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若手中心にポスト造船へ道探る(須賀ケミカル産業・岩手県大船渡市)

復興へのシナリオ 被災中小事業者の挑戦と震災復興支援アドバイザー
須賀ケミカル産業
【事業内容】 FRP製船舶の建造
 

専務を中心とした新規事業検討勉強会

新規事業開発プロジェクト発表会
11月上旬に開かれた「新規事業開発プロジェクト発表会」
 「2〜3年後には船の受注がピークを迎えると予想されるので、今から代わりになる事業を考えていこうと、この半年間、若手社員の勉強会を兼ねて新規事業を検討してきました」
 昨年11月上旬、岩手県・大船渡港の沿岸にある造船会社、須賀ケミカル産業の会議室で「新規事業開発プロジェクト発表会」が開かれ、須賀成道専務(37歳)が居並ぶ社員を前にこう語り始めた。プロジェクトに参加した若手社員らも交代でプレゼンテーションに立ち、同社の現状分析と新規事業計画を発表した。
 質疑応答の後、社員と一緒にプレゼンを聞いていた須賀正代表取締役社長(65歳)は、中小機構の震災復興支援アドバイザー(AD)で、中小企業診断士の鈴木たすく氏にスピーチを求めた。鈴木氏は同社の造船技術を応用した異分野への進出計画策定を支援するため、成道専務らの勉強会をサポートしてきたからだ。
 「私はアドバイスしただけで、実際の中身を考えたのは専務を中心とする若手の方たちです。新製品の売り込みを始めると、新たな課題が出てくると思いますが、社員の皆さんのご協力をお願いします」。鈴木ADがこう挨拶すると、会場は温かい拍手に包まれた。

持ち前の進取の精神で船舶から新規事業へ

 須賀ケミカル産業は、大船渡市にあったヤマハ発動機の船艇工場で生産管理を担当していた正社長が25歳の時に脱サラして創業。ヤマハやヤンマーに船舶部品を供給する仕事から始め、FRP(繊維強化プラスチック)製船舶を設計段階から一貫建造できる会社へと育て上げた。持ち前の進取の精神で、さまざまな機会をとらえては新しい経営手法や造船技術を自ら学び、導入。「バキューム工法」と呼ぶFRP成形技術もその一つで、同工法を用いて大型船舶を建造できる国内では数少ない存在だ。
 しかし、正社長は船舶だけではいずれ行き詰まると考え、新規事業を模索してきた。その一つが風力発電の風車用ブレード(羽根)だ。いきなり生産を受注するのは難しいので、メンテナンスを請け負うところから始めようと考えた。

23年の年末までに復旧工事が完了、そして事業再開

 東日本大震災が発生した平成23年3月11日も、長男の成道専務らと秋田県能代市にある東北電力の風力発電子会社に営業に出かけていた。帰途の車中のラジオから流れる津波情報が次第に深刻さを増す中、やっとの思いで自宅にたどり着いた時はすでに深夜で、家族が避難したあとだった。
 「それから2日間くらいは何も手につきませんでした」(正社長)。10メートルを超える津波で工場も社屋も全壊。社員のうち療養休職中だった1人が津波の犠牲になった。だが、「家族が無事で自分も健康なら、あとは仕事を再開するだけだ」と気持ちを切り替えた。給与支給日の同20日には、全社員を訪ね歩いて無事を確認しつつ給与を手渡した。
 その後、被災した中小企業に国と自治体が再建費用の4分の3を補助する「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」制度を活用。23年12月末までに工場や社屋の復旧工事を完了し、事業再開にこぎつけた。震災前から1年半先までの受注を確保していたが、再開後は復興漁船の受注が殺到したことから、3年先まで予約で埋まった。

会社の強み(技術)を活かせる新規事業への一歩

須賀正社長と成道専務
試作した新製品、ダストボックス「不動丸」の前に立つ須賀正社長(右)と長男の成道専務
 一方で、正社長には「本業が好調な今のうちに、新しい事業を開拓したい」という思いも甦り、そのためのアドバイザーの派遣を中小機構に要請したのだった。その鈴木ADは昨年5月から10月まで毎月1回同社を訪問し、成道専務以下7人の若手社員によるプロジェクトチームの運営をサポートしてきた。
 チームは風力発電のブレード事業も含めて、FRP技術を活用できる複数の新規事業を考案。その中から、自治体などがごみ集積所に設置する用途を狙いとした「ダストボックス」の生産・販売を当面の即戦力となる事業として推進していくことにした。
 ごみ袋を出し入れしやすい構造にし、底部に設けた空洞に水を入れることで強風に飛ばされないようにするなど、数々の工夫を凝らした製品で「不動丸」と名付けた。
 「(この新規事業が)大成功をしてほしいとは思いません」。若手社員らのプレゼンを満足げな表情で聞いていた正社長は発表会の後で、そっと漏らした。失敗を重ねることで、より大きく成長してほしいと願う創業社長ならではの親心からだ。

 

自分が不要になることが理想

震災復興支援アドバイザー 鈴木たすく

震災復興支援アドバイザー 鈴木たすく 氏

 中小企業診断士として、顧客企業から「自分たちですべてできるようになったので、あなたの力はもう必要ありません」と言われるようになることを理想としています。東日本大震災の後に仙台市を拠点に独立したので、震災直後に支援した経営者の方々がその後、事業再建を進め、顔色も良くなっているのを見るとやりがいを感じます。
 須賀ケミカル産業に関しては、「若手社員に経営を勉強させる形で新規事業の検討会を運営してほしい」ということでお話をいただいたのですが、須賀正社長に全面的にまかせていただいたおかげで、とてもやり易かったです。社長としては、将来的に風力発電用ブレードなどを事業化することを念頭に置きつつ、今後の主軸となるべき須賀成道専務ら若い社員に経験を積ませたいとのお考えでした。
 成道専務には初対面の時に、すでに経営者としてのセンスやものの見方を身につけていると感じました。ですから、私は指導というよりも、ファシリテーション役(会議の流れを整理したり、合意形成を促したりする役割)に徹しました。戦略を策定するためのステップを決めて毎回のテーマを設定し、次回までの宿題を与えるなど、経営に関する考え方や切り口をアドバイスする役に専念しました。
 「新規事業開発プロジェクト発表会」でプレゼンテーションした社員のほとんどが人前で話すことは初めてだったようです。終了後に早速、メンバーが集まって反省会をしていた姿がとても印象的でした。
中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成25年1月15日発行 第1088号

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