中小機構におけるIT利活用

私たちの生活に欠かすことのできないIT。中小企業支援においてもITの利活用は重要性を増してきている。中小機構におけるITの利活用について、中小機構の業務改善と組織活性化を牽引する総務部 業務改善推進室の佐々木室長と、AIを活用した中小企業支援ツールの開発を中心となって進める企画部 AIプロジェクト推進室の野木森室長代理に話を聞いた。

1)中小企業支援は時代とともに形も内容も変わってきていますが、AI、IoT、ビッグデータなどがキーワードの「第4次産業革命」が起こっていると言われる昨今、中小機構の提供する支援策はどのように変わっているのでしょうか。

佐々木 健

2014年に制定された「小規模企業振興基本法」に象徴的なように、全国381万の中小企業・小規模企業の活力を引き出すことが、日本をもっと元気にしていくために必要不可欠です。私たち中小機構は、国の機関としての存在意義に立ち戻ると、全国の中小企業に、直接でも間接でも支援をお届けしていく存在であり、中小企業支援のプラットフォームを提供する役割が求められております。

2)プラットフォームというのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

佐々木 健

直接個々の中小企業にアプローチする支援だけではなく、支援情報や支援ツールを集約し、中小企業が簡単にアクセスでき、欲しい情報が手に入る「場」を提供するということでしょうか。より多くの中小企業に支援策を活用していただくためには、今までと同じやり方をしていたのではうまくいきません。中小企業により近いところで支援活動をしている商工会等の地域支援機関にも活用していただける支援ツールを提供し、ITによる全国規模のプラットフォームを構築中です。

3)ここ数年でも、IT、特にWebを活用した支援施策が増えてきているように思います。

佐々木 健

ビジネスマッチング支援を例にとると、多くは商談会や展示会。中小機構でも「新価値創造展」(※1)に代表される商談会を多数開催しています。限られた「リアル」の場に参加できない企業にも広げられないか。そこで、時間的・空間的制約のないWeb上のマッチングシステム「J-Good Tech(ジェグテック)」(※2)が生まれました。

野木森 修

私が以前担当していた中小企業大学校の事業についても同じようなことが言えます。これまでは受講者には直接各地の大学校にお越しいただき、研修を受けていただいていました。しかし、今はパソコンやスマートフォンさえあれば、いつでもどこでもeラーニングで学べる時代。大学校で学べる内容も、徐々にeラーニングで学べる環境を整備しています(※3)。

(※1)
展示会への出展支援
(※2)
J-Good Tech(外部リンク)
(※3)
ちょこっとゼミナール(外部リンク)

4)昨年から新たに取り組まれているAIの利活用についてもそのような流れの中に位置付けられるかと思います。野木森さんの所属するAIプロジェクト推進室では、具体的にはどのようなことに取り組んでいるのですか。

野木森 修

中小機構のAIプロジェクトは、国全体でIT化による生産性向上を目指す中で、中小機構も率先して実践し、その経験を支援にも生かそう、という問題意識から始まりました。いくつかの取組が同時進行しているのですが、目下取り組んでいるのは、「起業支援チャットボット」の開発です。これは起業を考えている方からの相談にAIが応えるものであり、相談者はスマートフォンなどから相談内容を文字で打ち込み、それに返信する形でAIが文字で応えるというものです。3月中の提供開始をすべく、最終調整中です。

佐々木 健

昨年発足したAI室、毎日が新しいチャレンジで精力的に動いている。チャットボットの具体的なイメージはここでは紹介できないの?

野木森 修

そこはまだ企業、いや「機構」秘密です(笑)
3月リリースを乞うご期待です。
※2018年3月14日にリリースしました。
https://startup.smrj.go.jp/

佐々木 健

残念(笑)機構職員としてもとても楽しみにしている。中小企業支援に関する膨大なデータの蓄積を持つ中小機構だからこそ提供できる施策だから。

野木森 修

そうですね。チャットボットが参照するのは、中小機構が提供している中小企業支援策に関する情報提供サイト「J-Net21」(※4)に蓄積されたデータです。膨大なデータの蓄積の中から、相談者が必要としているデータを選択し、場合によっては組み合わせて、相談者に提供する仕組みです。AIを活用する・しないにかかわらず、やはりデータは大事です。中小機構が持つデータをどう有効活用していけるかを検討するためのいい機会でもあると思います。

(※4)
J-Net21(外部リンク)

5)起業支援チャットボット以外には、AI活用の構想はあるのでしょうか。

野木森 修

起業に関する相談だけでなく、経営全般の相談に応えられるようなものに発展させていければと思っています。将来的には、文字だけでなく音声に対応することも目指しています。

6)これまで人がやっていたことを、人の代わりにAIがやるということで、かなりの業務効率化につながるように思います。

野木森 修

AIが業務効率化につながるというのはそのとおりなのですが、注意しなければならないのは、業務効率化はあくまでAIの一面にすぎないということです。よく、AIの発達によってどの職業がなくなる、あるいはそこまでいかなくても、会社の中で特定の人の仕事が奪われるといった話があります。それはたしかにそうなのかもしれませんが、われわれが目指すべきは、AI活用により、新たな価値が付加された中小企業支援の提供を実現することだと思います。単に人をAIに置き換えるというのではなく、人とAIとが共存することで、これまでにない支援策が実現できればと思っています。

