2018年
新春座談会

第4次産業革命で生産性向上
新たな時代 果敢な挑戦を

2018(平成30)年の幕が上がった。株価上昇など日本経済に明るい材料がある一方で、人手不足という課題がのしかかる。特に人材確保が難しい中小企業にとって深刻だ。そうした中で、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などを駆使した第4次産業革命が着実に進行。それらを利用した生産性向上が期待されている。そこで、AIを長年研究している産業技術総合研究所の本村陽一首席研究員、IoT導入で成功している三友製作所の加藤木克也代表取締役を招き、高田坦史・中小機構理事長を交え、第4次産業革命の現状などを話し合ってもらった。司会はフリーアナウンサーの福島優子氏。

新春座談会の様子

座談会出席者

本村 陽一

本村 陽一氏
(もとむら よういち)
産業技術総合研究所 人工知能研究センター首席研究員、人工知能技術コンソーシアム会長

1967年東京都生まれ。電気通信大学大学院修了、工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)入所。産総研サービス工学研究センター副センター長などを経て、2016年から現職。

加藤木 克也

加藤木 克也氏
(かとうぎ かつや)
(株)三友製作所 代表取締役

1951年茨城県生まれ。慶應義塾大学工学部卒、日立製作所入社。工業計器製品の設計業務に従事。1981年三友製作所入社。95年代表取締役。06年茨城県工業技術研究会会長。

高田 坦史

高田 坦史
(たかだ ひろし)
中小企業基盤整備機構 理事長

福島 優子

福島 優子 氏
(ふくしま ゆうこ)
進行・フリーアナウンサー

東京都生まれ。米ブラウン大学留学を経て、慶應義塾大学法学部卒。NHK海外視聴者向けチャンネル「NHKワールド」の英語ニュースキャスター。専門は経済。

厳しくなる人手不足

福島 新年あけましておめでとうございます。本日は「中小企業の新たな時代の到来~第4次産業革命をどう活かすか」をテーマに、産業技術総合研究所人工知能研究センター首席研究員の本村陽一様、三友製作所代表取締役の加藤木克也様、そして中小機構の高田坦史理事長にお話をしていただきます。まず、高田理事長におうかがいします。昨年は株価も上昇し、景気もよくなってきたという声がよく聞かれますが、中小企業の現状はいかがでしょうか。

高田 皆さん、おめでとうございます。

中小企業の景況DI(指数)でいいますと、2012年ごろ、つまりアベノミクスが登場してから上昇基調にありましたが、14年の消費税増税を機に調整感が出て、横ばい傾向がみられます。その要因として人手不足DIをみますと、10年ごろから上昇傾向が続き、景況感の足を引っ張っている感じがします。中小機構のアンケートでも、中小企業の約7割が、人手が足りないと答え、そのうちの半分程度が大変深刻だという状態です。

人手不足の原因は、基本的に人口が減少しているからです。労働人口も20年ほど前から減り始めています。ただ、現在は女性やシニアの就労を促進し、全体の就労人口はそんなに減っているわけではありません。デフレ経済は需要に比べ供給が多いので、値段は下がります。アベノミクスで需要を刺激したことで昨年あたりから需給が均衡し、人手不足が顕在化しているのではないかと考えています。

日銀の短観では中小企業の景況感は良好としていますが、短観の中小企業の調査対象は大手企業に近い中堅企業です。われわれの景況DIの対象は、中小企業の大半を占める小規模事業者を中心としていますから、実態を表していると思います。人手不足は今後、もっと厳しくなると考えるべきでしょうね。

ビッグデータでAI進化

福島 昨今、世界的に第4次産業革命の波の中にいるとされています。その重要なツールとされているのがAIです。本村さんが研究されている現在のAIは、これまでとどう違うのでしょうか。

本村 現在は3回目のAIブームといわれています。1度目は「積木の世界」(パズル、迷路などの問題を解く)、第2次ブームは「知識に基づくAI」(エキスパートの知識をコンピューターに移して問題を解く)システムでした。今回の3度目は、実際に集まったデータを機械学習して賢くなることが大きな特徴です。現在のAIは計算によって意思決定したり行動したりするので、数学の証明をするように考えます。例えば、三角形の内角の和は180度ということはユークリッド幾何学の常識で、AIはこれを前提として計算して答えを得ます。ただ、これら前提となるすべての知識をAIに教えることはできません。フレーム(枠組み)からはみ出してしまうからで、これがAIで何かを計算しようとしたときに直面する難問です。フレームに対してどうアプローチするかがAIの非常に重要なテーマです。人間にもフレームの問題があって、あるグループの常識を知らないと、その常識に沿った行動が取れない。入社したばかりの新入社員が戸惑うのは、まさに「フレーム問題」です。

