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佐々木酒造店(名取市下余田仮設工場団地)

仮設からの報告【第8回】─宮城県名取市2─
仮設工場で今シーズンから酒の仕込み

佐々木酒造店(名取市下余田仮設工場団地)

名取市唯一の蔵元、故郷の変わり果てた光景に再起を決意

 下余田仮設工場団地で事業を再開したのが閖上1丁目で130年以上の歴史と伝統を持つ老舗造り酒屋「佐々木酒造店」。清酒「宝船浪の音」のほか「純米大吟醸浪庵」などの醸造元で、米どころ・酒どころの宮城県内にあって名取市唯一の蔵元として残っていた。しかし、3・11東日本大震災では、震源地に近い県内の蔵元は、古い建物が多いだけに多くが被害を受けた。「宝船浪の音」蔵元の佐々木酒造店は、地震と津波で全壊した。5代目の佐々木洋専務(35歳)は、「県内で一番小さな造り酒屋だが、一番大きな被害を受けた」と静かに語る。被災時は、折れた煙突や崩れた蔵などの被害調査をしている最中に津波を目撃して、走って鉄筋コンクリートの蔵の屋上へ避難した。閖上地区はほぼ全滅という故郷の変わり果てた光景を目にしながら、「このまま廃業するわけにはいかない。何年かかるか分からないが、この場所で再び酒を仕込む」と決意したという。そのため震災復興への取り組みも早かった。

昨年7月1日に敷地内に埋もれた在庫を「震災復興酒」として発売

佐々木酒造店 佐々木洋専務佐々木酒造店 佐々木洋専務
 第1弾は、会社敷地内のがれきに埋もれた在庫の「宝船浪の音」を商工会青年部の仲間や地元ボランティアの助力で洗浄し、県産業技術センターで品質検査を受け、『震災復興酒』として昨年7月1日から1000本販売、あっという間に完売した。
 第2弾は被災した閖上の蔵にある貯蔵タンクより純米酒を県内の蔵元・森民酒造本家(仙台市若葉区荒町)でろ過・瓶詰し「閖」として商品化。震災から1年の3月11日に発売。第3弾は、同じく閖上の貯蔵タンクより純米大吟醸「浪庵」を汲み出し、森民酒造本家の「美山錦特別純米酒」と『震災復興酒セット』として仙台の有名デパートなどで300セット、1本売りも1200本販売した。もっとも酒造法上、森民酒造で瓶詰した商品は「製造元・森民酒造」、「販売元・佐々木酒造店」となる。
 

地元契約農家とともに、今冬から仕込み再開

 今冬のシーズンからは、いよいよ仮設工場での仕込みが始まる。「それまでに仕込み・貯蔵などの生産設備を完成させなければならない」。幸い地元の契約農家からは、「浪の音さんがやるなら我々もやる」と、地元産米での酒造りという浪の音の伝統が守られる見通しがついた。「灘の蔵元さんや鹿児島の焼酎の醸造元さんたちから醸造機器の提供を受けるとともに、全国の方々から支援をいただいた」。
 佐々木専務は、名取市商工会青年部副部長として閖上地区復興の先頭に立っている。「何もかも流されたからゼロからできる。新しいことを始めるチャンスでもある。若い自分たちが復興に立ち上がらなければ」と、自らを奮い立たせている。


 

佐々木一十郎・名取市長

「現地復興」で新たなまちづくり

佐々木一十郎・名取市長名取市長
佐々木一十郎氏

 東日本大震災から1年。一時の避難所から仮設住宅に移り、ある程度落ち着いて生活できるようになっています。被災者の方々の関心は、新しいまちづくりがどうなるかということですが、まだ家を建てられる状況になっていません。一日も早く具体的な土地買い取りと、まちづくりプランの土地単価を提示できるよう準備中です。
 仙台空港の周辺にあった集落は、集団移転の計画がありますが、仙台湾岸の多くのまちが陸側に集団移転計画を進めているなかで、古くからの漁港であった閖上(ゆりあげ)地区は、「現地再建計画」を掲げています。土地区画整理事業方式で実施するもので、海岸堤防や河川堤防による1次防御ラインと、南北道路による2次防御ラインを築き、運河を挟み海側に産業ゾーン、陸側は3メートルかさ上して居住ゾーンを配置する構想です。復興計画の基本方針は昨年10月に議会の承認を得ており、"心からの笑顔を求めて、新たな未来へ"をキャッチフレーズに取り組んで行きます。
 震災前の生活を取り戻すと同時に、基盤であった産業も復興しなければ真の復興は望めません。その意味で、中小機構さんに仮設店舗・工場を整備していただいたことは地元企業にとって大きな力となり、被災事業者が、入居、事業再開したことで、復興への足がかりができ、「皆で頑張ろう」という気持ちになれました。
 閖上地区は前述のとおり「現地再建計画」を掲げています。伝統と水辺空間の自然景観の魅力を生かし、住む人はもちろん皆が訪れ、住みたくなるまちづくりを進めると同時に、新たな「閖上ブランド」をつくりあげていきたいと考えています。

 

【入居仮設施設】

平成24年6月1日発行 第1073号