競争力は「人」

福島 中小企業が使えるようなAIシステムの事例は出てきていますか。

本村 サンドボックスの実証の中では、企業規模の大小にかかわらず、最初は小規模なシステムからスタートしますので、それはそのまま中小企業にも扱えるサイズだと思います。

福島 中小企業のAI利用の課題はありますか。

本村 皆さん共通して課題を持っていますので、やれることは何か、最終的に取り組むのはどこにするか、などの考え方です。実証事業の場合、あまり深刻にならないことが大事です。当初考えていたとおりの解決がされない場合も多いので、少し遊びがあった方がいいですね。AIはデータ分析から学習できる柔軟性が高い技術です。考えて考えてからデータを設計しても、足りない部分があります。使わないかもしれないが、とりあえず入れておこうというデータの方が全体に影響していることが分かります。例えば、製造現場のハンダの品質は、ちょっとしたことでバラ付きが出ます。影響を及ぼす変数を探したら、こんなことが影響していたのかと発見できます。これは遊びがなければできません。

福島 優子

福島 中小企業のポテンシャルがみえてくることもあるのでしょうか。

本村 会社というより、人ですね。日本はやはり人が財産です。人が仕事を解決してきましたが、人の量が減ってきたとしたら、質に目を向けるべきだと思います。量の部分はAIなりIoTのデバイスでこなせるようになったら、誰でもできる仕事になります。そのときの競争力は、やはり人の質だと思います。会社の大小ではなく、担当者のやる気と好奇心が必要です。

高田 そうなると、中小企業には難しいと思います。中小企業の全体の8割以上を占めるのが小規模事業者です。小規模事業者が動かないと、日本全体の生産性が向上することにはならない。大手企業から注文を受け、それをこなしてきた中小企業や小規模事業者は自分で考える必要があまりなかったと思います。大手企業が海外に出て、注文が減っている状態でも、自分で考えて解決していくことがなかなかできないのが現実です。そういう人たちにも実装できるAIやIoT技術をどうつくるのか。例えば、ロボットのように、中堅企業、中小企業が活用し、その普及版ができ、それを小規模事業者が利用することができるのか。ロボットは製造系でもサービス系でも、非常に発達しています。使う技術そのものが使いやすくならないと、中小企業には導入が難しい。その意味では、支援機関が中小企業グループを集め、組織的に支援していくことも必要になるでしょう。

本村 今の指摘は非常に重要な点です。自分で考える人が少ないという問題は、金融関連でも起きているように、組織の大小、分野にかかわらず日本共通の問題だと思います。今回、AIが明らかにしたことは、正しいか間違っているかであれば、正しいことは計算できます。正しい解答を導くのに、人間がこれ以上労力をかける必要があまりなくなります。正しいもの、調べて分かるものが必要になれば、ITを使った方がいいわけで、ITを使わない選択肢はなくなります。

ところが、正しいことを計算できれば解決できるのかが問題で、そうではないのが先ほどのフレーム問題です。AIが乗り越えられない本質的な問題として、フレームが前提とする条件、価値などデータで教えられないものが必ず残ります。正しい解答の中から、より良い解答を選ぶことがポイントです。目の前のデータはAIに任せたとしても、自分や顧客が持っているフレーム、つまりデータに表れていない部分の良し悪しを考えることが残ります。自分が得意なフレームを提案し、そこでは自分が一番という人が出てくることも考えられます。正しい計算はITに任せるという合意ができれば、今度は良し悪しを競うゲームが始まるわけです。

「自分のものにする」

福島 自分で考える人たちが少ないという話が出ましたが、「常にチャレンジャーでありたい」とホームページでも掲げている加藤木社長はいかがですか。

加藤木 克也

加藤木 中小企業にとっては、差別化が重要です。それがAIなどによってコモディティ化していったら、何で生きていくのかということが心配事のひとつでした。今回のお話で、AIを利用することで、むしろ自分に合ったフレームを導き出して差別化でき、中小企業でも生きる道があると理解し、くすぶっていた疑問が解けました。IoTもそうですが、一番の問題は人材が育っているかどうかです。スタッフが少ない中小企業でどうするか。大変難しい課題ですが、例えば最先端の工作機械を導入した場合、使いこなせる人材が社内に育っていなければ、その機械は単なるつまらない機械になってしまいます。IoTにしてもAIにしても同様で、少なくともそれについて技術的な会話ができるレベルの人材が育っているかがポイントです。ただ、そうした人材も短期間では育たないし、ある程度の体験も必要だと思います。中小企業にとって、人材の育成は経営者の覚悟、そして各支援機関の粘り強いサポートが重要と考えます。

