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第6回 2年後にも世界初の新薬実用化へ【ナノキャリア】

伸びる!産業の先駆者たち─インキュベーション施設で事業化に挑むベンチャー

独自のナノ粒子 がん細胞を選択的に治療─東大柏ベンチャープラザ─

 

ナノキャリア
【設立】1996(平成8)年6月
【資本金】102億円2300万円(2013年12月31日現在)
【事業内容】ミセル化ナノ粒子技術を応用した医薬品などの研究開発
 
東大柏ベンチャープラザ
【開設】2004(平成16)年8月
【居室】試作工場、試作実験室タイプ計26室
 

 

 「これから最も資金のかかる臨床試験のフェーズ3が国内外で始まるため公募増資し、想定していた金額を調達できた。これで開発スピードを上げたい」。こう話すのは、ナノキャリアの中冨一郎代表取締役社長だ。
 同社は昨年10月、国内外の機関投資家を対象とした公募増資「グローバル・オファリング」を日本のバイオベンチャーとして初めて実施。その結果、海外を中心に20以上の機関投資家から、ベンチャーとしては巨額の90億円超の資金を調達した。2008年3月に東証マザーズに上場した時と比べても桁違いの調達額だ。しかも、出資額の9割以上が香港や米国、欧州などの機関投資家で、海外から高く評価されたわけだ。
 同社は、東大の片岡一則教授、東京女子医大の岡野光男教授らが発明した最先端ナノテクノロジー技術「ミセル化ナノ粒子」を応用した医薬品を創出するために、1996年に創業した。

ナノ粒子の構造を応用した抗がん剤の開発

ナノキャリアの研究風景
ナノキャリアの研究風景

 親水性と疎水性を持つ高分子を分子レベルで結合し、水に溶かすと、外側が親水性、内側が疎水性という二重構造(ミセル)を持つ直径20〜100ナノ(1ナノは10億分の1)メートルのミセル化ナノ粒子が形成される。これを医薬品に応用して静脈内に投与すれば、血中に長時間滞留し、徐々にがん組織などの病変部に集積する。ナノ粒子の内側に抗がん剤を内包すれば、治療効果を高めるだけでなく、正常細胞へのダメージが少なくなって副作用も軽減。患者の生活の質(QOL)が向上し、医療費削減も期待できるなど、がん治療の画期的な療法となる。
 この技術について、同社は自社開発、共同研究、ライセンス供与というビジネスモデルで進める。臨床試験段階にある開発中の新薬候補は4製品で、6本の治験が各国で進捗中。このうち、乳がん向け医薬品がアジアおよび国内で、膵がん向けが台湾や香港、シンガポールなどアジアで臨床試験の最終段階となるフェーズ3を迎えている。なかでも日本化薬にライセンス供与した乳がん治療剤は「来年早々にも申請し、早ければ2016年に国内で上市できるかもしれない」(中冨社長)。

ナノ粒子の用途は化粧品・ヘルスケア分野へも

 今回の資金調達により、臨床開発だけでなく、次世代医薬品の開発にも取り組む。その代表が、「ADCM」と核酸医薬品だ。ADCMはミセル化ナノ粒子の表面に抗体を結合させたもの。抗体がセンサーの役割を果たし、「磁石のように、ある種のがん細胞にくっつきやすくなる」(中冨社長)ことで、より選択的にがん細胞をターゲットにできる。核酸医薬は遺伝子に直接働きかけるため、治療効果が高まる。「いずれも現在のミセル化ナノ粒子に比べ、がん細胞の選択性が5〜10倍に高まり、副作用もより少なくなる」。
 ナノ粒子の用途は医薬品だけではない。高級化粧品メーカーのアルビオンと共同開発した美容液「エクラフチュール」がそれだ。ナノ粒子の特性を生かした美容成分のスピーディーな浸透感により、昨年10月の発売後1カ月で10万本を出荷するというヒット商品となった。アルビオンとは第2、第3弾以降の商品開発も検討しており、中冨社長は「化粧品以外でも、大衆薬などヘルスケア分野を拡大したい」と意気込む。

“死の谷”を乗り越え、今年6月施設を卒業する

中冨社長
「特別な分野で活躍できる製薬会社、スペシャリティファーマになる」と話すナノキャリアの中冨社長

 高い成長性が見込まれる同社だが、決して順風満帆だったわけではない。息の長い医薬品開発だけに、研究開発の成果が実用化されるまでに開発コストがかさんで資金不足に陥る「いわゆる“死の谷”は何度も迎えた」。だが、技術の先進性によって中小機構も出資するベンチャーキャピタルをはじめ、累計20以上の機関投資家から出資を受けた。また、中小機構などが運営するインキュベーション施設「東大柏ベンチャープラザ」(千葉県柏市)の設立時から入居しているが、「実験設備を使える環境が整っていることで助かった」という。
 同社は6月に、同じ柏市内のつくばエクスプレス沿線に移転してインキュベーション施設から“卒業”する。米国企業が高分子ミセルを使った医薬品開発に乗り出すなどライバルも現れたが、移転を機に「研究施設も充実するし、10名単位で研究者や開発者も増やし、この分野で先頭を走り続ける」決意だ。
 ライセンスアウトした乳がん治療薬は日本化薬によって国内で2015年に承認申請される見込みで、またアジア地域を対象に台湾製薬企業と共同開発中の膵がん治療薬も2018年に承認される予定。中冨社長は「2017年ごろから経営が格段によくなる」と強調する。日本発のがん治療薬がグローバルに活躍する日も遠くない。

 

東大柏ベンチャープラザ
原田 博文 氏
入居企業が求めるニーズに沿って
 
原田博文氏

 私は大手銀行や地方銀行での銀行業務、政府関係機関でのITベンチャー支援業務を経験した後、2011年に東大柏ベンチャープラザのチーフインキュベーションマネージャー(IM)に就きました。当施設は全室ウエットラボ仕様のため、創薬・バイオ系企業を中心に、素材・材料や機械・装置など多様な企業が入居しています。
 運営方針は、入居企業が求めるニーズに沿うこと。現在の一番のニーズは、販路開拓と技術提携です。そこで、どんな技術が求められているかを調べたうえで、大企業とのマッチング機会を何度も設けた結果、自動車大手との取引がまとまった例もあります。ほかにも、補助金申請の支援、事業計画の策定や金融機関・VC向け資料作成の支援、大学や研究機関との連携支援など、関係諸機関と連携して入居企業のあらゆるニーズに応えるべく努めています。
 当施設は東大や地元(千葉県、柏市)と連携して運営しており、東大の技術情報を仕入れるのに有利なほか、千葉県や柏市からはIMも派遣してもらっています。また、県や市の紹介で入居企業が決まった例もあります。東大などの最先端の大学・研究機関が集積する恵まれた環境のもと、実験や試作開発に適した設備を活かして、中小・ベンチャー企業の支援を進めていきます。

中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成26年4月15日発行 第1118号

ご紹介した施設の詳細

東大柏ベンチャープラザ