大手企業の人材活用を

【後継者人材バンク】

冒頭、高田理事長から話がありました事業引継ぎ支援センターには、小野社長のような大手企業の方や起業家を、後継者不在の中小企業経営者にマッチングさせる「後継者人材バンク」の設置が進んでいます。後継者人材バンクについて、理事長から補足があればお願いします。

高田事業承継問題を考えるとき、引継ぎニーズがある約200万社のうち、半数は後継者不在で、このうち廃業する企業の半分近くが黒字企業といわれています。こういう状況を解決していくにはどうすればいいのか。ニーズに対して引継いでもいいと考える人は、大手企業の中には数多くいます。この両者を結び付ける場がなかったことが、事業承継上の問題の一つです。後継者問題を公にしない会社が多いのですが、潜在的な情報はあるはずです。

そうした中で、支援機関は潜在ニーズを掘り起こすことができますが、大手企業に勤めている人は手を上げにくい。そこをクリアするために、大手企業の人材開発部門が社内ニーズをくみ上げ、後継者人材バンクとリンクすることもできるのではないでしょうか。実際、大手企業OBでも世の中の役に立ちたいと、人材バンクに登録する人たちが出始めています。

小野大手企業の場合、50歳を過ぎるとだいたい将来の方向性が決まってきます。大手企業側が積極的に後継者人材バンクに接触して登録者を増やす取り組みをすれば、中小企業側も助かります。中小企業の経営者側もチャレンジした方がいいと思います。短期間でも大手企業勤務経験者を受け入れ、任せることが必要で、それで結果が良ければ長く働いてもらう。もし相性を含めて合わない場合は、帰ってもらえばいい。まずは受け入れることから始めないと、次が見えてこないと思います。大手企業には人材は豊富にいます。それを活用しないと中小企業は続かないのではないでしょうか。

親族内承継をされた島田社長にお聞きしますが、承継にあたっての重要なポイントはいかがですか。

島田私の場合、通常の親族内承継とは若干、違うかもしれません。本来ならば後継する意思を持った子息らが承継するのだと思いますが、私はインテリアコーディネーターの道を進み、会社の外に出ていました。杉山製作所に入ってからも、これまでの事業とは異なる別の道を探り、新たな事業を始めたわけですので、本来の事業を承継したとはいえないと思います。「その時に社員の反発がなかったのですか」とよく聞かれますが、あまりなかったですね。なぜかと考えると、先代の社長が全面的に協力してくれたからです。

例えば「こういった新しいものをつくりたい」と言ったら、自ら溶接機を持ってつくってくれました。前社長がやれば、前社長についてきてくれた社員ばかりでしたからスムーズに承継でき、それほど苦労した思いはありません。親族内承継の場合、承継したとたんに後継者に任せるよりも、バトンを渡す方が先頭を切って応援することがありがたいと思います。

苦労したと思わなかったのは、承継の準備もしないままで、経営していくことに必死だったからかもしれません。そうした中で、社員と共に新事業を始め、承継した側の私の気持ちが社員にも伝わり、協力してくれたのではないかと思います。

親から承継しましたが、まったく新しい事業を始めたために私自身が初代だと思った瞬間があり、その時に社員との信頼関係が構築できたように思います。事業承継したという気持ちよりも、継いだ側の新たな意思をしっかり伝えていくことが社員に希望を与えられると思います。

高田会社を引継いだときには事業転換を図ろうと考えていたわけですから、実質上は創業者に近いですね。一般的には引継ぎ期間というか、先代と並走する時間があります。業務内容を把握せずに事業承継することはないからです。しかし、島田社長の場合は違いますね。一般的に、成功している会社は危機を乗り越えてきています。厳しい時期に、従来とは違う新しいことを始めて軌道に乗せているという話をよく聞きます。逆に言えば、危機に直面したからこそ、新しいことへの抵抗感がなく、柔軟に取り組めるということがあるのでしょう。

島田そうですね。私の場合は大きなトライではなく、当時の本業である自動車部品の製造があったからこそ挑戦できたのだと思います。少ない投資で、自分でできる範囲のことを繰り返したわけです。また、国の地域資源活用計画の認定もいただくなど、さまざまな支援を受けながら徐々に規模を大きくし、そのバランスをみながら部品製造の仕事を減らしていきました。ここまでできたのは、部品製造ではやっていけないという強い危機感があったからこそだと感じます。

高田それにしても、鉄製家具というアイデアがよかったですね。

島田先代はものづくりが好きでしたが、趣味で鉄製のフラワーボックスを作り、通りがかりの人に喜んでもらいたいと社屋外に花を飾っていました。そのボックスのデザインを見て、新しいデザインの発想が出てきたというのが鉄製家具をつくるきっかけとなりました。

海外市場の開拓が必要

【事業拡大に向けて】

ここからは事業引継ぎ後の事業展開についてお聞きします。事業転換、売り上げ拡大に向けた取り組みをお聞かせください。小野社長からお願いします。

小野天竜精機の従業員は約100人で、いい顧客を持っているので維持していけるのですが、中小企業だから人材、資本力、生産能力などいろいろな限界があります。当社の場合、自動機はハイピッチ化、高速化、複合化など難しくなっています。こうした中で、単体の技術力で勝負してもなかなか生き残っていけない。