本村 いまわれわれの間では「自分のものにする」をキーワードにしています。どんなに最先端の技術でも、受け身で導入しただけでは問題は解決しません。自分のものにしない限り、教えることもできないわけです。自分の問題を把握することは、いわゆる教育ではないと思います。例えばいま、オーギュメントリアリティといって、VR(仮想現実)と現実を重ねて見ることができるようになっています。介護や看護などの現場でもVR技術を使い、経験を拡張できます。1カ月に1回しか起こらず、本来なら10年かけてできるようになる経験を、1時間に10回起きるようにして経験を加速できます。人を育てるためのVR、IoT技術という見方も非常に重要で、「自分のものにする」ことが最後のキーになると思います。

福島 効率を上げるだけでなく、教える分野でもAI、IoTが使えるということですね。

本村 世界観のような気がします。自分が育ってきた世界、時代にとらわれていては、人間がフレーム問題にとらわれていて、それに依存してしまいます。VRで自分の世界観を短期間に自分の意志で変えられれば、人間のフレーム問題を早く乗り越えられるようになると期待されています。

ジャンプが必要

福島 ありがとうございます。最後に、今年の抱負を本村さんからお願いします。

本村 コンソーシアムを運営していて、われわれがAIはこういうものだと思っていた枠を越え、使う現場で新しいものが生まれてくる予感がしています。まさにイノベーションの民主化で、使われることによって進化が始まると思います。このサイクルにいち早く乗ったところが勝ちです。サイクルはみんなが使う場で起きることですから、一番多く使っている密度の高いところに面白いことが起きると思います。その主要プレーヤーは間違いなく人で、AIを使う人が新しいイノベーションを起こすと思います。今後もユースケースを中心に、使ってもらう場づくりに目を向けていきます。

福島 中小企業の方にももっと使ってほしいと。

本村 皆さんのところでどのような使い方が成功するのか、事例が出てくれば広がっていきます。日本では広がるときは早いですからね。そうした時代がくるのを見てみたいですね。

高田 坦史

福島 加藤木社長はいかがですか。

加藤木 現在は機械加工部門でIoTを導入していますが、手法は違いますが、組立など他の職場でも広げていき、効率を上げていきたいですね。機械加工がひとつのモデルとなったことで、他の部門のモチベーションも上がっていると思いますので、うまくいくと期待しています。

福島 高田理事長、お二人の話を聞いてのコメント、そして全国の中小企業の方々へのメッセージをお願いします。

高田 本村さんの話を聞いて、第4次産業革命がすばらしい未来を切り拓いていく、絶対に必要だと感じました。実現するにはいろいろなことが必要ですが、イノベーションの民主化によって現場とやりとりしながら発展していくということが理解できました。

加藤木社長はIoTを導入され、もっと発展させていくということです。まさに第4次産業革命のベースとなるような技術を採用するというサクセスストーリーを作られています。その中でポイントは、会社の風土です。若い人たちが新しいことに挑戦できるような良い循環が生まれる空気があると思います。そういう空気を作ってこられたから、成功されたのではないでしょうか。

中小企業の方々へのメッセージとしては、現在の人手不足が解消されることはないと考えるべきだということです。人手は出てこないのです。そうした中で付加価値を上げていかないと将来はないという背水の陣の覚悟が必要です。逆にいえば、IT投資をしながら生産性を向上させ、他国に追いついていく絶好のチャンスだと思います。ピンチをチャンスに変えていくと考えていただきたい。

中小機構としても生産性を向上させなければならないと思い、経営支援分野の効率を上げるために、AIの自動応答を使い、スマートフォン(スマホ)で応対できる態勢を計画しています。まずは起業相談をチャットボットの形で3月から開始します。将来的には、さまざまな経営相談がいつでも、どこからでもスマホでできるようにしていきます。

大きな変化が起き始め、それがさらに加速していく時代です。変わらないことのリスクが、変わることのリスクより大きいことを理解していただきたい。日本企業は漸進的なカイゼンなどは得意ですが、いまは漸進的ではなく、ジャンプが必要です。先進国が遂げてきた発展過程をテクノロジー利用で飛び越し、新興国が追い抜くというリープフロッグという言葉がありますが、第4次産業革命はまさにその技術といえます。遅れていることは逆にチャンスにもなります。今こそ、チャレンジすべきだと思います。

福島 本日はご多忙の中、ご出席いただきありがとうございました。