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風評被害乗り越え増産体制へ(三義漆器店・福島県会津若松市)

復興へのシナリオ 被災中小事業者の挑戦と震災復興支援アドバイザー
三義漆器店
【事業内容】 漆器の製造、卸販売
 

アドバイザーからのヒアリングが支援を受けるきっかけに

 東日本大震災、福島第1原子力発電所の事故は、津波や放射線などによる直接被害に加え、周辺自治体に風評被害をもたらした。とくに福島県においては、放射線検査がパスした農水産物や一般商品でも「ふくしま」の名前があるだけで価格が引き下げられ、あるいは取引自体が断られるケースも少なくない。風評被害は受け手の“度量”に触れる問題でもあり、それだけにやっかいな代物である。その風評被害を中小機構東北本部の震災復興支援アドバイザーのアドバイスを受け、乗り越えたのが会津若松市に事業所を置く三義漆器店だ。
 風評被害で震災以降受注が落ち、その後全国に広がった福島復興応援需要の盛り上がりに、逆に生産が需要に追い付かない事態に陥った。曽根典弘・取締役生産部長(41歳)は、全国のホームセンターなどからの温かい要請に、十分対応できない生産現場を預かるもどかしさを抱えていた。

生産現場は改善の”宝の山”

 そんな折、中小機構が運営する中小企業大学校仙台校で4年前に工場管理者養成コースを学んだ曽根取締役に、講師を務めた市川昭男アドバイザーから震災後の状況をヒアリングする一本の電話が入った。「藁をもすがる思いで生産の実状を訴え」、東北本部を通じて改めてアドバイスの申し入れを行った。昨年6月のことである。
 会津漆器の卸販売として曽祖父が昭和10年に三義漆器店を創業、40年には祖父が木地や塗り、蒔絵など分業が当たり前だった業界に製造から出荷、卸販売までの一貫生産体制を確立し再スタート、現在は父から兄に事業が受け継がれている。伝統工芸品ではなく、生活雑貨としての量産品を手掛け、お椀を主力に2年前には自動化ラインで1日5000個の生産体制を構築していた。それでもこれを上回る需要が舞い込んだ。
 市川アドバイザーが営業を含めた各部門のキーマン6人による生産改善プロジェクトチームの設置を条件に、徹底して指導したのが「作業のムダ」の排除。曽根取締役からは生産率と品質管理の向上を要請されていたが、それを実現するためにも作業改善を最優先させた。「工場内(塗装入口・出口)や包装工程間に商品品質にバラツキがある」「外装ライン作業時に仕掛品があふれ身動きがとれない」「仕掛け数量が把握できていない」「交換作業時にトラブルが発生する」など、「生産現場は改善の“宝の山”」(市川アドバイザー)だった。

改善への取り組みが社員の意識を変えた

三義漆器店工場内
要所にシールを貼り、ムダな作業を無くす努力が成果となって表れている
 プロジェクトチームのほか、整理・整頓など全社員による5Sの取り組み、リーダー会議での改善トレーニング、成果発表会の開催、各グループ間での成果の共有といった厳しい課題を要求、例えば溶剤の配合など作業員のカンに頼っていた工程をマニュアル化し、工場内の要所にシールを貼り作業の見える化を図るなど、微に入り細を穿つ改善活動に取り組んだ。
 46人の社員のうち、生産工程は40人が従事する会社の心臓部であるだけに、取り組みの成果は即あらわれた。はじめは「なんでいまさら改善など」「なんの効果があるのか」と半信半疑だった社員が、改善活動の中で身の回りがきれいになり、作業の効率化を実感する中で、「進んでゴミを拾うなど各自が率先して改善活動に参加するようになった。社員の意識がみるみる変わり、活力にあふれた頼もしい存在になりました」と曽根取締役は語る。

生産プロセスの見直しで生産量は倍増に

曽根典弘・取締役生産部長
「風評被害を乗り越えさらに生産効率向上に取り組みたい」と話す曽根典弘・取締役生産部長
 作業のムダの排除は生産工程でも実行され、市川アドバイザーの助言で、それまで午前中に椀の内側を塗り、午後に外側を塗るローテーションを、単純に外側を塗り続ける一方で包装・出荷など動いていない部門から人を動員し、椀の内側も同時並行して塗装するという生産プロセスに変更した。それだけで作業の流れがスムーズになり、仕掛品を保管、移動するムダな動きがなくなった。
 こうした取り組みにより、製造品の不良率は改善前の5〜6%から1%未満に激減し、生産量も日産5000個から1万個に倍増した。曽根取締役は「悩んでいた生産率の向上が目に見える形で成果となったのは、市川アドバイザーの的確な指導のたまもの。さらにレベルを上げて取り組んでいく」と感謝する。
 同社では国内需要のほか、2年前から欧州向けに販路開拓を進め、今年度からは米国市場にも進出する。それらのニーズに対応すべく、今秋に新工場の建設に着手、今年12月から本格稼働させる計画だ。
 「新工場の生産プロセスのレイアウトを作成中だが、ここでもアドバイザーさんの力をお借りして風評被害を乗り越え、3年後には売上高7億円を目指し事業を発展させたい」と希望を託す。

 

ムダ排除と生産性向上に全力

震災復興支援アドバイザー 市川昭男

震災復興支援アドバイザー 市川昭男 氏

 平成15年から中小機構東北本部の経営支援アドバイザーとして中小企業の経営相談を行ってきましたが、東日本大震災の翌月から震災復興支援アドバイザーの活動にも携わっています。電機メーカーでの生産プロセスの経験を生かし、製造業だけではなくサービス業、小売業の分野でも、相談相手には「作業のムダ」の排除を徹底指導することを心がけています。製造業の場合、作業のムダは50%もあるのが現実で、この非作業時間を短縮することは苦労せずに生産性を向上させることに繋がります。ムダを無くす取り組みで20%の生産性向上を果たしたケースもあります。
 つまりは生産プロセスにおいて、(1)ヒトによる作業の未熟さ(2)作業手順の統一化(3)商品別の採算分析の確立(4)経営計画の作成─の4つの観点からその目標の到達度を図るよう指導しています。
 三義漆器店さんの場合は、震災の風評被害で落ちた生産性をいかに向上させ、需要に応えるかがポイントでした。工場内の整理・整頓から作業のムダを徹底して排除するよう指導し、社員のやる気もあって、当面の課題としては目標の8割程度が達成できたと思っています。
 現在は新工場の建設を計画していますが、今回の改善を生かし、生産効率の行き届いた工場づくりが実現されるよう期待しています。
中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成25年3月15日発行 第1092号

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