そこで、画像認識や圧入など独自の技術を持っている中小企業と手を組み、天竜精機の設計を持ち寄って企業連合体をつくり始めています。当社はコネクターや電池、電子部品の大手企業と取引がありますので、そうした大手企業に「中小企業連合軍で注文を共同受注したい」と提案したら、結構、賛同してくれました。共同受注は一昨年の秋ごろから始めましたが、実際に注文が入り始めており、今年には花が開くと思います。天竜精機一社だと、大手企業から注文をもらっても量的な限界があります。他社の機能を合わせて受注能力を高めれば、大手企業が求める高度な技術や量産にも応えられ、社会貢献できればいいなと思っています。

この連合体の取り組みは従業員にも説明しています。天竜精機一社の売上高を上回る引き合いがきており、さらに大きく伸びる可能性があります。従業員もものづくりが好きな人たちばかりですから、新しいものづくりの機会が増え、業績にも反映されるので、納得してくれています。

高田その中小企業連合体には、何社が参加しているのですか。

小野特殊技術を持っているが営業力に欠けるなど、1社では受注に限界のあるものづくり中小企業6社で取り組んでいます。そこから生じた利益は分配します。単独で受注するよりも、全体の生産能力は2~3割上がっており、今後はもっと効率化していき、仲間も増えると思います。それで多くの大手企業の要望にも応えられるようになりたいですね。

桑原社長はいかがでしょうか。

桑原昨年6月からバロ電機工業と東洋電装の決算を合わせたうえで、9月には東洋電装の社員をバロ電機工業の社長に据えました。新たに従業員も3人雇用し、顧客先も開拓して受注を拡大しています。新社長は60歳になった人材です。あと10年はバロ電機工業を牽引してくれると期待しており、これが大きかったと思います。

同時に、昨年6月には東洋電装の空調関連事業をバロ電機工業に移管しました。バロ電機工業の制御盤のリードタイムは約3カ月ですが、空調関連もその程度です。ですが、当社のインフラ関連の制御盤は品質と信頼性が重視されますので、早くて半年、長ければ2年、3年かかります。それまでリードタイムが異なる製品を生産していたわけで、移すことにしました。これでスピード感がそろってきました。事業を引継いだ翌年度は赤字でしたが、今年度は黒字転換できそうで、かなり相乗効果が出てきています。黒字になれば、また次の手が打て、さらに事業拡大の可能性が出てきます。

売り上げ拡大に向けた取り組みで、島田社長はいかがですか。

島田小規模な会社ですが、それでも世界に通用する会社になりたいという希望は持っています。国内には鉄製家具の大手企業はないからです。これまで5年やってきましが、さらに5年後には「鉄家具といえば杉山製作所」といわれるようなスタンダードブランドになろうと社内で話しています。もう一つの事業である鉄製建材の方も販路を拡大しており、大手のハウジングメーカーなどから引き合いが増えています。

もう一つは、国内の人口減少は目に見えていますから、海外との垣根をなくそうとインターネットを活用しています。現に、海外からの反応もありますし、フェイスブックに流している情報にも海外からのコメントが増えています。鉄製家具というコアな商品を作り続け、国内外を問わずコアな顧客を増やしていきたいですね。

高田鉄製家具の国内需要は、どのあたりが多いのですか。

島田一般的な利用者は東京と、地元に近い名古屋の引き合いが多いですね。ここ1、2年は、テレビドラマのインテリアを重視したシーンの収録でも当社の製品が使われるようになりました。昨年9月から始まった番組では、4本のドラマで使われています。

テレビ制作会社からのオファーですか。

島田制作会社から直接オファーを受けることもあれば、制作会社のスタッフさんが東京のインテリアショップで物色した家具の中に当社の商品があって、レンタルでオファーをいただくこともあります。流通に乗るように営業するよりも、当社の製品のファンを作ろうとしていますので、テレビはありがたい媒体ですね。テレビでの放映後は、ウェブサイトのアクセス数が一気に増えます。

高田理事長から、皆さんの事業引継ぎ後の展開についてまとめのコメントをお願いします。

高田日本の人口減少に伴って、国内市場は間違いなく縮小していきます。BtoB(企業間取引)でも同じことがいえると思います。これまでは地域を越えて販路を開拓するには販売ネットワークの構築が必要でしたが、いまやeコマース(電子商取引)で顧客にダイレクトに接触できます。それでも国内の伸びは限界があるので、海外展開は当然、志向していかなければなりません。中小機構も海外市場開拓には力を入れて支援しています。

もう一つは、企業同士の連携です。確かに、優れたものづくり技術を持つ中小企業は多いのですが、それらを組み合わせれば新たなものが生まれる可能性があります。問題は、そうした連携をリードする人材がいないことです。

小野社長の会社が取り組んでいる共同受注は、ある種のオープンイノベーションで、新たなものを生み出し、新たな需要も生み出す、とてもいい取り組みです。中小企業同士の連携による共同受注は、中小機構でも促進しています。今後の国の方針としても、地域の中核企業を生み出すことに取り組んでいきます。ハブ(中核)的な企業が連携体をつくり、企業単独では受けられない新たな需要に応えていくイメージです。

大企業との連携では、中小機構はマッチングサイト「J-GoodTech」(ジェグテック)」を展開しており、例えば大手企業のニーズを発信し、それを受ける中小企業とマッチングしています。実際に成功している中小企業もありますから、ぜひ積極的に利用していただきたい。

企業統合のシナジー(相乗)効果について、桑原社長のところは非常にうまくいっていると思います。これからはどのように売り上げを拡大するかですが、日本ではまだ越境EC(海外向け電子商取引)が十分ではありません。越境ECは今後も間違いなく伸びていきますので、活用していただきたい。

いずれにしても、売り上げを拡大し、コストを下げていかないとうまくいかないのですが、3社ともうまくやられていると思います。

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付加価値を一層向上