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第11回 超音波霧化分離技術実用化へ【ナノミストテクノロジーズ】

伸びる!産業の先駆者たち─インキュベーション施設で事業化に挑むベンチャー

東京進出で資金調達が円滑に─農工大・多摩小金井ベンチャーポート─

 

ナノミストテクノロジーズ
【設立】2002(平成14)年10月
【資本金】3億871万円
【事業内容】超音波霧化分離装置、脱臭装置、VOC(揮発性有機化合物)回収装置、微粉体製造装置などの開発・製造・販売
 
農工大・多摩小金井
ベンチャーポート
【開設】2008(平成20)年10月
【居室】ウェットラボ17室、オフィス4室
 

 

超音波霧化分離技術の実験装置
超音波霧化分離技術の実験装置

 超音波霧(ミスト)化分離技術の実用化に取り組むベンチャー企業、ナノミストテクノロジーズは今年7月、官民ファンドの産業革新機構などから総額5億5000万円を上限に出資を受けることになった。多くの成分を含む混合液を超音波で揺らして霧化し、成分ごとに分離・回収する同技術は幅広い分野での応用が期待できるが、今回の出資受け入れに伴い、当面、(1)工場廃液などを対象とした排水処理(2)船舶の排ガス処理─の2つにピタリと照準を合わせ、開発を急ぐ。代表取締役社長の松浦一雄氏(52歳)は「2019年に東証マザーズ上場という計画は必ず達成する」と自信を見せる。
 創業者で開発者の松浦氏がここに至るまでには、「多くの紆余曲折があった」。

清酒のヒット商品を生むも、酒税法が改正

 徳島県最古の酒蔵である本家松浦酒造(鳴門市)の長男として生まれた松浦氏は、山梨大学の大学院を出て大手酒造会社の研究所に入所。1993年に超音波霧化分離現象を発見し、日本生物工学会技術賞を受賞する。超音波で水を霧にする原理は加湿器などに応用されているが、混合液を分離できることを証明したのは初めてだった。
 1997年に後継者として実家に戻ると、同技術を酒造りに応用。純米清酒を霧状にし、水より軽いアルコールや香り成分などの旨みだけを集める「霧造り製法」を開発し、2000年にその名も「純米酒 霧造り」として発売した。アルコール分が25度と高いにもかかわらず香りもよく立つので評判を呼び、年商数千万円のヒット商品となった。
 しかし、2006年の酒税法改正で、清酒はアルコール分22度未満と定義されてしまった。「霧造り」は蒸留酒ではないのに、税率が高い焼酎と同じ扱いになる。このため、松浦氏は「酒造業という閉鎖的な世界でやっていくには限界がある。もっと広い世界へ出よう」と考えた。

技術開発が軌道に乗るも、震災で資金繰りに窮す

 すでに2004年から2年間、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業に採択されて、バイオエタノール製造への応用技術を開発していたのに続き、2009年に経済産業省の「ものづくり日本大賞四国経済産業局長賞」を受賞するなど、さまざまな分野で応用できる技術として定評を獲得。商談も舞い込むようになっていた。そこで、家業を兄弟にまかせて、2011年1月に同社を発足、この技術の事業化に専念することにした。
 その直後の同年3月、東日本大震災が発生。そのあおりで、電力会社からの受注が白紙になり、大手ベンチャーキャピタル(VC)の出資話も波にのまれた。資金繰りに窮していた時に、技術士仲間から紹介されたのが、同じ技術士で、中小機構が運営する農工大・多摩小金井ベンチャーポートでインキュベーションマネージャー(IM)を務めている佐々木久美氏だった。

農工大・多摩小金井ベンチャーポートとの出会いで流れが変わる

松浦社長
施設内の「東京営業所」の前で、「この技術で世界に貢献したい」と語る松浦社長

 佐々木氏の勧めで、2013年春に同施設に資金調達拠点として「東京営業所」を開設。常石造船系VCのツネイシパートナーズ(広島県福山市)も紹介してもらい、翌2014年3月に初めてのVC資金の導入が実現した。同時に、多摩信用金庫(東京都立川市)が貸し出しに応じてくれ、それが新たな与信を生むなど、「四国では難しかった資金調達が順調にできるようになった」(松浦氏)という。
 同VCの出資に伴い、常石造船向けの船舶用排ガス処理装置開発という新たなターゲットも生まれた。IMO(国際海事機関)が来年から第3次規制に乗り出すなど、船舶の排ガス規制はいよいよ本格化する。加圧・加熱が不要で低エネルギー、省スペースでの処理が見込める超音波霧化分離技術が実用化されれば、グローバルな需要も期待できる。
 大企業の問題解決に役立つ技術ということで、さらに産業革新機構などの出資にもつながった。同機構とツネイシパートナーズのファンド、それにフューチャーベンチャーキャピタル(京都市)の3者が共同出資する。
 「この技術で世界に貢献したい」。松浦氏は“技術者魂”の火を静かに燃やしている。

 

農工大・多摩小金井ベンチャーポートチーフIM
大野 裕深 氏
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大野裕深氏

 農工大・多摩小金井ベンチャーポートは、中小機構が東京都と小金井市の要請を受け、東京農工大学と連携して運営しているインキュベーション施設で、農工大発ベンチャーを含め、主に各大学等と連携する企業を支援しています。現在、入居企業は14社。支援策の一環として、セミナー・イベントを活発に実施しているのが特徴の一つで、セミナーは年間8〜10回開催しています。その時々に話題になっているものや入居者が希望するものなどをテーマに選び、最適な人を講師に迎え、地域の企業や関係機関の担当者らも招いて、入居者との交流の場として活用してもらっています。
 私がチーフインキュベーションマネージャー(IM)として常駐しているほか、技術、IT(情報技術)システム、会計・税務をそれぞれ担当する3人のIMが週1日ずつ入居者からの相談に応じています。私はベンチャーキャピタルや産業技術総合研究所、北海道大学などで、ベンチャー企業の起業や成長を支援する仕事を歴任。常に、経営者が目指す方向性を最大限尊重し、それに沿うような支援メニューを、周りの力を借りながら揃えていくことを心掛けています。

中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成27年10月15日発行 第1154号