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経営指標が軒並み震災前を上回る(釜石総業・岩手県釜石市)

復興へのシナリオ 被災中小事業者の挑戦と震災復興支援アドバイザー
釜石総業
【事業内容】 ホテルサンルート釜石を経営
 

朝食補足率が全国61店舗中トップに

新里社長とフロント受付
「このまちのためにも、繁盛したい」と話す新里社長(右)(ホテルサンルート釜石のフロントで)
 「6月の朝食補足率が90%を超え、全国のサンルートチェーン61店の中でトップになりました」
 岩手県釜石市の目抜き通りにある「ホテルサンルート釜石」。経営主体である釜石総業の新里耕司代表取締役社長(56歳)が声を弾ませる。
 「朝食補足率」というのは、朝食付きの宿泊客の割合で、ホテルの収益力を表す指標の一つだ。同ホテルは昨年12月に営業を本格的に再開して以来、毎月の経営指標が軒並み東日本大震災発生前の水準を大幅に上回って推移している。
 新里社長は「震災復興支援アドバイザーのアドバイスを受けたことで、自分がホテル経営でやりたいことが明確になり、社員の意識改革も進んだことが大きい」と分析する。

津波でホテルの設備機器が全壊

 ホテルサンルート釜石が開業したのは昭和56年4月。釜石市で唯一の老舗酒造会社が親会社ということもあり、30年間にわたり地元住民に親しまれてきた。創業家出身の新里社長は大学卒業後、1年半ほどして入社。フロント係から始めて宴会部門の営業など主要業務で経験を積み、7年前に社長に就任している。
 「ワンセグテレビで釜石湾の映像を見た従業員から『すぐ逃げましょう』と言われ、みんなで最上階の7階に避難したのです」。新里社長が大地震発生直後の状況を語る。幸いにして、当時20人ほどいた連泊客に被害はなく、従業員とその家族も、家を流された人こそいたものの全員無事だった。
 しかし、津波は1階の天井を越えて2階にまで到達。1階にあったフロントやレストランの厨房施設などがすべて流出し、地下のボイラーなど設備機器も全壊したので、給水給湯や空調システムが使えなくなってしまった。
 一夜明け、目の当たりにした現実に、新里社長は「(ホテル経営を)もうやめよう」とまで考えた。それまで、収益的に厳しい経営が続いており、まちの人口も減少している中で、新たな借金を背負ってまで続けるだけの展望が持てなかったからだ。

営業再開を望む声に後押しされて

ホテルサンルート釜石全景
釜石市の目抜き通りでひときわ目立つ「ホテルサンルート釜石」
 ところが、震災直後から同ホテルの営業再開を望む声が日増しに高まった。復旧工事や復旧支援のために釜石市を訪れる人たちの宿泊インフラとしての役割を求められたためだ。中心街でひときわ目立つ建物だけに、早期復興のシンボルとなることも期待された。
 「電気と水さえあればいいから泊めさせてと言われ、それまでの負債もたまっていたけど、(釜石復興のために)やらざるを得ない」(新里社長)と考え直し、約3億6000万円をかけてボイラーなどの復旧工事に着手。昨年6月22日から宿泊客を受け入れ始めた。
 ただ、メーンバンクの岩手銀行からは新規融資するには実抜性(実現可能性と抜本的改革)の高い事業プランが必要だと言われた。思案に暮れていた9月末、近所で開かれるセミナーに参加し、併設されていた中小機構の個別相談会に立ち寄り、震災復興支援アドバイザー制度に申し込んだ。

アドバイザー派遣を受け、自分のやりたいことが明確に

 翌10月、中小機構から財務戦略とホテル事業戦略のそれぞれに詳しい2人の震災復興支援アドバイザーが派遣されてきた。このうち事業戦略を担当する細見貴アドバイザーは「2階の階段を上がったところに会議用テーブルを並べて仮のフロントにしていたので、本当に驚きました」と、当時を振り返る。
 2人は毎月2回のペースで、新里社長らと面談し、納得のいくまで話し合いながら、ホテル再建に対する決意を明記し、「第2創業」と位置づけた復興事業計画書を策定。並行して、流出・損壊した設備の復旧や改装工事も一段落し、12月1日に宿泊部門の本格営業と宴会、レストラン両部門の営業再開にこぎつけた。
 「社長をはじめ、スタッフのみなさんが新たな方策にも真摯に取り組んでいただいたので、昨年12月以降ずっと、経営指標はすべて計画値をクリアしています」。事業計画策定後も経営指南を続けている細見氏が微笑む。
 需給に応じて価格を変動させるイールド管理の徹底などで、客室稼働率は90%以上を維持し、ホテルの重要指標とされるレブパー(Rev・PAR=1室当たり収入金額)は「東京都心のビジネスホテル並み」(細見氏)にまで上昇した。
 これらを受けて、岩手銀行が従来と新規の負債を一本化するなど新たな資金計画を逆提案。今春、同行と日本政策投資銀行が共同出資する震災復興ファンドの融資も受けられた。
 「まちの中心街にあるホテルとして、しっかり繁盛することで、周りにも繁盛してもらえれば」。新里社長は経営者としての使命感を新たにしている。

 

頑張る人の夢かなえたい

震災復興支援アドバイザー 細見貴

震災復興支援アドバイザー 細見 貴 氏

 私の経営コンサルタントとしてのモットーは「頑張っている人の夢をかなえる応援をしたい」ということです。うまくいっていないと感じている中小企業の経営者には、頑張るポイントが少しずれているために利益につながっていないという方が多く見られます。そこで、ちょっと視点を切り替え、頑張るポイントや働き方のポイントを変えていただくことで利益を上げられるようになっています。
 「ホテルサンルート釜石」を経営している釜石総業の場合もそうでした。当初、新里耕司社長が釜石復興のためにホテルを一刻も早く再建したいという強い思いを抱いていることはとても伝わってきました。ですが、資金繰りのめどが立たない中、ホテルの復旧工事を進め、事業内容も従来の形態をそのまま踏襲しようとしていました。
 そこで、社長の考えをじっくりとお聴きした上で、環境が変わったのだから事業戦略も白紙から考えなければいけないというお話をさせていただきました。社長の熱意を織り込んだ実抜性が高い復興事業計画を作ることができました。
 本格営業を開始してからは毎回の訪問時に宿泊、宴会、レストラン各部門の責任者も社長とともに面談をもち、現場の責任者として持っていただきたい視点やオペレーションの改善について具体的にアドバイスさせていただきました。宿泊客からの応援メッセージに自信を持って仕事に取り組んだ結果、営業の目標値を毎月クリアすることができ、社員の方々の士気がますます上がっています。
中小企業施策普及紙「中小企業振興」/平成24年9月15日発行 第1080号

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