐらいですけど、盆栽業務はEC全体の3、4割が越境となるぐらい急激に伸びています。成長スピードは海外のほうが断然早いですね。サイトは1から自前でつくっていまして、前職のP&Gという会社でご一緒していた方がシンガポールでコンサルティング会社の代表をやっていらっしゃるんですけど、そこと一緒に向こうのリソースを使いながら、やらしていただいています。

高田プロモーションはどんな風にされていますか。

島本皆さんがされていないことを新しくブランディングすることで注目してもらって自社ウェブに来てもらう流れに取り組んでいます。盆栽を植えてある升は伝統工芸品にも使われている京都の北山杉です。この升に盆栽を植えて付加価値を付けて商品化していますし、盆栽も種から育てています。リアル店舗に商品を置き、販売は来店した人の口コミで、ウェブ広告はしておりません。世界遺産の仁和寺の門前にある当店に来られた方に認知をしていただくやり方です。海外も同じで、弊社はシンガポール政府が運営するガーデンズ・バイ・ザ・ベイという植物園のサプライヤー(納入業者)なんです。そこの桜を見てもらった人にサイトに訪れていただく。口コミで広げていただくっていう流れの方が多いです。

高田ほかに競合はないのですか?

島本日本では盆栽屋さんです。1億とか何千万円とかするイメージの盆栽を、弊社は手軽で安価なインテリア盆栽という概念でやっています。手入れが簡単で水遣りも1回と。言い回しやブランディングを工夫しただけなのですが、盆栽の新しい価値を作り出したと自負しています。盆栽は難しい、高い、面倒くさいというイメージですが、実はそんなに難しくない。意外に手入れは簡単なんです。気難しいイメージの盆栽をもっと気軽にインテリアとして楽しめるように取り組んでいます。一般的なネット販売だと、どの商品が送られてくるかわからないし当たり外れもあります。盆栽は一個ずつ違うので、お客様が選びたいのなら、温室に持っている10個の写真を見て選んでもらうってところまでやっています。ただ、お客様も選びたい人と選ぶのすら面倒くさいという人に分かれます。割合は半々ぐらいで、店のプロに選んでほしいという人も多いので柔軟に対応しています。