佐々木 健

AIやITの活用によって新たに生まれた時間をどんな業務に充てるかが大事になる。単に仕事が楽になるのではなく、人がやるべき仕事、人しかできない仕事にこれまで以上に注力しなければならない。「作業」から「考える」「新たにつくる」「生み出す」ことへの割合を増やす。「考える」には一人では限界がある。誰かと想いをめぐらせ考えを共有し合うことで、自分の仕事へのモチベーション、納得感、腹落ちが生まれる。すると、自分だけでは考えつかなかったアイデアに辿り着くことがある。AIがどれほど発達しても、人と人との関わり合いが大事だという仕事の根本は変わらないはず。これまで以上に人にしっかり向き合っていくべきだと思う。業務改善推進室は公私ともに職員同士の「関わり合い」を最も大事なテーマに掲げている。

野木森 修

他人の視点で見てもらうことで突破口が見つかることはありますよね。あとは雑談など、何気ない会話の中から着想が得られることも多々ありますね。AI・IT導入の効果のひとつとして、人間が今以上にクリエイティブな活動に従事することができるようになることを期待する向きもあります。

佐々木 健

部署や世代を越えた交流の機会を設けている。単に交流するだけでなく、それぞれの想いを共有し、とことん「しゃべり」「聞く」こと。

野木森 修

「キコウしゃべり場」ですね。職員の想いを共有して、組織活性化につなげる。「想いのプラットフォーム」ですね(笑)

佐々木 健

今年度から試行的に実施しているのが、普段の仕事とは別に部署や立場を越えた職員同士が集まり、共有した想いを一つの形にして社会につなげるプロジェクト。中小企業向けの様々なワークショップを開催しているTIP*S(※5)で実際にお客様に提供するなど、TIP*Sメンバーの協力を得て試みている。時間はかかるけど、もっともっと職員の本気の想いも形にしていく組織になりたい。

野木森 修

業務改善推進室の取組は、地道に、時間をかけてやっていかなければならないことが多いと思いますけど、そういう取組こそが後々効いてくるのだと思います。AIについても、流行りだからやっている、というのではだめで、5年先、10年先の中小機構の姿を見据えたとき、今から取り組んでいかなければならないことのひとつがIT活用の基盤作りであって、その1ツールとしてAIの可能性を追求する、ということなのだと思います。

(※5)
TIP*S(外部リンク)

「キコウしゃべり場」の様子。部署や世代を越えて職員同士が想いを共有する。

7)最後に、中小機構への入社を希望する方に対し、お二人が期待をされることをお聞かせください。

佐々木 健

ITというテーマに引き付けて言うと、これから入社される方々はデジタル・ネイティブの世代なので、私たちの世代には思いつかないようなアイデアを持ち込んでくれることは大いに期待します。若い人の声を聞き、受け容れて、具体的な施策に組み立てるのが上の世代の役割。もちろん、私たちもITについて勉強しないといけないですが(笑)

野木森 修

次世代のアイデアに期待するのは同意見ですが、他方で「がまん強さ」も必要だと思います。斬新なアイデアが重宝されることは間違いないですが、それがすぐに受け容れられて形になるわけではない。どの会社でもそうだと思いますが、何をするにもルールに則った手続きが必要です。書類の作成や関係者との調整などは地味で面倒くさいしやりたくないかもしれませんが、そこはがまん。そうした手続きもちゃんとできて、初めてアイデアは実現します。AIプロジェクト推進室にも入社3年目の職員が配属されていますが、やっぱりそこで苦労していますね(笑)

佐々木 健

自分の想いも実現できるよう一生懸命やっているよね。ああいう姿勢を私たち上の世代がもっと見てフォローしていきたい。

野木森 修

若手職員はみんな一生懸命やっているし、そんな姿を見ると刺激になりますよね。

佐々木 健

ITに関する知識やスキルがあれば活躍できるフィールドがますます広がるとは思うけど、知識やスキルは入社後でも身に付けることができると思うし、まず何より、中小企業を元気にしたい、日本を元気にしたいという熱い想いがある人に来て欲しいと思います。

時代の要請として、ITに強い人材がますます求められるようになることは間違いない。しかし、ITというのはあくまで一例であり、変わりゆく時代とともに、中小企業支援において求められる知識やスキルもまた変化していく。「公的機関」と聞くと、少なからず「安定」というイメージが想起されるかもしれないが、中小機構には、安定に安住・固執することを良しとしない風土が生まれつつある。変化を恐れず、チャレンジしていく精神を持った人材こそが、これからの中小機構に求められるだろう。

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『起業ライダーマモル』

プロフィール

  • 佐々木 健平成6年入社

    地域振興整備公団(中小機構の前身)で産業用地の分譲等を経験。中小機構になってからは、沖縄事務所で沖縄県の中小起業支援に広く携わった後、「よろず支援拠点全国本部」の立上げを経て、現職。中小機構の業務改善と組織活性化を中心となって推進している。

  • 野木森 修平成18年入社

    共済資金の運用や共済制度の改正、中小企業大学校の運営、BusiNestの立上げを担当。その後中小企業庁への出向を経て、現職。AIを活用した経営支援ツールの開発のほか、中小機構の有するデータの有効活用を率先して進めている。