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伝統の焼物を次世代へ(末家焼窯元 ひろ窯・宮城県亘理町)

復興へのシナリオ 被災中小事業者の挑戦と震災復興支援アドバイザー
末家焼窯元 ひろ窯
【事業内容】 陶磁器の製造・販売
 

もう一回、やってみよう

古民家アトリエ「文麓庵」の囲炉裏端で
古民家アトリエ「文麓庵」の囲炉裏端で
 「多くの人に助けられ、伝統の焼物を次世代につなげるためにも、もう一回、やってみようという力をいただきました」
 宮城県岩沼市の山裾に建つ古民家を利用したアトリエ。ともに陶芸家の加藤文夫さん(63歳)、ひろこさん(59歳)夫妻は囲炉裏端で頬を緩める。
 夫妻は隣町の亘理町で「末家焼窯元 ひろ窯」という窯名を掲げて、陶磁器の製造・販売を営んできたが、東日本大震災で約2000点におよぶ作品をはじめ、窯も仕事場も自宅も失った。それが今年2月、国と県が再建費用の4分の3を補助する「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」(グループ補助金)を活用できることになり、復旧へのめどが立ったのだ。

「幻の陶器」末家焼の復興

 末家焼は、元禄時代に亘理伊達家第5代当主の伊達実氏(さねうじ)が亘理城下の末家(現亘理町先達前)に窯を築いたのを嚆矢とする御庭焼だ。大正の初めから「幻の陶器」となっていたのを加藤夫妻が復興した。亘理町出身のひろこさんが美大生の時にその存在を知り、魅せられたのがきっかけだ。
 ひろこさんは京都の陶工専門学校で学び直し、卒業後も京都で修業を重ねるうちに同校OBの文夫さんと知り合った。京焼作家の道を歩み始めていた文夫さんは、ひろこさんの夢を知って一瞬逡巡したが、「それに勝るロマンを感じた」。 結婚後の昭和60年5月に、ひろこさんの実家の広い敷地内に築窯。「京都の雅やかさと東北の素朴さをミックスした新しい末家焼を目指した」(文夫さん)

多くのファン・ボランティアに支えられて

 震災に遭ったのは、2人そろってクルマで岩沼市のアトリエから亘理町の自宅に向かう途中だった。大津波から逃げ、九死に一生を得た。自宅の2階に取り残された長男(27歳)は、「仕事場が船のように流されていく」(ひろこさん)のを目の当たりにした。26年の歳月を費やして築き上げたものを一瞬のうちに消し去られてしまったような深い喪失感に襲われた。
 だが、震災の4年前に購入したアトリエに作品の一部を置いてあったのが幸いした。友人に背中を押されて、震災4カ月後には京都で夫婦連名の作陶展を開くことができた。その後、福島市や仙台市の百貨店でも個展を開催し、多くのファンが作品を待ってくれていることを知った。瓦礫を片付けにやってくる延べ数百人のボランティアにも励まされた。やはり陶芸家を目指している長女(24歳)が震災直後に夫妻の母校に入学。窮状を知った母校からも不要になった窯を贈られた。

まだ再建の3合目

加藤文夫、ひろこ夫妻
「末家焼を何とか次の世代に」と話す加藤文夫、ひろこ夫妻(古民家アトリエ「文麓庵」の玄関前)
 気持ちが立ち直りつつあった昨年11月、作品を展示・販売していた「鳥の海ふれあい市場」(亘理町)を運営する協同組合の幹部から声をかけられ、グループ補助金申請に参加。復興計画作成のため、中小機構の複数の震災復興支援アドバイザー(AD)が足繁く亘理町に通い、「泥沼にいる私たちに光をさしかけてくれるように」(ひろこさん)懇切丁寧にアドバイスしてくれた。もっとも、自己資金の工面はこれからで、「まだ(再建の)3合目」(文夫さん)。金融機関に提出する事業計画作りなどでも、震災復興支援AD制度を活用しようと考えている。
 「前のように音楽を聴きながら土をこねたり、絵筆をとったりできるようになるかと思うと、わくわくします」。ひろこさんはこう言って目を輝かせた。

 

経営者の考えに寄り添って

震災復興支援アドバイザー 池田裕二

震災復興支援アドバイザー 池田 裕二 氏

 私は長い間、コンピューターによる画像認識技術の研究開発に携わってきたのですが、職場でマネジメントをまかされる年代になり、経営や財務などの勉強をしているうちに経営コンサルタントの仕事に魅力を感じるようになりました。それで昨年、東京から生まれ故郷の仙台市に戻り、中小企業診断士として独立したのです。
 経営コンサルタントとしては、「事業主や経営者の考えに寄り添う」ことをモットーとしています。聞きかじりの知識や定型的な理論で「こうするべきだ」と決めつけるのではなく、社長さんの気持ちを忖度し、できるだけそれに添う形で解を見つけていきたいと考えています。
 「末家焼窯元 ひろ窯」を含めて35者で構成する「亘理ふるさと沿岸復興グループ」によるグループ補助金申請については、中小機構の複数のアドバイザーがチームを組んで支援しました。ひろ窯さんの事業には希少性があり、何とか立ち直ってもらいたいと思いましたね。私は仙台出身なのに、伊達家ゆかりの陶芸があることも、それを受け継いでいる人がいることも知りませんでした。施設・設備復旧後の事業展開についても、求められれば支援するというのがアドバイザー全員の気持ちだと思います。
 宮城県人なのに、石巻から気仙沼にかけての沿岸地域など風光明媚な土地を震災前に訪れていなかったことを後悔しています。これから、地元の復興に少しでもお役に立てればと考えています。
中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成25年5月1日発行 第1095号

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