本村 陽一

AIはこれまで、狭い枠組みの中でしか問題を解決できなかったのですが、ビッグデータが登場して大量の情報を集めることが可能になり、全体像のデータをフレームに入れれば、これまでできなかったこともできるようになってきました。端的な例が、囲碁ゲームです。囲碁は碁盤の目、ゲームのフレームが完全に決まっているので、打つ手を学習してゲームに勝てます。現在の「アルファ碁ゼロ」というAIソフトはさらに進化し、直接教え込まなくても対戦しているうちに学習するなどフレームの依存性が少なくなっています。ルールが決まっていない実社会の中でも、データから学習できるのではないかと期待されています。

福島 ビッグデータと結びつくことで進化したということですか。

本村 そうです。専門家の知識をフレームに書き切れないという問題が、データをたくさん集めることで解消されつつあります。ただ、問題もまだ残っていて、AIが人間と一緒に働くと考えると、AIがどうやって人間と同じように認識できるかということが非常に重要なテーマになります。

稼働状態〝見える化〟

福島 加藤木社長の会社についてお聞きします。三友製作所さんは日本のものづくりの代表的存在と聞いています。会社の概要を説明していただけますか。

加藤木 克也

加藤木 当社は医療用分析機器関連製品、電子顕微鏡関連の付属品、半導体の故障解析ツールの製造という3つが主要事業です。茨城県常陸太田市に本社工場があり、隣の日立市に2つの工場を持ち、計3つの工場があります。1946年創業で、従業員数は現在194人です。典型的な多品種少量生産を行っており、設計・開発から、機械加工、組立、調整、出荷検査まで一貫した生産形態を有することが特徴です。

株式会社 三友製作所

創業:1946(昭和21)年9月
所在地:茨城県常陸太田市馬場町457
資本金:4500万円
事業内容:医療用分析機器、電子顕微鏡関連付属品製造・精密機械加工
URL:http://www.sunyou-ss.co.jp/

福島 IoTを導入されたと聞いています。その経緯や取り組みを具体的にご説明ください。

加藤木 3つの工場のうち、2つの工場の機械加工部門にある約20台の異種の工作機械をネットワークでつなぎ、生産設備の一元管理を行いました。つまり、現在その機械が動いているのか停止しているのか、段取り中なのか、製造関係者のパソコン上でも稼働状況をリアルタイムに確認できるシステムを導入しました。

これにより、いわゆる生産設備の稼働状況の〝見える化〟ができました。これらのデータをもとに、その機械が1日どういう働きをしていたのか、1カ月の生産計画に対して遅れがないのかなど作業の進捗を把握でき、いくつかの改善も図れるようになりました。

機械加工部門の2つの工場は10キロメートル程度離れており、それまで製造責任者が工場を行き来して確認、指示していましたが、IoTによってパソコンで稼働状況が分かるようになり、非常にメリットがあります。もうひとつのメリットは、当社の機械加工方法は、担当者が自分でプログラムを作り、自分で段取りして機械を操作していました。それが、ほかの管理者も稼働データを見られるようになり、なぜこんなに機械の停止時間が多いのかなど、議論できるようになりました。ほかの人の意見を参考にすると、改めて改善点に気付くことができるのです。当社では昔から、この機械は自分のものだと思い、ほかの人が入りづらかったのですが、オープンになったことだけでも良い効果が得られてきました。

熟練の技能者ではこのような取り組みをしようという発想は生まれなかったと思います。今回、若い社員がそれを打ち破ってくれ、職場の雰囲気も変わりました。

福島 きっかけは何だったのですか。

加藤木 年度の初め、私が経営方針の中で、生産設備の稼働率向上を打ち出したところ、それに応える形で製造部門の若いリーダーが計画書を書いて提案してきました。彼は、機械加工の技能者として入社してきたのですが、以前からいろいろな工作機械に興味を持ち、CAD/CAM(コンピューター支援設計・製造)も自ら勉強するなど何事にも積極的な製造部門のリーダーです。彼がIoTに関する情報を以前から得て、当社の問題解決になると思い提案書を書いてきました。

ちょうどそのころ、「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の募集があり、応募したところ採択されました。それで本人たちのモチベーションが上がり、システムメーカーの協力もあって、当初考えていたよりも早く約5カ月間でシステムが完成しました。大変良いタイミングで導入できたと考えています。

当初、このシステムは前例がないとのことでIoT導入に不安もありましたが、提案した若い社員たちの熱意で実現したというのが本当のところです。当社は以前、平均年齢が高く、若い社員を採用して育成していかなければ事業継続ができないという危機感がありましたので、若い人に魅力ある職場づくりを心がけてきました。

今回、若い世代の提案を受け、頼もしく感じると同時に、私自身も勉強になりました。