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「北三陸」を世界ブランドに 【ひろの屋(岩手県洋野町)】

持続可能な水産業目指す

 

にっぽん元気カンパニー

ひろの屋
【設立】 2010(平成22)年5月
【資本金】 300万円
【従業員数】 9人

“地産地出”を

下苧坪氏
「北三陸ファクトリー」ブランドのロゴを掲げた自社の加工場前に立つ下苧坪氏

 「洋野(ひろの)町は海産物が豊富だが、これまで地産地消だった。そうではなく、地域の産物を地域外に販売する“地産地出”の文化を立ち上げたい」─。岩手県最北端の太平洋沿岸に位置する洋野町で水産加工・卸を営む「ひろの屋」の下苧坪(したうつぼ)之典(ゆきのり)代表取締役は、こう語る。
 同町が位置する北三陸地域は南三陸のリアス式海岸とは異なり、入り江や湾もない。外洋に面しているため養殖漁業も難しい。半面、天然のワカメやコンブ、ウニ、アワビなどが豊富。とくにウニは他の産地品に比べ食べられる身の部分が多く、地元漁協が20年以上前から養殖を始め、北海道に次ぐ出荷量を誇る。ワカメも、国内消費の9割を占める養殖ではなく、天然が売り物。そうした特性を持ちながら、地域外に積極的に売る漁業者は少なく、「町は疲弊していた」(下苧坪氏)。

地域振興のモデル

 同町出身の下苧坪氏は県外の生命保険会社などで働いていたが、古里の現状を憂い、起業家養成講座で学びながら、2010年5月に起業した。実は、ウニは7〜8月、アワビは11〜12月が漁期のため、地元の漁業者は9割が兼業。これを逆手にとり、「ブランド力と流通ルートを確立し、末端価格を上げて雇用もつくり、地域振興のモデルにしたい」と起業の動機を語る。
 まず、天然ワカメの販売から手をつけた。地産地出を実現するには「都市の人に認められないとだめ」と考え、東京の百貨店などに売り込んだところ、希少価値が評価され販売ルートを開拓した。次に取り組んだのがウニだ。養殖する漁協と組んで、天然の味を損なわない瓶詰め粒ウニを商品化。本格販売を始めようとしていた矢先に、東日本大震災が襲った。

震災はチャンス

 洋野町は津波による人的被害はなかったものの、冷凍庫に保管していたウニはほぼ全滅。震災後の3カ月間は下苧坪氏もボランティア活動に没頭していた。 そうした中で、洋野産ワカメに注文が舞い込む。南三陸の養殖ワカメが甚大な津波被害を受け、津波の影響がない天然物に需要が集中したのだ。「被災地には申し訳ないが、これはブランドを売るチャンス」(下苧坪氏)と、ホームページやSNSなどネットを活用し、北三陸、洋野町を積極的に情報発信。続いて、漁協と契約してアワビやホヤ、メカブなどの商品化にも手を広げる。
 同時に「生産地の卸業者が小売りに直接価値を訴え、北三陸ブランドを顕在化させる」(同)活動に取り組んだ。下苧坪氏が発起人となり、2013年に地元の生産者、漁協、水産加工会社などと「北三陸世界ブランドプロジェクト実行委員会」を立ち上げ、安心安全、流通ルート確保、輸出などについて具体的な実行計画を練り始めた。同委員会は昨年から「震災復興 絆プロジェクト」を進めるキリングループから助成も受けている。

新ブランドも

試作品
タコやホタテの燻製などの試作品

 世界ブランド化を目指すからには、輸出は不可欠。下苧坪氏は、かねてから台湾に注目。何度も商談に出向いていたが、なかなか大きな取引がまとまらない。そこで昨年、中小機構のF/S(実現可能性調査)支援事業(現・海外ビジネス戦略推進支援事業)を受けたところ、最適な商談相手を紹介してもらったことなどで、昨年末から天然ワカメの本格輸出に成功した。
 さらなる輸出拡大の切り札として狙っているのが、中華料理に多用される高級食材のアワビ。台湾では乾燥品が主流だが、下苧坪氏は急速冷凍し、コストを10分の1程度に抑えた加工法を確立し、「台湾だけでなく、台湾経由で中国にも拡販したい」と意気込む。
 これらは「ひろの屋」ブランドだが、狙うのは北三陸全体のブランド化。実行委の検討などを受けて立ち上げたブランドが「北三陸ファクトリー」で、ロゴマークも作成した。地域全体を商品化し、売るノウハウを事業者間で共有。ひいては雇用も創出し、持続可能な漁業を目指す。すでに青森県を含む漁協や加工業者の賛同を得て、タコやホタテの燻製を製造。試作品の販売を始め、国のジャパンブランド育成支援事業も申請した。
 「将来的には、加工や体験、飲食、土産物販売などを兼ね備えた観光拠点をつくり、海外の人も呼び込み町を活性化させたい」─。下苧坪氏は大きな構想に向けて動き始めた。

中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成27年8月1日発行 第1149号

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