人間の知見が必要

福島 高田理事長、お二人の話を聞いて、質問や感想がありましたらお願いします。

高田 IoTでは判断するのは人間ですが、やがてその役割をAIができるようになるのでしょうか。

本村 非常に重要なご質問です。近づいていくことは間違いないですが、それが十分か、いつ十分になるか、だと思います。データに基づく学習ではディープラーニング(深層学習)の精度が高いといわれています。ツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やカメラの画像など2次元データが数千万枚あれば、ほぼ情報を網羅できるといわれています。ただ、奥行きがあると違います。3次元映像はどこから取るかによって違い、奥行きが移動しても気がつかない。人間の赤ん坊は手を伸ばして届いたときに行動することで、2次元から3次元をイメージできるよう学習しているといわれますが、IoTの場合は3次元を部分的にセンサーで観測したような状態です。2次元画像から丸暗記するのとは違う難しさがあります。センサーのデータを人が見て、赤ん坊が手を伸ばして知見を獲得したのと同じように人間が読めるセンサーなら、AIでアプローチできるかもしれません。

福島 優子

高田 初めからAIができるのではなく、人間がやってきたことをデータとして教え込む、ビッグデータを与えながらAIが学習するということですか。

本村 そうです。新しいデータを取るときに人と一緒にやることが重要で、その方が可能性はあります。

高田 加藤木社長は大変すばらしい取り組みをされていると思います。全国の中小製造業だけでなく、サービス業も含めて、ネットでつなぐことで現状を把握し、それを自動的に組み合わせることで無駄をなくすようにしていただきたいと思っていますが、現実的にどうやったらいいのかという悩みがあります。加藤木社長は社員の皆さんが積極的に動けるような体制を作られている。第4次産業革命は始まっていますが、中小企業にとって難しいことを実践されています。

遅れ挽回するチャンス

福島 さて、本日のテーマは中小企業が第4次産業革命をどう活かすかです。高田理事長、中小企業にとってAIやIoTはなぜ必要なのでしょうか。

高田 坦史

高田 日本経済の課題はたくさんありますが、端的に言うと生産性が低いことです。1人当たり労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国の中で日本は21番目です。米国を100とした場合、日本は56%と半分くらい。サービス業は50%、卸売り・小売店は40%です。なぜこんなに差が開いたのか。2000年ごろのIT革命のとき、主要国はこぞってIT投資をしましたが、日本のIT投資はほとんど伸びていない。その後も同じような調子です。人手が足りないので、非正規の安い労働力で賄ってきました。従来の延長線の方が経営者は判断が楽で、コストも安いということで生産性の遅れを招いてきたと思います。

これから先は労働人口が減ってきます。生産性が変わらないと、国が衰退してしまう。公共サービスも人がいなければ低下するし、売り上げも上がらない。社会保障もこのままでは悲惨なことになるなど負のスパイラルに陥る。よりよい生活を維持するには豊かにならなければならない。そのためには1人当たりの生産性を上げて付加価値を高め、全体のパイを大きくしていかなければならない。移民を増やすなどの議論がありますが、欧米主要国の手法は日本ではなかなかできない。

第4次産業革命はこれまでの遅れを一気に取り返すチャンスです。加藤木社長のところのように、IoTに取り組み、実行している企業は限定されています。国が進めようとしているのですから、しっかり投資して挽回することが絶対に必要です。これが日本にとってラストチャンスという識者もいます。

140社の共通課題

福島 本村さんは現在、産業界との協働による「人工知能技術コンソーシアム」という団体の会長も務めておられるようですが、この団体の目的や取り組みについて教えていただけますでしょうか。

本村 AI利用の生産性向上が、現在コンソーシアムに参加している140社を超える参加企業の共通する問題意識です。関西、東海、九州に支部を持ち、地方での活動も活発化しているのがここ1、2年の特徴です。ここ1年間は、AI技術を勉強するフェーズから、どう使ったらいいかという意識に確実に変わってきています。AIを使った事例、われわれはユースケースと言っていますが、実際の利用現場に近いこともあり、事例に工夫がみられるようになっています。コンソーシアムはAIのユーザーの集まりですから、使い方を模索しています。

うまくいったものだけでなく、うまくいかなかったものも非常に貴重で、これを地域ごとに事情が近い人同士が集まって意見交換し、成功事例をつくるためにテストしていきます。各社が個別に、いま使っている機器などでAIを試みようとするとハードルが高い。安全に失敗できる環境のことをサンドボックス(砂場)と呼んでおり、安全な砂場でいろいろなことを試し、失敗も積み重ね、その中から一番よかったものを会社に持ち帰ろうというコンセプトです。

本村 陽一

AIブームになる前の1996年、いま使われているプログラムを開発しましたが、当時はデータがなかった。2008年ごろからサービス現場でポイントを付けるデータがたまってきて、インターネット上のデータベースに集積した画像なども集まり始めた2010年ごろからビッグデータの時代といわれるようになりました。そこでようやく導入準備ができたので、96年に作ったプログラムが使われるようになり、現在は累計200社以上が採用しています。コンソーシアムの目的も、AIレディ(導入準備)な状態を作ることで、そこにAIを持ってくれば、ポンとはまります。面白いことに、AIと人間が一緒に働くようにアプローチすると、人にとっても意外と働きやすくなります。IT化が遅れていたところでも、よりよいIT化が進みます。後発が強みになるわけです。

ニーズ情報を機軸に

高田 坦史

高田 中小企業のICT(情報通信技術)化はだいぶ遅れていると聞きますが、中小企業には人材がいない。ICT化はAIより前の話です。採用すればできるアプリや、任せて使えばできるようになって、ようやくICT化が進むのですが、問題はそれができないことです。

本村 われわれも現場によく行きますが、おっしゃることは非常に多くの現場で目にします。キーワードは「イノベーションの民主化」だと思います。マサチューセッツ工科大学の教授は「イノベーションはシーズ側の技術情報だけでは生まれず、それにニーズ側の情報を組み合わせたときに生まれている」と説いています。コンビニエンスストアのITを使った新サービスを長年追いかけていると、イノベーションが起きる場所がだんだんユーザー側に移っていることに気づきました。米アップルもそうです。スティーブ・ジョブズは口のうるさいリードユーザーです。ユーザー側のニーズにいち早く気づき、それに技術情報を組み合わせるとイノベーションが起きたという事例です。

上流の技術情報はコモデティ(汎用品)化が早く、いまやインターネットで探せばたいていの情報が出てきますが、エンドユーザーが何で困っているかという情報は検索してもなかなか出てきません。実は、ニーズ情報を機軸に必要なものを後から集めた方がイノベーションを起こす確率は高い。現場の困っている状態を先に考え、そこに最も合ったものを考えるアプローチが有効ではないかと思います。

高田 賛成ですね。そういうやり方をしないと広がらない。シンプルで日常の操作ができるものでないと使いこなせないですね。